言の葉の庭 / The Garden of Words

言の葉の庭 / The Garden of Words

『言の葉の庭』は、日本のアニメーション映画。『秒速5センチメートル』や『星を追う子ども』で知られる新海誠が原作と監督と脚本を手掛けた。2013年5月31日公開。キャッチコピーは「“愛”よりも昔、“孤悲”のものがたり」。
靴職人を夢見る高校生のタカオは、雨が降ると学校をさぼって公園の日本庭園で靴のスケッチをしていた。そんなある日、彼はひとり缶ビールを飲む謎めいた年上の女性、ユキノと出会う。約束もないまま雨の日だけの再会を繰り返しながらお互いに少しずつ打ち解けていく。タカオは居場所を見失ってしまったというユキノのために、彼女がもっと歩きたくなるような靴を作ろうと決心する。現代の東京を舞台に、男子高校生と生きることに不器用な年上の女性の淡い恋の物語。
登場人物の心情にあわせて様々な種類の雨を描きわけるなど、新海監督が得意とする緻密かつ繊細な描写が大きな見どころである。万葉集や日本庭園などを題材に描かれ、情感豊かな映像に引き寄せられる。
主人公の男女の声を数々の作品で声を担当してきた入野自由と花澤香奈が演じている。

言の葉の庭 / The Garden of Wordsのレビュー・評価・感想

言の葉の庭 / The Garden of Words
10

すべての描写に心がギュンとする

私がオススメしたいのは新海誠監督の映像作品、「言の葉の庭」です。
新海誠監督といえば、2016年公開の「君の名は。」や、2019年公開の「天気の子」を追い浮かべる方が多いかもしれません。
まずは概要です。「言の葉の庭」は、2013年公開の作品になります。主な登場人物は、靴職人になることを夢見る男子高校生と、社会の中でうまく生きることができなくなってしまった高校教師の女性。雨の日がそんな彼らを繋ぎます。映画となると長いイメージがありますが、「言の葉の庭」は40分程度のショートムービーで、気軽に鑑賞することができます。
次に、私のオススメポイントを2つ紹介します。1つめは、圧倒的な映像美です。新海誠監督の作品はその描写の美しさで名高いですが、この「言の葉の庭」も例に漏れず、どのカットも繊細で美しい描写にあふれています。自然も、高層ビルも、ベランダの枯れた植物でさえ、すべてが「作品」として洗練されています。
2つめは、対照的な2人の登場人物です。大人になるとはどういうことなのかをわからないでいる高校生。がむしゃらに生きる中で、彼には彼の悩みがあります。将来への不安、自分の思いと他者の願いに葛藤することもあるでしょう。一方で、大人になるとはどういうことなのか、社会の現実を突きつけられ、その波に揉まれてしまった高校教師。すべてが怖くなってしまって、何を取り柄に生きていけばいいかを見失った彼女にもまた、彼女の悩みがあります。すっかり弱くなってしまった自分が情けなく感じて仕方がないことでしょう。そんな、違った境遇にある2人の思いを、それぞれの視点で寄り添うことができます。彼ら視点の台詞も多く、察することが苦手な方でも彼らの思いを十分にくみ取ることが出来るでしょう。特に年齢が近い若い方は、高校生と社会人両者の気持ちに共感することができるかもしれません。
鑑賞終了後には、とても暖かく穏やかな気持ちになります。2人の決断を最後までぜひ見届けてください。ちなみに、小説版ではさらに細かな心情描写や、気になる彼らの未来についても言及がされています。そちらもぜひ。

言の葉の庭 / The Garden of Words
7

大人びた少年と成長を忘れた大人の物語

この作品は約40分の短編映画ですが、この間に詰め込まれた情景や技術は粋を極めています。

新海誠といえば「天気の子」でも話題になった絵の綺麗さで有名です。
そう言わしめているのは、尋常じゃなく上手い光の表現です。
この作品においては、「反射光」と「雨粒」にそれを見ることができます。
「反射光」とは、周囲の景色から回り込んできた光です。要するに光源の逆側の物の輪郭ことです。
例えば、周りを新緑の木々囲まれた人物のシーンでは光源と逆側の輪郭に緑が使われています。
これは、周囲の木々の緑を頬や服が反射させているという現実に忠実な表現手法です。
これによってキャラクターがより自然で実在感のあるものになっています。

