怪異と乙女と神隠し(とと神)のネタバレ解説・考察まとめ

『怪異と乙女と神隠し』とは、ぬじまによる漫画、および漫画原作のアニメ作品。ウェブコミック配信サイト『やわらかスピリッツ』で2019年より連載を開始した。書店員として働く小川董子が『逆万引きの本』を手にしたことにより、同僚である化野蓮、その妹の乙や周囲の人間と共に様々な怪異事件に巻き込まれていく。作中に登場する怪異は、マイナー寄りだったり比較的歴史の新しい”現代の怪異”が登場したりすることが多いのが特徴。
怪異と対峙するミステリー要素、登場人物達の関係性など人間ドラマを掛け合わせた点が魅力。

『怪異と乙女と神隠し』の概要

『怪異と乙女と神隠し』とは、ぬじまによる漫画、および漫画を原作とするアニメ作品。小学館のウェブコミック配信サイト『やわらかスピリッツ』にて2019年より連載を開始した。漫画雑誌アプリ『マンガワン』でも数話遅れで公開されている。
作品の内容として、書店員である緒川董子(おがわ すみれこ)が手にした『逆万引きの本』を始めとして、『塵輪鬼(ちんりんき)』や『紅衣小女孩(フォンイーシャオニュイハイ)』など様々な怪異に遭遇、同僚である不思議な少年の化野蓮(あだしの れん)や蓮の妹の化野乙(あだしの おと)、他の周囲の人間と共に巻き込まれていく物語である。
作中の董子のセリフを基にした「これは、数々の怪異をめぐるささやかな友情と別れの物語」が作品のキャッチコピーとして使用されている。
時折、本編の合間に怪異がほとんど出ないほのぼの日常エピソードとして幕間が挟まれ、キャラクターが深掘りされている。
略称は『とと神』。
特徴として、誰しもが知るような有名な怪異はあまり登場せず、マイナーな怪異や現代の環境が生み出した歴史の新しい怪異が主に登場する。
登場する怪異がおこす事件や現象に対して、董子を始めとする登場人物たちが様々に対処していくストーリーが一番の見どころではあるが、幕間で語られるほのぼのした日常回や、進みそうで進まない董子と蓮の関係性なども重要なファクターといえる。

『怪異と乙女と神隠し』のあらすじ・ストーリー

小説家の卵と呪書

持ち帰ってきてしまった「逆万引きの本」を見つめる小川董子

みどり書店に書店員として勤める緒川董子(おがわ すみれこ)。
董子は15歳の時に書いた小説が新人賞を受賞、書籍化され小説家デビューを果たすが、それ以後は鳴かず飛ばずの燻り続ける人生を送っており、10代の頃に戻りたいと願っていた。
職場から帰宅後、書店にいつの間にか増えている本、いわゆる「逆万引き」の本をうっかり持ち帰ってきてしまったことに気づく。28歳となった誕生日の0時、月明かりの下にて逆万引きの本の中で見覚えのある万葉集の和歌を詠む。
その後買い物に出かけたコンビニで、董子は瞬く間に身体が縮み、幼い子供の姿へと変化してしまう。翌日、董子は書店を無断欠勤する。同僚の化野蓮(あだしの れん)が連絡するも「邪魔をするな、誰か知らないが迷惑だ」という返事であった。

董子が失踪して一週間が経ち、店長に頼まれて蓮が様子を見に行くが、ドアには鍵がかかっておらず、董子も不在であった。部屋に入ると、普通の人間には見えないが怪異がこの場にいたことを示す「! キケン」の警戒標識があり、逆万引きの本が呪書であることが判明する。
夜の街を徘徊する子供の姿の董子だが、耳からは血が流れ出、帰路もわからなくなっていた。そこに蓮が現れ、董子は『月読の変若水(つくよみのをちみず)』という呪歌の発動条件を満たしたこと、歌を詠んだものはそのままでいれば最後には破裂して死亡することを説明する。
対となる呪歌の一種『長歌』を月明かりの下で読み元に戻る董子。しかし、蓮の隙をついて逃走、先回りする蓮に対し呪歌を使いこなしてかわすが追い込まれる。「若くないと読んでもらえない、小説が書けない、それでも書きたい」と泣きながら訴える董子に蓮は「新作を読ませてください」と励ます。
呪書を回収した蓮はきさらぎ駅で切符と交換しようとするが、目的のものには足りない。蓮は切符を諦めるが、妹の化野乙(あだしの おと)から乙が通っているコオネ女学院に怪異がいるかもしれないと聞く。月読の変若水の一文を董子が寝言で呟き子供の姿へと変じたのを見て、蓮と乙は唖然とする。

