82年生まれ、キム・ジヨン

82年生まれ、キム・ジヨン

『82年生まれ、キム・ジヨン』とは、2019年に韓国で公開されたヒューマンドラマ系映画作品。韓国では、公開初登場1位を獲得。1982年生まれの主婦ジヨンの学生時代から結婚、育児を通した日々の生活の中で女性であるが故に受ける差別や生きづらさが描かれている。優しい夫と愛娘と幸せな結婚生活を送っているはずが、ジヨンが感じる違和感が気づかないうちに心を蝕んでいく。ジヨンの心情に多くの女性が共感し、大ヒットした。原作は韓国で130万部を発行、日本でもベストセラーとなった。

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82年生まれ、キム・ジヨンのレビュー・評価・感想

82年生まれ、キム・ジヨン
8

原作とは異なる味わい

日本でもベストセラーとなった話題のフェミニズム小説の映画版である。
主人公のキム・ジヨンは、ある日を境におかしな言動を始める。彼女が、彼女自身ではなく、誰かにのりうつられたように話すのだ。それは彼女の母だったり、曾祖母だったり、先輩だったり、彼女の周りの女性たちだった。
原作を概ね踏襲しつつ、原作とは異なる新たなキムジヨンの将来も描かれており、より明るいエンドになっていた。原作ではほぼ登場しなかった夫が、より重要な役どころとなっている。韓国で社会現象を引き起こしたドラマ、トッケビの主役を演じたコンユさんが夫役となっている。ネット上で、原作よりも夫が良い風に書かれていることについての批判も目にしたが、監督がインタビューで答えているように、現代社会でのフェミニズムに対する男性の立ち位置の変化が表現されている、という風に私は好意的に感じた。
原作との違いについて、人によって感じ方は様々であると思うが、女性だけでなく、男性も女性差別の問題に関わっていく必要があり、女性対男性という対立構造でなくしていく、新たな時代に入っていくような、そんな新しい社会の在り方をこの映画では見せられたように思う。

82年生まれ、キム・ジヨン
10

男女格差に関して悩む方にオススメの作品

『82年生まれ キムジヨン』は、韓国の人気フェミニズム小説を映画化した作品です。
韓国も日本同様、女性は男性中心社会の壁に悩んでいることがよくわかる映画で、見れば絶対あるあると言いたくなるシーンに溢れています。夫が善意のつもりで話した言葉が妻を傷つけてしまう様がこれでもかと描かれていて、多くの方の共感を呼びます。例えば夫の両親の家へ妻が一緒に行った場合に舅姑小姑などにいかにひどく言われるかというようなところがとてもリアルに描かれているのです。
しかしこう書くと、男性には共感が持てない作品のように思うかもしれませんね。しかし決してそんなことはありません。というのも男性にも男性中心社会を負担に感じていたり、或いはそれが時代遅れだと感じている方が少なからずいるからです。そういう人が見れば、男性としてはこういうことは改めて行かなければと思うに違いありません。
特に印象的なのは主人公のキムジヨンが元の会社に復帰しようとした時のことです。相談した妻に対して夫が自分たちのまだ小さい娘の育児はどうするのかということを言い、反対します。しかし結局は折れて賛成するのですが、姑が反対します。しかしキムジヨンの母が賛成して…といった流れになっていくところです。
映画は小説とは異なり、希望が持てるエンドになっていますが、原作者も監督も女性で、とても素敵な作品なのでオススメしたいと思います。

82年生まれ、キム・ジヨン
9

82年生まれ、私も

韓国の世界的ベストセラー小説を基に、韓国のある一人の既婚女性の物語。
日本のしがない男である私。
住んでる国も価値観も違う。作品に共感する事が出来るのか…?
ところが!
性別や国は違えども、生き方の悩みは同じ。万国共通。
悲しみも苦しみも、喜びも幸せも、とても共感してしまった。
劇場公開時から観たい!と思っていたのだが(本当は隣町まで観に行こうと思っていたのだが、コロナがまた拡がり始めた時期だったので断念)、いや〜、いい作品であった。

韓国で1982年生まれの女性に多いという“キム・ジヨン”。
本作の主人公もその一人。
両親、姉、弟、平凡な庶民家庭に生まれ育ち、大学卒業後はOLに。
デヒョンと結婚し、出産した事で退職。専業主婦に。
育児と家事をこなしながら、夫と幼い娘と平穏に暮らす毎日…。
一見、家庭に入った女性の“教科書”のような生き方に思えるが…

