熱帯魚は雪に焦がれる(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『熱帯魚は雪に焦がれる』とは萩埜まことによる日本の漫画である。『電撃マオウ』(KADOKAWA)にて2017年8月号から2021年5月号まで連載された作品。
東京から田舎に引っ越してきた高校1年生の天野小夏が、同じ高校の先輩・帆波小雪と高校の水族館部を通じて出会うところから物語は始まる。孤独を抱える2人の女子高生が、学校生活を共に過ごすことで徐々に惹かれあっていくガールズシップ・ストーリーである。

『熱帯魚は雪に焦がれる』の概要

『熱帯魚は雪に焦がれる』は萩埜まことによる漫画で、『電撃マオウ』(KADOKAWA)において2017年8月号から2021年5月号まで連載された。全9巻・34話で完結している作品である。『熱帯魚は雪に焦がれる』は「第23回電撃コミック大賞」の金賞受賞をはじめ、「次に来るマンガ対象2018」コミックス部門でも10位に入賞するなど、漫画好きに注目されている作品。ジャンルは百合・学園・青年漫画とされているが、主人公たちの告白や交際と言った恋愛的な関係は描かれていない。内容については「マジメ系不器用先輩と強がり系不器用後輩のガールズシップ・ストーリー」と紹介されていて、友達以上恋人未満な関係性が描かれている。部活動や学園生活を送る中での、思春期特有の繊細な心理描写が魅力的である。
都会の高校から海辺の田舎町にある七浜高校へと転校してきた天野小夏(あまの こなつ)は、周囲になじめず息苦しさを感じていた。ある日町を散歩していると、七浜高校で行われていた水族館部の一般公開を偶然見る。そこで小夏は、運営をしていた水族館部員・帆波小雪(ほなみ こゆき)と出会う。小雪も小夏と同じで自分の気持ちを素直に出せず、息苦しさを感じていた。同じ「孤独」と「寂しさ」を抱える小夏と小雪は、次第に惹かれ合っていく。

『熱帯魚は雪に焦がれる』のあらすじ・ストーリー

小夏と小雪の出会い

東京から愛媛へ引っ越してきた高校1年生の天野小夏(あまの こなつ)。父親が海外転勤の為叔母の家で過ごすことになったのだが、見知らぬ土地での生活に不安と寂しさを抱えていた。父親に上手く寂しさを伝えられず一人で悩んでいるときに偶然、七浜高校水族館部の一般公開を見ることになる。思いのほか本格的に展示された空間に感動しながら見回っていると、何もいない水槽が一つ置いてある。思わず水槽を覗き込んでいると「サンショウウオお好きなんですか?」と声をかけられた。そこで出会ったのが、七浜高校2年の帆波小雪(ほなみ こゆき)だった。何もいないと思っていた水槽には、昼間は出てこない夜行性のカスミサンショウウオがいると言う。運営に忙しい小雪からまた来てくださいねと言われ別れたが、小夏はその後もずっと小雪が気になっていた。七浜高校に通い始めてすぐに、小雪が優等生の人気者で高嶺の花と言われていることを知る小夏だが、放課後に訪れた海辺で再び小雪と出会い、学校での印象と異なることを知る。自分の気持ちを隠し我慢する小雪に対し、小夏は不安や寂しさを抱えて強がる自分を重ね合わせて見ていた。小雪と少し打ち解けた小夏は、もっと小雪と親しくなりたいと思うものの、用もなく会いに行くのをためらっていた。こっそり部活の様子を伺いに来た小夏だったが、部室の前で話す男子生徒の会話を聞き、水族館部の部員が小雪一人だけだということを知る。ひとりぼっちの小雪を、小夏は井伏鱒二の『山椒魚』に登場する山椒魚のようだと思った。山椒魚と小雪を重ねた小夏は、水族館部にいるカスミサンショウウオの名前を「こゆき」がいいと提案する。小雪も優等生の自分を知らない小夏の前では少し素を出すことができ、もっと親しくなりたいと思っていた。水槽の水替えを手伝う小夏を見て、後輩ができたみたいと喜んだのも束の間、水替えで使うホースで間接キスになってしまうことに気づき焦る小雪。この程度で真っ赤になる小雪を見て、優等生で高嶺の花と言われる小雪がずっと自分を表に出せずひとりぼっちでいることを知った。そして小夏は、小雪にとって自分が『山椒魚』に登場する「蛙」のような存在になりたいと思い始めた。
ある日小雪が職員室を訪れると、小雪の父が廊下の掲示板に「夏祭り」のチラシを貼っていた。父は小雪に「小夏と一緒に夏祭りに行ったらどうか」と提案する。小雪は小夏と夏祭りに行きたいという気持ちを抱えながら職員室を出ると、外で待つ小夏にクラスメイトの広瀬楓(ひろせ かえで)が「よかったら一緒に行かん?」と誘っているのを目撃する。楓はこれから喫茶店に行かないかと小夏を遊びに誘っただけなのだが、小雪は楓が小夏を夏祭りに誘ったのだと勘違いしてしまう。その後で連れて行った。楓の勢いに押され、直接迷惑じゃないかと不安に思う気持ちを小雪に伝えた。玄関の前でやり取りをしている途中で小雪の父が帰宅し、小夏に夏祭りに行ってみたらいい声をかける。「考えてみます」と答える小夏を見て小雪は楓との約束が夏祭りのことではないと知った。勘違いした小雪の父は機転を利かせて小夏に「小雪と一緒に行ってやってくれないか」と耳打ちをする。小夏は小雪がよそよそしくなった原因がわかり、改めて小雪を夏祭りに誘うのだった。
夏祭り当日、サプライズで帰ってきた小夏の父も一緒に祭りへ行くことになった。小雪と合流し三人で回っていると人混みで小夏がはぐれてしまう。人混みの中ひとりぼっちだと不安を募らせる小夏を、小雪が見つけてくれる。いつも自分を見つけてくれる小雪に、小夏は思い切って初めて会ったときのことを聞いてみるのだった。

