ミッドナイトスワン

ミッドナイトスワンのレビュー・評価・感想

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ミッドナイトスワン
8

自分の好きな自分でいることはとても難しい。

夜の街で働く女性のみならず、男性もどちらでもないLGBTQの人たちもうわべだけ見ていれば好きなことをやっているように見えますが、みんな想いを抱えて必死になって毎日を送っていることを目の当たりにした映画でした。
草彅剛さんが体当たりで演じていた女性の気持ちに近づけば近づくほどにこの人は女性なんだと、母なんだと思えて、いやいや預かった少女を思う気持ちが優しくて切なくていたたまれない気持ちになりました。後半部分は正直いうと辛くて目を背けたい描写もたくさんありましたが、草彅さんの演技に圧倒されながら、これは最後まで見るべき作品と感じてしっかり少女の活躍までみました。彼女が前を向いて夢に突き進んでいく姿は草彅さんが演じた女性の生き方と言えるし、何かがきっと変わってくれるかもしれないと期待させてくれました。世の中はまだまだ保守的で、自分のそばにはそんなことはありえないという大きな鎖がまだまだいろんな人達を苦しめているのだと実感できる作品です。私はそうはならない、と断言できない現実があります。ただ、この作品の影響は大きく、理解者でありたい、化け物などと罵る低俗な人間にはなりたくないと深く考えさせられました。人を人として愛せる人間でありたいと強く思った素晴らしい作品です。

ミッドナイトスワン
9

いつか彼女がお母さんになれる日を

新宿のニューハーフショークラブで働くトランスジェンダーの凪沙は、ある日育児放棄されていた親戚の中学生の一果を、養育費目当てに預かりました。
子ども嫌いの凪沙と心を閉ざした一果は、当初ぎくしゃくした共同生活を送っていたものの、接するうちに凪沙に母性が目覚めて凪沙と一果は親子のように心を通わせていきます。バレエの才能があると知った一果のために、自分の身を犠牲にしてでも凪沙が生きようとするストーリーです。

2人の心が近づいていく「凪沙が一果に夜の公園でバレエを教わるシーン」や「凪沙と一果が一緒に食事するシーン」など、愛おしい描写が印象に残っています。一果のバレエ教師に「お母さん」と呼ばれたとき、嬉しさを隠し切れない凪沙が見せた笑顔のシーンも、とてもよかったです。
一果にバレエを続けさせるために男の格好に戻り、倉庫で仕事を始めた凪沙を一果が怒るシーン。そんな一果の頭を凪沙が優しく「よしよし」と撫で、本当の子どものように慰めるシーンに涙が出ました。

監督が何人も取材した、トランスジェンダー当事者の日常の機微を知れたことがよかったうえ、主演の草彅剛さんの引き込まれる演技も素晴らしかったです。マイノリティの生き難さが真正面から描かれ、見ていて苦しくなる場面も多かった中、人間愛が心に強く残った作品に「本当に出会えてよかった」と思えた見応えのある映画でした。

ミッドナイトスワン
10

愛と性と命

この映画を観て一番最初に感じた感想は、自分らしく生きるということはとても難しく、そしてとても美しいということ。
凪沙もいちかもりんも、様々なしがらみによって自分を出せていなかった。
そんな似たようで全く違う環境の人達が繋がり、それぞれの自分を出していくまでの過程を描いた映画。
そんな映画だと私は思った。

一番衝撃的だったのはやはり、りんの自殺シーン。
舞台が屋上だった時点で薄々勘付いてはいたが、それでも息を飲んでしまうほどの迫力。
いちかとりん、お互いが全く違う場所で同じ曲を踊っていく様は何とも幻想的で美しいものだった。
りんも笑顔で自由に踊っていて、飛び降りる時も死への恐怖なんか感じさせないぐらい軽やかで。
りんは最後の最後で誰からも縛られない自分だけの踊りが出来たんだなと感じさせるシーンだった。
それと同時に、親に無理やりやらされていただけだったかもしれないバレエは、りんにとって大好きなもので、
かけがいのないもので、いちかと繋いでくれたとても大切なものなんだとわかるシーンでもあった。

