ギヴァー 記憶を注ぐもの(The Giver)のネタバレ解説・考察まとめ

『ギヴァー 記憶を注ぐ者』(The Giver)とは、2014年にアメリカで制作されたSF映画。ロイス・ローリーによる児童文学『ザ・ギバー 記憶を伝えるもの』を原作とし、実写映画化した作品である。ジェフ・ブリッジズやメリル・ストリープといった往年の名優たちや、大ヒット歌手のテイラー・スウィフトを起用したことでも話題となった。感情や自由の一切を制御された社会で生きる1人の若者が、「人類の記憶」を受け継ぐ運命を背負い、人間というもののありかたを考え、感情を取り戻していく姿を描く。

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コミュニティの中で、ギヴァーから人類の歴史や記録、記憶、感情などを伝えられる役割を担った人物。選出されると「質問」と「嘘」の特権を付与してもらうことができる。

コミュニティ

ジョナスたちが生きている人間社会。「感情や愛は人類の破滅を招く」という思想を持つ首席長老によって家族や職業も割り振られ、徹底的な管理体制が敷かれている。投薬によって感情を制限され、自由は全くない。

家族ユニット

長老によって決められる、コミュニティ内で生活を共にする家族。家族といっても血の繋がりはなく、大組織に置ける「課」や「班」に近いもの。

解放

養育センターで養育されているが成長に問題がある赤子や、コミュニティにそぐわない行動をとった住人に対して行われる処置。注射での薬剤投与による殺処分を意味する。

『ギヴァー 記憶を注ぐ者』(The Giver)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ジョナスとフィオナのキスシーン

ギヴァーから記憶を受け取り、定められた投薬を止めていたジョナスは、徐々に人間らしい感情を取り戻していく。それを愛するフィオナに伝え、彼女の投薬も何とか止めたことで、フィオナもジョナスに対して持っている愛情と信頼を自覚することになっていった。ゲイブの殺処分を食い止めたいジョナスは、意を決して養護院に潜入。そこで自分の想い人であるフィオナに一緒に来てほしい、と頼むが、彼女は「行くことはできないが、ジョナスを信じている」と伝え、2人はキスを交わして別れるのであった。
これは単なるキスシーンではなく、「操り人形」のように生きてきた少年少女が、相手への最上の愛情表現を交わす場面だ。レシーヴァーとして直接的に人類の歴史や感情というものを知ったジョナスだけではなく、フィオナが感情をもって応じたということは、作中の人類の未来を表す第一歩として、重大な意味を持っている。

コミュニティの住人たちが涙を流すラストシーン

全てを管理された世界。この設定はかなり使い古されたもので、様々なメディアで物語になっている。しかし、本作はそのどの作品とも違う、情緒あふれる物語となっているのだ。感情を知り、それを取り戻すべく戦う。そこに派手な演出はなく、アクションで敵をなぎ倒しながら信念を貫くシーンもなく、静的なSF作品という印象を与える。そもそも犯罪的な言葉や行動も認知されていない世界観で起こる物語であるため、暴力沙汰になるはずもない。「痛い」という感覚や怒り、悲しみと言った感情の一切を、作中の人物たちは知らないのだ。
「完全に管理された世界では犯罪や戦争は起こらない」というのは些か言い過ぎだともいえるが、この世界はおそらく善の世界の完成形だ。答えの出ない問いになんとか答えを出そうとして、そうして作られた世界。人間は皆良かれと思ってこの世界を作ったのだと推測できる。しかし、良かれと思ってやったことが全ての人に良いことであるとは限らない。
全てを取り戻して色づいた世界で、人々が過去を思い出して涙を流すラストシーンは必見だ。

『ギヴァー 記憶を注ぐ者』(The Giver)の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

感情を知るごとに世界がモノクロからカラーへと変化する描写が秀逸

本作の序盤の物語は、モノクロ画面で展開していく。実はこれも立派なメタファーとなっており、無味乾燥な世界観を、視覚で分かりやすく表現しているのである。
この演出には「全てがコントロールされた世界は、こんなに味気ないものなのだ」という実感を視覚から訴えることによって、かなりコンパクトな形ではあるが、荒廃した世界という実情が伝わってくるという効果がある。レシーヴァーとなったジョナスは徐々に感情を得ることになっていくが、その時の感動は圧巻の一言。モノクロの世界に突如現れた赤いリンゴや、女性の茶色い髪が大変新鮮に映るのだ。
シンプルな手法ではあるが、その分効果は抜群。色彩が広がっていくと共に主人公の内面も豊かになっていき、そして記憶が内側に流れ込んでくる様はなんとも美しい。様々なシーンが順繰りに流れていくが、そのどれもが印象深く、観客は「何かを得るというのは、新鮮な驚きに満ちているものなのだ」と感じることができる。

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