『ソロモンの偽証』とは、宮部みゆきによる長編推理小説、およびそれを原作とした映画、テレビドラマ。同級生の転落死をきっかけに、大人の対応に不信感を抱いた中学生たちが真相を追及するため、生徒のみの「校内裁判」を開廷する。本作は宮部みゆき初の本格法廷ミステリーとして高い評価を得、2015年の映画版は多数の映画賞や新人賞を獲得した。2016年には韓国で、2021年には舞台を現代の高校に移して日本のWOWOWでテレビドラマ化された。偽善や無関心に立ち向かう若者を描いた作品である。
『ソロモンの偽証』の概要
『ソロモンの偽証』(ソロモンのぎしょう)とは、宮部みゆきによる長編推理小説、およびそれを原作とする映画やテレビドラマなどのメディアミックス作品群である。
原作小説は、構想15年にして連載約9年という大作である。新潮社の月刊文芸誌『小説新潮』にて、2002年10月号から2011年11月号まで、数回の中断を挟みながら長期にわたって連載された。2012年に『事件』『決意』『法廷』の三部構成、原稿用紙延べ4,700枚におよぶ大長編として全3巻で単行本が刊行された。本作は宮部みゆきの作家生活25年の集大成にして最高傑作、初の本格的な法廷ミステリーと謳われ、「週刊文春ミステリーベスト10」や「このミステリーがすごい!」でそれぞれ第2位にランクインするなど高い評価を獲得した。
作中では、クリスマスの朝に校内で発生した同級生の転落死をきっかけに、いじめや様々な人間模様が絡み合う中、大人の対応に不信感を抱いた中学生たちが自分たちの問題と向き合うため、生徒のみで構成される「校内裁判」を開廷して真相を追及していく姿が描かれる。舞台は東京都の「城東区」(江東区がモデル)の公立中学校に設定されている。2014年刊行の新潮文庫版(全6巻)の最終巻には、主人公の20年後を描いた書き下ろし短編「負の方程式」が収録された。作中に漂う悲壮感やいじめといった重層的なテーマに対し、保身に走る大人たちを他目に、都合の悪い現実や人間の多面性へ真摯に向き合おうとする子供たちの葛藤と勇気が克明に映し出されている。
2015年には成島出監督により日本で映画化され、3月7日公開の「前篇・事件」と4月11日公開の「後篇・裁判」の2部作として配給された。主演の藤野涼子をはじめとする主要な生徒役は、演技経験の有無を問わない大規模なオーディションによって選出され、藤野は本作の役名をそのまま自身の芸名とした。
この映画版は非常に高い評価を受け、同年度の主要な映画賞を席巻した。作品賞としては、第40回報知映画賞作品賞、第28回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞、第25回日本映画批評家大賞作品賞、第89回キネマ旬報ベスト・テンにおける日本映画ベスト・テン第8位などの栄誉に輝いた。スタッフ陣の功績も大きく称えられ、真辺克彦が第18回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」および第25回日本映画批評家大賞脚本賞を受賞したほか、第39回日本アカデミー賞では安川午朗が優秀音楽賞、藤澤順一が優秀撮影賞、金沢正夫が優秀照明賞を(いずれも前篇・事件にて)受賞し、第70回毎日映画コンクールでも藤沢順一が撮影賞を受賞した。さらにオーディションから抜擢された若手キャストや演技派の脇役陣も多数受賞しており、主役の藤野涼子は第40回報知映画賞新人賞、第37回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第39回日本アカデミー賞新人俳優賞、第70回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第11回おおさかシネマフェスティバル新人女優賞、第25回日本映画批評家大賞新人女優賞と、その年の新人賞を独占する快挙を成し遂げた。また、石井杏奈が第58回ブルーリボン賞新人賞(『ガールズ・ステップ』と合わせての受賞)を、板垣瑞生が第25回日本映画批評家大賞新人男優賞を、黒木華が第89回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞(『母と暮せば』『幕が上がる』と合わせての受賞)を獲得した。
