はたらく魔王さま！（はたまお）のネタバレ解説・考察まとめ

『はたらく魔王さま！』の概要

『はたらく魔王さま！』とは、和ヶ原聡司による日本のライトノベル、およびそれを原作としたメディアミックス作品である。第17回電撃小説大賞銀賞を受賞。2011年2月から2020年8月まで、全29巻が刊行された。
勇者に敗れて異世界エンテ・イスラから地球へと逃走した魔王サタンが、追手と戦いながらもフリーターとして奮闘する姿を描いたライトノベルである。
勇者や魔王といった使い古されたキャラクターに新たな魅力を与えた作品として好評を博し、様々なメディアミックスを果たしていった。テレビアニメは第1期が2013年4月から6月まで放送され、第2期『はたらく魔王さま!!』が2022年7月から9月まで放送された。

魔法文明花開き、魔族や天使など様々な種族が息づく異世界エンテ・イスラ。人間たちの勢力圏へと大規模な侵攻を開始した魔王サタン・ジャコブは、勇者エミリアとその仲間たちによってその軍勢を壊滅させられ、自身は腹心のアルシエルと共に逃走する。しかし咄嗟に開いたゲートの先に広がっていたのは、現代日本は東京の笹塚の街の中だった。
現代の日本では魔力を回復することができず、魔王はやむなく真奥貞夫（まおう さだお）という名の普通の人間のふりをしながら生活し、エンテ・イスラへ帰還する方法を探っていくこととなる。超有能・超善良なフリーターとして働く中、エンテ・イスラからの追手やかつての部下の謀反により、魔王の平穏なパート生活は波乱万丈を極めていくのだった。

『はたらく魔王さま！』のあらすじ・ストーリー

魔王の敗走と東京でのフリーター生活

神々に見守られる十字大陸エンテ・イスラは、魔王サタン・ジャコブとその腹心の部下である悪魔大元帥たちによって蹂躙されていた。魔王軍はエンテ・イスラの四大陸を支配下に置いていたが、ある日、勇者エミリア・ユスティーナの登場により状況は一変。追い詰められた魔王サタンは、腹心アルシエルを伴い異世界ゲートへと撤退し、現代の東京・笹塚へと流れ着く。

東京に来た魔王サタンたちは、魔力を失い、異世界の人間と変わらない姿に落ちぶれてしまう。この世界では魔力が存在せず、エンテ・イスラへの帰還は絶望的となる。魔王サタンはわずかに残った魔力を使い、住民票と戸籍を手に入れた後、六畳一間のボロアパート「魔王城」を新居とし、真奥貞夫（まおう さだお）と名乗ってしがないフリーター生活を始める。
無害で善良な魔王の姿は、彼がかつてエンテ・イスラを恐怖に陥れた悪魔と遠くかけ離れていた。魔王は職場の後輩である女子高生・佐々木千穂（ささき ちほ）に好意を寄せられ、芦屋四郎（あしや しろう）を名乗るアルシエルは主夫業に専念しながら魔力の供給方法を探る日々を送る。

勇者エミリアとの再会と刺客の来襲

時給アップを喜ぶなど、すっかり「魔王の威厳」と「職場での地位向上」を履き違えた魔王の前に、彼の息の根を止めるべく異世界ゲートを渡ってきた勇者エミリアこと遊佐恵美（ゆさ えみ）が現れる。恵美は、魔王が日本で無害な生活を送っていることに戸惑いつつも、彼を監視し続ける。

しかし、その後も魔王たちの周りで不可解な事件が多発。魔王と恵美の抹殺を目論む新たな刺客がエンテ・イスラからやって来た可能性が浮上する。刺客の正体は、恵美が所属していた大法神協会の重鎮オルバ・メイヤーと、討伐されたはずの悪魔大元帥・ルシフェルであった。ルシフェルはオルバと共謀し、魔王と恵美の抹殺を目論んでいた。魔王はなし崩し的に恵美と共闘して反逆者たちを制裁。オルバは警察に連行されるが、行き場のないルシフェルは魔王の寛大な采配により、ニートの漆原半蔵（うるしはら はんぞう）として、魔王城（ボロアパート）で暮らすことになる。

