バガボンド / Vagabond

『バガボンド』とは、1998年から2015年2月まで『週刊モーニング』(講談社)で連載された、原作・吉川英治、作画・井上雄彦による時代漫画である。コミックスは37巻刊行され、累計発行部数は国内で6,000万部、国外で2,200万部、合計8,200万部を超えた。
タイトルの『バガボンド』は英語でVagabond、放浪者の意味である。
物語は戦国時代末期から江戸時代を舞台に、剣豪・宮本武蔵(みやもとむさし)の青春時代が描かれている。本作品は吉川英治の小説が原作であるが、佐々木小次郎がろう者であったり武蔵野実姉が描かれなかったり物語や登場人物には、作画の井上が独自のアレンジを加えている。
2000年に「第4回文化庁メディア芸術祭」のマンガ部門で大賞、「第24回講談社漫画賞」の一般部門を受賞した。さらに2002年には「第6回手塚治虫文化賞」のマンガ大賞を受賞した。また2008年5月からは全国4都市で、個展『井上雄彦 最後のマンガ展』が開催された。この個展では全作品が描き下ろしされた。

バガボンド / Vagabondのレビュー・評価・感想

バガボンド / Vagabond
10

大人気漫画家が描くリアルな宮本武蔵

青春漫画の金字塔『SLAM DUNK』の作者である井上雄彦が、吉川英治原作の『宮本武蔵』を題材に人間の深部をリアルに描く人気漫画。ただ、井上氏の興味範囲の広さや時間への概念、健康問題などにより2015年から休載に入っている。
作州で生まれ育った宮本武蔵は、同郷の友人である本位田又八と共に天下分け目の大戦、関ヶ原の戦いに赴くが敗走し、浪人(バガボンド)となる。「面白そう」というただの興味本位で戦に志願した武蔵であったが、幾多の強敵と戦うことで自分が本来持っていた「天下無双になる」という願望を抑えきれなくなり、自分よりも強き者を斬り続けていく。そんな折、宝蔵院で余生をおくる槍の使い手である胤栄や、「無刀」で一国の主となっている柳生石舟斎と出会い、斬り続けることが果たして天下無双につながるのか、武蔵の中で疑問が生まれ始める。心の内が葛藤にある中でも、ひたすら強敵を求めて旅を続け、強敵を殺めていく。
武蔵の想い人であるおつう、会う度に武蔵に生き方を問い続ける僧・沢庵、又八の母であるおばばなど、周りの人間たちの成長も魅力のひとつ。人を殺めていくシリアスな描写がある一方、武蔵や彼の理解者らが持つコミカルな感情表現もあり、読み始めたら止まらなくなる至高の漫画だ。

バガボンド / Vagabond
8

強さって、なんだろう?

伝説の剣豪、宮本武蔵の物語を「スラムダンク」で有名な井上雄彦が、吉川英治の「宮本武蔵」を原作に描いた作品。
物語の概要は、現在の岡山県北部、美作の国で生まれた宮本武蔵が、剣豪を目指し諸国を流浪して行く中で、本当の強さとは何かを見つけていく物語。
圧倒されるようなダイナミックな画力と、宮本武蔵の常人には真似できない生き方様が、読者を物語に引き込んでくれるだろう。
筆者が感じたこの漫画の注目すべきポイントは、旅が進むにつれて武蔵の心境が様変わりしていく過程を体感できる点である。
物語の序盤、中盤、終盤(この漫画はまだ完結していないが)と進むにつれ、様々な強者と出会い立ち会う中で、
野獣のように人の命を奪っていた武蔵が徐々に命の人の大切さを知り、人の命を奪うことは、斬り合いとはいえ果たして正しいことなのか?
罪の意識と剣の道を目指すことへの矛盾、その葛藤の中でどう生きるか、本当の強さとは一体何なのかを見つけていく姿を是非見ていただきたい。
そしてこの漫画は、さらにもう一人の主人公として、武蔵のライバルと知られている佐々木小次郎の物語も描かれている。
関ケ原の戦いでの二人の邂逅や、小次郎が聴覚に障害を持っている点など、オリジナルを感じさせる要素も数多く加わっているため、
完全な史実に基づく物語ではないと思われる。しかし、それ以上に一読の価値がある作品である。
特に何かひとつの道に志を持っている方、これから持ちたい方、特別になりたい方は、是非読んでみてはいかがだろうか。

バガボンド / Vagabond
8

どんな方にもお勧めとは言えませんが…

まずは井上雄彦ワールドが好きな方であれば、各巻の表紙を見れば、読まずにはいられないほど、井上雄彦先生の魂の込め具合がビシビシ伝わってくるのではないかと思います。作品の内容といたしましては歴史上の人物で有名な「宮本武蔵」の幼少期を含む物語です。
「武蔵」についての作品はこれまでに他作者の方が執筆されていますが、要所のポイントは押さえつつもバガボンドは井上雄彦オリジナルの物である内容です。
結果を先にお伝えしてしまうと「圧倒的」です。
テーマは自分が推測するに「人間」です、武蔵といえば剣豪・佐々木小次郎との対決が有名ですが、本作品は武蔵を通じて、人の弱さや醜さ、反面、優しさ等を圧倒的な画力で表現している作品です。セリフは余り多くなく、「絵」で武蔵の心情を表現している箇所が多く、気が付けば目が離せなくなる程のスケール・熱量が伝わります。
ストーリーの主人公が有名人ですので、正直「宮本武蔵」と聞いただけでほぼ「あ~あれね、昔の剣豪ね」でネタバレしちゃってます(笑)。
しかしバガボンド=井上雄彦の本当の楽しさはストーリもさることながら、圧倒的な画力からつたわります。
何度で読んでも(観ても)毎回新たな発見がある楽しい作品です。

バガボンド / Vagabond
9

泣かされる漫画

作州の浪人宮本武蔵が、剣豪として名を全国に広めていくまでの物語。サクセスストーリーのような感じに聞こえるが、実際は17歳の少年がもがき苦しみ精神的に大きくなっていく心理的な描写も多く、時代は異なるが共通する所も沢山あるなと思わせる内容になっている。
特に前半は、強くなる、名を馳せると意気込んでいたものの、ある一定の強さまで到達したとき、柳生の一族の長の強くなさそうでいて強い懐の深さを知り、強さを求める執念とは何か、と根本的な所に疑問を抱きはじめ、悶える所がただのサクセスストーリーではないと感じる。
脇をかためるキャラクターも魅力的だ。幼なじみの又八は常に武蔵と自分を比べ嫉妬している。成功だけしか見ていないから、その気持ちはわかりやすく、自分が全くだめなやつだと自覚するキャラクターとして描かれている。
その又八の母も、又八を連れて作州を出た武蔵を敵視して追いかけるなど、本当に子憎たらしいキャラクターとして描かれていた。
そして、ついに母が亡くなるときに又八と再会したシーンには泣いた。
又八が武蔵と比べ続けた自分の弱音を意識の薄らぐ母にこぼしたら、一本道で人生を歩む人も素晴らしいが、曲がりくねってぶつかりながら行く人も良いんだよと諭す所に泣けた。
又八のような、あっちにぶつかりこっちにぶつかりもがき苦しむ心を、何とかしたいと思うけどなかなかできない気持ちを肯定してくれる台詞が泣けてきてしまった。
この作品は精神的な部分が描かれているからこそ好きになれるのだと思う。