アメリカン・ファクトリー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『アメリカン・ファクトリー』とは、アメリカ合衆国のドキュメンタリー映画。ゼネラルモーターズ工場跡を買収した中国企業フーヤオが経営する米オハイオ州デイトン市の車用ガラス製造工場を題材としている。バラク・オバマとミシェル夫人の製作会社であるハイヤー・グラウンド・プロダクションズの第1作であり、Netflixにより配信された。閉鎖された工場跡に中国企業が進出し工場を再開させるが、現地採用のアメリカ人と中国から来た本社従業員との文化の違いや価値観の違いから様々な問題が浮き彫りとなる。

『アメリカン・ファクトリー』の概要

『アメリカン・ファクトリー』とは、2019年のアメリカ合衆国のドキュメンタリー映画で、バラク・オバマとミシェル・オバマの製作会社であるハイヤー・グラウンド・プロダクションズが手掛けた第1作である。監督は労働者階級など社会の底辺で懸命に生きる人々の暮らしにリアルに描写したドキュメンタリーを作ることで定評のある映像作家スティーヴン・ボグナーとジュリア・ライカートが務めており、本作においては2020年全米監督協会賞において最優秀監督賞を受賞した。
またアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞、リバーラン国際映画祭ドキュメンタリー作品賞を受賞し、ロサンゼルス映画批評家協会賞、ゴッサム・インディペンデント映画賞においてはドキュメンタリー映画賞を獲得した。
本作のプレミア上映は2019年サンダンス映画祭で行われ、その後2019年8月21日よりNetflixでの配信となった。
アメリカ国内において不況のあおりを受け衰退してしまった工業地帯の再開発に中国マネーが入り、閉鎖された工場跡が中国人によって買収されていく。本作では、ゼネラルモーターズの工場があったオハイオ州デイトン市において起こった実際の出来事で、工場再開に向け新たにアメリカ人再雇用のチャンスが訪れる。それを喜ぶ地元住民だったが、中国経営陣が要求する過酷な労働条件に少しずつ両者の関係にひびが入っていく過程が描かれている。
映画評論家のレビューをまとめたサイトRotten Tomatoes (ロッテン・トマト)では97%の高評価を獲得したドキュメンタリーだ。

オハイオ州デイトンの町には、元々ゼネラルモーターズ(GM)の工場があり、地元の住民の多くが雇われていたが、業績不振のため工場が閉鎖となり従業員たちは職を失った。多くのGM従業員は再就職もままならなかったのだが、2015年に中国の自動車用ガラスメーカーのフーヤオが多額の投資をしてアメリカ工場を設立し、デイトンのGM工場跡を買い取り、元工場をフーヤオ・アメリカ・ガラスとして稼働することとなったのだった。映画の序盤では、新工場発足は、地元住民にも喜ばれ、GM工場閉鎖以降ずっと失業中だった住民は再度仕事に就くことができ、明るい将来を期待している。そしてアメリカ人従業員達は、ぎこちないながらも少しずつ中国人同僚と打ち解けていき仕事外でもホームパーティーに誘うなど心温まる交流が行われる。が、時間が経つにつれ少しずつ中国文化とアメリカ文化の違い、メンタリティの違いにより、仕事の場面でも溝が大きくなっていくのだった。根本的に仕事や会社に対する考えが違うのだ。そしてトラブルが続出することとなる。ついには組合の加入をめぐって、労働者側と経営側が真っ向から対立し、工場内外ではデモも行われ事態は悪化していく。

労働者側と中国人経営側との亀裂の原因は、中国人経営陣が、文化の違いを理解しようとせず中国のやり方をアメリカ人に押しつけたことであった。従業員の給与はアメリカ人平均給与を大きく下回り、逆に業務は過酷で、休みを取ることもままならなかった。労災も頻発し、アメリカ的発想としてはブラック企業と認識されるレベルであった。中国経営陣としては、アメリカ人の待遇は、中国本社従業員より良い待遇であり、良い待遇で雇用することで経営陣との衝突もなく、生産性が伸びるのではないかと期待していた。中国人にとって、労働者というのは、会社のために身を粉にして働き尽くす者なので、週休2日、一日8時間しか働かないアメリカ人が理解できないのだった。