小夏と小雪、それぞれの想い

夏休みが終わり文化祭の時期が近づき、水族館部でハマチショーをやるのはどうかと小夏が提案してきた。初めて取り組むハマチショーに意気込む小夏には、小雪の力になりたいからと一人で頑張ってしまう。小夏の気持ちとは裏腹に、小夏を支えたいと思う気持ちがかみ合わず二人はすれ違ってしまう。心配する小雪に対し、一人で大丈夫だからとクラスの手伝いを進めてくる小夏に寂しさを感じてしまう。タイミングが合わないことにモヤモヤしている小雪だったが、小夏が練習の成果を一番に見せてくれたことに安堵し思わず「小夏ちゃんはいい子だね」と伝えた。思わず涙があふれる小夏と、それに困惑する小雪。だが小夏が涙を流したのは、小雪に認められたことで不安や寂しさから解放された嬉しさからだった。
文化祭当日、風邪で寝込んでしまった小雪に、父親がビデオ通話で小夏のハマチショーを見せてくれた。一人でハマチショーをやり遂げる小夏の姿を複雑な気持ちで見る小雪。一方小夏も、小雪がいないのに自分だけ文化祭を楽しんでいいのかと悩んでいた。眠っていた小雪が目を覚ますと、見舞いに来た小夏が目の前にいた。恥ずかしくなり布団に隠れる小雪を見て、小夏は「やっぱりサンショウウオみたい」と言う。その言葉の意味が分からなかった小雪だが、以前小夏が井伏鱒二の『山椒魚』について話していたことを思い出す。そこで小夏の言う「サンショウウオ」は「山椒魚」のことではないかと気づくのであった。
文化祭を終え、小雪は修学旅行のため東京へ。しかし小雪は、周囲にも東京の雰囲気にも上手く馴染めずにいた。観光で立ち寄った水族館でも、思い返すのは小夏のことばかり。お土産で見つけたサンショウウオとカエルのぬいぐるみを思わず購入する。その後もクラスメイトのテンションについていけず、一人輪を抜け休憩していた小雪。旅行中も小夏のことが気になって仕方ない小雪の前に、小夏と同じ制服を着た女子高生が現れる。思わず見つめてしまう小雪に気づいた女子高生は、小雪に話しかけてきた。優等生の小雪を知らない彼女は小雪が修学旅行中だと知ると、せっかくの旅行なんだから羽目を外して楽しまないとと言い、小雪の制服を少し着崩した。周りの目を気にしなくていい開放感と心地よさを感じ、自分の新たな一面を発見したのだった。何か吹っ切れた様子の小雪は、小夏に連絡しようとメッセージを打ち込んだが、送信前に眠ってしまった。明け方目が覚めると、小夏から着信が入っていた。びっくりしてメッセージを確認すると、遅れていないことに気が付く。折り返そうとするも早朝なので思いとどまる小雪だが、小夏の方から連絡をくれたことに喜びを隠せなかった。元気になった小雪は早々に身支度を済ませ、同室のクラスメイトを起こす。帰宅途中も小夏に何を話すか考えながら、初めに「ただいま」と伝えることを決めたのだった。

