嘘解きレトリック(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『嘘解きレトリック』とは2012年から都戸利津が『別冊花とゆめ』で連載していたミステリー漫画であり、現在は完結している。物語は日本、昭和初年から始まる。「人の嘘が聞き分けられる」少女・浦部鹿乃子と、貧乏探偵・祝左右馬が様々な謎を解いていく。左右馬と鹿乃子が中心のレトロモダン路地裏探偵活劇。

『嘘解きレトリック』の概要

『嘘解きレトリック』とは2012年より都戸利津が『別冊花とゆめ』にて連載していたミステリー漫画で2018年に完結。

昭和初年、物語の主人公である浦部鹿乃子は自らの故郷を出て九十九夜町にて途方に暮れていたところで、祝左右馬という貧乏探偵に出会う。浦部鹿乃子は「人の嘘を聞き分けられる」という能力があり、故郷では幼少期からその能力のせいで気味悪がられるなど辛い経験をしている。しかし鹿乃子のその能力を左右馬は高く評価して、探偵である自分の助手として迎え入れ、2人で事件を解決していくミステリー漫画。
また、「人の嘘を聞き分けられる」という能力から人に疎まれてきた鹿乃子が、九十九夜町で事件や日常を通して左右馬や周りの人々の優しさを知り、自分と向き合っていく過程も丁寧に描かれている。作中で鹿乃子と同じ「人の嘘を聞き分けられる」能力を持っていた青年と出会い、鹿乃子が自分の能力と向き合っていくストーリーでもある。左右馬と鹿乃子が中心のレトロモダン路地裏探偵活劇。

『嘘解きレトリック』のあらすじ・ストーリー

鹿乃子と左右馬の出会い

舞台は昭和初年。主人公の少女・浦部 鹿乃子(うらべ かのこ)は、生まれながらに「人の嘘が聞こえる」という不思議な力を持っていた。その能力のせいで周りから煙たがられ、自分でもその能力がコンプレックスになり、生まれ育った村を出ることに決める。知り合いが一人もいない町、九十九夜町(つくもやちょう)にやって来た鹿乃子だったが、泊まる場所も食べるものもないため山中の神社で過ごしていた。ある日、空腹で倒れていたところを、たまたまそこに居合わせた探偵の祝 左右馬(いわい そうま)とその友人で警官の端崎 馨(はなさき かおる)に助けられた鹿乃子は、その出会いをきっかけに町の人々と関わりを持つようになる。ある日、自分の能力を活かしてとある事件を解決できた鹿乃子は、左右馬の提案により探偵助手として左右馬のもとで仕事をはじめる。

藤島千代誘拐事件

ある日、左右馬の探偵事務所の大家から秋の味覚が届いた。そこには食材と一緒に「隣の藤島さんの家へこの食材を持っていくように」とのお達しが添えられており、鹿乃子と左右馬はその指示通りに藤島家へと向かう。藤島家は大豪邸で、その娘・藤島 千代(ふじしま ちよ)は探偵に憧れを抱いているという。千代の外出後、鹿乃子と左右馬は藤島家の奥様から「数日前より、何者かから千代へ脅迫文が届いている」と知らされる。その後、千代の運転手である耕吉(こうきち)が頭から血を流しながら屋敷に戻り、千代が外出先で何者かに連れ去られたと話す。鹿乃子は持ち前の能力で、この耕吉の発言を嘘だと見抜き、左右馬と協力して耕吉を問い詰める。自分の嘘を認めない耕吉だったが、誘拐されたはずの千代が無傷で外出先から戻ってきたことで、耕吉の供述が嘘であったこと、今回の誘拐事件がすべて耕吉の自作自演であったことが明らかになる。耕吉は半年前に会った友人に騙されて多額の借金を抱えていることを打ち明け、その問題を解決するために今回の行為に及んだことを自白した。耕吉は今回の事件を深く反省して退職を申し出るが、耕吉の人の良さを知る藤島家主人は耕吉に引き続き運転手として藤島家に仕えるよう願い出る。鹿乃子は自分の能力で左右馬の役に立てたことを嬉しく思い、左右馬は改めて鹿乃子に「君の力は素晴らしい」と伝えるのであった。

幽霊屋敷殺人事件

昭和初年の冬、警官の端崎馨はとある殺害事件現場に出向いていた。時を同じくして、十年前に未解決殺人事件が起きたと言われる三十番街の空き家の洋館で幽霊の目撃情報が入る。幽霊を見たと語る男・桐野貫二(きりの かんじ)は、その後怖くなって走り去ったところを車に轢かれ、入院していた。事件を聞きつけて貫二の病室を訪ねた鹿乃子と左右馬は、そこでカフェ「ローズ」の女給・ローズと貫二が口論をしているのを目撃する。口論は、ローズが貫二の浮気を疑っていることが原因だった。
鹿乃子、左右馬、馨は協力し、先の殺害事件の犯人と十年前の未解決事件の犯人が同一人物であることを明らかにする。さらにその犯人こそが、ローズが貫二の浮気相手と疑っている女性であること、その女性は事件の口封じのために貫二に近づいただけで浮気相手ではなかったことも分かった。後日、犯人の女性は逮捕され、浮気の疑いが晴れた貫二とローズの関係も修復されたのであった。

