現代の商業映画とは一線を画す、芸術性をとことん追求した歴史的名作。
芸術は人間が生み出した人工美。神が創り出した自然美には到底及ばない。
そして純粋なものほど自然美に近く、不純なものほど自然美から遠ざかる。また若いほど純粋で老いるほど不純になっていく。
この映画では若さと老いの対比、自然美と人工美の対比があらゆるシーンで印象的に描かれている。美少年タージオと老作曲家アッシェンバッハ。ベニスの街とそこから眺める海。
老作曲家アッシェンバッハは、健康を害しスランプに陥って訪れたベニスの街で、目も覚めるような美少年タージオに出会う。
タージオの若く純粋な美しさに惹かれたアッシェンバッハは、タージオを追いかけるようになるが、自信の無さから彼に話しかけることも触れることも出来ない。
人工美を象徴する作曲家のアッシェンバッハは自然美を象徴するタージオに近づきその美を手に入れたいと願う。
しかし滑稽なほど毒々しいメイクをこらして若返りを計っても、タージオの自然な美しさの前に出ると手も足も出ず怖気ずいてしまう。
ラストシーン、波打ち際で友達と喧嘩をするタージオを、砂浜で椅子にもたれて動くことも出来ずに眺めるアッシェンバッハ。
やがてタージオは海に入っていき、あたかも自然と一体になったかのようなシルエットの中、彼方の夕日を指さす。アッシェンバッハはその方向に手を伸ばそうとして、届かずに絶命する。
圧倒的な自然美の前に、人工の美が敗れたのである。
ビスコンティの作品はどれも絵画的で、とことん芸術性を追求したものが多い。商業主義に支配された現代の映画界でこういう映画を作るのはもう難しいだろうから、そういう意味でもビスコンティの作品は大いに価値があると思う。