『月に吠えらんねえ』とは、講談社の『月刊アフタヌーン』にて2013年から2019年まで連載された、清家雪子による漫画作品である。萩原朔太郎ら実在の詩人たちの作品イメージを擬人化したキャラが、幻想的な「□街」を舞台に、創作者の業や近代日本の狂気に翻弄される様を描く。自意識の目覚めや戦争責任といった重厚なテーマをグロテスクかつ美しく描き、文化庁メディア芸術祭新人賞などを受賞。詩歌の魅力を再構築した、罪と狂気の幻想群像劇となっている。
『月に吠えらんねえ』の概要
『月に吠えらんねえ』とは、講談社の『月刊アフタヌーン』にて2013年11月号から2019年9月号まで連載された、清家雪子による漫画作品である。公式な略称は「月吠(つきほえ)」。
本作は、萩原朔太郎を中心に、明治末期から昭和初期の詩歌をベースとして、作品世界のイメージや日本近代史上の出来事をグロテスクな表現を交えながら幻想的に描いた漫画作品である。
舞台は近代日本に似た幻想の街「詩歌句街(通称□街)」。そこには萩原朔太郎、北原白秋、三好達治、室生犀星、高村光太郎といった実在した詩人、歌人、俳人たちの作品から抽出されたイメージを擬人化したキャラクターたちが登場する。物語は、街の高台で身元不明の死体が発見されたことをきっかけに、住人たちがその正体を探り始めるところから動き出す。登場人物はあくまで作家の作品から受けた印象を擬人化した存在であり、一部に作家本人の肖像に似せたデザインも存在するが、特定の個人の自伝ではなく、創作者としての業と人間としての幸せの狭間で葛藤する詩人たちを描いた、近代日本の業と罪と狂気の物語となっている。
作品のテーマは多岐にわたり、近代における自意識の目覚めや女性像の葛藤、さらには文学者の戦争責任といった重厚な社会・歴史的問題を深く掘り下げている。その芸術性と批評性は高く評価され、第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞や、2020年には第19回(2019年度)センス・オブ・ジェンダー賞を受賞した。また、関連作品としてリブート版の『月に吠えたンねえ』が発表されている。
『月に吠えらんねえ』のあらすじ・ストーリー
□街の高台に現れた「身元不明の死体」
近代日本を思わせる幻想の街「□(シカク)街」。そこには近代文学の傑作から生まれた詩人たちの「イメージ」が暮らしている。ある日、街の高台に正体不明の死体が出現する。神経を病み、幻覚や妄想に苦しむ詩人・朔(さく)をはじめ、白(はく)やミヨシといった住人たちは、平穏な日常に突如現れたその「死」に興味を抱き、死体の正体を探り始める。
詩作への情熱と創作者たちの業
朔は敬愛する白を師と仰ぎ、親友の犀を失った寂しさを抱えながら、酒と詩作に溺れる日々を送っていた。街にはミヨシやチューヤ、ミッチーといった若き才能や、狂った妻をロボットとして再現するコタロー、医者でありながら歌を詠むモッさんなど、一癖ある表現者たちが集う。彼らは創作者としての「業」に引き裂かれ、自意識の目覚めに苦しみながらも、美しい言葉を紡ぎ出そうと狂気的なまでの執念を見せる。
時代を操る能力と時空の歪み
朔はカレンダーや時計を操作することで、過去や未来といった「時系列」を現出させる不思議な能力を持っていた。この力により、物語は明治から昭和、さらには平成といった異なる時代が交錯し始める。石川が現代へタイムスリップし、犀が戦地を彷徨うなど、□街という閉じられた空間に現実世界の歴史や時間が侵食し、世界の境界線が次第に曖昧になっていく。
近代の罪と文学者の戦争責任
物語が進むにつれ、幻想的な日常の裏に潜む「近代日本の闇」が浮き彫りになる。自意識に目覚めた女性たちの苦悩や、国威発揚の名の下に詩人たちが担った「戦争責任」という重いテーマが住人たちを追い詰めていく。詩歌の美しさと、それが引き起こした罪や狂気が混ざり合い、□街の住人たちは自らの存在意義と、作品が背負った歴史的背景に向き合うことを余儀なくされる。
