テルマエ・ロマエ(ヤマザキマリ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

テルマエ・ロマエとはヤマザキマリによる漫画作品である。本格的古代ローマ史に日本の浴場文化という異色の組み合わせが話題を呼んだ。ローマ人ルシウスと現代日本の人々との心温まるやり取りが魅力の一つだ。浴場の設計技師であるルシウスは突如、現代日本の浴場へとタイムスリップしてしまう。そこで得た日本の浴場技術をローマに持ち帰り再現することで皇帝に一目置かれる存在となり、古代ローマ史のキーマンとなっていく。

『テルマエ・ロマエ』の概要

テルマエ・ロマエは、月刊コミックビーム(エンターブレイン社)において2008年2月号より連載された。当初不定期連載にてスタートしたが2010年4月号より定期連載に移行、2013年6月に単行本最終巻を発売し幕を下ろしている。

古代ローマの公衆浴場と日本の浴場事情、というマニアックな題材を扱っていたためヒットを期待していなかった原作者のヤマザキマリは当初、今作品を同人誌として発表するつもりでおり、コミックビーム関係者とも「(単行本を)5000人買ってくれたらすごいね」と話していたほどだった。
ところが、書店での宣伝などで徐々に部数を伸ばして行き、東京都浴場組合の推薦やローマ・イタリアの学術関連の問い合わせも来るなど、従来の漫画にはあまりないところからのアプローチによって知名度が上がっていった。

その後、書店員が選ぶマンガ大賞2010の受賞をきっかけに、第14回手塚治虫文化賞短編賞、「このマンガがすごい!」2011年版オトコ編・2位、全国書店員が選んだおすすめコミック2011・3位、2013年仏アングレーム国際漫画祭ノミネート、2013年米アイズナー賞アジア部門ノミネート、と数々の受賞やノミネートを受ける。

また、「銭湯(公衆浴場)文化」と「古代ローマ時代」というマニアックな題材である点が逆に多くのコラボレーションやタイアップを生み、マンガ業界だけでなく社会的にも多くの影響を与えた作品である。
2024年、続編となる『続テルマエ・ロマエ』が集英社から発表された。

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『テルマエ・ロマエ』のあらすじ・ストーリー

建築技師ルシウス、日本の銭湯へタイムスリップ

古代ローマ時代。浴場設計技師である主人公ルシウスは、有能だがこだわりの強い性格で、雇い主と言い争いになりクビになってしまう。
落ち込んでいるところを友人である彫刻家・マルクスが、気分転換も兼ねて公衆浴場へと誘った。
混みあった無秩序な浴場はルシウスの美学に反するものばかりで、たまらず彼は湯の中に身体ごと全て沈めた。
その時、排水溝からものすごい吸引力で吸い込まれてしまいルシウスは溺れてしまう。何とか水面から顔を出すと、そこはローマの公衆浴場ではなく現代日本の銭湯だった。
ローマ人とは似ても似つかぬ顔立ちの日本人を「平たい顔族」と命名したルシウスは、奴隷専用の風呂に紛れ込んだのだと勘違いするが、そこにある様々な技術に感銘を受けてしまう。
浴場で足を滑らせ再び意識を失ったルシウスが次に目覚めると、そこは元のローマ公衆浴場だった。
ルシウスは早速日本の銭湯で見た技術を生かし、脱衣かごと奴隷番頭による更衣室の効率化、催し物の宣伝ポスター、フルーツ牛乳の販売を浴場にて再現すると一躍大ヒットとなった。
こうしてルシウスは、売れっ子浴場技師として名を馳せることになった。

