孤独の死者を弔う一人の男。映画「おみおくりの作法」の魅力に迫る。
2013年の第70回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門で初上映され、監督賞を含む4賞を受賞した今作は「孤独死」を題材にしています。孤独死した人物の葬儀を行う。それが主人公の職務です。死者に寄り添うその姿に、感涙を禁じ得ません。今回は映画「おみおくりの作法」をご紹介したいと思います。
あらすじ・ストーリー
ロンドン市ケニントン地区の民生係として働くジョン・メイは44歳の独身男。彼の仕事は孤独死した人物の葬儀を行なうというもので、事務的に処理することもできるのだが、几帳面な性格のジョンは誠意をもって1人1人を丁寧に「おみおくり」している。ところが、人員整理によって解雇されることになってしまい、ジョンの向かいの家で孤独死したビリー・ストークの案件が最後の仕事となる。近くに暮らしていながら言葉も交わしたことがないビリーの死に、同じように孤独な1人暮らしをしているジョンは少なからずショックを受け、ビリーを知る人々を訪ねてイギリス中を旅する。。
原題「Still Life」に込められた想いとは
原題は「Still Life」といいます。直訳すれば「まだ生きている」といった感じになるのでしょうが、込められた意味を説明するのにそれでは言葉不足でしょう。ジョン・メイは死者をまだ生命を持っているものとして扱っていました。葬儀を行って初めて、亡くなった人々は死者となり得る。だからジョンは死者ときちんとした形で向き合い、事務的に終わらせたくなかったのでしょう。死者を死者とするために、きちんと「おみおくり」するべきだという想いが感じられました。
ジョンは実直な性格で、些か潔癖な部分も描写されていますが完璧な人間ではありません。嫌いな上司の車に立ち小便をすることくらいはやってのけます。真面目一辺倒に描かれないことで、そこに人間性を見出せました。
現代に生きる全ての人に見てほしい映画
万人受けする映画ではないでしょう。派手なアクションはないし、物語を引っ張るミステリーもありません。しかしそこには間違いなくドラマがありました。一人の孤独な男のドラマが。主人公の冴えない風貌も含め、本編全体を通して漂う哀愁感が良い味を出してます。死を扱う映画なのに、不思議と閉塞感というものは感じられません。
ラストは衝撃でしたが、しかし彼の為してきたことが報われるためには必要な展開だったのだと思います。最後まで見ると、また原題の「Still Life」の意味が少し変わってくるようにも思えました。人間の人生は死んでそこで終わりではなく、かといってそこがスタートラインでもない。ずっと続いている。私はこんな風に感じました。
まとめ
荒んだ心を癒してくれるような映画でした。日本映画の「おくりびと」と似通った部分があるかと思います。おそらくタイトルの邦訳もそれを意識したんじゃないですかね。わざわざ平仮名にしているところとか。しかしそうすることで多くの人がこの映画に興味を持ってくれるのならばそれでも良いのかなと思います。ぜひ観て頂きたい映画の一つです。