『月に吠えらんねえ』の登場人物・キャラクター
主人公
朔 (さく)
本作の主人公。□街(詩歌句街)に住む詩人。モデルは萩原朔太郎であり、その著作である『月に吠える』『青猫』『氷島』などの作品イメージが投影されている。
白に心酔して詩人を志し、□街へとやってきた。詩人としての評価は高い一方で生活能力は著しく低く、医者である裕福な親からの援助で生活しているが、自身の生き方は認められていない。また、得た原稿料はすぐに酒代などに費やしてしまう。
極めて情緒不安定な性格で、市販薬やモッさんから処方された薬を常用している。強烈な妄想癖や幻覚に悩まされる日常を送っており、詩作のインスピレーションを得るために心中死体を自宅に持ち込むなど、街の中でも際立って危うい精神性の持ち主として描かれる。カレンダーの日付を書き換えたり時計を操作したりすることで、時系列を操り過去や未来の時代を現出させる特殊な能力を有している。
朔の視点で進行していくストーリーは、「どこまでが現実で、どこからが妄想なのか?」の判断がつけづらく、その不安定さこそがストーリーを自在に転がしていく動力になっている。いつの間にか、読者まで飲み込まれてしまう。
主人公の周辺人物
白 (はく)
□街の高級住宅地に居を構える歌人。モデルは北原白秋であり、著作『邪宗門』『思ひ出』『桐の花』などのイメージが反映されている。
朔の師匠格にあたる存在。オールバックにスーツを着こなす端正な容姿の持ち主で、流行歌の作詞も手掛けることから女性ファンが極めて多い。一方で絶対的な自信家であり、他者にはあまり興味を抱かない。外面は良いが、精神的に不安定な朔を挑発的な言動で翻弄したり、時にサディスティックな行為に及んだりする二面性を持つ。自宅には、一夜限りの関係を持った女性たちを次々と住まわせ、女中として使っている。その奔放な振る舞いから、街の男性住人たちからは反感を買うことも少なくない。
犀 (さい)
朔の親友である詩人。モデルは室生犀星であり、著作『抒情小曲集』『愛の詩集』などのイメージに基づいている。
詩作だけでなく小説の執筆も行うが、小説家への転向には苦慮している。詩人としての感性を取り戻すために「旅に出る」と言い残して□街を去り、第二次世界大戦下のヨーロッパ、硫黄島、サイパンなどを放浪している。街を離れて久しく、朔や白といった親しい者たちの記憶からもその容姿が失われているため、作中では一貫して顔の部分にだけ影がかかった状態で描写される。朔の詩作に多大な影響を与えた重要な存在だが、現在の朔からはその顔を思い出せない状態となっている。
ミヨシ
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目次 - Contents
- 『月に吠えらんねえ』の概要
- 『月に吠えらんねえ』のあらすじ・ストーリー
- □街の高台に現れた「身元不明の死体」
- 詩作への情熱と創作者たちの業
- 時代を操る能力と時空の歪み
- 近代の罪と文学者の戦争責任
- 『月に吠えらんねえ』の登場人物・キャラクター
- 主人公
- 朔 (さく)
- 主人公の周辺人物
- 白 (はく)
- 犀 (さい)
- ミヨシ
- シキ
- チューヤ
- ミッチー
- コタロー
- モッさん
- 石川 (いしかわ)
- アッコ
- 釈先生(しゃくせんせい)
- ぐうるさん
- 車掌さん
- その他
- Cafe JUN マスター
- 居酒屋BOXY大将
- キョシ(キョシ=ハイビーチ)
- ヘキゴト(ヘキゴト=リバーイースト)
- 天気屋(西・東)
- 龍(りゅう)
- 『月に吠えらんねえ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話」
- ギャグかと思いきやそれだけではない
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