新世界の秩序の形。トンデモ映画「パージ」が面白い!
1年に一晩のみ、殺人を含む全ての犯罪が合法化される。パージ=浄化。弱いものは淘汰されていく。そう、この政策はアメリカ社会に秩序をもたらすものとされているのです。一定期間の無秩序により保たれる秩序。否定しきれない現実がそこには横たわっています。未来の可能性が1つ、またこの世に生まれた。
あらすじ・ストーリー
年に12時間だけ、殺人を含む全ての犯罪行為を合法にする法律が定められたアメリカ。パージと呼ばれるその日を迎えたジェームズ・サンディン(イーサン・ホーク)は、最先端のセキュリティーシステムによって保護された自宅で妻子たちと夜を過ごすことに。だが、パージがスタートするや、ある男がジェームズの家に助けを求めてやって来る。息子がセキュリティーシステムを解除して彼を家にかくまうが、男を殺そうとする近隣住民が続々と集結。暴徒と化した彼らに囲まれたジェームズたちは反撃に挑むが……。
あり得ないと言い切れない設定
年の一度行われる「パージ」によって犯罪率が低下し、秩序が保たれるという論理にはいささか疑問が残ります。が、その分を補ってあまりあるテーマがこの映画には潜んでいるように私には思えました。パージにより排除されるのは社会的な弱者と、自分の身を守れない弱者。要するに、この世界は弱肉強食の社会なんですよね。これって、現代にも少なからず見られることだと思いませんか。ここで言う弱者は、イコール富を持たざる者です。金を持っていれば身を守る武器を買えるし、家に閉じこもることもできる。でも、金がないやつはそれができない。
エンタテインメントを追求した設定にも思えますが、その裏には非道なほどのリアリズムが潜んでいます。こんな世界で生き残れない人間は生きる価値がなく、死んだ方が社会の為だ。そう、パージ=浄化とはこういうことです。作中ではこの政策によって経済活性化も達成されたと述べられていますが、それは無駄が省かれたということと同義です。
また、秩序を保つという意味ではまあある意味成功しているのかもしれませんね。一年に一度のチャンスがあるのですから、それまでは無駄な犯罪を止めておこうという思考が働きますから。しかしその一度のチャンスで一年分の犯罪が起こってしまうのですからやはり本末転倒の感は否めません。エンタメ作品なんだから深いことを考える必要はないのかもしれませんが、久しぶりに考えさせるような映画に出会えました。
世界観の広がりに期待
設定の割に話がこじんまりとしてしまったのは少々残念でしたが、同じ舞台設定で規模を広げたストーリーを展開するということは可能だと思います。現に続編というか、別視点の映画があるようですからね。予算がなかったのか、はたまた脚本家が微妙だったのか理由はわかりませんが、設定を活かすなら「バトルロワイアル」的なストーリーでも良いかなと思いました。あるいは続編を意識して、今回は導入という形にしたのかもしれませんしね。
銃社会のアメリカならではの映画です。日本でこの設定はなかなか活かせないでしょう。一般人が銃を持っているという前提がないですからね。後味が悪く、決して明るいラストを迎えるわけではありません。しかし、ホラー作品としてみればそれは普通のことです。随所に漂う不気味な雰囲気には思わず背筋がぞくりとしました。90分弱と、わりに短い映画でしたが内容は濃かったです。
まとめ
将来性を含め、かなりの良作です。一見トンデモ設定に思えますが、よく考えてみるとそれは現実世界にままあることが分かります。範囲を広げたストーリー展開と、また「パージ」という題材を深く掘り下げた、たとえば期間以外に犯罪を犯すとどうなるのかも今後描写してほしいと思います。シリーズ化はちょっと蛇足感が漂う気もしますが、この作品に関してはかなり広がりの余地があり、もっと観てみたいと思いましたね。
ホラーやサスペンスが好きな人は間違いなくハマると思います。ぜひご観賞ください。