ベニスに死す(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ベニスに死す』は、1971年に公開されたアメリカ資本のイタリア・フランス合作映画。ルキノ・ヴィスコンティが監督、脚本、総指揮を務めた。ノーベル文学賞を受賞したドイツ人作家のトーマス・マン著の同名小説を映画化したもので、『地獄に堕ちた勇者ども』『ルートヴィヒ』と並ぶ「ドイツ三部作」の第2作。
究極の美を求めた老作曲家の、旅先で出会った美少年へ抱いてしまった想いと苦悩を格調高く、美しく描いたドラマ。

『ベニスに死す』の概要

『ベニスに死す』は、1971年に公開されたアメリカ資本のイタリア・フランス合作映画。監督・脚本・総指揮をルキノ・ヴィスコンティが務め、ノーベル文学賞を受賞したドイツ人作家、トーマス・マンの同名小説を映画化したもの。1800年代後半にオーストリアで活躍した作曲家、グスタフ・マーラーの交響曲が全編を通して使用されており、主人公の名前の一部にもなっているが、これは原作著者のトーマス・マンがグスタフ・マーラーと親交があったためである。
1971年3月1日のイギリスを皮切りに、同年3月5日にイタリア、5月23日のフランスでの『カンヌ国際映画祭』での公開に次いで、日本では同年10月23日に公開された。
本作はルキノ・ヴィスコンティの代表作となり、1971年の『第24回カンヌ国際映画祭25周年記念賞』『ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞 監督賞』を受賞、『ナショナル・ボード・オブ・レビュー』においてもベスト10に選出されている。
公開翌年の1972年の日本では『第45回キネマ旬報ベスト・テン』で第1位を受賞、『キネマ旬報賞 外国映画監督賞』にもノミネート、世界では『英国アカデミー賞』の美術賞と撮影賞、衣装賞(ピエロ・トージ)、音響賞も受賞。同年に開催された『第44回アカデミー賞』では衣装デザイン賞にもノミネートされ、様々な映画賞を騒がせる結果を獲得した。

静養のために訪れたベニスのホテルで、ひときわ美しい容貌を持つ少年に出会った老作曲家のアッシェンバッハは、少年の持つ圧倒的な美の虜となってしまう。
少年を目にするたびに心を躍らせるアッシェンバッハだが、ベニスには人を死に至らしめる疫病が流行し始め、その影は確実に彼にも迫っていた。
「美しいもの」に強く心を打たれ、惹かれるより他なかったひとりの男の、芸術家としての欲求と生命の終わりを格調高く描いた名作映画である。

『ベニスに死す』のあらすじ・ストーリー

美貌の少年との出会い

人と付き合うことが苦手な老作曲家のグスタフ・アッシェンバッハ。彼には妻と一人娘がいたが、ある日娘を失ってしまう。さらには自分の作品までも心無い批判に晒されるようになり、それを友人にも責められたことで、アッシェンバッハは心を病み、悪夢にうなされる日々が続いていていた。
そうしてしばらく仕事から離れることを決めたアッシェンバッハは、静養で訪れたベニスのホテルで一人の美しい少年タジオと出会う。
多くの人々で賑わうホテルの中でも一層目立つ、人間離れした美しさを持つタジオに目を奪われるアッシェンバッハだが、その時自らの中に特別な感情が芽生えていることを、当の本人は知る由もなかった。

タジオを愛するアッシェンバッハ

タジオは家族と共に休暇でホテルに滞在している様子だった。レストランでの食事中、窓を開けると見える海岸でも、気持ちのよい潮風が吹くビーチを歩いていても、アッシェンバッハはついタジオを探してしまう。そんな中、タジオとエレベーターで再会した時、タジオは自分が見つめられていることを知ってか知らずか美しい笑みを浮かべながら振り向いた。彼と目が合ったアッシェンバッハは、自分が彼を愛してしまっていること、彼の持つ超人的な美の虜になってしまっていることに気づく。

静養のためにベニスのホテルに訪れていたアッシェンバッハだが、滞在していたホテルには多くの観光客が訪れており、とても静かな環境とは言い難かった。さらに暑い気候も重なったことで、休まらないと判断したアッシェンバッハは静養を取りやめて自宅があるミュンヘンに帰ることに決める。
しかし、手違いで別の場所に荷物が送られてしまったことで、不本意ながらもベニスにしばらく滞在することになる。泊まっていたホテルに戻ると、そこにはまだタジオがいるようだ。アッシェンバッハは彼との再会をひそかに喜ぶ。