少女探偵団結成

ある日、利市(りいち)という男に手鏡を盗んだのではないかという疑いがかかる。鹿乃子が利市に手鏡について尋ねると、利市は「この手鏡は母親の形見だ」と答える。鹿乃子は嘘が聞こえる能力により、利市のこの発言が嘘であると分かる。鹿乃子は、利市を盗人と確信して問い詰める。しかしその後、利市の「手鏡は母親の形見」という発言は嘘だったものの、盗まれた手鏡と利市が持っていた手鏡は別物だということが明らかになった。鹿乃子は自分の特殊な能力のせいで他人にあらぬ罪の疑いをかけてしまったことを悔い、左右馬に「探偵助手を辞める」と告げる。頑なに助手を辞めたがる鹿乃子に対して、左右馬は「嘘が分かる君に見えないものがあるんなら、嘘が分からない僕にはそれが見えるんじゃない?だから一緒にいればいいんだよ」と伝え、2人で探偵事務所へ帰るのだった。

花見弁当事件

ある日、探偵事務所に訪れていた馨は左右馬と、先日馨が婦人に切符代を貸したことで口論していた。左右馬はそれを典型的な寸借詐欺だと言うが、馨は必ず返しに来るといった婦人を信じるという。鹿乃子は物心ついた時から嘘が分かるため、嘘が分からない人が騙されたときの辛さはどんなものなのだろうと心配した。
そんな折、左右馬と鹿乃子の行きつけの食事処・くら田の息子であるたろちゃんが事務所を訪れた。たろちゃん曰く、くら田の主人・倉田 達造(くらた たつぞう)と八百屋の主人・六平(ろくへい)が口論しているため、鹿乃子の力でどちらが嘘をついているか教えてほしいという。現場に駆けつけた鹿乃子と左右馬は双方の言い分を聞いたが、どちらの言葉からも嘘は聞こえなかった。自分の能力が失われたのでは、と不安に思う鹿乃子だったが、左右馬は以前鹿乃子と実験した結果、嘘をつく本人にその意識がないときは嘘に聞こえないことが分かっていた。左右馬の推理の結果、当事者は誰ひとり嘘をついておらず、今回の口論の原因は事故的なものであることが明らかになった。騒動を丸く収めた鹿乃子と左右馬が事務所へ戻ると、馨が訪ねて来て「以前切符代を貸した婦人の甥がお金を返してくれた」と報告した。鹿乃子は、嘘が分からない人はその不安の中でもお互いを信じあえるという人の強さを知った。

人形屋敷殺人事件

今月分の家賃が払えない左右馬は、馨の姉であり雑誌記者の端崎 雅(はなさき みやび)から「家賃を肩代わりしてあげる代わりに、今回の取材に同行してくれないか」と提案を受ける。雅は心霊・怪奇系の雑誌を担当しており、今回はとある人形屋敷で起きた殺人事件に関するものだという。
一カ月前、小さな村で柴田 イネ(しばた いね)という人形屋敷に女中として働いていた女性が人形を抱いて死亡した事件があったという。第一発見者の釣り人はイネが亡くなる直前「人形を殺した」と言ったと証言している。人形屋敷は村一体の土地を持つ資産家・綾尾家の屋敷であり取材の目的地でもあった。綾尾家は人形を育てる奇妙な風習があり、さらに二年前に綾尾夫妻が事故で亡くなりその一人娘の十七・十八歳の綾尾 品子(あやお しなこ)が家を継いでいる。左右馬と鹿乃子は取り調べの結果、今回の事件の犯人が品子であること、品子は一人ではなく容姿の似た三つ子であることを明らかにした。品子は、綾尾家に代々伝わる風習を守るために今回の事件に及んだことを打ち明けた。
後日、鹿乃子と左右馬は、品子たちの罪は事情を汲まれほぼ不問になったことなどを雅から伝え聞いた。「自分であることを隠さずいられるのは幸せなことだ」という雅の言葉に感動した鹿乃子は、自分は自分が正しいと思うことをしたいと感じたのであった。