隠してきた本音をぶつけ合う小夏と小雪

年が明けて暇を持て余した楓は、小雪と冬樹に出会う。構ってくれる人がいないと嘆く楓を、小雪は家に招くことにした。帆波家へ訪れた楓は、小雪の進路希望調査の紙を偶然目にし、二人は冬休みの宿題をしながら進路について話し始める。県外に出ようとしている小雪に楓は自分の姉たちの姿を重ねていた。上京して以来正月にも帰ってこない姉たちに対し寂しい思いを募らせる楓は、小雪の前で初めて弱みを見せる。そんな姿を見て意外に思う小雪だったが、楓は「誰にだって知られざる顔がある」という。初めて楓の本音に触れた小雪は、思わず持っていたクッションを楓にぶつけてしまう。そこから枕投げが始まり、急に騒がしくなった二人に驚いた小雪の母と冬樹だったが、母と冬樹も枕投げに参戦することになる。楽しい一日を過ごした小雪は、迷いながらも自分の進みたい道を歩もうとするのだった。
後日帆波家に東京にある大学の資料が届く。小雪が上京したいと考えていることを知らない母は戸惑うが、冬樹から修学旅行から帰ってきて「また東京に行きたい」と言っていたことを聞くと、母は帰宅したときの小雪の変化を思い出す。小雪を支えようと決めた母は、小雪に対し「やりたいことがあるならやってみなさい」と応援する。だが小雪は、思っていたよりあっさりと自分のことを送り出してくれる家族に不安と寂しさが募っていった。自分の進みたい道を自分の意志で決め、それを応援してもらえることはとても嬉しいことだとわかっているが、自分がいないことを誰も寂しいと言ってくれないことが引っ掛かっていた。家族だけでなく、小夏も小雪がいなくても大丈夫だと一人で水槽掃除を終えていた。小雪の為を思ってしていることが、かえって小雪の不安を募らせていたのだ。誰にも言えない気持ちを吐き出したくて小雪が相談相手に選んだのは、楓だった。自分の寂しいという気持ちを初めて打ち明ける小雪だったが、そんな小雪に対し楓は「めんどくさいところあるんですね」と言う。楓の前で思い切り気持ちを吐き出した小雪は、少し吹っ切れた様子だった。帰宅後、冬樹から母親が小雪の上京をとても心配していることを聞き、冬樹には自分がいなくて寂しいか直接聞くことができた。後日楓に母と冬樹のことを伝えると、小夏とも向き合う決心ができたという。楓は自分も小雪がいなくなったら寂しいと言い、小夏のおかげで小雪と仲良くなれたことを喜んでいた。
だが二人が話すその様子を、小夏は偶然目撃してしまう。特別仲が良かったわけじゃない二人が親しげに話しているのを見て動揺する小夏。小夏に気が付いた楓が声をかけたが、小夏は思わず逃げてしまう。小雪がひとりぼっちじゃなくなることを喜ぶべきなのに、小雪が他人にも受け入れられていく姿を見て複雑な感情を抱いていた。小雪の変化はクラスメイトも気づき始め、小雪はクラスの打ち上げに誘われる。嬉しくも不安な小雪はいつも通り悩みを水族館部の魚たちに打ち明けていたが、それを小夏に見られてしまう。昔と違い今は自分がいるのに相談してもらえないことに悲しむ小夏だったが、小雪の変化を受け入れようと背中を押した。そんな小夏の肩には、今まで小雪の元にいた山椒魚が乗っているのであった。
打ち上げでカラオケにいる小雪と偶然居合わせてしまった小夏。クラスメイトの中で見かけた小雪の姿は、以前と同じ孤独な背中だった。変わらぬ小雪の姿にホッとする小夏。そのとき自分と小雪を繋ぐものが孤独であると自覚した小夏は、たまらず小雪をカラオケから連れ出してしまう。自分の気持ちに気が付いた小夏は、自分も変わらなければいけないと思いつつ動き出せずにいた。
その後気持ちがすれ違い距離ができてしまう小夏と小雪。向き合う覚悟を決めた小雪の行動によりお互いの気持ちを話し仲直りはしたものの、離れ離れになる現実は変わらずに不安と寂しさを感じていた。ある日小夏がクラスメイトの山岸(やまぎし)から、小雪の進路先が東京の大学であることを聞いてしまう。小雪と距離を置いている間に話さなければいけないことがたくさんあったんだと思い知らされた。その晩、小雪から電話がかかってきて進路の話をしていると、小雪が外を見ろと言う。小夏が窓の外を見ると、小雪がサプライズで会いに来てくれたのだ。今までの思い出を語りながら、今年は受験勉強が忙しく思い出が作れないという小雪。そして小雪は夏休み前に部活を引退すると小夏に告げた。小雪の引退を聞いた小夏は、一人で心を閉ざしていたことを再び後悔した。小夏に部長を引き継いでほしいという小雪に対し、小雪と一緒ならやっていけると小夏はお願いする。小夏に対し、引退したら先輩じゃなくなるからと、小夏に先輩ではなく「小雪」と呼んでほしいと言った。先輩・後輩ではなく対等な立場となった二人は、笑顔で小雪の引退の日を迎えることができたのだった。