ベニスに蔓延する疫病

ある日、海外の新聞を読んでいたアッシェンバッハは、「ベニスでの感染症に注意するように」と警察からの勧告があるのを見つける。心配になったアッシェンバッハはホテルの支配人を問いただすが、毎年のことだと言いきられてしまい、取り合ってもらうことはできなかった。
消毒剤が散布され、ベニスの街は酷い悪臭を放っていた。住民たちに尋ねても濁されてしまうものの、消毒薬を撒くほどの事態ならば真実を知りたいと思ったアッシェンバッハは、思い切って街の両替所にいた職員の男性に話しかける。その男性は彼を別室に案内し、インドのガンジス川からのアジア・コレラが流行しており、季節風が強いベニスはコレラ菌が入って来やすいということ、そして、既に死者も出ていることを教えてくれた。
絶句するアッシェンバッハだが、男性から「交通が閉ざされるのも時間の問題だから」と、すぐにベニスから出ることを勧められる。

ベニスに死す

アッシェンバッハは一時はベニスを去ろうと考えるが、タジオへの未練から結局ベニスに留まっていた。彼はタジオの母親に事情を話し、すぐに家族と共にベニスから離れるよう警告をする。自分の身よりも愛するタジオの安否を心配するアッシェンバッハは「気をつけたほうが良い」とタジオに伝えるが、これが最初で最後の二人の会話となってしまった。

アッシェンバッハは美容院へ行き、タジオへ思いを伝えようと、彼を探して夜のベニスを彷徨った。しかし、元々病弱だったアッシェンバッハはこれが原因でコレラに感染してしまう。

自らの最期が近いことを悟ったアッシェンバッハは髪を整え、顔色を誤魔化そうと化粧をしていた。コレラの猛威が色濃くなったベニス。アッシェンバッハの心身は限界を迎え、みるみる衰弱していた。
白髪を染め、白粉で若作りを施すその一方で、彼に迫る死の影はどんどん濃くなっていく。
そして最期の日、沈む太陽が映る海面と、緩やかに水平線を指すタジオの美しさに飲み込まれながら、アッシェンバッハは浜辺のデッキチェアに横たわったまま静かに息を引き取るのであった。

『ベニスに死す』の登場人物・キャラクター

グスタフ・フォン・アッシェンバッハ(演:ダーク・ボガード)

日本語吹き替え:土屋嘉男
ミュンヘンで作曲家、指揮者を務める男性。芸術に対して非常に高いプライドを持っており、やや偏屈な人間性で人付き合いが苦手。
一人娘を失い、仕事や人間関係にも疲れ、一人静養のために訪れたベニス(ヴェネチア)に訪れる。
ベニスのホテルでタジオの人間離れした美しさに目を奪われ、以降はその圧倒的な美しさに心を蝕まれながら視界にタジオを探して過ごしていた。
ベニスで疫病が流行してからもタジオへの偏執的な執着を捨てられず、最後は自らも流行していたコレラに罹患。ビーチで戯れる、神々しいまでのタジオの美しさを目の当たりにして息を引き取った。

タジオ(演:ビョルン・アンドレセン)

日本語吹き替え:水島裕
ポーランド貴族の少年で、家族と共にベニスに滞在していたところをアッシェンバッハに見初められた。
人間離れした美貌を持ち、無邪気で天真爛漫な性格をしているが、物語終盤までアッシェンバッハと会話をすることはなかった。
物語全体を通して美の象徴として描かれ、時折自らの美しさに気づいているような素振りを見せることもある。
アッシェンバッハの持つ、破滅的な欲望を体現する存在。

タジオの母(たじおのはは/演:シルヴァーナ・マンガーノ)

左側の女性。右は息子のタジオ。

日本語吹き替え:武藤礼子
ポーランド貴族の女性。タジオを含む数人の子供たちと家庭教師を連れてベニスに滞在している。
息子であるタジオに負けずとも劣らない美しさのみならず、控えめで上品な態度がタジオの魅力を際立たせるような描写が為されている。

アルフリート(演:マーク・バーンズ)

右がアルフリート

日本語吹き替え:野島昭生
アッシェンバッハの友人。アルフレートは、アッシェンバッハの芸術観を批判し、自身の芸術観を擁護したアッシェンバッハと激しい口論になる。

TAMTAM
TAMTAM
@tamtam

目次 - Contents