業績悪化を改善するためにアメリカ人スーパーバイザーを中国の本社へ招待し教育するのだが、そこでアメリカ人が目にした中国人従業員に唖然とするのだった。朝礼でビシッと整列し掛け声をかけて動く姿はまるで軍隊のようであった。また従業員全員が参加の中国新正月パーティーは工場内で壮大に行われ、そのパーティーでは、複数組のカップルが結婚式をする場面もあり、アメリカ文化とはかけ離れた中国文化にアメリカ人は驚きを隠せない。民主主義のアメリカと共産国の中国との国民性の違いをくっきり浮き彫りにした企業を超えた国際情勢の違いだった。だが会社としてはそんなことは言っていられない。どうにかして両者が協力し仕事をする必要があったがなかなかうまくいかない。この中国での研修の後、デイトンに戻ったアメリカ人スーパーバイザーが見よう見まねで中国式朝礼を試すがうまくいくはずもなかった。
中国人側はアメリカ人を知るためセミナー、勉強会を開くが深く亀裂の入った両者の関係を修復するには充分ではなかった。もう一つの問題は労働組合だった。アメリカでは労働組合は労働者の権利を守る大切な組織だったが、中国側は労働組合は会社の発展のマイナス要素にしかならないと言って全く取り付く島もない。中国にも労働組合はあるのだが、アメリカ労働組合とは違い中国の労働組合は会社を守るためにあるのだった。フーヤオは組合回避コンサルタントを雇い従業員向けにセミナーを開くという徹底ぶりだった。
会長のツァオ本人は、信心深く、貧しいが楽しかった子供時代を懐かしがったりする人物で悪人ではないが、経営者としてグローバルな利益を生み出そうとすると、冷徹な方法を採らざるを得ないのだった。
スティーヴン・ボグナーとジュリア・ライカート監督はこの『アメリカン・ファクトリー』撮影の前に、同じ工場にてフーヤオ・アメリカ工場の前進だったGMの組み立て工場の閉鎖を追ったドキュメンタリー映画『最後のトラック』も撮影している。デイトンのその後を撮った本作はアメリカ社会において、製造業が町に帰ってきたとしても、過去と同じようにはいかない、米国内で急速に進むグローバリゼーションの実態を伝える政治的なメッセージを含んでいるドキュメンタリー作品だ。

『アメリカン・ファクトリー』のあらすじ・ストーリー

GM工場閉鎖

2008年12月23日、雪の積もるオハイオ州デイトンの広場で集会が行われた。今後の生活に不安を抱えたデイトン市民のための集会だった。

まさにこの日、長年地元の人々が働いて街の支えとなっていたGMの工場が、不況のため閉鎖となったのだ。GM工場の閉鎖により1万人が職を失い、大半の人が再就職もままならない状態だった。

2010年頃から中国企業は、アメリカの製造業へ投資を始め、閉鎖された工場の再開をしたのだった。一方中国の工場では、オートメーションで次々にガラスを仕上げていくガラス工場は今日もフル活動をしている。

中国企業参入

フーヤオが開催した現地アメリカ人向け就職説明会

2015年、アメリカに着いたばかりの若い中国人カップルが肩を組み、街を見ながら話している。彼らはデイトンのGM工場跡に新しく入る、中国企業フーヤオから派遣された人材だった。
GM工場跡は中国の自動車用ガラス製造企業のフーヤオが買い取り、早速地元アメリカ人への就職説明会が開催された。

フーヤオは自動車用ガラスの業界シェア70%の巨大企業だ。アメリカ進出により二つの異文化を融合することが目的であるため、上層部にはアメリカ人も採用している。
中国企業フーヤオは着々と仕事開始の準備を始め、いよいよ工場内に採用された従業員が入る日がやってきた。採用されたアメリカ人従業員たちは、また仕事ができることに大きな喜びを感じていた。

フーヤオへの大きな期待

デイトン市は工場稼働を記念して、工場のある道路を「フーヤオアベニュー」と名付けた。
工場を訪れたフーヤオ会長のツァオ会長は、工場内の空いている敷地にさらに機器を搬入し、生産性を年内に上げていくことを宣言する。

工場再開当初は、ツァオ会長とアメリカ従業員の関係は良好だった。しかしこの時からツァオ会長は、アメリカ人に対していい印象を持っていなかった。

ツァオ会長は工場見学中に、「アメリカ人は仕事が遅い。手が大きいからなのか。これからは中国人とアメリカ人を二人一組にし、中国人はアメリカ人を監視をしアメリカ人が実質労働をするようにしなさい」と指示をだす。アメリカ人はツァオ会長がそのように考えているとは露知らず、明るい将来を期待していた。

工場見学を終えたツァオ会長は、工場内にある起工式の場所の下見をしている。10月の起工式に向け、アメリカ人経営陣は雨天のことも考え屋根をつけることを提案する。しかしツァオ会長は不要だと断言し、工場の屋外の視察へ行ってしまう。

