
『紅い花(あかいはな)』とは、つげ義春原作の短編漫画。『月刊漫画ガロ』1967年10月号に掲載された。つげの代表作の1つとして知られており、小学館文庫版全1巻をはじめ何度も単行本化されている。また、メディアミックスとして3度実写化された。同作品は、とある土地へ川釣りに来た青年を狂言回しにして、大人の階段を上り始めた少女と彼女の変化に戸惑う少年を描いた情緒的漫画である。つげのもう1つの代表作『ねじ式』の対極にある作風にて、多くの熱狂的なファンを獲得した。
つげ義春の短編漫画の主要な掲載誌は、『月刊漫画ガロ』だった。同誌は、1964年から2002年まで、青林堂より刊行されていた月刊漫画雑誌である。白土三平の長編忍者漫画『カムイ伝』が、1960年代の『ガロ』の看板作品だった。白土は、かねてより貸本漫画界で異彩を放っていたつげ作品に注目しており、彼の肝入りで『ガロ』誌上でつげの短編漫画が数多く掲載されたという経緯がある。また、大のつげ義春ファンで、彼との交流を目的に青林堂に入社した漫画編集者の権藤晋(高野慎三)の尽力もあり、つげ作品はマニアックなファンを獲得していった。同誌に掲載されたつげの代表的な漫画には、『紅い花』、『ねじ式』、『ゲンセンカン主人』、『やなぎ屋主人』などがある。
『紅い花』のモデルだと考察されている場所「旅館寿恵比楼」

旅館寿恵比楼の外観
『紅い花』のモデルとなった地域や場所については、つげ義春は明言していない。しかし、熱心なファンの間では、彼が白土三平に招かれて滞在した千葉県夷隅郡大多喜町にあった「旅館寿恵比楼(りょかんすえひろ)」での出来事がモチーフになっていると考察されている。実際に、旅館寿恵楼での滞在を基に『沼』や『初茸がり』などの作品が描かれており、『紅い花』もその中の作品の1つである可能性が高い。また、キクチサヨコのモデルが、同館に勤めていた10代後半の少女ではないかと言われているが、こちらの詳細も不明である。なお、旅館寿恵比楼は廃業しており、2019年12月に建物が取り壊された。
多くのオマージュ作品を生み出した『紅い花』

村野守美『草笛のころ』の1編『カサ カサ ピカリ』よりオサム(左)とタエ(右)
つげ義春は、マニアックな作風であるが故に、コアなファンを多く獲得した漫画家である。また、漫画家たちの間でも評価が高い人物としても知られている。そのため、つげ義春のフォロワーは多い。『紅い花』に影響を受けた漫画家には、アニメーターとしても有名な村野守美が挙げられる。村野は、自作の『草笛のころ』の1編『カサ カサ ピカリ』にて、生理を迎えた少女タエとそのことを受けとめきれない少年オサムの様子を情緒的に描いた。タエに『紅い花』のキクチサヨコ、オサムに同作のシンデンのマサジの影響を見る読者が多いと言われている。また、『紅い花』のオマージュ的な作品として、篠原節原作の漫画『深山に泣く女』、勝又進原作の漫画『赤い雪』、そして二谷英明主演の映画『BG・ある19才の日記 あげてよかった!』などが挙げられる。
タグ - Tags
目次 - Contents
- 『紅い花』の概要
- 『紅い花』のあらすじ・ストーリー
- キクチサヨコという少女
- 釣りに来た青年と彼を案内する少年シンデンのマサジ
- サヨコの心身の変化とマサジの戸惑い
- 『紅い花』の登場人物・キャラクター
- 青年(演:草野大悟(1976年テレビドラマ版)/佐野史郎(映画版)/田辺誠一(1998年テレビドラマ版))
- キクチサヨコ(演:沢井桃子(1976年テレビドラマ版)/久積絵夢(映画版)/邑野未亜(1998年テレビドラマ版))
- シンデンのマサジ(演:渡部克浩(1976年テレビドラマ版)/荻野純一(映画版)/佐藤和紀(1998年テレビドラマ版))
- 『紅い花』の用語
- 紅い花(あかいはな)
- 釣り(つり)
- 帽子(ぼうし)
- 『紅い花』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- キクチサヨコ「えいっ腹がつっぱって…」
- キクチサヨコ「あいつは根性まがりのいけすかんやつじゃ。毎日私をいじめにくるのです」
- シンデンのマサジ「紅い花だ!」
- シンデンのマサジ「のうキクチサヨコ。眠れや…」
- 『紅い花』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 『ねじ式』の対極にある情緒豊かな作品『紅い花』
- つげ義春作品の主要掲載誌だった『月刊漫画ガロ』
- 『紅い花』のモデルだと考察されている場所「旅館寿恵比楼」
- 多くのオマージュ作品を生み出した『紅い花』