化野兄妹と怪異の末裔

呪書や命を対価とせず、子供の姿へと変われる『変若水(をちびと)』という怪異となった董子に、蓮はコオネ女学院に潜入し、乙を助けてほしいと頼む。
高校生の姿となり名門校のコオネ女学院に潜入する董子に、乙はトイレに怪異があった徴(しるし)である標識があると説明する。
トイレから出たところで、乙の友人の桑島麻里(くわしま まり)、天地のどか(あめつち のどか)、赤根珠緒(あかね たまお)、宇佐美エリカ(うさみ えりか)に会い、学園内で頻発する不可解な現象について話を聞く。『ヨダレカケ』という現象は、突然の大量のよだれの垂れ流しを合図に、身体に火が付いたように熱くなり昏倒する。帰宅すると回復するものの登校すると再発するため、恐れた生徒は不登校になる。
珠緒たちから猥談をしろと迫られた董子は生活指導教師の畦目真奈美(うなめ まなみ)から、いじめられていると勘違いされる。その後、乙と董子の目の前で、珠緒・麻里・エリカの3人が大量のよだれを垂れ流しながら倒れ、少し離れた場所から倒れた生徒の影を舐める畦目の姿があった。
畦目の力の元となっているのは畦目の髪留めであり、その欠片を飲み込んだ畦目の頭には角が生える。畦目は不用意に近づいた董子を直接舐めることで発火させる。幼少期の自身へのいじめが祖母へのいじめへとつながったことから、いじめを憎みなくすことを誓っていた畦目。祖母の形見の髪留めの正体は『牛玉(うしのたま)』と呼ばれる『牛鬼(うしおに)』という怪異の欠片、呪いであった。
畦目の説得に失敗、やむを得ず蓮は自分の目で『視る』ことによって力を返し、畦目はよだれを垂れ流した後に発火。力を使ったことで蓮も倒れてしまう。
蓮は、畦目の力は牛鬼ではなく、牛鬼の元となった『塵輪鬼(ちんりんき)』という鬼神だったが、蓮の目で視たことで畦目の力も怪異も失われたと語る。そこへ畦目が謝罪に現れ、ヘアバンドが落ちる。畦目の頭には角が生えたままであった。

混ざりものの怪異

董子の家に乙が預けられ、たまたま銭湯で一緒になった畦目の家に一泊することになるが、雨の降る深夜に何者かがドアをノックするのに気づく。ドアを開けた乙は、ドアをノックした何者かの足跡を追った先で早見シズク(はやみ しずく)という女性と出会う。シズクは、今夜と同じ雨降る深夜、赤い服の子供のノックに扉を開け行方不明となった友人のトモコを探していた。
きさらぎ駅で董子と乙が蓮から聞いたのは、台湾で有名な赤い服の少女『紅衣小女孩(フォンイーシャオニュイハイ)』の都市伝説であった。しかし、その中にノックや雨の要素はなかったと言う。
董子が調べた結果、紅衣小女孩によって行方不明者が出た同じ日に、以前より行方不明となっていた別の人物の遺体が発見されていたことが判明する。シズクの職場にいた乙だが、突然屋上に続くドアが外からノックされる。そのノックの相手はトモコであり、絶対に外に出るなと董子は電話で警告。紅衣小女孩はノックに応じた者を襲っていて、乙は一度応じてしまったがために狙われていた。
紅衣小女孩は、ノックに応じると殺されるという怪談と、溺死者の霊である『水鬼(スィグィ)』の水の要素、そして「ヒトを死なせた水鬼は成仏できる」という入れ替わりの特性を取り込んだ、混ざりものの怪異となっていた。それらのことから董子は、トモコはもう死亡していると結論づける。
ドアを開けたシズクは紅衣小女孩となってしまうが、駆けつけた蓮が紅衣小女孩の誕生に関わりあると考えられた『トイレの花子さん』の撃退方法「100点の答案を見せる」を行い、シズクを一時的に人に戻す。
きさらぎ駅で蓮は、トモコが残したはさみと切符を交換し乙に渡す。ホームに向かう途中で、乙はトモコの情報を聞いて回っていた際、トモコがシズクの話ばかりをしていたことをシズクに伝え励ます。紅衣小女孩だけを異界行きの電車に乗せシズクから分離させることが出来た。
一方、きさらぎ駅の待合室で待機していた董子と蓮。蓮から化野兄妹は異界からの漂流者であることが董子に語られる。その目的は路線の最果てにある故郷に帰るため、電車に乗るのに必要な通貨となる呪物を探し求めているのだという。
きさらぎ駅の駅係員から蓮は「人ですらない化け物風情」と呼ばれ、じきに消えるだろうと予告される。