更に広がる日本式浴場の技術

すっかり売れっ子浴場技師になったルシウスは多忙を極め、兼ねてより子作りに積極的だった妻リウィアとすれ違う日々が続き喧嘩してしまう。
妻との喧嘩に自棄酒を煽るルシウスの元に、カンパニア州レピドゥス執政官より、滞在中の別荘地へ至急来るよう書かれた書状が届く。
ルシウスが別荘地へ赴き執政官から話を聞くと、執政官は余命いくばくもない中、ローマ来訪の際にルシウスが手がけた浴場が忘れられず、この別荘から見えるベスピオ火山を眺めながら入浴できる屋外風呂を作ってもらえないかと依頼されたのだった。
全くアイディアが浮かばない中別荘内の敷地を歩いている時、脚を滑らせ水辺に落下したルシウスは再び現代日本にタイムスリップする。
そこは多くの温泉客が訪れる露天風呂だった。室外に湯を引く技術に再び感銘を受けたルシウスに、温泉客たちは温泉卵や玉子酒を振舞った。その美味しさに舌鼓を打ち、のぼせてしまうと再び古代ローマに戻ってくる。
ルシウスは早速現代日本の技術を再現して別荘地に露天風呂を建設。温泉で作った卵とワインを湯に浸かりながら食していた執政官はみるみるうちに元気になり新しい妻子まで作るに至った。

また、友人マルクスの石工技師の師匠が高齢化に伴い公衆浴場へ通うことが難しくなってきたという相談を受けていると、今度は現代日本の家庭の風呂へタイムスリップし、小さな浴槽やあかすり布、シャンプーハットなどを目の当たりにして再び感銘を受ける。
持ち帰った技術でルシウスは、マルクスの師匠に小さな家庭用風呂を作ってやり喜んでもらった。
そこへ、マルクスに石像の依頼をしていた皇帝陛下の使いがその小さな風呂を見て驚き、その様子を皇帝陛下に報告する。ルシウスは後日、皇帝の元へ招かれることになった。

皇帝ハドリアヌスとの出会いと私生活の破綻

建築家としての才能を持つ皇帝陛下ハドリアヌスは、自らが設計した美しいローマ建築で造られた屋敷に住んでいた。
そこへ招かれたルシウスはハドリアヌス帝から、反対勢力の元老院との軋轢などによる精神的疲弊を癒すために私室に斬新な風呂を設計して欲しいと依頼される。
恐れ多い依頼にひるむルシウスだったが、「ローマの平和を担うローマ人としてそなたの力を貸してくれないか」という皇帝の言葉に心を動かされ引き受けることになった。

何かいいアイディアがないか、と邸宅の周りを囲むお堀のそばを散策している途中、ルシウスは足を滑らせお堀に転落し、再び現代日本へタイムスリップする。
今回ルシウスがタイムスリップしたのはバストイレのショールームだった。
そこでルシウスは、省スペースでもゆったり過ごせる形状の浴槽、浴室内テレビとウォシュレットトイレに感銘を受け、ローマにその技術を持ち帰る。
壁に埋め込まれたクラゲの水槽で浴室内テレビを再現したルシウスに、ハドリアヌス帝は感動し、属州ユダヤの戦地にルシウスを同行させる決意をする。

紀元134年、ローマ帝国属州ユダヤ、エルサレム第10軍団バル・コクバ反乱対策指令本部に赴いたハドリアヌス帝は、現地に滞在していたセウェルス将軍に「若くも健康でもない私はこのような戦いに時間を割きたくない」と、自らの平和思考を語り、長引く戦に終止符を打ちたい考えを示した。
ユダヤ人の毒ワイン攻撃で負傷したローマの兵士たちもしきりに入浴したいと懇願しており、解決策をルシウスに打診する。
戦地に浴場を建設しようと荒地を探索していたところ、温泉水の湧き出す場所を発見したルシウスは早速浴場作りに着手するが、その途中で腰を痛め、建設途中の温泉に沈没してしまい、再び現代日本にタイムスリップした。

東北地方の湯治場にタイムスリップしたルシウスは、温泉水の飲用による治癒効果、地熱によるオンドル(床下暖房)等に感銘を受け、古代ローマにその技術を持ち帰った。ユダヤの地で疲弊していた兵士たちはルシウスの作った湯治場風浴場によって癒され士気が上がり、エルサレム陥落に成功したのだった。
しかしこの時既にルシウスはローマを離れて3年も経っており、久方ぶりに自宅へ帰ると妻は実家に帰ってしまっていた。

妻に逃げられたことと、自分の不甲斐なさに自暴自棄になるルシウスを友人マルクスが慰め、彼の協力のもと勇気を出して妻の実家に迎えに行ったルシウスだったが、妻は既に別の男と再婚し子どもを授かっていた。
こうしてルシウスはハドリアヌス帝に認められた名誉と引き換えに妻を失ってしまったのである。