その後、国内外でテレビドラマ化も行われた。2016年には韓国の放送局・JTBCにて、舞台を韓国の高校に置き換えた全12話の連続ドラマとして翻案・制作され、2016年12月9日から2017年1月28日まで放送された。
日本ではWOWOW開局30周年記念番組として再ドラマ化され、「連続ドラマW」枠にて2021年10月3日から11月21日まで全8話が放送された。このWOWOW版では、上白石萌歌が連続ドラマ初主演を務め、原作の1990年代の公立中学校という設定を、SNSが普及した現代の私立高校へと大胆に変更して物語が再構築された。いずれの媒体においても、当事者として真実を探求する若者たちの姿を通し、現代社会における無関心や偽善に対する強いメッセージ性を内包した作品として広く認知されている。
『ソロモンの偽証』のあらすじ・ストーリー
小説版
第I部 事件
1990年12月のクリスマスイブ。城東第三中学校の男子生徒である柏木卓也(かしわぎ たくや)が、学校の屋上から転落して死亡した。警察は自殺と断定し事件は収束したかに思われたが、その後、卓也の死は自殺ではなく同校の不良少年である大出俊次(おおいで しゅんじ)らによる殺人であると訴える「3通の告発状」が届く。告発状の送付先は、校長の津崎正男(つざき まさお)、卓也の担任である森内恵美子(もりうち えみこ)、そしてクラス委員長の藤野涼子(ふじの りょうこ)の元だった。
津崎校長は混乱を避けるため事実を非公表とし、告発状の差出人が大出から嫌がらせを受けていた生徒の三宅樹理(みやけ じゅり)であると特定する。しかし、森内宛ての告発状が彼女を妬む隣人によってマスコミに流出し、事件は大々的に報道されてしまう。
樹理の唯一の友人であった浅井松子(あさい まつこ)は、真実を明らかにするよう樹理を説得するが、その帰り道に松子は交通事故に遭い死亡する。さらに、殺人犯として糾弾された大出の自宅で不審火による火災が発生し、大出の祖母も死亡するという悲劇が連鎖していく。
第II部 決意
事件から時が経ち、3年生へと進級した涼子は、一連の騒動に決着をつけるため、学校内裁判の開廷を決意する。猛反対する教師たちもいたが、生徒たちに理解を示す教師の北尾(きたお)の協力を得て、裁判の開催が認められることとなった。
大出が本当に卓也を殺害したのかという疑問について、周囲の疑いを晴らし汚名をすすぐため、涼子は自ら検察官役に名乗りを上げる。裁判は陪審制を模して準備が進められ、裁判官や陪審員が決定していく中、他校の生徒でありながら卓也の小学校時代の友人であった神原和彦(かんばら かずひこ)が弁護人役を志願する。こうして、検察側の涼子と弁護側の和彦は、それぞれの立場で事件に関する証言や証拠を集め、事実関係を整理しながら、夏休みに予定される公判開始に向けて奔走するのだった。
第III部 法廷
8月15日の終戦記念日、ついに学校内裁判が開廷した。様々な証人が証言台に立ち、事件当時の状況や人間関係が紐解かれていく。
裁判の過程で、告発状の差出人である樹理が証言台に立ち、「大出たちが卓也を殺害する現場を目撃した」と改めて主張。しかし、のちにこれが虚偽の証言(偽証)であったことが露呈する。
そして裁判の閉廷日、弁護人役の和彦が自ら検察側の証人として証言台に立つ。和彦は、卓也が死亡した夜に彼から呼び出され、卓也の発案による「自分の思い出の場所を巡るゲーム」を行っていたこと、そして死の直前まで卓也と一緒にいたことを告白する。さらに、卓也の自宅から遺書のような小説が発見され、彼に強い自殺願望があったことが判明する。
