ベニスに死す(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ベニスに死す』は、1971年に公開されたアメリカ資本のイタリア・フランス合作映画。ルキノ・ヴィスコンティが監督、脚本、総指揮を務めた。ノーベル文学賞を受賞したドイツ人作家のトーマス・マン著の同名小説を映画化したもので、『地獄に堕ちた勇者ども』『ルートヴィヒ』と並ぶ「ドイツ三部作」の第2作。
究極の美を求めた老作曲家の、旅先で出会った美少年へ抱いてしまった想いと苦悩を格調高く、美しく描いたドラマ。

『ベニスに死す』の用語

ベニス

ベニス(ベネチア)は、イタリア北東部にあるアドリア海に面した港湾都市。水の都として知られ、運河に囲まれた迷路のような街並みで、サン・マルコ広場やリアルト橋などの観光名所を要する。
心を病んだアッシェンバッハは静養のためにベニスのリドという避暑地を訪れ、ここでタジオ一家と出会っている。
劇中ではインドのガンジス川を由来にしたコレラが流行していたが、実際に14世紀にはペストが大流行し、隔離するための収容所も作られていた。17世紀までは度々ペストが流行し、これが理由で市内に巨大な教会が多い。1918年にはスペインかぜの流行と、数々の感染症を経験してきた歴史がある。

コレラ

劇中にベニスで流行した感染症。コレラ菌で汚染された水や食物を摂取することによって感染する。重症化すると全身が痙攣し、あっという間に死に至るため、過去に人々を大きな不安に陥れた感染症のひとつ。体が弱かったアッシェンバッハはタジオを探して街を彷徨っているところで感染し、最終的に命を落とすに至った。
適切な医療を受けられない脆弱な人々における高い罹患率と死亡率のため、依然として世界的な健康上の脅威として認識されている。

『ベニスに死す』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ピアノをつまびくタジオ

タジオがホテル内の無人のサロンに置かれたピアノに腰掛け、退屈そうに「エリーゼのために」をつま弾くシーン。
圧倒的な美貌がピアノという小道具でさらに際立ち、アッシェンバッハのみならず、映画を観ている人々も思わず言葉を失ってしまうほどの美しさだ。

ラストシーンのタジオ

傾いた太陽に照らされる海辺に立つタジオは、人間を軽々と超越する美しさだった。自らの中の「芸術」の最高峰ともいえるその姿を目に捉え、アッシェンバッハは人生最後の瞬間を迎える。
タジオという圧倒的な美に屈服し、心酔するあまり、現実との乖離を深めて狂っていったアッシェンバッハ。
彼の最期は、芸術と現実、精神と肉体の乖離を象徴的に示しているようにも解釈でき、タジオが海から陸に上がって彼方を指差すラストショットには、死後の世界への暗示も読み取れる。

『ベニスに死す』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

原作小説のアッシェンバッハは作曲家ではなく「作家」

トーマス・マン著の原作小説『ベニスに死す』では、主人公グスタフ・フォン・アッシェンバッハは作家となっている。彼のモデルとしてはマン自身以外に、友人でもあった作曲家のグスタフ・マーラーの要素も入っているとされる。
このため監督のルキノ・ヴィスコンティが本作中でマーラーの音楽を使い、主人公をマーラーをモデルとした作曲家に変更したのは、いわゆる「オリジナル改変」とは少し毛色が変わってくる。
同時代の作曲家でもあり、マーラーと親交のあったアルノルト・シェーンベルクをもアルフリートという名で登場させており、2人の「美」についての論争は、この映画全体に満ち溢れる「対比」の軸となった。

ビョルン・アンドレセンは『ミッドサマー』のおじいちゃん

こう見てみると確かに面影がある

本作で美貌の少年、タジオを演じたビョルン・アンドレセンはスウェーデンのストックホルム出身の俳優だ。
1955年に生まれて16歳の時にタジオを演じ、後世まで語り継がれる圧倒的な美しさを見せつけた彼だが、実は2019年公開のサイコロジカルホラー映画『ミッドサマー』に出演している。
ビョルンの役どころはいきなり崖から飛び降りるおじいさんであり、「登場シーンが衝撃的過ぎて最初は気づかなかったが、よく見たら確かにタジオの面影がある」ということで巷を俄かに盛り上がらせた。
彼が登場するのは作品の流れを一気に変える、重要かつ相当衝撃的なシーンなので、『ミッドサマー』視聴の際は注意してほしい。

『ベニスに死す』の主題歌・挿入歌

メインテーマ:グスタフ・マーラー「交響曲第5番第4楽章 アダージェット」

主にオーストリアのウィーンで活躍した作曲家、グスタフ・マーラーの交響曲。
この「交響曲第5番の第4楽章 アダージェット」は、マーラーが当時恋愛関係にあり、のちに妻となったアルマに向けて書いた、音楽によるラブレターである。そうした背景から、この映画の感情的表現において、ほぼ主役といっても差し支えない重要な役割を果たすこととなった。
そしてこの映画のテーマソングへの起用は、マーラー人気復興のきっかけになっている。

TAMTAM
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