みどり書店での勤務中に、董子は幼い頃に通った玉心堂という不思議な本屋での体験を蓮に話す。その本屋での女性店員と交流した経験が、小説家を目指す今の董子を形作っていた。
『書籍姫(ほんひめ)』という怪異の話を蓮から聞かされ、女性店員がその書籍姫であったことを知り、自分の書いた小説本をいつかその本屋に寄贈しようと思う董子だった。

VTuberと画霊

乙の友人、のどかがはまっているVTuberアイドル、姫魚よるむん(ひめうお よるむん)が引退を発表する。のどかは激しく気落ちしてしまうが、引退発表の夜に突如としてよるむんの配信が始まる。PCから現実世界に抜け出てきたよるむんは「頑張って!応援してる」とのどかを励ます。
その励ましに応えて勉強に歌にダンスにと日々頑張るのどかだが、日が経つほどに衰弱し、ついには乙の目の前で倒れてしまう。同じ事例によって倒れる人間が全国規模で大勢発生し、倒れた人間に共通するのは「姫魚よるむんの熱心なファンだった」ということであった。よるむんは他の配信者の配信ジャックをも始める。
入院したのどかのところに訪れた董子一同だが、そこへ車いすに乗った花村美甘(はなむら みかも)を伴った畦目が現れる。美甘はよるむんとして活動していた人物だった。余命があまりない彼女からよるむんを助けてほしいとお願いされ、よるむんは作者の想いを込められた物が付喪神となる『画霊(がれい)』であると蓮は判断。元の絵に戻すために最後の配信が行われる。
董子たちは配信に登場したよるむんの力に飲み込まれかけるが、畦目が塵輪鬼の炎によってその力を退けたことでよるむんが正気に返る。美甘から連続失神事件のニュースを聞かされ衝撃を受けるよるむんだが、ファンたちはよるむんのおかげで今があると感謝を伝える。
よるむんを労い、自分もすぐそちらに行くと言う美甘をよるむんは優しく否定し、PCから抜け出て町中のモニターなどに自分の姿を写したあとで消えた。姫魚の別名は『神社姫』という預言と疫病退散の権能を持つ怪異で、その力の発現は似姿を増やすこと。余命わずかな美甘を助けるために、よるむんは配信ジャックを行っていたのだった。

