啄木鳥探偵處(小説・アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『啄木鳥探偵處』とは、東京創元社より発売された伊井圭による日本のミステリー小説。第3回創元推理短編賞を受賞。2019年に開催された東北新社の声優オーディション「キミコエ・プロジェクト」がTVアニメ化を発表。2020年4月から6月までTOKYO MXほかにてアニメが放送された。舞台は明治の終わり、文明開花で華やぐ東京。金欠の天才歌人・石川啄木はある殺人事件をきっかけに探偵稼業を始める。啄木をほっとけない金田一京介が助手となり、他の文士仲間も巻き込んで様々な事件を解決に導くミステリー。

『啄木鳥探偵處』の概要

『啄木鳥探偵處』とは、東京創元社より発売された伊井圭による日本のミステリー小説。第3回創元推理短編賞を受賞。2019年に開催された東北新社の声優オーディション「キミコエ・プロジェクト」がTVアニメ化を発表した。第2回オーディショングランプリ受賞者・林幸矢、準グランプリ受賞者・古沢勇人、オーディションの見届け人を務めた津田健次郎の出演も明かされた。2020年4月から6月までTOKYO MXほかにてアニメが放送されている。
舞台は明治の終わり、文明開花で華やぐ東京。金欠の天才歌人・石川啄木はある殺人事件をきっかけに下宿先で探偵稼業を始める。金を工面したりと啄木をほっとけない金田一京介が助手となり、野村胡堂、吉井勇、萩原朔太郎、若山牧水といった他の文士仲間も巻き込んで様々な事件に首を突っ込み解決に導く文学ミステリー。

『啄木鳥探偵處』のあらすじ・ストーリー

探偵、石川啄木の誕生

歌人・石川啄木(いしかわたくぼく)と同郷の金田一京助(きんだいちきょうすけ)は同じ東京の下宿先に住んでいたことから、よく金田一は石川に金を貸す仲だった。二人はある日、色街で店を出て行く不審な男にぶつかる。石川の服にはその時に血痕が付き、それに気づいた石川は店の中に入って部屋の襖を開けていく。ある部屋の襖を開けると、そこには遺体があった。警察が駆けつけて二人を疑うが、石川は事件現場について分析を始める。そのおかげで二人は身の潔白を証明できた。後日、犯人は有名財閥の大物だとわかり、それは現場に残された被害者の告発状が犯人を貶める内容だったからである。石川は証拠をさらに警察に告げ、この一件から探偵業を始める。

探偵處を初めてしばらく、女郎屋通いが治らない石川が「女を知らない」と金田一を茶化す。そして馴染みの店に金田一を案内し、そこで「お滝」という女を紹介した。隣の部屋で石川は、会話が途中から言い合いに変わったのを不審に思う。その後死亡したお滝が発見されたが、そこに金田一の姿はない。しかし、石川は警察に金田一がいたことを証言して、金田一は連行されることになった。

野村胡堂(のむらこどう)、吉井勇(よしいいさむ)、萩原朔太郎(はぎわらさくたろう)の文学仲間たちはミルクホールで真犯人探しを行う。そんな中、平井太郎(ひらいたろう)が口を挟む。彼は金田一の下宿先の隣人で、事件前日に金田一の部屋の前まで来たお滝の姿を見ていた。また、石川が手伝いの加世(かよ)にお滝と金田一を合わせる段取りを頼む様子も見ていた。お滝による自殺だと平井は話す。お滝は昔、釧路で出会った金田一に恋をして上京し、石川を頼って金田一と会いに来てくれるよう言っていたのだ。お滝は先が長くなかったため最期に好いた男に抱かれたいが、中々金田一は寝てくれなかった。そのため石川は、金田一に痛い目を見せてやろうと警察に突き出したのだった。

