ミッドナイトスワン

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ミッドナイトスワン
9

いつか彼女がお母さんになれる日を

新宿のニューハーフショークラブで働くトランスジェンダーの凪沙は、ある日育児放棄されていた親戚の中学生の一果を、養育費目当てに預かりました。
子ども嫌いの凪沙と心を閉ざした一果は、当初ぎくしゃくした共同生活を送っていたものの、接するうちに凪沙に母性が目覚めて凪沙と一果は親子のように心を通わせていきます。バレエの才能があると知った一果のために、自分の身を犠牲にしてでも凪沙が生きようとするストーリーです。

2人の心が近づいていく「凪沙が一果に夜の公園でバレエを教わるシーン」や「凪沙と一果が一緒に食事するシーン」など、愛おしい描写が印象に残っています。一果のバレエ教師に「お母さん」と呼ばれたとき、嬉しさを隠し切れない凪沙が見せた笑顔のシーンも、とてもよかったです。
一果にバレエを続けさせるために男の格好に戻り、倉庫で仕事を始めた凪沙を一果が怒るシーン。そんな一果の頭を凪沙が優しく「よしよし」と撫で、本当の子どものように慰めるシーンに涙が出ました。

監督が何人も取材した、トランスジェンダー当事者の日常の機微を知れたことがよかったうえ、主演の草彅剛さんの引き込まれる演技も素晴らしかったです。マイノリティの生き難さが真正面から描かれ、見ていて苦しくなる場面も多かった中、人間愛が心に強く残った作品に「本当に出会えてよかった」と思えた見応えのある映画でした。