次期皇帝ケイオニウスと彼の最期

妻を失ったショックを忘れるため、より一層仕事に没頭するルシウスの元に、ハドリアヌス帝の養子であるケイオニウスが訪れた。
ケイオニウスはハドリアヌス帝が倒れたことを知らせ、ルシウスに「一緒に来て欲しい」と頼み、快諾したルシウスと共に皇帝の元へと行くことになった。

命に別状はなかったハドリアヌス帝だが、自身の健康に不安があり将来に対して悲観的になっていた。
そしてルシウスに「次期皇帝としてケイオニウスを指名する。それにあたり、ケイオニウスが元老院から異論が出ぬほどの民衆から信頼を得られるような、記念の大衆浴場を作って欲しい」と依頼するのだった。
依頼を承諾したルシウスだったが、ケイオニウスは軟弱な好色男だったためルシウスは次期皇帝にふさわしくないのではないかと疑問を抱き始める。そして、ハドリアヌス帝本人が元気を取り戻せばケイオニウスの就任を遅らせられると思ったルシウスは、皇帝を元気付けるための風呂を作れないか考え始めた。
ちょうど別の浴場の修理中に思案していたところ、また現代日本にタイムスリップする。今回訪れたのはワニ園の水槽だった。
ルシウスは温かいワニ園やバナナが栽培されている様子を見て、ハドリアヌス帝と亡き愛人との思い出の地ナイル川を再現すれば元気付けられると確信する。何とかバナナの種を持ち帰ることに成功したルシウスはナイル川を再現した浴場を作ると、ハドリアヌス帝はたちまち元気を取り戻したのだった。

ますます名声を築き上げるルシウスは数々の大衆浴場の難題を解決していくが、そんなある日、ケイオニウスが遠征先で倒れ体調が急変したという知らせを受ける。
寒冷地での遠征が元々虚弱だったケイオニウスには耐えることができず、ケイオニウスは志半ばで亡くなってしまう。
意気消沈したハドリアヌス帝を慰めるため、共に風呂に入り今後のことを語り合うルシウスだったが、その途中でルシウスは現代日本にタイムスリップしてしまうのだった。

さつきとの運命の出会い、そして再婚

再び現代日本にタイムスリップしたルシウスは、伊藤温泉というとある温泉街に来ていた。
そこでルシウスは初めて言葉の通じる女性さつきと出会う。
さつきは古代ローマ文明の研究者でラテン語を話せたため、ルシウスと意思疎通を図ることができたのだった。

しかし、憔悴しきっていたハドリアヌス帝を置いたままタイムスリップしてしまったルシウスは何とかして戻れないか試行錯誤するが、今回のタイムスリップは以前と違い、なかなか帰れず困り果ててしまうのだった。

そんなルシウスにさつきは旅館「東林館」で働くことを提案し、とりあえずこの世界での衣食住を確保できることになったのだった。
何でもひたむきに取り組む性格が功を奏し、ルシウスはあっという間に温泉街の人気者になる。そして、言葉の通じない自分と他の皆をつなぐ橋渡しをしてくれるさつきの優しさに、だんだんと心惹かれていくのだった。

そんなある日、温泉街を買収しようとしている地上げ屋「武内組」の手により温泉街の観光牧場が危機にさらされる。
そこへルシウスが登場し、事なきを得たところで再び古代ローマに戻ってしまう。

ルシウス不在の間、ハドリアヌス帝は更に自暴自棄になり自殺願望も高まってしまっていた。ルシウスは、ハドリアヌス帝に仕えていた行政長官のマルクス・アンニウス・ウェルスに自分が平たい顔の奴隷たちの世界へ行き高度な文明を学んできていることを打ち明けると、マルクスの目の前で再びタイムスリップしてしまうのだった。