刀真島殺人事件

以前、三十番街の幽霊屋敷事件で知り合った桐野貫二が刀真島(とまじま)で白井 峰男(しらい みねお)という人物が殺害された事件を解決してほしいと左右馬の探偵事務所を訪れた。探偵料は支払うし、もしも事件を解決できたならさらに料金を上乗せすると約束された左右馬と鹿乃子は、貫二と共に刀真島を訪れる。
殺害事件が起きた六月二十九日、貫二はスケッチを書くために島に訪れており、峰男の兄夫婦である白井 源(しらい げん)と白井 コウ(しらい こう)の家に泊まらせてもらっていた。事件の取り調べを進めるなかで、峰男を殺した犯人は白井夫妻ではないかという疑いがかかる。貫二は「峰男が殺されたとされる時間には、白井夫妻は自分と一緒に家にいた」と夫妻のアリバイを主張するが、左右馬は「白井夫妻は貫二が風呂に入っている時間に貫二の時計をずらし、寝ているときに元に戻すことで、貫二の認識を操作したのではないか」つまり白井夫妻は自分たちのアリバイをでっち上げるために貫二を利用したのではないかと推理する。
貫二は、「自分に優しく接してくれた白井夫妻が犯人だなど考えたくない」「それにもしも本当に白井夫妻が犯人なのであれば、自分は彼らの犯行に加担したことになる」とショックを受け、これ以上左右馬たちの捜査に協力したくないと言う。しかし、もしこのまま九十九夜町に帰れば自分は嘘つきのままだと考え、事件解決のために鹿乃子と左右馬に協力する。調査の結果、白井夫妻は峰男が築いた財産を目当てとして殺害に及んだことを白状し、事件は解決した。貫二は、今回の左右馬の推理を見て「なんでもお見通しって感じでちょっと怖いね」と鹿乃子に告げる。鹿乃子はその言葉を聞いて、左右馬も人から「気味が悪い」と自分と同じような言葉をかけられたことがあるのかもしれないと思った。

ひったくり強盗犯疑惑事件

ある日、くら田で一人の客が訪れ、注文から会計まで一言も話さずに帰っていった。その客がビーズの髪留めを店に忘れていったことがわかると同時に、六平が「昨日の客はひったくり強盗犯だ」と駆け込んできた。六平は強盗犯の特徴を細かく話したが、左右馬はそれらの特徴が昨日の客に当てはまるとは思わなかった。左右馬と鹿乃子の推理と調査の結果、くら田でビーズの髪留めを忘れて帰った客は、枡井荘(ますいそう)という宿に止まっていた紅子(べにこ)であった。紅子いわく、書生風の格好は、若い女ばかり狙うひったくりが怖くて男に見せるために着ていたもので、話せば声で女だとばれるため黙っていたのだという。ビーズの髪飾りは紅子のもので、姉が嫁いでいく際にくれたものだった。皆でくら田でご馳走になっていると馨がやってきて、ひったくり犯が無事逮捕されたことを伝える。紅子が枡井荘に残ってくれたら嬉しいという鹿乃子に、左右馬は「きっとそうなると思うよ」と笑顔で返す。鹿野子が九十九夜町にやってきてもうすぐ一年が経つ頃だった。

鹿乃子と母の再会

昭和初年の夏、鹿乃子の母親が鹿乃子の手紙を頼りに九十九夜町に訪れていた。母親はたまたまそこ居合わせた男に祝探偵事務所までの道を尋ねるが、その男は左右馬であり、二人は事務所で鹿乃子の帰りを待つことに決めた。鹿乃子が外出先から戻ると、母親は鹿乃子を抱きしめて愛を伝えた。その後、母親は左右馬に「鹿乃子のことをよろしくお願いします」と頼み、翌日に村へと帰っていった。鹿乃子は「嘘が聞こえる」という能力で苦しんだ日々に光が差すようだと感じた。

本物の孫を見つけてほしい

ある日、鹿乃子と左右馬は、富豪の老婦人・実原久(さねはら ひさ)より「本当の孫を見つけて欲しい」という依頼を受けた。久の娘・依里(えり)は、二十五年前に父親から勘当されて以来消息不明だった。一昨年に亡くなった父親の書斎から見つかった資料によると、依里は山中の村で名前を鶴子(つるこ)に変え旦那の乙吉(おときち)と仲睦まじく暮らしているということだったが、後に乙吉との子供、つまり久の孫を産む際に命を落としていたいたことが分かった。
調査の結果、久の孫を名乗る者が二人も現れた。それぞれ名を徳田史郎(とくだ しろう)と本条皐月(ほんじょう さつき)というが、鹿乃子は徳田史郎が偽名だと分かったため、それをハンドサインで左右馬に伝えた。その後も史郎の話は嘘ばかりであり、久はすでに皐月の方が本当の孫であることに感づいていた。左右馬が史郎を問い詰めようとしたところ、すでに史郎の姿はなかった。鹿乃子と左右馬がバス停まで走ると、そこには史郎がいた。左右馬が「史郎という人物を騙っているのではないか」と問いかけると、その男はあっさり肯定したうえで、バスが閉まる直前に鹿乃子に向かって「鹿乃子さん、今の僕の話はどっち?」と鹿乃子と左右馬にしか分からないはずの嘘と本当を伝えるハンドサインをして見せた。帰りのバスで鹿乃子は、史郎は鹿乃子の力に気づいたのではと左右馬に伝える。左右馬は嘘が分かる能力なんてそうそう分かるものじゃあないと言い、「ああいう面倒そうなのとはもう会いたくないねぇ」と言った。

端崎馨結婚事件

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