次に印象的だたのは凪沙といちかの海辺でのシーン。
砂浜で踊るいちかを見る凪沙の目は、間違いなく母親そのものだった。
性転換をしても本当の母親にはなれない。それでも凪沙はいちかの第二の母親であるんだということがひしひしと伝わってきた。
いちかの本当のお母さんも、映画の最初の方はいかにもダメな母親、というようなイメージがつく性格だったのに、
最後の方にはちゃんと母親の顔になっていて、いちかも暗い顔から明るい顔になっていた。
理想的、とまではいかなくともそこにはちゃんと親子の絆があった。

本当の愛とはなにか、性別という大きな壁は超えることができないのか、
命というのは誰のためにあって誰が大切にするべきなのか、等を考えさせられるとても面白い映画だった。

ミッドナイトスワン
9

マイノリティやあらゆる世界を深く考えさせられました

予告を拝見し、決して明るくコミカルな作品ではないけれど、なぜか心ひきつけるものがあり、その正体は何なのか確かめたくて鑑賞しました。もともとバレエを習っていたこともあり、バレエに関連している映画は好きでよく見ています。一果役の服部さんがもともとバレリーナであるため、踊りのシーンは期待して観ました。草彅剛が演じるトランスジェンダーで社会や家族、すべての孤独と生きる凪沙と母親から育児放棄をされ、親戚の凪沙のもとに来る服部樹咲演じる一果。最初はお互いが疎ましく、心を閉ざしている二人ですが、一果が学校帰り、小さなバレエ教室を見つけ、少女としても一人の人間としても成長し才能を開花させていく。そんな一果を見てお互いの孤独を共有しつつも母親としての愛情が目覚めていく凪沙の物語。二人がかわす言葉は少ないけれど、少しづつ信頼を深めていく様はなぜか切なく清らかで胸が熱くなりました。随所で見られる一果の踊りのシーンは繊細で美しく期待していた通り素晴らしかったです。最後の結末は優しさの中に寂しさが温かさがありいろんな気持ちが乱れあう不思議な感覚になりました。たくさんのシーンとともに音楽がずっと頭から離れない余韻が悲しく残る映画だなと思いました。劇中の音楽も映画の内容を邪魔せず、ノスタルジックな雰囲気を作り出していてとても印象深かったです。どちらに感情移入するかで映画の中の二人の心の変化に考えさせられたり、あの時こうだったら最後は変わったんじゃないかと思い巡らせたり、何度も見たくなるそんな映画でした。

ミッドナイトスワン
9

役者の演技はすばらしいが、ちょっと惜しい。

監督が泣く泣くカットしたと聞いたが、もともとは3時間を超える作品だったのだろう。後半のストーリー展開が急で、なんでこうなるのか理解できないうちにラストを迎えてしまう。主役二人の演技がとても素晴らしいだけに、本当に惜しい。帰ってから小説版を読むとカットされた場面がちゃんと描いてあり、ストーリー展開に無理が感じられない。ヒットしたことだし、今度はカットしない完全版を上映してほしい。
この映画で最も称賛されているのが、草彅くんと一果役の新人女優である。一果はもう一果そのもの。そして草彅くんはなぎささんそのもの。初めは、“みんなきれいだって言ってるけど草彅くんやっぱり男顔だよなあ”と思って見ていたけど、だんだん色っぽい、女っぽいと思えるようになった。ストーリー展開に無理があるにもかかわらず、それを無理と受け取らない人が多いのは、草彅くんの表情の変化によって、彼女の感情の推移を追うことができるからだと思う。ただでさえトランスジェンダーで辛い思いをしてきたのに、それに追い打ちをかけることが次々起きて、最後にああなってしまう。他人の人生に共感する力のある人、想像力のある人、小説を読んだ人は感情移入しながら映画にのめりこめるけど、後半に不満な人もいるだろう。小説を読んだ上でもう一度映画を見る#追いスワンをTwitterでおすすめしているが、私はやはり完全版を見たい。