王家の紋章(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『王家の紋章』とは、細川智栄子あんど芙~みんにより、1976年『月刊プリンセス』にて連載が開始されたタイムトラベル少女漫画である。物語の舞台は、古代エジプト。タイムスリップしたヒロイン・キャロルは若きファラオ・メンフィスに見初められる。可憐で英知あるキャロルと、富と名声を併せ持つメンフィスは数々の事件や謀略に巻き込まれるが、二人はそのたびに危機を乗り越えて互いの愛と絆を深めていく。波瀾万丈のストーリーや入り乱れる恋模様が魅力の作品。

『王家の紋章』の概要

『王家の紋章』とは、細川智栄子あんど芙~みんにより、1976年『月刊プリンセス』にて連載が開始されたタイムトラベル少女漫画である。コミックス累計発行部数は4000万部を超える。1990年に第36回小学館漫画賞少女向け部門受賞。2006年『月刊プリンセス』で連載30周年を迎えた際には、同誌で特別付録を付けるなどの誌上イベントも行われた。また2016年には単行本4巻までを舞台化した『ミュージカル・王家の紋章』も公演され、東京・帝国劇場や大阪・梅田芸術劇場などで公開された。

16歳の主人公キャロルはアメリカのリード財閥の社長令嬢。考古学を学ぶためにアメリカからエジプトのカイロ学園に留学しに来た。現地で参加した古代ファラオのメンフィス墓の発掘作業中、墓を暴いた呪いにかかってしまい古代のエジプトにタイムスリップしてしまう。そこで出会った若きファラオのメンフィスは金色の長い髪、青い瞳に白い肌のキャロルに興味を持つ。いっぽう激しい気性で暴力的な古代エジプト君主メンフィスに向かっても21世紀を生きる女性キャロルは現代っ子らしく反発の姿勢を見せてしまう。当初は怒りのあまりキャロルを監禁し屈服させようとするが、優しく英知に富み周りを笑顔にする彼女にメンフィスは次第に惹かれていく。21世紀の英知による数々の奇跡からエジプトに幸をもたらす「ナイルの姫」と呼ばれるようになったキャロルは、周囲の嫉妬と羨望からおこる陰謀に巻き込まれ常に身の危機にさらされる。しかし、数々の窮地を乗り越えるたびに二人は愛と信頼の絆を強めていく。キャロルはタイムスリップした古代エジプトでメンフィスの深い愛を受け入れ添い遂げる決意をするが、キャロルの明るい笑顔の影には不吉な言葉が静かにつきまとう。それは21世紀に発掘に携わった当時の教授に告げられた「このファラオは若くして死んでしまった」という言葉だった。

1996年にVHS版『王家の紋章イラスト・ストーリー・ビデオ』が東映株式会社から、1988年にレコード・CD版『王家の紋章 イラスト・ストーリー・ビデオ・オリジナル・サウンド・トラック』がNECアベニューから発売。復刻版は、モモアンドグレープスカンパニーから2004年に発売された。また、『王家の紋章 イメージアルバム Part1』、『王家の紋章 イメージアルバム Part2』がキャニオンレコードから1982年と1984年に発売。こちらも1990年にポニーキャニオンから復刻版が出ている。

『王家の紋章』のあらすじ・ストーリー

古代にタイムスリップしたキャロル

16歳の主人公キャロル・リードはアメリカのリード・コンツェルンの社長令嬢。考古学に多大な興味を持ちエジプトのカイロ学園に留学している。将来を誓った恋人ジミーやクラスメイト、考古学の師ブラウン教授らに囲まれながら充実した学園生活を送っていた。母やお手伝いのばあやはリード・コンツェルンの一人娘にふさわしい振る舞い願うが、キャロルは考古学の発掘現場で遺跡や出土品と格闘している。そんなある日、キャロルの父であるリード社長が出資するブラウン教授の遺跡発掘事業で大発見がなされる。ファラオと呼ばれる古代エジプト王の墓が発掘されたのだ。しかしその夜ファラオのミイラは何者かに盗まれてしまい、騒動の中で出土品の石板が割れてしまう。それはファラオの姉・アイシスを封じていた呪いの石板だったのだ。石板の呪いが解けアイシスがよみがえる。アイシスは愛する弟メンフィスのミイラを探し障害となる人々を次々に殺害。メンフィスの墓を暴いた報いにキャロルの父にもコブラをけしかけ毒殺し、キャロルや兄のライアン・リードも手にかけようとする。しかし壊れた石板が研究室によって復元されていくのを知ったアイシスは焦る。石板の呪いがふたたび発動すればアイシスは生きていた時代に戻らなければいけないのだ。追い詰められたアイシスはついにキャロルを古代エジプトに誘拐してしまう。

