FALL／フォール（映画）のネタバレ解説・考察まとめ

『FALL／フォール』の概要

『FALL／フォール』とはスコット・マンが監督・製作・脚本を務めるアメリカのサバイバル・スリラー映画である。公開日はアメリカで2022年の8月12日、日本では2023年2月3日。本作は彼にとって5作目の映画であり、代表作は『FALL／フォール』の他に『ファイナル・スコア』（2019年）、『タイム・トゥ・ラン』（2016年）などが挙げられる。主演を務めているのはグレイス・キャロライン・カリーとヴァージニア・ガードナー。グレイスは人気ホラーシリーズの『アナベル 死霊人形の誕生』（2017年）や『シャザム！』シリーズ（2019年〜）に出演している20年以上のキャリアを持るベテラン俳優である。ヴァージニアはドラマ『マーベル ランナウェイズ』（2017年）で主演の1人を務めたことが注目を集め、その後人気ホラーシリーズ『ハロウィン』（2018年）でホラー界のアイドルとなった。本作は300万ドル以下という低予算でありながら撮影場所や方法に拘り、スリルや迫力のある映像に仕上がっている。

ベッキーと彼女の夫のダン、親友のハンターは3人でフリークライミングをしていた。その最中ダンが事故による落下で死亡。ベッキーはそれから1年が経ってもダンの死から立ち直れずにいた。そんなベッキーを心配したハンターは彼女に元気が戻るよう、ベッキーを再びクライミングに誘う。しかしそれは非常に危険な冒険であり、老朽化した高さ600メートルにも及ぶB67テレビ塔を2人で登ろうというものであった。嬉々として登るハンターと、震えが止まらないベッキー。ハンターは怯えるベッキーを鼓舞しなんとか頂上まで登ることに成功するが、達成感を味わっていられたのも束の間、古びた梯子は崩れ2人は足場の少ない頂上に取り残されてしまった。辺りを見ても人影は無く電波も届かない絶望的な中、2人はなんとかして助けを求めようと模索する。

『FALL／フォール』のあらすじ・ストーリー

ベッキーを元気づけるため高さ600メートルのクライミング計画を思いついたハンター

冒険好きな夫婦のベッキーとダン。ある日2人は親友のハンターと共にフリークライミングを楽しんでいた。しかしその最中にダンは転落事故で死亡。ベッキーはダンの死から立ち直れず1年が経過していた。彼女を案じる父のジェームズとも言い合いになり、ベッキーの様子は一向に良くならない。そんなベッキーを心配したハンターは、ベッキーが前に進めるようあるクライミングの計画をする。それは地上600メートルもの高さがあるB67テレビ塔に登ろうというものであった。

ハンターは6万人のフォロワーがいる人気配信者だ。そこに投稿する企画としてテレビ塔のクライミングを計画し、ベッキーを誘った。ベッキーは迷った末に挑戦を決め、2人は車で人里離れた場所へと向かう。到着したテレビ塔は老朽化が進み、解体寸前の状態であった。早速錆びつき軋む梯子をハンターは嬉々として登り、一方のベッキーは体を震わせながら登っていく。そうして2人は大きなアクシデントが発生することもなく頂上に到着。このゴールはベッキーに前進する為の勇気を与えることとなった。彼女の変化を満足そうに見ているハンター。そしてハンターの見守るそばでベッキーはダンの遺灰を撒き、ようやく前を向けたのであった。

頂上に取り残された状況で明らかになったハンターとダンの関係

クライミングは登って終了ではなく、今度は降りなければならない。しかし古びた梯子は2人が戻ろうとしたところで崩壊。帰る手段を失った2人はどうすることもできない状態に陥っていた。狭い足場の中、電波も入らない場所で助けを待つしかなくなり、先程までに得た喜びは一気に消え去る。2人はとにかく助けを呼ぼうとした。救助要請を出す為、スマホをクッションで包み靴の中に入れて地上に落下させたり、偶然通りかかった人を見つけては照明弾を使用したりと思いつく限りの方法で助けを求めようとする。そして照明弾を使ったことで奇跡的に2人の存在に気付いた男性がいたが、あろうことかベッキーたちが乗ってきた車を見つけるなり、助けることなく車を盗みその場を去ってしまう。照明弾は1発。その1回が失敗に終わったことで、2人は絶望的な状況に追い込まれていた。

一夜が明けてもベッキーとハンターは狭い足場にいたまま、できることといえば話すことくらい。しかしその会話の最中に、ハンターがダンと浮気していたことが明らかになる。それでもハンターはその時のことを正直に伝え、ベッキーに自身の想いを打ち明けていく。ハンターとダンの関係は6ヶ月続いたが、ベッキーが大切だった為に2人は別れていた。それだけでなく頂上に取り残される最悪な状況を作り出す原因を作ってしまったことをハンターは心の底から謝罪。憎まれて当然であると彼女は理解していた。だが今のベッキーにとってはハンターへの怒りよりも死と隣合わせの恐怖の方が勝っており、2人はすぐに和解した。