猫の王、そして花火大会

よるむん事件が収束し一息つく董子と蓮だが、怪異を持ち去る蓮を邪魔と感じた猫の王に率いられた巨大な猫たちに襲われる。董子が持つ、多少の損傷であれば元に戻すことが出来る変若人の力とよるむんの力を宿したタブレットのおかげでなんとか逃げ切るが、蓮が重傷を負ってしまう。スマホからの謎の音声案内に従うと、『時空のおっさん』のタナカのところに導かれ、蓮は治療を受けることになる。泣きながらまきこんでしまったことを詫び、突き放そうとする乙を董子は慰め励ます。
皆が自分を危険から遠ざけようとすることを憤った董子は、自ら猫の王と話をつけることを決意する。ラーメン屋で再会したシズクの協力を得て猫たちを探す中、皆川咲良(みながわ さくら)と弟の恭一朗(きょういちろう)と出会う。皆川姉弟の飼っていた猫カゲトラが8年前に踊りながら姿を消した話を聞き、町中で取材を敢行した結果、猫の王の部下たちは全員飼い猫だったことが判明した。
目の前に現れたカゲトラから情報を得て猫の王の居所を掴んだ董子とシズクは、書店内にいた猫の王と対話を試みる。
猫の王はかつてすずという名前を与えられ、飼われていた猫だった。一家の夫婦と、その一人娘の「おねえちゃん」から可愛がられていたすず。寿命が違うのに人間の家族から「ずっと一緒」と嘘をつかれたという想いと、もっと一緒に生きたいと強く願う気持ちを持ちながら寿命を迎えたすずは化け猫となったのだった。
猫の王によって屋上へと追い込まれる二人だが、逆万引きの本に載っていた猫返しの歌によって猫たちを飼い主の元に返すことに成功。カゲトラも皆川姉弟の元に帰り、猫の王の影響から抜け出たカゲトラは咲良の腕の中で眠るように息を引き取る。
董子はすずのかつての家族の菩提寺を探し出し墓参りをする。そこへ、老婆となった“おねえちゃん”が彼女の家族と一緒に現れる。「すずかい?」と名前を呼ばれた猫の王はおねえちゃんの胸に泣きながらとびこんでいき、それを見届けた董子とシズクはその場を去った。

花火大会に行くことになった董子たち。自分も行くとはしゃぐ蓮だが、その身体はもう崩壊寸前だった。祭りを楽しむ一行だが、花火の音と一緒に蓮の過去がフラッシュバックされ、パニックとなってしまう。
人気のないところで蓮を休ませるが、限界を迎えた蓮は影が薄れ存在自体が消滅しようとしていた。消滅する刹那、蓮の頬に董子がキスをし、董子のファーストキスの相手という関係性を結んだことによって蓮の存在を繋ぎとめる事が出来たのだった。

『怪異と乙女と神隠し』の登場人物・キャラクター

主要人物

緒川董子(おがわ すみれこ)

出典: x.com

みどり書店につとめる書店員で、小説家の卵でもある。28歳。右の眼の下にほくろがある。ぱっと見地味女子な雰囲気を持つマロ眉の女性だが、本人は無自覚な色気とグラマラスな身体を持つ。文語調の口調が特徴的。
15歳の時に文芸クラブで書いた小説が新人賞を受賞し、書籍化し小説家デビューする。しかし、その後は小説を書き続け出版社に持ち込みをするものの、出版にまでは至っていない。小説家を諦めきれないまま、本の側にいたいと書店員として働いている。
勤める本屋で「逆万引き」の本を手に取り読んだ際、月読の変若水(つくよみのをちみず)の条件を満たしたことにより幼い頃の姿になる。蓮のアドバイスにより元の年齢の姿に戻るが、相性が良かったことから呪いが転移し定着、自身が変若人(をちびと)という怪異そのものとなり、年齢に沿った姿へと自由に変化する力を手に入れる。また、多少の損傷は変若人の力で修復することが可能。
ファーストキスを蓮に捧げたことで関係性を結び、蓮の存在をこの世界に繋ぎとめた。

化野蓮(あだしの れん)

出典: x.com

董子の同僚で、不思議な雰囲気をまとう怪しい少年。職場では董子以外にはあまりしゃべらない。怪異からは「神隠し」、きさらぎ駅の駅係員からは「人間ですらない紛い物の化物」と呼ばれていた。
怪異と対峙すると細目を見開くが、ぐるぐるとした不気味な目をしている。その目で視る力によって、相手に因果応報を受けさせることが出来るが、自身へのダメージも大きい。
また、匂いを嗅ぐことで、怪異や呪物の判別をしているようである。
実は異世界からの漂流ののち、この世界にたどり着いた。同じく異世界から迷い込んだ乙を元の世界に帰すための切符を求めて、怪異を集めてはきさらぎ駅の駅員と交換交渉をしている様子。
作家・緒川董子のファンであると本人に公言している。熟女好きであり、団地妻に関する本を所持している。
視る力を使用したこと、猫の王の部下たちからの攻撃を受けたことによるダメージ等の蓄積によって、存在が消滅の寸前であったが董子と新しく結んだ関係性により助けられる。

化野乙(あだしの おと)

出典: x.com

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