天才は、鬱で、変態だ! 近代詩人マンガ『月に吠えらんねえ』がヤバイ
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文豪や文学者をキャラクター化した作品の中でも、注目株となっているのが「月に吠えらんねえ」。詩人・萩原朔太郎とその作品世界観を解釈した漫画ですが、近代日本の思想について描き出しています。
◆月に吠えらんねえとは?
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「月に吠えらんねえ」はアフタヌーンで連載中の、清家雪子による漫画作品。
□(シカク:詩歌句)街。そこは近代日本ぽくも幻想の、詩人たちが住まう架空の街。そこには萩原朔太郎、北原白秋、三好達治、室生犀星、高村光太郎らの作品からイメージされたキャラクターたちが、創作者としての業と人間としての幸せに人生を引き裂かれながら詩作に邁進する。実在した詩人の自伝ではなく、萩原朔太郎や北原白秋らの作品から受けた印象をキャラクターとして創作された、詩人たちと近代日本の業と罪と狂気の物語。
◆魅力的な登場人物・キャラクターたち
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主人公の「朔」はとにかく情緒不安定。それゆえに後世に残る重要な作品を生み出していくのですが、朔の視点で進行していくストーリーは「どこまでが現実で、どこからが妄想なのか?」の判断がつけづらく、その不安定さこそがストーリーを自在に転がしていく動力に。いつの間にか、読者まで飲み込まれてしまいます。
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朔の生涯の友であり朔と同じように詩を書き、小説家へと転向していった「犀」は、次第に朔とは異なる思想を持つようになっていきます。
かいがいしく朔の世話を焼くのは弟子の「ミヨシくん」。師匠である朔の描く世界を崇拝しながら、批評家として厳しく叱咤する姿も見られます。
朔の憧れの人であり、多くの女性ファンを虜にする「白さん」は、飄々とした人柄ですが深い闇を抱えているような描写が。
◆ギャグ? でも、それだけではない……
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一巻の内容はギャグシーンも多く、コミカルに詩人たちのダメっぷりや苦悩を描いていきます。
二巻は、朔から少し離れ周辺人物である「チューヤ」たちのストーリーがメインに。
三巻に突入すると、雰囲気は一転。話題は一気に戦争へとシフトしていきます。朔は戦争について、賛成・反対といった立場を明確にはしません。しかし周囲はその姿勢を認めてくれず……。
◆グロ? ホラー? 一筋縄ではいかない描写たち
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繊細な描写も多く女性向けの感性が生きる作品ですが、その中にも痛々しい描写や毒が潜んでいます。
著者のブログ「月吠ノート」には、ファン垂涎の未公開イラストやコミックス発売をカウントダウンする書きおろしイラスト、さらにはラフ画までもが公開されています。
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近代日本、現代日本、さらにはSF的(?)な雰囲気さえも合わせもつ世界観が魅力。
登場人物は、近代詩人や詩歌俳句の各作品から受けた印象をキャラクター化したものです。
各作家自身のエピソードも含まれますが、それも印象を掬い取ったものであって、実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
過激な表現も多々含まれますが、作品世界に真摯に向き合った結果であることをご理解くださいますようお願いするとともに、各作家の方々に深く敬意を表します。(著者ブログより)
近代文学が好きな人は「こういった解釈があるのか」と新鮮な目線で読むことができ、未読の人には足がかりになる作品。これからの展開にも期待が募る注目作です。