もう一つの「雨粒」ですが、一粒一粒の再現性が半端ではないレベルで描かれています。
陽に照らされて一瞬輝く雨粒や、水面に落下した際の雫が精密に描き込まれています。
これは、天気の子などの別作品と見比べてみるとそのリアル感がより感じられて面白いと思います。

ここまでは表現について書いてきましたが、最後にストーリーについて書いてみたいと思います。
本作は、靴職人を夢見る大人びた男子高校生「孝雄」と、とある事情で休職中の女性「雪野」との出会いと別れを描いています。
二人は雨の日にだけ逢瀬を重ねてお互いを意識し始めますが、それには理由がありました。
二人はお互いに悩みを抱えており、お互いがお互いを救い合える関係と思えたからです。
孝雄は靴職人という夢を持ちつつも、それが狭き門であることを認識し人から「できっこない」と思われているのではないかと常に怯え、焦っていました。
それに対し雪野はその夢を認め、応援してくれるような行動も取ってくれていたことで、孝雄は少しづつ心を開いていきます。
一方の雪野は孝雄を支えつつも自らの問題に手一杯の状態で、どこを向いても味方はおらず前へ進む事が出来ずにいました。
そんな雪野にとって事情を知らない孝雄と話すことは心の癒しとなっていたのです。
この後の展開については、雪野の抱える事情が明らかになるのに従って急展開を迎えますが、その真相と二人の関係性における切なさを、秦基博さんの曲と一緒に作品で感じていただければと思います。

人生で何かに悩んでいる方に響く作品になっている物語を、ぜひご覧ください。

言の葉の庭 / The Garden of Words
9

雨が好きになる映画です。

「君の名は。」や「天気の子」で有名な、新海誠監督の作品の一つです。
一時間未満の短編アニメーションですが、私はボロボロと泣きました。
ざっくりと概要を話すと、靴職人を目指す男子高校生と、心を病んだ古典教師の話です。
東京の新宿御苑(都心部の真ん中にある国立公園)を舞台に、二人の葛藤や成長を描いた本作品は、
美しすぎる映像に、豪華な声優陣。
そして、秦基博の心に響く歌声…
これだけでも十分価値があると思うのですが、それだけではありません。
なんといっても細かな描写が深海監督の醍醐味だと思われます。
高校一年生で、複雑な家庭環境の中、家事もこなす男子高校生、秋月孝雄(声優:入野自由)
学生とのトラブルや不倫の上、味覚障害にまでなってしまう古典教師、雪野百香里(声優:花澤香菜)。
二人は雨の中、新宿御苑の東屋でばったりと出会います。
些細なきっかけですが、それが必然であったとも思えるような出会いに心が踊りました。
雨の午前中だけ学校をサボり、靴職人の夢と向き合う少年。
いつの間にか、二人は雨の日だけ会える関係になっていきます。
どちらが約束をした訳でもなく…

他には、女性では「あるある」のファンデーションが割れてしまったときのショック。
有名靴ブランドDIANAへの憧れ等、なぜ深海監督がこんなにも女性の心理を知っているんだろう!と思いました。

心に雨が降ったとき、雨雲の隙間から光を差し込み、少しだけ背中を押してくれるとても良い作品です。

言の葉の庭 / The Garden of Words
7

雨宿りから始まった“孤悲”

靴職人を目指す男子学生のタカオは、雨の朝は学校をサボって新宿御苑で靴のスケッチを描いている。
そこで偶然出会った年上のミステリアスな女性ユキノと雨の日のベンチで逢瀬を重ね、心を通わせていく。
あの時感じた日常のふとした一瞬を切り取る、新海誠のテクニックが冴えわたる作品。
作中ではBGMのピアノと環境音の描写で登場人物の心情を際立たせ、46分の長さで過不足なく見事に表現されている。
「あの人に会いたいと思うけれどその気持ちを抱え込んでいるだけではガキのままだ」。
バイトをしながら靴職人になるための努力を惜しまず、現実にもしっかり向き合うタカオは賢く大人びている。
「私、まだ大丈夫かな」。
仕事や人間関係に躓き、動けないでいる成人女性のユキノは自分の至らなさばかり目につき、心身に影響が出てしまう。
キャラが全く異なる二人を対比させて学校で再会する展開は、テンポが良くストーリーに引き込まれた。
疲れきったユキノと厳しい現実から脱却しようと自分の目標に向かってひたすら走るタカオの切ないストーリーは、必見。
それにしても、思いを寄せる年上のお姉さんとの会話にうつつを抜かさず、自分の目標に向かってひたすら走る男子学生は稀少。