メンフィスとの出会い

キャロルが目を覚ますとそこは古代エジプトの村人の家だった。ナイル川の水辺で気を失っていたところを奴隷の一家に助けられたのだ。一家の母はキャロルの金髪や白い肌を隠して、役人に怪しまれないよう工事現場の水くみとして行動を共にする。異国の娘は珍しさから宮廷に連れていかれてしまうからだ。キャロルは古代にタイムスリップした事実を知り混乱するが、元の世界に戻るためにはアイシスに会うしかないと考えこれに従う。しかしアイシスのいる王宮の周囲で様子をうかがっているとメンフィスに見られてしまう。金色の髪の娘に興味を持ったメンフィスは逃げたキャロルのことを姉アイシスに話すがそれを聞いてアイシスは驚く。誘拐したキャロルは行き倒れたものと思いこんでいたからだ。古代エジプトでは姉弟間の婚姻は普通に行われていたとされており、アイシスも幼いころからメンフィスを愛し結婚するものと信じていた。皮肉なことに、墓を暴いたリード一家への報復として古代に連れ去り亡き者にしたはずのキャロルが、メンフィスの興味を強く引いてしまったのだ。ついにキャロルを見つけたメンフィスは無理やり王宮に連れて帰り、自慢げにアイシスはじめ王宮の人々の前に投げ出す。

メンフィスを救うキャロル

捕らえられたキャロルは反抗を試みるが、メンフィスは王の権威を振りかざしキャロルを奴隷として無理やり傍らに置く。金髪で白い肌、青い眼の女性はエジプトでは珍しいからだ。一方、アイシスは穏やかではない。死んだと思っていたキャロルが現れメンフィスの強い興味を引いたうえに、ミタムン王女の件にも頭を悩ませていた。強国ヒッタイトの王娘ミタムンは、若く勇ましいファラオとの結婚を望んでおり、エジプト王宮に滞在中だ。メンフィスもまたヒッタイト王女との政略結婚がエジプトに恩恵をもたらすことを理解しているのだ。愛するメンフィスを奪われたくないアイシスは恐ろしい計画を企てる。まず共謀者の神官に「メンフィスの妃はアイシスである」とお告げが出たと発表させる。ショックを受けたミタムン王女は国に帰ることにしたが、アイシスはミタムン王女を密かに監禁し従者を殺してしまう。しかしこのことが事態を大きく動かす。ミタムン王女は傷心のため国に帰る旨を手紙で祖国ヒッタイトに知らせていたのだが、王女は帰ってこず従者からの連絡もない。暴君ヒッタイト王は怒りのため様子を見に行かせた使者に、ファラオ・メンフィスの暗殺を命じたのだった。メンフィスとの謁見のなか暗殺計画は実行される。使者が放ったコブラの毒牙がメンフィスを襲った。古代の医療では対処ができず皆が諦める中、そばにいたキャロルは目の前で苦しむメンフィスを放っておけず、持っていた解毒剤をメンフィスに飲ませる。それは現代にいたときに、アイシスにコブラで殺されそうになったため心配した兄ライアンがキャロルに持たせていた解毒剤だ。キャロルはメンフィスにつきっきりで看護を続け症状は回復する。気づいたメンフィスは必死に看護してくれたキャロルに心を奪われることになる。しかしこれがアイシスを刺激し今度はキャロルの拉致を部下に命じる。キャロルが連れ去られたことを知ったメンフィスは自ら馬で駆け付け救出し、助け出したキャロルに結婚を申し入れるのだった。