時々物忘れや夕方になると鬱気分になる事がしばしば。主婦業も大変。その疲れ…?
正月は夫の実家へ。嫁は我が家以上にあれやこれや進んでしなければならず、更なる気疲れや心労が重なる。加えて、姑のちょっとした言動に過敏に反応すらしてしまう。
私の亡き母も姑とは仲良かったが、小姑からは会う度にあれやこれや口うるさく言われていた。かく言う私も。落ち着きなかった小さかった頃の事やもうどーでもいい前の事を何度も何度も何度も何度も何度も蒸し返す、大キライな小姑(叔母)であった。
…さて、私の突然の思い出こそどーでもいいとして、映画の話に。
夫の実家で突然、“事件”を起こしてしまうジヨン。それはまるで、自身の母が憑依したような言葉を発する。つまり、自分の息子を正月に実家でのんびりさせるなら、私の娘も実家で休ませてよ!…みたいな。
しかもジヨンには、その時の記憶は無い。
この時一回きりと思いきや、その後も時折起きる。亡くなった先輩や祖母の言葉を…。
やはり本人には全く記憶が無い。
心配したデヒョンは妻に真実を隠し、それとなく精神科に行く事を勧めるのだが…。

“奇病”とでも言うべきジヨンの病気は何なのか…?
病名や病気の詳細自体は分からなくとも、原因は分かる。
韓国現代社会が抱える男女差別、ジェンダー差別。
日本でもまだまだ根深いが、もしこれが現実だったら、韓国は深刻。
OL時代、憧れのカッコいい女性上司(チーム長)が居た。彼女に対しての、男性上司の無神経バカ発言。チーム長もよく、皮肉は言ったものの堪えたもんだ。
就職前、父から「嫁に行け!」。女は家庭に入るもの。
チーム長と再会したジヨン。彼女の立ち上げたばかりの小さな会社から誘いを受ける。妻の意思を尊重する為、デヒョンが育児休暇を取ろうとする。すると、姑が大激怒。「息子の将来をどうしてくれるの!?」
未だ古臭い考えに縛られたままの年代。新しい時代の流れを受け入れられない…いや、自分の考えが絶対的に正しく、頑として受け入れない。
勿論、全員がそうではない。味方になってくれたのは、母。同性親子だからこそ気持ちが通じ合う。
他にも性/ジェンダー差別問題がチクチクと突き刺さる。見てて胸が痛いほど。
男は前、女は後ろ。男は社会に出て働き、夢も果たせるけど、ほとんどの女性は家庭に入り、“女性だから”という理由で夢破れ…。
これは何も韓国だけの事じゃない。日本だってまだまだ同じ。世界レベルでは、ジェンダー意識は非常に低いとか。
だから、訴える事がとても響く。
そしてその訴えこそ、ジヨンの病気の原因。
この社会への、性/ジェンダー差別に苦しむ女性たちの心の声…いや、本音なのだ。

女性の生きづらさが描かれているが、だからと言って男性に全て否がある訳ではない。
会社での立場。
育児休暇を取ろうとするデヒョン。
先に育児休暇を取った会社員は復職したら、居場所が無くなっていた。
男尊女卑も社会問題だが、これも一つの問題。
ひょっとして、日本だって同じかもしれない。

チョン・ユミの繊細な名演!
一挙一動、表情、視線、佇まいまで、全てに吸い込まれる。
勿論、その美しさにも釘付け。
彼女と夫役コン・ユは『新感染 ファイナル・エクスプレス』などで3度目の共演。妻を支える夫を温かく演じる。
優しい母、陰湿な義母、個性的な姉、キャリアウーマンのチーム長…女性の登場人物が印象的に描かれている。

本作が長編デビューとなるキム・ドヨンの演出も繊細にして見事。
ジヨンの現在と過去を交錯させつつ、感情をすくい、染み込ませる。
アメリカではオスカー最有力と言われる『ノマドランド』のクロエ・ジャオ、日本では『すばらしき世界』の西川美和や『朝が来る』の河瀬直美、世界各国でも多才な女性監督が活躍中。
もう映画監督=男とは言わせない!

ラスト、イヤミそうな男がジヨンにイヤミを言う。“ママ虫”と。
それに対し、ジヨンは反論する。
「あなたに私の何が分かるの?」
これは男女問わず、差別社会全てに言えるのでないだろうか。
イヤミを言われ、塞ぎ込んでいるばかりではそれこそ心の病になってしまう。
理不尽な差別や問題に立ち向かう。訴える。
そして、目的や夢を持つ。

夫が育児休暇を取り、再び働き始めたジヨン。
アジア圏では珍しい形だろう。
そう、アジアは遅れている。日本では未だ女性が国のトップにすら立っていない。
女性が働く姿、夢を追う姿、その為に頑張る姿って素敵だ。
私の職場にも働く女性の方々はたくさん居る。
女性の生き方や自由が当たり前になる、輝かしいそんな社会になるように。
作品のラストは訴えではなく、いつしか輝いていたような気がした。

余談ながら、私も82年生まれなのである。

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