言の葉の庭 / The Garden of Words
8

良くも悪くも人間らしさが露呈した映画

作は「映像が奇麗」だと評価されることがあるが、私は人間模様を評価したい。
舞台は新宿。靴職人を目指す高校生・孝雄と心身ともに疲弊した女性教師・雪野は時同じくして新宿御苑で出会った。お互いに学校、会社をサボった雨の日の庭園。次も、また次も、と雨の日に出会う二人は惹かれあっていく。

設定が非常によくできている。
・雨の日の新宿
・都会にぽつりと存在する新宿御苑
・そのなかに安らぎを求める悩める男と女

互いに不器用なのは生き方だけでなく、性格である。なぜかといえば、夢追う孝雄は大人に反発しつつも現状を受け入れようと苦しみ、社会の枠からはずれた雪野は立ち直ろうとしつつも一人で苦しんでいる。そんな彼らに必要だったのは心安らぐ時間、そして人間だったのだろう。

心の開ける人間が身近な人とは限らない。その現実はネット社会が物語っている。孝雄の求めたものは理解してくれる大人。その理想は”母”である。しかし肝心な実母は遊び呆け頼りにならない。孝雄は雪野という大人の女性に惚れていく。

雪野の求めたものはすべてを受け入れてくれる人。孤独感、罪悪感に苛まれた雪野には癒され笑う時間が必要だった。それが孝雄。

彼らは親密になればなるほど、その差に気付いていく。高校生の孝雄、女性教師の雪野。年齢も違えば社会的地位も違う。生きている場所も異なる。共通するのは生きていく支えを求めることのみ。はたしてともに生きていけただろうか。

鑑賞後には都会のじめじめとした雨に一点の光を差すような、すがすがしい気持ちを味わえるかもしれない。

言の葉の庭 / The Garden of Words
10

究極の癒し

新海誠さんの小説「言の葉の庭」の映画。言葉で表せられないくらいにとにかく美しい。
「君の名は」で大ヒットした新海誠さんだが個人的には言の葉の庭の方が現実味が強くしんみりとした感じが好き。映像も音楽も文句の付け所がない。映画にしては、それぞれの登場人物のセリフ量はとても少ないのだが、絶妙な雨や光の描写だけで登場人物の繊細な心を全て表現できている。特に雨が物語の中で大きな役割を果たしているのだが雨が滴る音、地面に当たって跳ねる音、激しく力強く降る音など雨の映像だけでも映画が一本作れると思うほど素晴らしい。またエンディングで流れる秦基博さんによるrainという曲のカバーが映画にぴったりで最高だ。
この映画を観た後は雨の日には、決まってこのrainが聴きたくなる。上映時間46分と非常に短い映画でだがそれを感じさせないくらいの内容の濃さと満足感が得られる。
個人としても言の葉の庭は6、7回は見ているので何度見ても飽きない映画だ。原作に比べ情報量は一段と少ないが、とても秀逸にまとまっていて大事な場面がしっかり抜粋されているので不満はない。原作が再現されていない映画でがっかりする事は良くあることだが、言の葉の庭に関しては原作を既に知っていても映画も全く違う魅力があるので観ることをお勧めする。
反対に、映画を先に観たという人は原作を読むことによって細かい情報が得られ映画では少ししか触れられなかった孝雄の兄や雪野の元恋人、高校のクラスメイト、更には孝雄のバイト先の先輩達にまで触れられているのでより言の葉の庭を知ることができる。映画、小説どちらも素晴らしいの両方とも観て読んでほしい。