ナイルの娘争奪

メンフィスの求婚をキャロルは断る。21世紀に婚約者のジミーや兄ライアンたち家族が待っているからだ。王の申し入れを断るキャロルに腹を立てたメンフィスは、キャロルを工事現場の使役人として労働を命じる。厳しい労働にすぐに音をあげてキャロルが折れるのを待つことにしたのだ。しかし万が一に備えて部下のウナスを使役人に変装させて、キャロルを密かに護衛させる優しさも見せる。だが予想に反しここでもキャロルは驚くべき英知を見せる。飲み水に困る使役奴隷には水のろ過をやってみせ、武器に悩む王宮幹部には鉄の鍛錬を披露した。これらは21世紀の知識を試しつつできたものだ。だが古代エジプトの人々は目の前で起きた奇跡に驚き、金髪碧眼の容姿と未知の知識と未来を予見する能力を持つキャロルを、ナイルの女神に授かった「ナイルの娘」「黄金の姫」と称える。「ナイルの娘」の呼び名は庶民の間で噂となり、キャロルは使役労働を免れる。さらにメンフィスが「ナイルの娘」と結婚するためにアイシスとの婚約を破棄したことも、全エジプトの知ることとなる。
いっぽう強国ヒッタイトでは娘がいつまでも帰ってこないことから、王子イズミルが旅商人に化けてエジプト王宮に侵入した。イズミル王子は妹のミタムン王女がメンフィスに殺されたものと考え、報復にメンフィスが一番大切にしている「ナイルの娘」を誘拐し殺害することにする。キャロルの誘拐は成功し、イズミル王子は祖国ヒッタイトにキャロルを連れ帰る。ヒッタイトの王宮で幽閉されるキャロル。イズミル王子はキャロルを妃にすることを目論む。「ナイルの娘」を手にするものはエジプトを手中に収めると言われているのもあるが、イズミル王子はキャロルの聡明さと気高さを目にして愛してしまったのだ。

キャロルとメンフィス 愛の行方

メンフィスはキャロル誘拐はイズミル王子の仕業と知り、その救出に軍を率いてヒッタイトに向かう。キャロルはヒッタイト宮殿に幽閉されているあいだにメンフィスへの気持ちに気が付き、エジプトに帰りたいと強く願う。いまや「ナイルの娘」キャロルはエジプトの心の支えとなっており、その救出は全国民の願いとなった。自身を犠牲にしてもキャロル救出を成功させる意気込みを見せるエジプト兵だが、それを知ったキャロルは恐怖する。自分のために人々が犠牲になろうとしているのだ。このときエジプトを守るためにキャロルは、闘って愛するメンフィスを守り、エジプト兵の命を守る決意をした。キャロルはエジプト軍のヒッタイト宮殿潜入を内部から手助けし、激しい戦いの末ついにメンフィスはキャロル奪還に成功する。敗れたイズミル王子は「このままでは済まさない」とメンフィスに告げ退却した。戦いは終わり互いの無事を喜び合うメンフィスとキャロルはついに結ばれる。キャロルは現代から3000年も前のエジプトで、メンフィスとともに生きることを決めたのだった。