魔王たちの住むアパートには、新たな隣人として古風な女性・鎌月鈴乃（かまづき すずの）が引っ越してくる。また、魔王が働く店にはライバル店が出現するが、その店長・猿江三月（さるえ みつき）こそが、オルバの捜索のためにエンテ・イスラから派遣された天使サリエルだった。サリエルは部下の鈴乃（実は天使側）と共に、魔王の始末と恵美の聖剣の回収を狙って工作を続ける。鈴乃は、魔王が以前の侵略者とは違う存在になろうとしていることから「もう少し見守りたい」と答えた恵美と、たまたま居合わせた千穂を、教会への裏切り者と判断したサリエルに拉致されてしまう。

魔王と勇者の共闘、そして魔王の隠し子騒動

恵美と千穂が連れ去られたことを知った魔王は、アルシエルやルシフェル、そして内情を知って協力に転じた鈴乃と共闘して救出に向かう。周到な罠を張っていたサリエルであったが、現代の自堕落なニート生活を気に入ったルシフェルが土壇場で魔王側を裏切ったことや、鈴乃の協力により形勢が逆転。魔王と勇者とその仲間たちの活躍で、教会が企てた計画は失敗に終わる。その後、鈴乃は教会に見切りをつけ日本に留まることとなる。

サリエルの謀略を阻止してからしばらく後、ヴィラ・ローザ笹塚に突如エンテ・イスラに通じるゲートが開き、中からアラス・ラムスと名乗る不可思議な女の子が現れる。彼女は皆の前で「パパは魔王、ママは恵美」だと断言し、一同を困惑させる。幼いアラス・ラムスを放っておけない魔王と恵美は、彼女を保護して育てることになる。

遊園地でのデートなどを通じ、魔王と恵美はアラス・ラムスがエンテ・イスラの世界樹セフィロトの果実イェソドに縁の深い存在だと類推する。同時に、恵美は魔王との何気ない会話の中で、魔族の中にも戦争を望まない普通の民がいるという事実に気付き、複雑な思いを抱く。アラス・ラムスの回収のため、エンテ・イスラから強力な天使ガブリエルが来襲するが、魔王たちの徹底抗戦と、アラス・ラムスの力が恵美の聖剣と一体化したことで、ガブリエルを退ける。

和解の兆しと地球での覇道

ガブリエルとの戦いの後、マグロナルドの改装で住居と仕事を失った魔王たちは、千穂の伯父の農家でアルバイトを始める。そこで恵美は、故郷の畑を魔王軍に燃やされたトラウマと向き合い、憎しみを抱きつつも真面目に農作業をする魔王に複雑な感情を抱く。魔王は、初めて食べ物の生産に関わった経験から、「魔族が文化を作れなかったのは、作物を育てることをしてこなかったからではないか」と考える。

恵美は魔王の側で共に過ごす中で、魔王が過去の失敗を悔い、エンテ・イスラで人間と魔族が手を取り合って暮らせる世界を作るため、この世界で“新しい世界征服の方法”を学ぼうとしていることを知る。そして魔王は、恵美に、自分たちの関係も仕切り直すことを提案。
魔王は、アルシエル、ルシフェルに恵美、鈴乃、千穂を加えた新生魔王軍四天王を結成し、エンテ・イスラの全てを支配して導くという遠大な野望を打ち明ける。長年の因縁を抱えた恵美は戸惑いつつも、魔王が本気でやり直そうとしていること、そしてアラス・ラムスの存在もあり、許すか許さないかを判断するため、彼の側で見守ることを決意する。