フーヤオの時代

中国人による工場の買収は、新聞に大きく取り上げられ話題となっていた。フーヤオは労働組合を作らない方針で会社を運営している。アメリカ中が今後のフーヤオの動静を見守っているのだった。

いよいよ起工式の日、快晴となったオハイオ州デイトン。様々な来賓客やメディアが訪れ、起工式は順調に進んでいく。ツァオ会長の演説の後、オハイオ州の上院議員シャーロッド・ブラウンが挨拶をする。

しかしシャーロッド議員は、演説で「この工場も他のアメリカの工場と同じように、組合に加入するべきだ」と言い、「加入の賛否を投票によって決めるべきだ」と公言した。この話を聞いた中国人サイドは怒り、不満をあらわにした。なぜなら、公の場でツァオ会長が否定している労働組合の話を持ち出したからだ。
起工式後の記者会見では、シャーロッド議員が口にした労働組合についての質問が出される。ツァオ会長はその件に関しては回答を控え、経営陣も対処策を模索する。

その後の経営会議では、ツァオ会長は「生産への影響を与える可能性もあり、また企業にダメージを与える労働組合を形成するつもりはない」と断言する。「労働組合を作るなら工場は閉鎖する」とまでツァオ会長は発言する。
しかしまだツァオ会長の気は収まらず、「労働組合は私の生産を妨害し、少しずつ会社の損失を大きくしていく。現社長ジョンが社長のポストを守りたいなら私の助言をよく聞きなさい」と続ける。

小さな亀裂

出来立てのガラスが木っ端みじんに砕ける場面

現場では責任者が、「ガラス一枚されど一枚。この一枚は高品質、適正価格でお客様への元へと届けられ信頼につながるのだ。だから一枚一枚心を込めて生産するように」と促すのだった。
しかし生産ラインでは、不具合があり出てきたガラスは木っ端みじんに弾けてしまう。この日はちょうどHONDA社員が工場視察に来ており、その視察団の目の前で起こってしまった。
中国人副社長のジミーは、とにかく生産量とスピードが最重要事項だと言っている。長年働く工員は、「品質管理部門と中国人生産部門での意見が合わず、間に立つ自分たちは板挟みだ」と言う。

工場内では安全管理を担当するジョンが、温度計にて各所測温し点検をしている。安全ラインから逸している部門もあり、解決が必要だと判断する。

ツァオ会長同伴での構内見回り中、アメリカ人から苦情が出ているかとツァオ会長はジミーに問う。ジミーは高温での作業で働く従業員から苦情が出ていると説明し、予算が許す限り対応するつもりだと回答する。

その後中国人従業員だけを集めて集会が開き、ツァオ会長は演説する。「中国人一人一人は、母国中国に対して何らかの貢献をしなければならない。ここにいる君たちは、今がチャンスである。アメリカ人従業員は十分な能力がないうえに、労働組合が間に入ったら会社にとってさらにマイナスになるだろう」と集会を締めくくり、ツァオ会長は中国へ戻った。

中国本社訪問

アメリカからフーヤオ・アメリカ工場の各部門のスーパーバイザー達が、中国のフーヤオを訪問する。本社との合同会議の後、本社の工場見学を行った。アメリカ人スーパーバイザーたちは、熱心に中国人の作業を観察しビデオに収めている。

午後の見学では中国人従業員の点呼、挨拶練習の場に遭遇するアメリカ人。ビシッと一列に並び、掛け声をあげる姿にアメリカ人一同は唖然とする。

現地中国人従業員とアメリカ従業員カートが、アメリカ工場の問題について話している。中国人はまず勤務体制の違いを口にする。
アメリカでは休日が月8日ある。しかし中国では月の休みは1日か2日で、12時間の交代制だと言う。それを聞いたアメリカ人従業員は、問題はやはりお金のために仕事していることだと言う。

そして盛大な中国旧正月のイベントの日が来た。大会場では歌のパフォーマンスや、ダンスなどが次々披露される。こうしてイベントは大盛況で幕を閉じた。

深まる溝

アメリカ工場では、アメリカ人従業員の不満が少しずつ溜まっていた。カートは中国での視察が終わり、アメリカに戻ってきた。そしてカートは早速、始業前ミーティングを立ったままする中国スタイルに切り替えてみた。しかし、中国で見たような規律の取れたミーティングにはならず、全くかけ離れたものだった。