立ち塞がる陰謀

幸せに暮らす二人だったがメンフィスに横恋慕するリビアのカーフラ王女と王位を狙う神官カプターの策略で、キャロルはメンフィスが第二の妃を迎えると誤解し、自らナイル河に飛び込んで現代に戻る。だが、メンフィスの子を宿していることを知ると、船の事故を機に再び古代へ戻った。
キャロルを諦めきれないイズミル王子は様々な策を使って何度もキャロルを拉致するが、キャロルが妊娠していて、体が弱っていると気づくと傷つけずに逃がす。バビロニアのラガシュ王と結婚し王妃となったアイシスもまたメンフィスを諦めきれず、逆にキャロルが懐妊していると知ると逆上し、キャロルを死海に落として流産させてしまう。キャロルはミノアのユクタス将軍に助けられ、九死に一生を得て、エジプトに帰還した。
体が回復したキャロルは、ユクタス将軍から病弱なミノア王を診てほしいと頼まれる。好奇心旺盛なキャロルは、しぶるメンフィスを説得し、ミノアへと旅立つ。まだ15歳の少年であるミノア王はキャロルを見ると、たちまち恋い焦がれるようになった。キャロルのアドバイスによって健康になると、執着心は強くなり、キャロルを王妃に迎えたいと願うようになる。
ミノア王の恋心を知った皇太后は、何かと理由をつけて、キャロルをエジプトに返そうとしない。そこへイズミル王子が乗り込んで、ミノア王と激しくぶつかり合う。また、ミノア王には異形の兄アトラスがいた。これまで表に出ず密かに国を守ってきたアトラスだが、やはりキャロルをひと目見た時から、熱い想いを寄せていた。キャロルを手に入れるために、アトラスは母である皇太后に刃向かうようになる。そして弟のミノア王に嫉妬し、殺害したいとまで思うようになった。
陰謀が渦巻く中イズミル王子はキャロルをさらい、魔女から借りた薬でキャロルを操って結婚式を挙げようとする。ぎりぎりのところでキャロルは正気を取り戻し、何とかイズミル王子から逃げ切ってミノアに戻る。そしてミノアにはしびれを切らしたメンフィスが、キャロルを迎えに来ていた。メンフィスには敵わないと悟ったミノア王は、いつかキャロルを奪うと心に誓いながら、二人を見送った。
一方のイズミル王子は王子はその後、勝手に縁談を進める父王に反発し、王位継承権を放棄してヒッタイト王国から去ってしまう。

エジプトに帰ったメンフィスとキャロルだったが、二人を愛する者、憎む者の策略がまだうごめいていた。突如あらわれたメンフィスのニセの兄ネバメンの野望、古い因縁からメンフィスを恨む古代アビシニア王子マシャリキなども加わり、二人は数々の事件や陰謀に巻き込まれる。ときには悲しい出来事に直面し、それらを乗り越え愛と絆を深める。二人の絆は国に繁栄をもたらし、エジプトの名声はさらに遠くの国々にも響き渡り新たな陰謀を引き寄せるのだった。

『王家の紋章』の登場人物・キャラクター

主要人物

キャロル・リード

物語の主人公。16歳のアメリカ人女性でリード・コンツェルンの令嬢。明るく元気な白人女性で金髪・碧眼、華奢な体型。裕福な財閥頭首の一人娘で末っ子。兄のライアンや婚約者のジミーに囲まれて学園生活を送る。考古学に夢中でエジプトのカイロ学園に留学している。身の回りを世話するばあやはリード家の令嬢にふさわしい振る舞いを望むが、実際は遺跡発掘現場で服の汚れも気にせず調査をする活発な性格。ファラオ・メンフィスの墓とミイラを暴いた呪いで過去のエジプトにタイムスリップし、メンフィスの目に留まる。エジプトでは見かけない金髪で青い眼の容姿と21世紀の知恵を持つことから、ナイルの女神の娘「ナイルの娘」と崇められるようになる。当初は現代に戻ることを望みメンフィスの愛を拒むが、メンフィスの激しい愛を次第に受け入れ、古代エジプトでメンフィスとともに生きることを決意する。メンフィスの寵愛とエジプト国民の崇拝を受けることで、国の内外から嫉妬と陰謀を引き寄せ数々の事件に巻き込まれる。

メンフィス

黒髪の男性がメンフィス

古代エジプトの17歳の少年王。長い黒髪と端麗な容姿でしばしば女性と見間違われるが、激しく残忍な性格を持ち合わせる威厳溢れる王。決断力と聡明さを持ちながら剣や弓など武術にも長けており、戦場では自ら武勲を上げる。戦場や窮地における判断も的確で、大勢の部下とともにピンチに陥っても行動力と勇気で解決の糸口を見つける。その美貌と王の威厳がアイシスをはじめとした多くの女性を虜にするが、メンフィスはキャロル以外には目もくれない。そのためメンフィスの愛を受け続けるキャロルに嫉妬の念が向かうことで、数々の事件や陰謀が巻き起こる。キャロルに出会うまでは残忍で冷酷な王だったが、キャロルに命の大切さや優しさを説かれ周囲に対する態度を軟化させる。キャロルに男の影が見えるとすぐに大声をあげて追及するといった嫉妬深い一面があるが、それだけキャロルを深く愛している。キャロルの危機にはどのような過酷な状況であっても駆けつける一途さを持つ。

エジプト王宮の人々

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