刀使ノ巫女(とじのみこ)のネタバレ解説・考察まとめ

『刀使ノ巫女』とは、studio五組が製作するアニメ。日本刀を使って戦う「刀使(とじ)」と呼ばれる少女たちの、戦いや日常を通して友情を紡いでいく様を描く。魅力的なキャラクターや日本文化を色濃く反映した世界観などが人気を呼んでいる。ストーリー面は二部構成になっていて、少女たちが逃亡劇を繰り広げながら、刀使を陰で操る敵と戦う「波瀾編」、少女たちの日常を絡めながら新たな戦いを描く「波瀾編」に分かれている。

「マイマイがお姉さんキャラなのはよーくしってマース。でも、たまには甘える方に回ってもいいんじゃないデスか?」(古波蔵エレン 第14話)

第14話「家族の情景」は舞衣とエレンの日常や家族を主軸に置いたエピソード。それまでの逃亡劇とは違い、事件は起こるもののゆったりとした時間が流れている。

タギツヒメとの戦いから4か月後、舞衣が危険な戦いに身を投じたことを知った舞衣の父・孝則は、舞衣に刀使をやめるように告げる。その後、孝則が買収したノロの研究施設でエレンと再会した舞衣は、ノロを強奪しようとするフードの刀使と戦う。舞衣が実際に戦う姿を見た孝則は、舞衣が刀使として戦うことに理解を示し、舞衣が美濃関に刀使として残ることを認めるが、一方で父親として舞衣が危険な戦いをすることが心配であることも告げる。
その様子を見たエレンは舞衣にこのセリフを耳打ちする。エレンの言葉を聞いた舞衣は、子どものように父親に抱きついて甘えた。

エレンに対するファンの評価は概ね一致していて、「陽気な楽天家に見えて実は一番周りが見えている」「能天気に見えて実は一番冷静な頭脳派」という声が大多数。片言の日本語でハイテンションに振る舞い、初対面の人間にもあだ名をつけるフレンドリーさを持つエレン。だが、彼女の本質は意外と冷静さ、気配り、頭の良さにある。その一端が垣間見れるのがこのシーンだ。

舞衣は三姉妹の長女として、また柳瀬財閥の社長の霊場として、常に「お姉さんキャラ」として振舞っている。それは可奈美や沙耶香のような友人たちの間でも変わらない。
だが、舞衣だって普通の中学生の女の子。たまには親に甘えたい時だってある。しかし、まじめな性格ゆえに、何かきっかけがないと親に甘えることができない。そのことを察したエレンが、舞衣に親に甘えるきっかけを作ったのである。舞衣の家族との確執を描きつつも、最終的にはわだかまりが解けるという情景を描いた第14話だが、エレンの冷静なアシストがあったことも忘れてはならない。

「刀使だからって何も考えずに斬るのはやめておけ。よく考えて斬れってことだ」(益子薫 第15話)

出典: pbs.twimg.com

第15話「怠け者の一分」はファンの間でも特に人気のある回だ。怠け者の薫と、まじめすぎる沙耶香をメインに据え、対照的な二人を描いている。特に、薫はボケにもツッコミにも回ることのできるキャラクターであり、沙耶香を相手にボケ役に回る薫がとにかく面白い。その一方で、『荒魂との共存』という波乱編と軸のなるメッセージが込められた重要な回でもある。

山の中で荒魂を捜索していた薫と沙耶香。やっと見つけた荒魂は小動物程度のサイズだった。薫は特に害のある荒魂ではないと判断して見逃そうとするが、沙耶香が荒魂に斬りかかる。
薫は沙耶香を止めるが、「刀使は荒魂を斬るもの」「荒魂は放置すれば人に害をなす」と教わってきた沙耶香にとって、薫の行動は不可解だった。一方、薫は沙耶香の行動や言い分の方が正しいと認めつつ、「お前の言い分だと、益子が絶賛放置プレイ中のこいつ(ねね)も斬らなくちゃな。斬れるか沙耶香?」と問いかける。ねねと仲良くなっていた沙耶香は御刀をおさめ、「私が間違っていた」と口にする。薫はどちらが間違っているという問題では無く考え方の相違だとし、このセリフを言った。