アメリカ工場では、緊急時の脱出口が無いことや運搬に従事する作業員への安全が考慮されていない等、安全面に関する問題点が非常に多かった。

工場では労働組合に加入するべきだとデモをする人々が集まっていた。一方で、中国人はアメリカ人の組合回避コンサルタントが、労働組合のマイナス点について講義している。

そのような中、ツァオ会長が中国からアメリカ工場へやってくる。そして「このような問題を避けるために、責任者やスーパーバイザーにアメリカ人を起用した。それなのに、どうなっているのだ」と言い残して去っていった。

工場内では、中国人従業員を集めてミーティングを行っている。ツァオ会長は利益をプラスにするため、新経営陣体制で実現するだろうと言う。そしてジェフ・リューを新社長として皆に紹介する。
ツァオ会長はアメリカ人経営者陣に見切りをつけ、中国人を経営陣とする体制へと変えたのだった。

クリスマスには工場でクリスマス会が開催された。その場で新社長のジェフ・リューは、みんなが力を合わせて一丸となり頑張ろうと皆に声をかける。そこにはツァオ会長の姿もあった。

文化の壁は思った以上に厚かった。中国人従業員はアメリカ文化や、いかに上手にアメリカ人を使うかのセミナーに参加している。
アメリカ人従業員はどんどん不満が溜まってきており、その矛先は中国人従業員にも向いていた。それはアメリカで働いているにも関わらず、中国人から外国人と呼ばれること。そして昼休憩を取らず仕事するように指示を出すことなどが挙げられた。

アメリカ人従業員だけで集まり、会社に関する意見交換を行っても話は平行線のままだった。しかし、日に日に労働組合加入デモが広がっていく。
アメリカ人従業員との関係がなかなかうまくいかないため、中国人側でも再度話し合いの場が持たれる。しかしその都度問題があれば提起するように、中国人従業員に指示する。

労働組合をめぐる対立

アメリカ人側の不満はどんどん大きくなっていた。ある日、デイトンでフーヤオの従業員のために行われた全米自動車労働組合の会合に、多くのアメリカ人従業員が参加していた。参加者はフーヤオの労働環境の現状を報告する。
報告しながら、どんどん不満が爆発していく。従業員の権利を守るためにも、労働組合に加入しなければならないと力説する。アメリカ人従業員は、勝つまでこの戦いを続けると息巻いているのだった。

結局中国経営陣は、すべての従業員の給料を2ドルアップすることで歩み寄ることにした。しかしアメリカ人従業員は、「賃金アップではなく組合加入を訴えているのに、経営陣は何もわかっていない」と冷めた目で見ていた。

工場の外では、相変わらず労働組合加入へのデモが過熱している。当然の権利だと主張しているが、中国人は見向きもしない。
しかし、アメリカ人従業員の中には労働組合加入にそれほど関心がない人もいたため、アメリカ人従業員内でも意見が二つに割れていた。

労働組合問題が過熱しているため、ツァオ会長は予定外の渡米を余儀なくされた。事ここに至っても、ツァオ会長はこの工場はあくまでアメリカの会社であり、アメリカの文化で運営していくのだと主張する。工場の外では相変わらず労働組合賛成派が、プラカードを持って抗議していた。

そして、とうとう労働組合に賛成か反対かの投票が行われた。投票の結果、反対多数で労働組合への参加は否決となる。結果を聞いた中国人従業員はガッツポーズで喜び、アメリカ人従業員は肩を落としていた。

フーヤオの進む道

オートメーション化が進む工場

組合投票のあった翌日、フーヤオの従業員全員を集めて、ジェフ・リュー社長が集会で演説を行う。ジェフ社長は、アメリカに昔の輝きを取り戻すため一丸となって頑張ろうと力説するのだった。
ツァオ会長は中国の寺院を参拝し、貧困に苦しんだが幸せだった子供の頃を懐かしく思い返していた。

フーヤオ・アメリカ工場では、ツァオ会長がまた視察に来ていた。工場のオートメーション化を図っているのだ。次々に従業員を解雇し機械に入れ替えることで、作業に関するストレスを抱えることもなくなるという。

ナレーションが流れ始める。「2030年までに世界中で3億7500万人が、オートメーション化により違う職種での仕事を見つける必要があると見込まれている。今後この劇的な変化に政府、企業、従業員がどう取り組んでいくかがカギとなるだろう」

そして「最後に、フーヤオ・アメリカ工場では、2018年以降黒字決済となっている。だが、給料はいまだ1時間14ドルである。現在、アメリカ人2200名と中国人200名がデイトンの工場で働いている」と締めくくるのであった。

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