陪審員は被告人である大出に無罪の評決を下し、この裁判は「柏木卓也による、柏木卓也の殺人事件(自殺)」という結論を出して幕を閉じた。
2010年3月、かつて裁判に関わった野田健一(のだ けんいち)が国語科教師となって母校の城東第三中学校に赴任する。当時の学校内裁判は、同校の「伝説」として語り継がれていた。
映画版
前篇・事件
38歳となった教師の中原涼子(なかはら りょうこ/旧姓・藤野)は、母校である江東区立城東第三中学校に赴任する。新任校長の上野素子(うえの もとこ)の求めに応じる形で、涼子は23年前に自分が中心となって行い、同校の「伝説」となっている「校内裁判」の顛末を語り始める。
バブル経済崩壊直前の1990年、大雪が降ったクリスマスの朝、2年A組の涼子と野田健一は、校舎脇の雪に埋もれた同級生・柏木卓也の遺体を発見する。警察は屋上からの飛び降り自殺と断定するが、捜査一課の刑事を父に持つ涼子や学校宛てに、卓也は大出俊次ら3人の不良生徒に殺害されたと告発する手紙が届く。
校長の津崎正男は、担当刑事の佐々木礼子(ささき れいこ)と協議し、告発状を公表しないまま生徒への聞き込みを進める。この告発状は、大出らからいじめを受けていた三宅樹理と浅井松子が共謀して送ったものだった。
一方の涼子は、生前の卓也から、いじめを目撃しながら見て見ぬふりをしたことを「口先だけの偽善者」と激しく痛罵されたことを気に病んでいた。やがて、担任の森内恵美子に届いていた告発状が何者かによってテレビ局に流出し、事件は過激に報道され大出らは不登校になる。
学校への批判が相次ぐ保護者会の中、刑事の佐々木は告発状の内容が虚偽である可能性を指摘。それを知った松子は動揺し、雨の夜に車道へ飛び出して車にはねられ死亡してしまう。ショックで樹理は声が出なくなり、津崎校長は責任を取って辞任。
大人の都合で真相がうやむやにされる中、3年生に進級した涼子は、真実を追及するために生徒たち自身による「学校内裁判」の開催を決意する。教師たちの猛反発に遭うものの、理解あるベテラン教師・北尾の辞職を賭した大人の後押しや、学校の圧力に反発する生徒たちの賛同を得て、涼子たち検察側と、卓也の友人だった他校生・神原和彦を中心とする弁護側は、大出の容疑を巡る裁判の準備を開始する。
後篇・裁判
学校内裁判の開廷を控える中、声を取り戻した樹理が裁判への出廷を涼子に申し出る。一方、弁護人の和彦は「卓也を事件現場の屋上に呼び出したのは卓也本人である」という仮説を立てるが、涼子ら検察側はそれを否定。常に完璧な和彦がそのような不自然な説を主張することに警戒心を強める。
5日間に及ぶ学校内裁判が開廷し、検察側と弁護側による激しい証人尋問が繰り広げられた。そして閉廷日、和彦自身が証人として召喚される。
和彦は事件当日の夜、卓也から呼び出され、和彦自身の過去のトラウマである「両親との思い出の場所を巡るゲーム」を強要されていたことを明かす。卓也の真の目的は、和彦が過去を乗り越える姿を見ることではなく、凄惨な過去に打ちひしがれ苦しむ姿を観察することだった。
自分の思惑通りに絶望しない和彦に対し、卓也は人殺しの息子は人並みに生きる資格なんてないと激しい言葉を浴びせる。和彦は卓也が自分を友人と思っていなかったことを察し、なおも脅迫的にゲームの続行を迫る卓也に、そんなに死にたいなら勝手に死ねばいいと言い残して屋上を去った。その直後、卓也は本当に飛び降り自殺を遂げていた。
評決は大出に「無罪」を言い渡すものとなった。自らの言葉が卓也を追い詰めたと悔いる和彦は、判事に自身を殺人罪で裁くよう涙ながらに訴えるが、涼子はここにいる誰もあなたを裁くことはできない、自分の罪は自分で背負っていくしかない、と告げる。裁判を終え、大出は和彦に和解の握手を求め、事件の幕は下りた。