だが、その後荒魂が狂暴化。薫は「益子の歴史じゃこんなことザラだ。だから、けじめのつけ方も心得てる。考えて…、信じて…、それがダメだったときは、誰よりも先にそいつの牙を受け、剣を向ける。それが益子のけじめだ。だから俺がやる」と、自ら荒魂を切り伏せた。
「荒魂=有害なものではなく、本当に有害なものかどうか自分の目で見て、ちゃんと考える」という薫の考え方は沙耶香に大きな影響を与える。第18話では沙耶香はタキリヒメやイチキシマヒメ、さらにはタギツヒメとの対話の可能性を考えていた。その後、荒魂が暴れる理由が喪失感、寂しさからくることを知った沙耶香は最終回で荒魂を斬った後、「もうさみしくないから」という言葉を口にしている。沙耶香が荒魂に対する考えを変えるきっかけとなったのがこのシーンである。

「まったく…気付いていませんでしたの。どうしても溝を開けられたくない方がいたからですわ!」(此花寿々花 第17話)

出典: tama-yura.jp

真希にノロを受け入れた理由を問われて寿々花が返した言葉。その後、真希の「たったそれだけのことで?そんなに想われる相手が羨ましいよ」という言葉に対しては、寿々花は真希をにらみながら「鈍感」とだけ返している。

折神家親衛隊第一席の真希と第二席の寿々花。寿々花にとって真希は越えるべきライバルであり、だからこそ差をつけられたくなかったのだが、その一方で、単独行動をとっていた真希を激しく叱責したシーンから、一人でタギツヒメを追っていた真希を心の底から心配していたことがうかがえる。寿々花にとって真希はライバルであると同時にかけがえのない仲間なのであり、真希の強さに対しては憧れや慕情に近いものを感じていることをこのセリフで匂わせている。そんな寿々花の気持ちに気づかず、「どうしても溝を開けられたくない相手」が誰か他人のことだろうととぼけた答えを返す真希と、それに対し「鈍感」となじる寿々花。なんだか片想い中のやり取りを見ているようで微笑ましい。「胎動編」では敵だった真希と寿々花も、「波乱編」ではこのようなシーンで彼女たちの内面を描き出しており、メインの6人だけでなく真希と寿々花の魅力も際立っている。

「だって獅童さんも此花さんも、何もわかっていないから」(皐月夜見 第18話)

市谷・防衛省にいるタキリヒメに対して、タギツヒメと近衛隊が襲撃を仕掛けた。タギツヒメに従う夜見も荒魂を散布しながら市ヶ谷へと向かうが、そこに元親衛隊の真希と寿々花が立ちはだかる。真希と寿々花は夜見に、紫が健在であることを伝え、ともにまた紫に忠を尽くそうと呼びかける。さらに、これ以上雪那の命令に無理やり従うことはないと、夜見に親衛隊に帰ってくるように説得するが、夜見はそこで笑顔を見せる。これまで笑ったことのない夜見の笑顔に驚く真希と寿々花。このセリフは、なぜ夜見が笑ったのかの理由にあたるセリフだ。

第18話時点では明かされていないが、夜見が忠義を尽くす相手は雪那だった。夜見自身のゆるぎない意志のもと、夜見は雪那に対して忠を尽くしていた。真希と寿々花の言う「紫に忠を尽くす」も、「雪那の命令に無理やり従っている」も、夜見から見れば見当違いだったのだ。

真希と寿々花は親衛隊として夜見と長い時間を共に過ごした相手でもある。ドラマCDなどでは、親衛隊のメンバーも任務時間外は意外とふざけたやり取りをしていて、その会話の輪の中にはきちんと夜見の姿もある。しかし、その真希と寿々花にしても、夜見のことを理解していなかった。彼女の笑みには、そのことに対する残念さや、人に理解されにくい自分への自重も込められていたのかもしれない。

「…どうなんでしょう」(皐月夜見 第19話)

出典: www.tororo.online

タギツヒメたちが拠点とするホテルに姿を現せた真希と寿々花。二人の目的は、夜見に会って彼女の意志を確認することだった。夜見が無理やり雪那に従っているのではなく、自分の意志で行動していることを確認する二人。その別れ際、寿々花は夜見に「あなたは今幸せ?」と問いかける。その答えがこのセリフである。

