紅い花(つげ義春)のネタバレ解説・考察まとめ

『紅い花(あかいはな)』とは、つげ義春原作の短編漫画。『月刊漫画ガロ』1967年10月号に掲載された。つげの代表作の1つとして知られており、小学館文庫版全1巻をはじめ何度も単行本化されている。また、メディアミックスとして3度実写化された。同作品は、とある土地へ川釣りに来た青年を狂言回しにして、大人の階段を上り始めた少女と彼女の変化に戸惑う少年を描いた情緒的漫画である。つげのもう1つの代表作『ねじ式』の対極にある作風にて、多くの熱狂的なファンを獲得した。

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川釣りの穴場へと向かう青年(奥)とシンデンのマサジ(手前)

『紅い花』における釣りは、ストーリーを動かす役割を果たしている。青年がどこからともなくとある土地を訪れた目的は、川で釣りをするためだった。釣りの穴場を知るために、彼はキクチサヨコとシンデンのマサジと出会うが、そこから2人の少年少女の交流が描かれている。青年は切りの良いところで釣りを止めて山を下りようとした際に、再びサヨコとマサジを目撃した。実際に釣りをしているシーンが描かれていないため、青年の釣果は不明だった。

帽子(ぼうし)

シンデンのマサジ(左)と青年(右)

『紅い花』には、2種類の帽子が登場する。青年がかぶっていた麦わら帽子と、シンデンのマサジがかぶっていた軍帽である。ストーリー内で、青年の帽子については特に言及されていない。マサジの軍帽は、青年が似合っていると褒めており、マサジはキクチサヨコも同じことを言っていたと誇らしげな様子で返答した。このやり取りから、マサジのサヨコに対する恋心を読み解くファンが多いと言われている。

『紅い花』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

キクチサヨコ「えいっ腹がつっぱって…」

自分の腹を叩くキクチサヨコ

『紅い花』のストーリーにおける重要な伏線として、キクチサヨコのセリフ「えいっ腹がつっぱって…」が挙げられる。サヨコは、ストーリーの冒頭から気だるそうな様子だったが、それは夏の暑さによるものだけではなく、自身の体調の悪さも相まっていたことが示唆された。茶屋で1人佇んでいた彼女は、「えいっ腹がつっぱって…」と言いながら下腹部の辺りをトンと叩いている。この様子が、後の初潮へと繋がっており、サヨコは心配して寄って来たシンデンのマサジに向かって「腹がつっぱる」と言っていた。ちなみに、原作者のつげ義春は、このセリフの元ネタが自身が旅行の滞在先である寿恵比楼旅館にて、ある女性が「靴下がつっぱる」と嘆いていた会話を聞き間違えたものだと明かしている。

キクチサヨコ「あいつは根性まがりのいけすかんやつじゃ。毎日私をいじめにくるのです」

キクチサヨコは、良い釣り場を探している青年に、シンデンのマサジならば釣り場を知っていると話した。青年が、マサジとは何者かと尋ねると、彼女は小学6年生の不良だと答えている。そして、「あいつは根性まがりのいけすかんやつじゃ。毎日私をいじめにくるのです」と伝えたのだ。この言葉だけを捉えると、サヨコがマサジのことを嫌っているようにも見えるが、嫌いな人間をわざわざ客人に紹介するはずもなく、実はサヨコも決して彼のことを悪く思っていないことが示唆されている。そうしたサヨコの心の機微が表現された名言だと言われている。

シンデンのマサジ「紅い花だ!」

川にやって来たキクチサヨコの様子を窺うシンデンのマサジ

青年を無時に釣りの穴場へと案内したマサジは、戻る途中で様子のおかしいサヨコを見つけた。隠れて彼女を窺っていたマサジは、川に尻を着けて血を流す姿を見て驚きを隠せない。ポタポタと川の水に流れる血は、彼にとって未知の事態であった。それ故に、マサジは「紅い花だ!」と叫んでしまう。女性の生理や初潮を理解できないマサジの狼狽ぶりを象徴する名言であるとともに、初潮を情緒的に表現してみせた名シーンとして多くの読者に衝撃を与えた。

シンデンのマサジ「のうキクチサヨコ。眠れや…」

キクチサヨコをおんぶするシンデンのマサジ

マサジは、サヨコの生理を理解できないまま、彼女の不調の原因が家の困窮にあるかもしれないと考えた。そして、茶屋で1人休んでいるサヨコに向かって、彼の父親に経済的支援をお願いすると告げた。ところが、サヨコが黙ったままだったため、またしても狼狽えてしまう。それでも、サヨコにとってマサジの気遣いは嬉しかったらしく、マサジに身体を任せておぶさった。2人がどこかへ向かう途中、マサジはサヨコに「のうキクチサヨコ。眠れや…」と告げた。『紅い花』のストーリーのラストを飾ったこのセリフは、同作品を代表する名言だと高く評価されている。

『紅い花』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

『ねじ式』の対極にある情緒豊かな作品『紅い花』

釣りに行く青年(左)を見つけたキクチサヨコ(右)

つげ義春の代表作に、『紅い花』と『ねじ式』を挙げるファンは多い。『ねじ式』は、難解極まりないストーリー展開と、シュールな絵柄で読者の度肝を抜いた作品だと言われている。一方の『紅い花』は、淡々とストーリーが進みつつ、そこに大人の階段を上り始めた少女とその様子を理解できずに子供のままでいる少年の心情が描かれた情緒的な作品である。『ねじ式』を発表するまでのつげ義春の作風は、むしろ『紅い花』寄りだと言われており、『沼』、『チーコ』、『初茸がり』、『海辺の叙景』など多くの情緒的短編漫画が世に送り出された。その中でも『紅い花』は、つげの情緒作品の集大成にして最高傑作であるとの高評価が多く見受けられる。

つげ義春作品の主要掲載誌だった『月刊漫画ガロ』

『月刊漫画ガロ』1967年10月号表紙

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