探偵處に初めて依頼が来る。「浅草十二階に夜、幽霊が現れ世間を騒がせている」と浅草を仕切る六郎からのものだった。金田一と現場に来た石川は旧友の山岡と再会する。山岡が新聞記者を辞めていたことと、彼の最後の記事が浅草十二階の幽霊だったことから山岡を疑う石川。山岡が記事を書かなくなると大手の新聞社が幽霊を書き立てた。嘘の幽霊を山岡が幻燈師(げんとうし)を使って再現していたと石川は考えた。幻燈とはフィルムに写る像に光を当て、レンズで拡大し幕に投影することをいう。動揺する山岡は、「ノドノツキ」とだけ言い残してその場を去る。

しばらくして、浅草で松吉という幻燈師が殺された。夜、石川は幻燈の装置を使って実際に幽霊と同じものを再現する。すると六郎と山岡が現れ、無理矢理六郎の襟巻きを山岡が外す。「ノドノツキ」の言葉通りに喉にはつき傷があり、山岡は恋人を殺した犯人のつき傷を見つけるため、上を見上げる塔の幽霊騒ぎを起こした。六郎は山岡の恋人を殺し、それに勘づいた松吉が石川に真実を語ろうとしたため殺したのだった。

おえんの身請けと仲違い

ある日石川が懇意にしている華ノ屋の女郎であるおえんが身請けされることになり、それに石川が関わっていることを知り金田一は激怒する。石川はおえんの身請け先からの依頼で石川に好意を抱くおえんを説得し、金をもらっていた。そしておえんが最後の別れを告げにきた時も会おうとしなかったのだ。その日から二人は口を聞かなくなる。

ミルクホールでは吉井が給仕の季久(きく)に、7日前に役者殺しで捕まった恋人の泉若(せんじゃく)の無実を証明するよう頼まれていた。殺された役者の脇には「金銀花(きんぎんか)」と呼ばれる人形屋敷傀儡館(くぐつかん)の人形が横たわっており、吉井が石川に事件を話すと「季久が真犯人だ」と彼は言った。季久は義眼であったため、人形好きの性癖を持つ殺された役者に目をつけられたのだ。正当防衛で役者を殺害した季久を泉若は庇って捕まったのだった。

金田一はとある企業から大金が盗まれた事件を聞く。下宿へ帰ると机の上には石川が置いた二銭銅貨があった。その銅貨には暗号が隠されており、金田一は平井にそれを解読してもらい、犯人が小道具屋に金を隠していることを知る。犯人は小道具屋に偽札を注文し、盗んだ金をこっそり入れ替えた後に堂々と注文主として受け取りにくる算段だったようだ。金田一の推理を聞いた石川は金田一を褒め、同時に「僕を許してくれないか」と寂しそうに言った。おえんの一件から石川と金田一は疎遠になっており、金田一は石川のことが許せないでいたのだ。しかし、今回の事件で金田一とまた話す機会が設けられた。「私も悪かった」と話す金田一に安心した石川は、金田一が小道具やから受け取ってきたお札を一枚とって金田一に渡す。そこには金田一の顔が印刷されていた。驚く金田一を見て、ゲラゲラ笑う石川は犯人の名前である「タガネハジメ」を漢字にして「田金一」、「金田一」だと告げる。そして、「金田一があまりにも話をしてくれないので、悪戯を仕掛けた」と言った。

環との出会い

血を吐いて倒れた石川のもとに下宿先の女中の加世が、家に脅迫状が届いたという依頼人の環(たまき)を連れてくる。この所石川は悪い咳をしており、気持ちも沈んでいるようだった。その日は雨が降っており、「依頼を受ける気分になれない」と下宿先を飛び出した石川は、ずぶ濡れになりながら橋の上から川を眺めていた。そこへ、自宅に帰る途中だった環が通りかかり話しかける。改めて見ると環は短髪で紳士服をきている歳の若い男性のようだった。「生まれたからには死ぬ」と淡々と語る環に自宅へ誘われた石川は、立派な邸宅に嫌味を言う。石川に着替えを渡して、自身も着替えてくると言う環に、「思春期なのか」とさらに嫌味を続ける石川。環は同室で服を脱ぐが、石川が男性だと思っていた環は大興業主である園部の「妻」だった。

