高校球児ザワさん(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『高校球児ザワさん』とは、三島衛里子によって2013年まで『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載された漫画。舞台は西東京にある野球強豪校、日践学院高校の硬式野球部だ。男子部員にまざる唯一の女子選手、都澤理紗(みやこざわりさ)の高校生や野球部員としての日常を描く。各話が8ページほどの短いページ数で、一話完結型で描かれる。高校球児なら一度は体験したことがあるような体験が、本作では多く盛り込まれている。また、女子であるザワさんが、時折女の顔を見せながら野球に打ち込む姿も、魅力の一つである。

『高校球児ザワさん』の概要

『高校球児ザワさん』とは、三島衛里子によって2013年まで『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載された漫画である。三島衛里子の連載デビュー作となる。第2回サムライジャパン野球文学賞大賞受賞を受賞した。
主人公である都澤理紗が通うのは、東京都昭島市周辺にある私立高校で、甲子園常連の野球の強豪校でもある日践学院高校。その硬式野球部唯一の女子部員が、都澤理紗である。高校野球連盟の規定により、地区大会や甲子園などの公式試合への出場はできない。しかし、彼女は、他の男子部員と同様に、日々練習に励んでいる。
主な登場人物や、漫画で描かれる内容は、野球部とその関係者がメインとなる。試合中の描写もあるが、都澤理紗やチームメイトたちの日常を一話完結型で描いている。公式戦に出ることのできない彼女が、一人の女子野球選手として、自分と向き合っていく3年間の様子を描いた作品となっている。
「ザワさんは意外と脇の処理が甘い」や「練習後、無造作にタオルで顔を拭く」、「斜めがけカバンの胸の食い込み具合」、「制服の下にアンダーシャツを着用し、更衣室に行かずに外で着替える」といったフェティシズムが盛り込まれている。そのため、「フェチすぎる野球マンガ」と評されたこともある。
『サンデーGX』(小学館)にて2017年から連載が開始された『なんしょんなら!!お義兄さん』は、本作の後日談となっており、一部の登場人物が引き続き登場している。

『高校球児ザワさん』のあらすじ・ストーリー

ザワさん一目惚れされる

甲子園。毎年高校球児達によって、熱戦が繰り広げられる場所である。ベンチ入りすることのできたメンバーの表情は真剣そのものである。しかし、ベンチ入りメンバーから漏れた選手は、全員が真剣に野球に向かっている訳ではない。他校のチアガールを見て、誰が可愛いかを話す。特に、試合に出る可能性が極めて低い1年生ならなおのことである。岡山から来た高校球児の山崎は、そんな仲間達に不満を抱く。しかし次の瞬間、山崎はある人物に目を奪われた。その人は野球名門校である「日践学院」のユニフォームを着ていた。その日の夜、宿泊先で高校野球のニュースを見ていた山崎は、自分の目を奪った相手の名前と性別を知ることになる。彼女の名前は都澤理紗、日践学院硬式野球部の唯一の女子部員であった。

野球部っぽさとは

「あの人は野球部だ」とすぐに分かる基準は存在するだろうか。この『高校球児ザワさん』では、高校球児あるあるが様々な場面で描かれている。例えば、電車の中に何人かの高校生が乗っているとする。しかも、全員坊主で、だ。坊主頭が皆、野球部であるとは限らないが、彼らを客観的に見た人からすれば、「野球部オーラ」が漂っているらしい。まず、気合の入った眉毛と剃り込み。そして、着用しているハイネックのアンダーシャツ(とっくり)。このとっくりを着たまま日焼けをすると、首元から上の顔が焼けた形になる。そんな男たちの傍に、セーラー服を着た少女がいる。友人に借りたのか、「水滸伝」を熱心に読んでいる。その子が顔を挙げた瞬間、見えたのはとっくり型に焼けた姿だった。
場面は変わって、日践学院の校舎の中。ザワさん、同じ1年野球部の守口と楠本の3人は、1人の生徒とすれ違う。まずはザワさんが「ちわっ」とあいさつをする。残りの2人も同じようにあいさつをするが、坊主頭の生徒の耳に、少し離れた場所から「あの人野球部じゃねーって」「アレはただのオシャレ坊主だろ」という3人の会話が入ってくる。次の日、今度はザワさん1人と、オシャレ坊主の生徒がすれ違う。「ちわっ」またしてもザワさんはあいさつをしてしまう。ザワさんの頭の中では「坊主頭=野球部員」という方程式が立っているようだった。