幸せかと問いかけられて「どうなんでしょう」と答える。このセリフについて、夜見役の渕上舞がWebラジオ「とじらじ」の中で自身の考察を語っている。

夜見にとって、落ちこぼれだった自分のことを見つけ、力を与えてくれた雪那のために尽くすことが幸せだった。たとえ雪那から虐げられていても、雪那のそばにいて忠を尽くせればそれだけで幸せなのであり、さらに言えば「虐げる」という形でも雪那が夜見のことを見てくれている、夜見に接してくれていることが彼女にとって幸せなことだった。
しかし、夜見は自分の幸せが、他人の思う幸せや世間一般に描かれる幸せの姿とは違うことを理解しているのではないか。
だから、寿々花に「あなたは今幸せ?」と問いかけられた時、夜見本人としては幸せを感じているが、それが寿々花の思う幸せとはおそらく一致しないこと、寿々花には理解できないであろうという事を察して、「どうなんでしょう」と答えたのである。

「元々こいつはこういう奴だ。優しくて友達思いな半面」「冷たくて自分本位」(十条姫和&衛藤可奈美 第21話)

出典: pbs.twimg.com

荒魂と同化し禍神となった姫和。もし、このまま彼女が荒魂を制御できないのであれば、隠世に送るしかない。姫和が現世に留まれるかどうかの瀬戸際で、可奈美は「ねえ、今の姫和ちゃん、強い?」と問いかけ、中断していた御前試合の続きを今してほしいと頼む。状況を無視した可奈美の自分勝手な申し出に仲間たちは憤るが、姫和はそれに応じる。その時のセリフである。前半部分が姫和、後半部分が可奈美のセリフである。

実はこのセリフ、最初に言ったのは可奈美の母・藤原美奈都である。美奈都が可奈美の性格を言い表した言葉と、同じことを姫和が言った。姫和がいつの間にか可奈美の母と同じくらい、可奈美のことを深く理解していることの表れでもある。

「優しくて友達想い」と「冷たくて自分本位」は矛盾しており、作中では美奈都もこのふたつが矛盾していることを認めている。しかし、可奈美に限らず人はみな矛盾した相反する性格が共存しているのではないか。そして、可奈美の良い面と悪い面、両方をわかったうえで、それでも可奈美のことを受け入れる姫和に、二人の友情の深さを感じる。

「させない!そんなの絶対させないから!一人で抑えきれないなら全部出しちゃえばいいよ!私が斬ってあげる!全部全部斬ってあげるから!半分持ってあげるって言ったでしょ…もっと信頼して預けてよ…」 (衛藤可奈美 第21話)

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禍神となった姫和と御前試合の続きを行う可奈美。だが、姫和の雷神の剣や未来を見る能力をもってしても可奈美を倒す手立ては見つからず、姫和は可奈美に一本取られる。姫和が可奈美に勝つことを諦めると、可奈美はそうやって荒魂を抑え込むことも簡単に諦めるのかと姫和を責める。その直後、可奈美は姫和を抱き寄せてこのセリフを言う。

「半分持ってあげる」というのは第4話に登場したセリフ。姫和が折神紫を倒す理由、その覚悟の重さを知った可奈美が言った「重そうだから、私が半分持つよ」に由来する。17話前の回のセリフを回収した形となった。
さらに、同様のセリフは実は、可奈美の母である美奈都も語っている。美奈都は相模湾岸大災厄の時、姫和の母である篝が本来一人で受けるはずだった負担を「半分持った」ために命を落とした。可奈美と姫和の友情は親子2代にわたるものであることを彷彿とさせるセリフでもある。

「おい、笑いたくないなら笑うな!」(益子薫 第22話)

タギツヒメによって吸収・消滅してしまった姫和。その安否はわからないが、最悪の場合も考えられる状況となってしまった。

数日後、部屋に集まってお菓子を食べる可奈美たち。姫和がいなくなってしまった悲しみ、何もできなかったむなしさを一番抱えているはずの可奈美はあえて姫和の名前を出すなど気丈に振る舞う。しかし、可奈美が心配をかけまいと無理していることは仲間たちの目には一目瞭然だった。舞衣たちは可奈美に無理をしないように問いかけるが、無理なんかしていないとあくまでも笑顔で帰す可奈美に薫が言ったセリフである。

このセリフを機に可奈美は姫和に対する思いを吐き出し、舞衣の胸に顔をうずめて涙をこぼす。
怠け者でふざけたセリフも多く、見た目的にも最年長には見えない薫だが、こういったセリフに彼女がやはりほかのキャラよりも少し年上で、意外とお姉さん的な立ち位置にいることが伝わってくる。

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