別々の道を選んだ小夏と小雪

無事に大学合格と卒業を迎えた小雪。最後に水族館部の生き物たちに別れを告げ、引っ越しまでの時間を小夏といつもの浜辺で過ごしていた。小夏の進路について尋ねると、東京には戻らずここで進学することを決めたという。小雪のいる東京へ戻ることも考えたが、この町で高校生活を送るうちに自然と残りたいと思うようになったのだ。小夏自身で考え、決断した結果に小雪も納得したようだった。もし二人で東京にいるならと冗談交じりで話す二人。これからも同じ時間を過ごしていきたいと思う気持ちは本当だったが、お互いの目指す道が決まった今、「前に進まなくちゃ」と小夏は言った。そして小夏は、ずっと小雪にとってのカエルになりたかったのだと打ち明ける。だがいつの間にか、小夏の方が傲慢な山椒魚になってしまったというのだ。だが小夏は、誰の心にも山椒魚のような孤独があり、誰かにとってのカエルになりたいと思い続けることが大切なんだと話した。小夏の話に思わず泣きそうになる小雪。震える小雪の口元を指で押さえ笑顔を作る小夏。最後は小雪の笑顔が見たいという。小雪の引っ越しの時間がきて、見送りに来た小夏に小雪は紙袋を渡した。涙をこらえ笑顔で小雪を見送った後、小夏は紙袋を開けた。そこには手紙とカエルのぬいぐるみ、そして小雪の着ていた制服が入っていた。
新学期がきて、クラス替えの掲示板の前で楓が大声で叫んでいた。山岸が何事かと尋ねると、楓と山岸は同じクラスだと言う。だが絶望の叫びをあげる楓に「感情と表情が一致していない」と困惑していた。そんな二人の元に現れた小夏は、小雪からもらった制服に身を包んでいた。小夏を見て思わず抱き着く楓。実はクラスが小夏だけ離れてしまったのだった。心配そうな楓と分かれ、小夏は新しい教室へ向かう。小夏の鞄には小雪からもらったぬいぐるみが二つ付いていた。教室では小夏の後ろの席で一人の女子生徒が眠っている。窓を開けていいか話しかけると、眠そうな彼女は話しかけてきた。少し天然な彼女に対し、小夏は「よろしくね!」と手を差し出す。小夏と小雪、それぞれの新たな生活がスタートしたのだった。

『熱帯魚は雪に焦がれる』の登場人物・キャラクター

主要人物

天野小夏(あまの こなつ)

父親が海外転勤になったので、東京を離れ叔母の住む海辺の町に引っ越してきた。見知らぬ土地に不安と寂しさを抱えているが、誰にも吐き出せず抱え込んでいる。偶然入ることになった七浜高校水族館部の一般公開で、ひとつ上の先輩・帆波小雪と出会う。
引っ越してきた当初は周囲となじめずに悩むこともあったが、次第に打ち解けて明るくなっていった。小雪や楓たちと過ごしていくうちに方言が移り、2年生になってからは後輩に「初めからここにいる人みたい」と言われるくらい違和感なく話すようになった。

帆波小雪(ほなみ こゆき)

真面目な優等生で、父親が同じ学校の教師をしている。子供の頃は明るく活発な性格をしていたが、大きくなるにつれ周囲の目を気にしはじめ「教師の子供」として期待通りでいなくてはと本来の自分を隠してしまう。小夏の前では失敗ばかりしてしまうが、「優等生の小雪」を知らない小夏の前では自分らしくいられる。同時に友達以上とも思える感情も芽生え始め困惑してしまう。考えすぎる性格で、楓から「面倒くさい性格」と言われている。自分の新たな一面を知った時は、変わりたいという気持ちが強すぎて小夏の気持ちを置き去りにしてしまう。決めたことに対し周囲が見えなくなる猪突猛進な部分がある。

広瀬楓(ひろせ かえで)

小夏のクラスメイトで、ムードメーカー。小夏と仲良くなったことがきっかけで、小雪とも親交を深めていく。明るい性格で誰とでも仲良くでき、転校してきたばかりの小夏のこともよく気にかけていた。あまり深くものを考えない性格で、思ったことはすぐ言葉にしてしまう。小夏と小雪の仲も気にかけていて、時折橋渡し役を行うなど世話焼きな一面もある。4人兄妹の末っ子で、2番目の姉・さやをとても慕っている。

帆波家

帆波冬樹(ほなみ ふゆき)

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