オッペンハイマー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『オッペンハイマー』とは、「原爆の父」と呼ばれた物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた2023年公開の映画である。第二次世界大戦中にマンハッタン計画の監督として原爆の作成を主導する姿や、冷戦時の赤狩りに巻き込まれ、最終的に彼自身が失脚するに至るまでの様子が描かれている。IMAXカメラで撮影された高解析度の映像に、緊張感のある迫り来るようなサウンドが加わっており、天才科学者の頭脳と心を五感で感じることが出来る作品である。

オッペンハイマーが携わったマンハッタン計画

マンハッタン計画

第二次世界大戦中に行われた原子爆弾の研究と開発のためのプログラム。米国が主導し、英国、カナダと共同で実施した。最初の本部がマンハッタンにあったため、マンハッタン計画という名前が付けられたが、オッペンハイマーはロスアラモスにある研究所で所長を務めていた。

トリニティ

トリニティは、マンハッタン計画の中で、人類初の核兵器の爆発テストを行った際のコードネームである。「トリニティ」は三位一体という意味で、ジョン・ダンの詩を引用したと言われている。トリニティ実験は、爆縮式プルトニウム爆弾を使用した実験で、成功後「ファットマン」と呼ばれるトリニティ実験で使用した物と同じ型の爆弾が長崎に投下された。

冷戦時に度々使用された用語

共産主義

共産主義は、財産の私有を否定し、全ての財産を共有することで平等な社会を実現しようとする思想・運動のこと。また、階級による差別をなくし、各人が能力に応じて働き、必要なだけ消費できるような理想社会のこと。オッペンハイマーの妻キティ、弟フランク、元恋人のジーンなど、オッペンハイマーの周りには共産党員が多くいた。その為オッペンハイマーも共産党員でソ連のスパイであるという疑いをかけられ、聴聞会が開かれることになる。

赤狩り

冷戦時に活発化した、共産主義者やその支持者を社会的に追放する運動のことで、赤は共産主義を象徴する色である。オッペンハイマーの弟フランク、友人のシュヴァリエ、元生徒のロマニッツなど、オッペンハイマーの周りが赤狩りにあうことになる。

『オッペンハイマー』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

J・ロバート・オッペンハイマー「今や我は死なり、世界の破壊者なり」

ジーンと寝室にいる際に、ジーンが本棚から一つの本を取り出し、オッペンハイマーにこの部分を訳してほしいと伝える。そして、オッペンハイマーは「今や我は死なり、世界の破壊者なり」と、サンスクリット語で書かれた一節を英語に訳しながら言った。原爆の第一人者であるオッペンハイマーを表すのに相応しいとも言えるこの言葉を、ジーンがオッペンハイマーに読ませることで、よりこの言葉の意味にインパクトを持たせるシーンとなっている。
またこの一節は、ヒンドゥー教の聖典のひとつであるバガヴァッド・ギーターに書いてある。

トリニティ実験の直前に、世界が崩壊する可能性について話すオッペンハイマーとグローブス

核の連鎖反応により大気に引火する可能性があり、これが正しければ、核爆発を起こした時に、地球が崩壊するというエドワード・テラーが発見した理論について、トリニティ実験の直前にオッペンハイマーはグローブスに話す。この理論に加えて、「核爆発により世界が崩壊する可能性はほぼゼロだ」と伝える。その言葉に対し、グローブスは「ニアゼロ?(ほとんどゼロ)」と聞き返し、「0%が好ましい」とオッペンハイマーに伝えた。実際に核爆発を起こしてみないと大気に引火するか否か分からないという一か八かの状態でもトリニティ実験を強行するところに、核兵器を誰よりも早く作成し実験を成功させるというオッペンハイマーの強い意思を感じる。

罪悪感に苛まれ幻覚に悩まされるオッペンハイマー

原爆の作成に成功し、広島・長崎に投下したことが、第二次世界大戦の終戦に繋がった要因の一つだと、周囲から称賛されるオッペンハイマー。オッペンハイマーは、支持者の前でスピーチをし拍手喝采が起きる中、その場にいる人々全員の顔と体が溶け始める幻覚を見る。
周りの称賛とは裏腹に、オッペンハイマー本人は何十万人もの被爆者を出してしまったことに罪悪感を感じ、苦しめられているのが伝わるシーンで、人々の全身が溶ける映像はかなり衝撃的である。

『オッペンハイマー』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

ミーム「バーベンハイマー」が流行し悪ノリをしたバービー公式アカウントが謝罪

米国では2023年7月21日の同日に『オッペンハイマー』と『バービー』が公開されたことにより、「バーベンハイマー」という造語が生まれた。ファンの間では、両方の作品を見ることを推奨され、どの順番で見るべきか、など大きな話題を呼んだ。
更に、Xではオッペンハイマーの肩に笑顔で片手を上げているバービーが乗り、背景にはキノコ雲が描かれたアートを投稿したファンアカウントに対し、映画バービーの米国公式アカウントが、「思い出に残る夏になりそう!」と返信した。原爆についての映画をいじった画像に、バービー公式アカウントがそれを楽しむような返信をしたことに対し、日本では特に批判が殺到した。このことを受け、映画バービーの配給会社であるワーナーブラザースジャパンは、米国のバービー公式アカウントが返信した内容に関し、配慮が欠けていたと謝罪した。

アカデミー賞のスピーチで核兵器について触れたキリアン・マーフィー

アカデミー賞で主演男優賞を受賞したキリアン・マーフィーは、スピーチの最後に「私たちは核兵器を作り上げた男性についての映画を作った。そして、良くも悪くも皆オッペンハイマーの世界に生きている。だから、世界中で平和をもたらそうと活動している人達にこの賞を捧げたい。」と述べた。

米国での公開から約8ヶ月後に日本で公開

米国では2023年7月21日より公開されたが、世界で唯一の被爆国であり20万人近い被爆者が出た日本での本作の公開については未定であった。しかしながら、日本での配給を担当するビターズ・エンドが2024年に日本で公開することを発表し、米国での公開から約8ヶ月後の2024年3月29日に日本公開となった。
配給会社ビターズエンドは、唯一の被爆国である日本で本作を公開することに大きな意味があり、またクリストファー・ノーランが描く独自の世界観を持つ作品は映画館で鑑賞するのが相応しいと述べた。

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