ルシウスが伊藤温泉に戻ると、観光牧場の件で逆恨みした武内組が東林館に乗り込んできたまさにその瞬間だった。
再びルシウスは武内組を追い返しその場は収まった。
しかし彼らの嫌がらせはエスカレートし、ついにさつきが拉致されてしまう。その現場を目撃したルシウスは観光牧場の馬・ハナコにまたがり追走、さつきを無事取り戻した。
何度も温泉街の危機を救ってくれたルシウスにかねてより特別な感情を抱いていたさつきは、自身の古代ローマ文明の知識を生かしてローマ風の手作り弁当を渡した。それを受け取り感極まったルシウスはさつきに愛を告げるが、その瞬間に再び古代ローマへと戻ってしまう。
現代の科学技術を知らず、ラテン語を流暢に話すルシウスが、もしかすると本当にタイムスリップしてきた古代ローマ人なのかもしれないと思っていたさつきは、目の前で彼が消えたことによりそれを確信に変えたのだった。

ルシウスが何度も口にしていた「バイアエ」という地名を手がかりにルシウスの痕跡を探そうとするさつきは、祖父鉄蔵や大学の研究チームの協力を得てついにバイアエ遺跡調査に参加できることになった。
バイアエ遺跡を調査していたさつきは、シャンプーハットやラムネ瓶などルシウスが持ち帰ったであろう痕跡を発見する。さつきは夢中で遺跡を調査していくうちに、湯が沸いている場所を見つけルシウスのことを思いながら飛び込んだ。そしてついに古代ローマへタイムスリップすることに成功した。

ルシウスを捜し求め、古代ローマの街を歩くうちに奴隷商人に騙され売り飛ばされそうになるさつきのところへ、たまたま行政長官マルクスが通りかかる。
マルクスは以前ルシウスから聞かされた、平たい顔の奴隷たちの世界でディアナ(月の女神)に会ったという話を思い出すと、さつきがルシウスの言っていたディアナだと直感的に察し、その場に割って入り無事救出するとルシウスに引き合わせた。
古代ローマに戻ってから、もう二度と会えないさつきのことを思い焦がれていたルシウスは、再会できたことに感極まり、永遠の愛を誓うのだった。

時が流れハドリアヌス帝が崩御し次期皇帝が就任した頃、ルシウスはさつきとの間に男児を設け、二人は末永く幸せに暮らすのだった。

『テルマエ・ロマエ』の登場人物・キャラクター

ルシウス・モデストゥス(CV:FROGMAN)

主人公。ローマの建築技師で主に浴場の設計をしている。性格は頑固でこだわりが強く、設計や浴場のこととなると途端に周りが見えなくなって没頭してしまう根っからの職人気質。
それゆえ、妻とは不仲となり結果離婚してしまう。
ローマ人であることを誇りに思っている愛国者。技術者でありながら弓矢の訓練を受けており、剣術、馬術、弓術、槍術など一通りの武芸を身につけている。
また記憶力も良く、タイムスリップ先の現代日本の技術を詳細に記憶し、ローマに戻って日本の銭湯にある数々の技術を再現し名声を上げた。

小達さつき(おだてさつき)

東京大学大学院卒のローマ史研究者で、同大学にて教鞭をとっている。また、実家の伊藤温泉では芸妓をしていた亡き母の後を継いで名取となり活躍している。
古代ローマ関係の文献解読のためラテン語を学んでおり、タイムスリップしてきたルシウスと唯一会話を交わすことができる。
ハドリアヌス帝と入浴していたルシウスが伊藤温泉にタイムスリップしてしまった際に出会い、その美しさを「ディアナ(月の女神)」に例えたことがきっかけでルシウスはずっとさつきのことを「ディアナ」と呼んでいた(最後は名前で呼んでいる)
愛の告白をしてくれたルシウスがローマに帰還した後に自分もルシウスを愛していることに気づき、古代ローマへタイムスリップする方法を探し奔走する。最終的には古代ローマへ行きルシウスと再会、結婚し男児を授かった。

小達鉄蔵(おだててつぞう)

さつきの祖父。昔気質の朴訥な老人。観察眼に優れている。
腕っ節が強く、若い頃温泉街で悪さをしていた武内組に、友人である松平梅吉と共に殴りこみをかけ、3分で壊滅させたという武勇伝がある。
また交友関係が広く、大物政治家から大企業の社長、ボクシング元チャンプなど多岐に渡っている。
女手一人でさつきを育てていた母親(鉄蔵の娘)が病死したため、さつきを引き取り親代わりとなった。
鍼灸と整体の技術を持っており、一目見ただけで相手の体調や寿命なども察知することができる。

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