それから気持ちを切り替えて、彼女たちは少し下にあるアンテナに引っかかったリュックを回収しようとする。中に水が入っていたのだ。梯子が崩れた時にリュックも一緒に落ちてアンテナに引っかかったままになっていた。リュックを取りに向かったのはハンター。けれどアンテナのところまでのロープの長さは足りていない。それでもなんとかしてリュックを取ろうとするハンターを、ベッキーはハラハラしながら見守った。途中アクシデントが発生しながらもハンターは無事にリュックを回収し、再び頂上に戻ってきた。

ハンターが死亡し1人取り残されたベッキーのとった最後の手段

その後回収したリュックに入っていたドローンを遠くのモーテルまで飛ばそうとする2人。まずは充電切れであった為、頂上より更に上にある電球のソケットからベッキーは充電を完了させた。その後ようやくドローンを飛ばそうとするが、結末は走行中のトラックとの衝突で大破。そこに更に追い討ちをかけるようにして現実がベッキーを襲う。ベッキーはここにきてようやく気付いたのだ。ハンターが既に死亡していることに。ハンターはリュックを取りにアンテナ部分に降りた後、再び登ろうとしたが上手くいかずアンテナに叩きつけられるようにして転落死していた。その事実を受け入れられなかったベッキーは、ハンターの幻影を見ていたのだ。実際にはアンテナ部分にハゲワシに体を食われているハンターの遺体が残っていた。

そしてとうとう4日が経ち、ベッキーの体力も限界が近づいていた。弱ったベッキーに近づくハゲワシ。だが彼女はハゲワシを素手で捕らえ、その肉を食べることで気力を取り戻していく。そうしてベッキーは最後の手段に出ることを決意した。彼女はハンターの遺体があるアンテナ部分に降り自身のスマホをハンターの靴に入れ、更にハゲタカに食べられたハンターの腹に押し込む。そしてそれを地上に落下させたのだ。これが成功し、遂にスマホから救助要請が発信された。送られたメッセージはジェームズの元に届き、そこから警察がテレビ塔に駆けつけベッキーはようやく救助されることとなる。ジェームズはその後到着し、抱き合いながら親子は再会を噛み締めた。

『FALL／フォール』の登場人物・キャラクター

ベッキー（演：グレイス・キャロライン・カリー）

吹替：近藤唯

ダンの妻。ダンを亡くしてから1年間立ち直れず、父との関係も上手くいっていなかった。親友のハンターに誘われ、テレビ塔に登ることを決意する。この経験は彼女にとって再び大きな傷を残すものとなるが以前のように立ち止まることはなく、人生の儚さを知ったからこそ前進していこうとするベッキーへと変化していった。

ハンター（演：ヴァージニア・ガードナー）

吹替：潘めぐみ

ブランドヘアーのベッキーの親友。6万人のフォロワーをもつ配信者。冒険の配信をすることで広告収入を得ていた。その企画の一つとして解体寸前の超高層テレビ塔を登るアイデアを思いつく。ベッキーが前に進めるようにという意味も込めて彼女を誘った。ハンターの思考の大半を占めているのは配信活動のことである。その為、頂上に取り残されてからも動画が投稿できないことを悔やむハンターがいた。

ダン（演：メイソン・グッディング）

吹替：左座翔丸

ベッキーの夫。ベッキー、ハンターと共にフリークライミングをしていた最中、落下事故で死亡した。ダンはベッキーと付き合っていながらハンターとも友人以上の関係を持っていた。ハンターのスマホには幸せそうな笑顔を見せる彼女の写真が残っている。その時、彼女の肩には顔の写っていない男性の手が添えられており、ダンとのデートで撮った写真であることが窺える。

ジェームズ（演：ジェフリー・ディーン・モーガン）

吹替：黒澤剛史

ベッキーの父親。ダンの死から立ち直れないでいる娘を案じていたが、心配のあまり彼女を尾行していたことがベッキーの怒りに触れる。ジェームズはダンがベッキーの思うような男ではないことを知っていた。もしクライミングの事故で死んだのがダンではなくベッキーであった場合、彼もベッキーのように1年もの間立ち直れずにいただろうかという問いに対するジェームズの答えはノーであった。

『FALL／フォール』の用語

フリークライミング

道具に頼らず、自己のテクニックと体力で岩を登っていく行為を指す。インドアとアウトドアがあり、ベッキーたちの行ったアウトドアでは自然の岩に人の手を加えることなく、ホールドスタンス（手で掴んだり足で乗る岩場のポイント）を見つけて登っていくものである。