盛り込まれるフェチ要素

放課後の練習直前。同じ野球部1年の花村と守口は、制服の下にアンダーシャツ、ソックスは野球用を着用したザワさんを目撃する。男子野球部が制服の下にアンダーシャツを着用するのは、普段から見られるため、不自然ではない。しかし、女子生徒のザワさんがそういった格好をしているのは、二人にとって、何やら不自然に感じるようで、守口は「セーラームーンみたいだぞ」と言う。ザワさんは「だって」と言った後、二人の目の前で着替えを始める。スカートから下着が見えないように練習着を履き、セーラー服の上も上手く脱いで、アンダーシャツに。更衣室に行かずに、直接グラウンドに行くために編み出した、彼女なりの手段を二人に見せつける。女子の着替えを目の前で見せられた男子二人は、どこか照れた顔をしている。また、ある日の練習後、ザワさんは短く切った髪を水道で豪快に洗い、タオルで拭いて、そのまま帰る。ザワさんの一つ上の先輩である武田と、守口の傍を通った際、ザワさんからはいい匂いがしたらしい。汗臭いのは、水で洗っても簡単に落ちないはずなのに、どうしてなのだろう。このような、男子から見れば気になるフェティシズムが、この漫画には時折現れるのである。

ザワさんと呼ばれるようになった経緯

ザワさんが高校入学前に、硬式野球部に顔を出した時のこと。兄である都澤耕治がいる以上、名字で呼んでは区別がつかない。どう呼ぼうかと会議が開かれる。「Jr.さん」「ジュニア」や「普通にりさ、でいいんじゃないか」という意見も。しかし、高校球児たるもの、練習中に女の名前を呼ぶのは恥ずかしいという意見が出る。それでは名字で呼べばいいのでは、と意見が出されたが、「みやこざわ」は長い。「みやこ」は女っぽい。そこで残ったのが「ざわ」であった。作中はカタカナ表記で「ザワ」や「ザワさん」と呼ばれる。男子高校生なりに、同じ部員の女子を呼ぶにあたって考えられたのが「ザワさん」なのだ。

男バスの髙田とザワさん

ある日、ザワさんの元にイケメン男子が訪ねてきた。彼の名は髙田。男子バスケ部でイケメンである。髙田がザワさんに告白するのではないかと言う花村に対し、焦りを隠せない守口と楠本。実は森口と楠本、ザワさんに若干の好意を寄せているのである。この噂は野球部内に瞬く間に広まり、ザワさんは部活前にひやかされてしまう。ザワさん曰く「友達になって下さい」と言われただけらしいが、好意もない相手に、そんな申し込みをする男子はなかなかいない。ザワさんは少し、照れや焦りを感じる。
髙田とザワさんが知り合ってから、少しの時間が経った。練習後、校門前でザワさんを待っていたのは髙田だった。2人で歩き、何気ない会話をする。髙田は高校卒業後、バスケのためにアメリカ留学を考えているらしい。ザワさんはそれに対し、何とも言えない相槌を打つ。髙田が「進路考えてる?」と聞くと「まあ…」と歯切れの悪い返事をする。少しの沈黙の後、髙田が切り出した。ザワさんへの告白だ。「他に好きな人いるの?」と聞いても、ザワさんは「そういうわけじゃ…」と困り顔を見せるだけ。結局、この時は2人の関係に決着は着かなかった。
決着がついたのは、ザワさん達が2年生になってからだった。昼休みに屋上に呼び出されたザワさん。髙田が「こないだの返事のことなんだけど」と切り出す。「俺のこと友達以上に見れない?」という問いに対し、ザワさんは困りながら返事をする。何やらザワさんは難しい恋愛観をもっているようだ。髙田はザワさんを諦めざるを得なくなった。しかし、その後の2人の会話から、友達としては上手くやっていけそうな雰囲気を出していた。

