泣かされる漫画
作州の浪人宮本武蔵が、剣豪として名を全国に広めていくまでの物語。サクセスストーリーのような感じに聞こえるが、実際は17歳の少年がもがき苦しみ精神的に大きくなっていく心理的な描写も多く、時代は異なるが共通する所も沢山あるなと思わせる内容になっている。
特に前半は、強くなる、名を馳せると意気込んでいたものの、ある一定の強さまで到達したとき、柳生の一族の長の強くなさそうでいて強い懐の深さを知り、強さを求める執念とは何か、と根本的な所に疑問を抱きはじめ、悶える所がただのサクセスストーリーではないと感じる。
脇をかためるキャラクターも魅力的だ。幼なじみの又八は常に武蔵と自分を比べ嫉妬している。成功だけしか見ていないから、その気持ちはわかりやすく、自分が全くだめなやつだと自覚するキャラクターとして描かれている。
その又八の母も、又八を連れて作州を出た武蔵を敵視して追いかけるなど、本当に子憎たらしいキャラクターとして描かれていた。
そして、ついに母が亡くなるときに又八と再会したシーンには泣いた。
又八が武蔵と比べ続けた自分の弱音を意識の薄らぐ母にこぼしたら、一本道で人生を歩む人も素晴らしいが、曲がりくねってぶつかりながら行く人も良いんだよと諭す所に泣けた。
又八のような、あっちにぶつかりこっちにぶつかりもがき苦しむ心を、何とかしたいと思うけどなかなかできない気持ちを肯定してくれる台詞が泣けてきてしまった。
この作品は精神的な部分が描かれているからこそ好きになれるのだと思う。