一方世間では、街中の高い建物から飛び降りる「蝙蝠人間」のパフォーマンスが人気を博していた。しかし、その蝙蝠人間であった鑑(かがみ)という奇術師の男が殺される事件が起きる。鑑の部屋からは、雇い主である園部という男を告発する手紙が発見されていた。そのことから園部が犯人として警察に捕まることになる。もともと園部には悪い噂が絶えなかったが、殺された鑑と環は互いに惹かれ合う存在だったという。家に届いた脅迫状は鑑の弟が寄越したもので、妻である環が鏡と関係を持っていたことが明るみに出ることを嫌がった園部によって警察には伝わっていない。石川は、鑑の弟を探すことにした。それと同時に、聡明で中性的な魅力の環に石川は惹かれていく。

環のもとに2つ目の脅迫状が届く。その内容は分刻みで環と園部の家での出来事が事細かに記されたもので、園部の殺害を仄かしていた。石川に「近頃人の気配を感じる」と話す環の勘通り、天井裏には鑑の弟がいた痕跡としてシャツのボタンがあった。その後、2人は教会近くにある園部が営む慈善事業施設へと向かうが、そこにいた孤児の1人がいなくなったと他の子供が環に訴える。園部が表向き慈善事業としているものは、裏で孤児を売り飛ばすための隠れ蓑だった。そのことを知っている環は教会で、加世と一緒に炊き出しのおにぎりを握ることで自分を慰めているようだ。そんな中、金田一から鑑の家に幽霊が出ると聞いた石川は、今は空き家のその場所に金田一と向かう。しかし、そこで出会ったのは幽霊ではなく物乞いの男だった。その男から、男が鑑の家に住み始めた時既に、ボタンの取れたシャツがそこにあったことを聞く。

時を同じくして、環と園部の邸宅では夫婦の寝室のある2階の窓から園部が落下し、死亡する事件が起きていた。そこへ急いで駆けつけた石川は、環に2人きりになれる場所を聞く。環の部屋に通された石川は、彼女の机の上にあった原稿用紙を鉛筆で塗りつぶした。浮かび上がってきたのは、環が「鑑の弟から届いた」と言っていた脅迫状そのものだった。シャツのボタンは環が偽造したもので、鑑に弟はいなかったのだ。環は園部の妻ではなく買われた妾で、園部の人身売買を公にするために鑑に近づき、告発状を書かせて園部の仕業に見せかけて殺した。しかし、それでも園部に事件を揉み消されたため、鑑の弟を作り出し、「窓の外に人影が見えた」と嘘をついて様子を見に行った園部を突き落としたのである。石川はそこまで読んでいた為、突き落とされた園部は命を落とさずに済んでいた。そのことを知った環は園部を殺そうとナイフを持って突進するも、逆に園部による正当防衛で刺殺されてしまう。

誘拐事件と歌人石川啄木

東京に帰ってきた石川は商家の子供の連続誘拐事件の依頼を引き受ける。最近誘拐をされた成田屋は、それまでの子供の数日と比べて自分の子供は1ヶ月経っても帰ってこないことから石川への依頼に至った。しばらくして身代金が要求されたが、受け取りに来た犯人は偽物で成田屋にお蝶という妾がいたことを石川に漏らす。

同じ頃飴屋の男が殺害され、その男は成田屋の元を去ったお蝶と同居していた男だった。全て理解した石川は成田屋でお蝶も呼んで事件の真相を語る。子供を拐ったのはお蝶で、自分の子供と成田屋の子供を入れ替えるためだった。成田屋の子は1歳、お蝶の子は11ヶ月で父親が同じであるため入れ替わっても違いに気付くのは難しい。裕福な場所で育ってほしいと願う母の想いが起こした事件で、飴屋の男は成田屋の妾だったことから強請りにあい、お蝶は殺人も犯してしまう。

事件が済んでから、石川は金田一に向けて久しぶりに歌を詠んだ。石川はどうして歌を詠むのか考えた結果、「身の回りのほんの小さな煌めきを形にして、捕まえておきたいから」と答えを出した。