ザワさんの変化

2年生後半からザワさんの様子に、少しずつ変化が訪れる。他校の4番打者とバイクに乗ったり、その人の家に入り浸ったり。彼女はどれだけ努力しても、甲子園の土を踏むことはできない。他の部員はレギュラー争いに奮闘している。彼女はそんな周りの男子と、女子である自分との違いにようやく目を向け始めた。そのため、「自分はこのままでいいのか」と悩むようになった。そんな時、監督から大学野球の新聞記事を渡される。大学に行けば、自分も公式戦に出場することができる。大学でも野球をやりたいという気持ちが固まったザワさんは、今までずっと参加してきた野球部の練習を休み、予備校へ通うことにした。一方で、土日はクラブチームとして活動している女子野球の練習に参加し、女友達を少しずつ増やしていた。勉強のコツを掴んだからと、ザワさんは野球部の練習に戻ってきた。しかし、あくまで選手としてではなく、部の手伝いをするようになっていた。後輩からトンボかけを代わると言われても、野球への愛と部のために自分ができることを考えた結果、「好きなんだよトンボかけるの」と返す。

最後の夏、そして始まり

ザワさん達は高校最後の夏を迎えていた。守口は正捕手になることができ、安堵する。楠本は14番という、試合に出ることができるか微妙な背番号をもらい、困惑する。キャプテンとなった花村は初戦を前に緊張していた。ザワさんは、練習の補助だ。試合で負ければ、もう坊主頭を卒業できる。もう、朝早く起きなくてもいい。もう、監督に怒鳴られることはない。もう、この全員で野球をすることは無くなる。など、それぞれに思うことがありながらも、最後の試合に向けて体が動く。彼らの夏がどこまで続いたかは分からない。しかし、ザワさんは確実に大学野球を始めた。大学の合格発表に練習着で向かい、合格を確認後すぐに、大学デビューを狙ったかのような金髪で、練習に参加させてもらったようであった。

『高校球児ザワさん』の登場人物・キャラクター

都澤 理紗(みやこざわ りさ)

本作の主人公でポジションは投手。硬式野球部唯一の女子選手で、右投左打。3月8日生まれ。身長172cm、体重59kg前後。兄の耕治の情報ではDカップらしい。三鷹市の古びた木造平屋で祖父、兄と共に暮らしている。兄の耕治は同じ野球部のエースである。
一人称は「理紗」で、目上の人などに対しては「自分」。部員からは「ザワさん」「ザワ」などと呼ばれている。
高野連規定のため公式戦には出場できないが、練習試合には出場している。部員の一人として真剣に練習に参加し、男子と同じ練習をこなす。ボーイッシュな短髪で、授業中などは眼鏡をかけることもある。苗字を「都沢」と書かれることを嫌い、ファミレスなどでわざわざ正しい「都澤」に書き直すほど。楠本、花村、守口とは同じクラスで、練習以外でも行動を共にすることが多い。
小学校2年生から野球を始め、光聖女学院中等科在校中は三鷹南リトルシニアに所属、2年次に投手・遊撃手として関東大会優勝を果たした。楠本とはシニア時代からのチームメイトで、横山光輝の漫画を借りるなど、仲が良い。
恋愛事情には疎く、楠本や守口から好意のようなものを向けられることがあるが、全く意に介さない。
プロテインが好きで、学校の休み時間中にもプロテインを摂取することもある。目隠しした状態でもプロテインの味を判別できるため、周りからは「プロテインソムリエ」と呼ばれている。

楠本 玄(くすもと げん)

野球部で右投両打の内野手。守備は冷静かつ堅実で、後輩からもグラブさばきについて高い評価をされている。しかし、バッティングの方は非力で、3年時には背番号14という、試合に出ることができるか微妙な番号を得た。ザワさんとは2年間同じクラスで、1年の頃は花村、守口らと同じクラスだった。私立進学校の桐明学園中学校を卒業しているだけあり、学力は高い。学校の試験前に守口達と勉強をしていた際には、周囲の学力の低さに対し、嫌味を言うこともあった。ザワとはシニアでもチームメイトだった。国立市在住で、家は裕福。母親に対して反抗的な面が多く、2年生の頃、遂に爆発して家を飛び出し、野球部の寮に入る事にした。この時、特徴的だった太い眉毛を細くした。携帯に録音されていたザワさんの声を何度も聞き直すなど、彼女に好意のようなものを向けていることがあるが、はっきりとしたことは発言していない。

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