その後、エンテ・イスラの政争に巻き込まれた恵美とアルシエルを救出するため、魔王は再び異世界へと帰還。エンテ・イスラで力を取り戻した魔王は、恵美と共同戦線を張り、天使たちの陰謀を打ち砕く。騒動を収めて地球へと舞い戻った魔王たちは、それぞれの日常に戻り、人として生きることで変わりゆく魔王と、許せないと思いながらも彼の変化を見届けようと努める勇者の物語は続いていく。

『はたらく魔王さま！』の登場人物・キャラクター

主要人物

魔王サタン・ジャコブ／真奥貞夫（まおう さだお）

CV：逢坂良太（アニメ版）／松本忍（ドラマCD版）

本作の主人公。魔界を統べる魔王。エミリアに追い詰められ腹心・アルシエルとともにゲートでの撤退を余儀なくされる。
人間の姿になってしまい、魔力が回復できないことからアルバイト生活に精を出す。「ヴィラ・ローザ笹塚」に居を構え、名を「真奧貞夫」と変える。
公明正大かつ勤勉実直。敵味方に関係無く有能な人材を引き入れ、かつて支配していた人間の事を理解しようとするなど、器も大きい。
エンテ・イスラ（後に地球も追加）の再支配を目論み、その足がかりとしてマグロナルド幡ヶ谷駅前店のアルバイトから正社員昇格を目指している。
魔界を統治後に魔王軍を率いてエンテ・イスラに侵攻した恐怖と残酷の代名詞だが、実態は魔界の魔力枯渇をまかない、魔族の全滅を防ぐ為の苦肉の策であった。
エンテ・イスラ4大陸の侵攻と統治においては各悪魔大元帥に全てを一任した結果、本人が望まない残虐行為を一部で許してしまう。
20歳前後に見える容姿だが、実年齢は500歳を超える。

アルシエル／芦屋四郎（あしや しろう）

CV：小野友樹（アニメ版）／子安武人（ドラマCD版）

魔王サタンにつき従う悪魔のひとり。魔王四天王であり、役職は悪魔大元帥。以前は魔王と敵対関係にあったが、戦いの末魔王に敗れた後は魔王のもとに付き現在では魔王の腹心の部下である。
魔王軍一の知将・参謀として名を馳せ、笹塚に漂着してからは魔王を補佐している。東京に来た当初は真奧とともにアルバイトをしていたが、役割分担をし、専業主夫兼情報収集をしている。主夫業をしているだけあり家事スキルは非常に高い。
エンテ・イスラの東大陸侵攻および統治を担った際には、他大陸を置いていち早く制圧し、大陸の中で唯一反乱が起こらなかった事などからも、その知略と手腕は見事であったと思われる。
良識と礼儀をわきまえた常識人だが、忠誠を誓う魔王の事となると途端に評価が甘くなり、周囲を呆れさせる事も。家計を任されているので無駄遣いにはうるさく、無計画で無駄なものを買う漆原とはいつも口論が絶えない。
外見は20代に見えるが、実年齢は1500歳を超える。

佐々木千穂（ささきちほ）

CV：東山奈央

東京都立笹幡北高校に通う高生2年生で、真奧のアルバイト先の後輩。魔王に好意を抱いている。真奧と恵美の正体を知る人間。愛称は「ちーちゃん」
聡明利発で礼儀正しく、天真爛漫な性格。
ルシフェルの謀反に巻き込まれ、エンテ・イスラからやって来た魔王達の正体を知る。
真奧に恋をしており、真奧の正体を知った後もその気持ちは変わらず、以前と変わりなく親睦を深めていく
頭の回転が早く聡明であり、鈴乃から「立派な法律家になれる」と評されている。
本来、敵対関係である真奧と恵美の中を上手くとりもっており、異世界の友人たちが仲良く暮らせる世界を切望している。

エミリア・ユスティーナ／遊佐恵美（ゆさ えみ）