回想を終えた現在の涼子は、14歳だったからこそ成し得た裁判の意義と、当時ともに闘った仲間たちとの間に今も残る、確かな絆を語り物語を締めくくる。
『ソロモンの偽証』の登場人物・キャラクター
主要生徒
藤野涼子(ふじの りょうこ/演:藤野涼子)
本作の主人公。城東第三中学校の2年A組クラス委員長(のちに3年生)。文武両道で責任感の強い優等生である。クリスマスの朝に発生した同級生の転落死や、それに続く告発状の騒動、さらに大人たちの保身や対応への不信感から、真相を究明するために生徒のみによる「学校内裁判」を提案。裁判では検察官(検事)を務め、鋭い観察力で事件の核心に迫っていく。生前に柏木卓也からいじめを見て見ぬふりをしたことを「口先だけの偽善者」と糾弾されたことが心の傷となっており、裁判へ突き動かす原動力となった。本編の20年後を描いた続編中編『負の方程式』では弁護士となっており、この裁判で弁護人を務めた神原和彦と結婚して「神原涼子」となっていることが語られている(映画版では中原涼子)。
神原和彦(かんばら かずひこ/演:板垣瑞生)
私立東都大学付属中学校の生徒。柏木卓也の小学校時代の友人。幼い頃に実の両親を亡くし、現在は養父母の元で育てられている。非常に聡明で非の打ち所がない少年であるが、内に深い孤独と複雑な家庭環境によるトラウマを抱える。卓也の死後、城東第三中学校の生徒ではないものの、被告人である大出俊次の無実を信じて弁護人役を志願。涼子たち検察側と真っ向から対峙する。裁判の最終日、自身が事件当日の夜に卓也と会っていたこと、そして卓也から投げかけられた残酷な言葉を証言台で明かすこととなる。続編『負の方程式』では直接の登場はないが、のちに学者となり、検察官を務めた藤野涼子と結婚したことが語られている。
柏木卓也(かしわぎ たくや/演:望月歩)
目次 - Contents
- 『ソロモンの偽証』の概要
- 『ソロモンの偽証』のあらすじ・ストーリー
- 小説版
- 第I部 事件
- 第II部 決意
- 第III部 法廷
- 映画版
- 前篇・事件
- 後篇・裁判
- 『ソロモンの偽証』の登場人物・キャラクター
- 主要生徒
- 藤野涼子(ふじの りょうこ/演:藤野涼子)
- 神原和彦(かんばら かずひこ/演:板垣瑞生)
- 柏木卓也(かしわぎ たくや/演:望月歩)
- 大出俊次(おおいで しゅんじ/演:清水尋也)
- 野田健一(のだ けんいち/演:前田航基)
- 三宅樹理(みやけ じゅり/演:石井杏奈)
- 浅井松子(あさい まつこ/演:富田望生)
- 井上康夫(いのうえ やすお/演:西村成忠)
- 井口充(いぐち みつる/演:石川新太)
- 橋田祐太郎(はしだ ゆうたろう/演:加藤幹夫)
- 学校関係者
- 津崎正男(つざき まさお/演:小日向文世)
- 北尾(きたお/演:松重豊)
- 森内恵美子(もりうち えみこ/演:黒木華)
- 上野素子(うえの もとこ/演:余貴美子)
- 警察・マスコミ関係者
- 藤野剛(ふじの つよし/演:佐々木蔵之介)
- 佐々木礼子(ささき れいこ/演:田畑智子)
- 茂木悦男(もぎ えつお/演:田中壮太郎)
- 生徒の家族
- 藤野邦子(ふじの くにこ/演:夏川結衣)
- 三宅未来(みやけ みき/演:永作博美)
- 大出勝(おおいで まさる/演:高川裕也)
- 浅井洋平(あさい ようへい/演:塚地武雅)
- 浅井敏江(あさい としえ/演:池谷のぶえ)
- 『ソロモンの偽証』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 柏木卓也「どうして助けないの? 藤野さんホームルームで言ってたよね? いじめはよくないって。どうして助けないの?」
- 柏木卓也「そういうのを『口先だけの偽善者』っていうんだ。そういうのが一番タチが悪いんだ」
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