告発者Xの正体

下宿先の石川の部屋で、「告発状を書いて殺された人はここ2年ほどで13人」と石川は金田一に話す。石川は、これら全ては後ろで手を引く人物「告発者X」による連続性のある事件だと推理した。被害者に告発状を書かせて殺し、告発された人間に濡れ衣を着せる犯行が共通しているという。石川は以前、告発状を書いて殺された男が教会から出てくるのを目撃していたため、怪しいと思い教会へと向かう。しかし、教会は立ち入り禁止だった。すると、子供が割ってしまったステンドグラスの脇のドアから、一人の男が出てきて足早にその場を去っていく。石川と一緒に教会に来ていた金田一が石川に頼まれて尾行をすると、その男は成瀬という車夫で資産家の殺害を目論んでいた。

1ヶ月後の「金田一の誕生会をしたい」と突然石川に言われて、牛鍋を囲むことになった文学仲間たち。その宴会に遅れて現れた成瀬の姿に驚く金田一だが、その日は明け方までみんなで飲み明かした。朝、1番に起きて教会に向かう石川は、教会の後ろにある告解室へ入った。「告発状は書けましたか。成瀬さん」と石川に話しかけてきたのは、下宿先の女中である加世だった。成瀬を石川たちが尾行した日、下宿先で見た加世の下駄にはステンドグラスが挟まっていたため、同時刻に教会の中にいたことに石川は気づいた。「なぜこんなことをしたのか」と尋ねた石川に、加世は「弱いものを食い物にしている悪人に罰を与えた」「被害者に生きる意味を与えた」と話す。そんな加世に「私の生まれた意味は歌を詠むため」と加世の犯行を知ってもなお、いつもの調子で語りかける石川に加世は何も言えなかった。

その日から、下宿に加世が帰ってくることはなく、田舎に帰ったとの知らせが石川と金田一に届く。加世は小さい頃、母親と二人暮らしで幸せな日々を送っていたが、教会の神父に惚れ込んだ母親が告解室で自殺する場面に遭遇する。幼少期の辛い事件から、「死にたい」と思うこともたくさんあった加世の歪んだ正義感が被害者を生んでいた。石川は教会から去る時に最後に加世へ手紙を渡している。そこには「不来方のお城の草に寝転びて 空にすわれし十五の心」という歌が添えられていた。加世がいなくなってから、下宿前で空を見上げる石川は金田一に「一緒に旅に出よう。いつか飛行機に乗ってみたい」と言った。

石川の死

それから10年ほど経ったある日、かつての下宿先を久しぶりに訪れた金田一は2階の石川の部屋へ向かう。そして、部屋の入り口にある「啄木鳥探偵處」の看板を下げていた2本の釘を懐かしく見つめる。もう石川はこの世におらず、何もない部屋の窓際にそっと石川の歌集である「悲しき玩具」を置いて、金田一はその場を離れた。

『啄木鳥探偵處』の登場人物・キャラクター

主要人物

石川 啄木(いしかわ たくぼく)

出典: animeanime.jp

声:浅沼晋太郎
書生風袴姿の青年。自称天才歌人。下宿「蓋平館」に一人暮らしで折々歌を詠む。自由奔放の掴みどころのない性格で、たびたび親友の金田一を振り回している。金を文学仲間達によく借りており、花街通いがやめられない自堕落な生活を送っていた。本人もちゃんと稼がなくてはという思いから、「啄木鳥探偵處」という名前で探偵業を下宿先で始める。持病の結核が進行して、アニメ終盤では目の下にクマができ、頬がこけている。

金田一 京助(きんだいち きょうすけ)

出典: animeanime.jp

声:櫻井孝宏
國學院大學嘱託講師。歌人を目指していたこともあり、石川の才能に惚れ込んでいる。そのため頼まれるとすぐに金を貸してしまい、他の文学仲間に呆れられることもある。石川と同じく「蓋平館」に下宿しており、石川の始めた「啄木鳥探偵處」の助手として事件解決に協力している。気が弱くお人好しで、石川に女性経験がないことを揶揄われることも多い。

文学仲間

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