ボーイズ・オン・ザ・ラン(花沢健吾)のネタバレ解説・考察まとめ
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』とは花沢健吾により2005年から2008年まで『ビッグコミックスピリッツ』で連載された青年漫画作品。2010年に映画、2012年にテレビドラマにて実写化されている。弱小玩具メーカーに勤める平凡なサラリーマンの田西敏行が残酷な現実、理不尽な恋愛に翻弄され、もがき苦しみながら自身の人生を見つめ直し成長していく姿を描いた物語。男性層からの支持が厚く、『この漫画はすごい!2007・オトコ版』(宝島社発行)では7位にランクインした。
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の概要
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』とは花沢健吾により2005年から2008年まで『ビッグコミックスピリッツ』で連載された青年漫画作品である。単行本は全10巻。
『この漫画はすごい!2007・オトコ版』(宝島社発行)で7位にランクイン、2010年に映画、2012年にテレビドラマにて実写化されている。
作者の花沢健吾は青森県出身の漫画家であり、2004年に『ルサンチマン』(ビッグコミックスピリッツ)でデビュー。同作にて2005年度 センス・オブ・ジェンダー賞で話題賞を受賞した。非モテ、ヘタレのさえない平凡な青年を主人公とする作風が多く、他の作品として『アイ・アム・ア・ヒーロー』などを発表している。
弱小玩具メーカーに勤める平凡なサラリーマンの田西敏行(たにし としゆき)は彼女いない歴27年、実家暮らし、仕事では営業先に馬鹿にされるさえない青年。
会社の後輩、植村ちはる(うえむら ちはる)に淡い恋心を抱いているが何も行動に移せず、悶々とした日々を過ごしていた。
ある日、ライバル玩具メーカー・マンモスのエリート営業マン 青山貴博(あおやまたかひろ)の手ほどきでちはるをダブルデートに誘うことに成功。終電を逃し2人でホテルに泊まるが、何もしないままに朝を迎えた。
2人の距離は徐々に縮まっていくが、ある誤解をきっかけにちはるに決定的に嫌われてしまう。傷付いたちはるは青山と交際するが、弄ばれた末に捨てられる。
怒りに燃える田西は青山に決闘を申し込むが、ちはるの裏切りと圧倒的な実力差により返り討ちにされ「薄っぺらい」とこき下ろされてしまった。
会社を辞め自堕落な生活を続ける田西であったが、櫻田ボクシングジムでトレーナーをしていた大巌 花(おおいわ はな)との出会いをきっかけにボクシングを始める。花との交流やボクシングを通して人生の充実感を取り戻した田西は花との交際をスタートする。ようやく幸せを掴みかけたはずが、花が既婚者であることが判明。花の夫である大巌 源(おおいわ げん)は借金の返済のため花を差し出そうとするが、田西が傷だらけの身体で立ち向かう。
なんの取り柄もないサラリーマンが幸せを求めて幾度となくボロボロになりながら人生を走り抜ける姿を、厳しく理不尽な現実で表現したヒューマンドラマ。
キラキラしていない混沌とした恋愛模様や社会の理不尽さを乗り越えながら、主人公の青臭い熱意が人生を変えていく過程を綺麗事なしで描いたサラリーマン世代の青春漫画である。
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のあらすじ・ストーリー
ちはる編
27歳の誕生日、恋人のいない田西敏行(たにし としゆき)はテレクラで知り合った女性と一夜を共に過ごそうとするが、相手の容姿が許容できず最終的に逆上した女に追い回される。
会社の後輩、植村ちはる(うえむら ちはる)に淡い恋心を抱いているが何も行動に移せず、悶々とした日々を過ごしていた。うだつのあがらない日々を送っていた田西はある日、営業先でライバル会社・マンモスのイケメン営業マン・青山貴博(あおやまたかひろ)と意気投合する。青山の助言でちはるをダブルデートに誘うことに成功し、青山の計らいで2人きりになった後、終電を逃しホテルに泊まることに。「何もしない」と約束しながらも、関係をせまる田西にちはるは自身が処女だと打ち明ける。なぜか一緒にお風呂にまで入ってしまい、ちはるの裸に見てしまった田西は自身の欲望を抑えきれなくなり、SM道具で身体を拘束し約束を果たす。
翌朝、ちはるとホテルから出る際にテレクラで知り合った女と遭遇。連れのヤクザに絡まれ痛めつけられていたところを、偶然通りかかったボクシングジムのトレーナー 大巌 花(おおいわ はな)に助けられる。
何もできなかった田西は気まずさに耐えきれず、その場から逃げ出してしまう。自分の情けなさに落ち込む田西をちひろは心配し、追いかけて励ました。
謝罪し続ける田西をちひろはキスで勇気づける。
舞い上がった田西は少しでも男らしくなるために筋トレ・ランニングに励むが衰えた身体は変わらず、ダイエットも進まない。いつものさえない日常が始まる。
そんなある日、熱を出して会社を休んだちはるのお見舞いに行った田西は、ちはるの隣室に住むソープ嬢のしほと出会う。しほは田西とちはるの仲をからかいながらも応援し、気を利かせて部屋から出ていく。ちはるの看病が終わった後、田西はアパートの前で酔いつぶれたしほの看病をする内に終電を逃す。しほの勧めもあり、田西はしほの部屋に泊まることになる。過ちを犯しそうになった田西はトイレで自身の暴走を収めようとするが、しほに見つかる。田西の様子を見たしほの誘いを必死の思いで断るも、元気になったちはるがしほの部屋に突然来訪。「田西のことが好きになった」としほに話すちはるは、暴発した下半身丸出しの田西を発見してしまう。
その後、田西とちはるの仲は険悪になり、冷たい態度をとられる状態となった。同僚の結婚式で釈明しようとするが、逆効果となり決定的にちはるに嫌われてしまう。
ケンカ修行編
ちはるを傷つけたと落ち込む田西であったが、青山としほからちはると話すよう諭される。そして、休日出勤のため秋葉原を歩いていると、偶然にも腕を組んで歩くちはると青山に遭遇。ちはるから青山と付き合っていることを聞き、落ち込む。車内でちはるから田西へ対する苦情を聞き、ちはるに謝罪した。
クリスマス・イブとなり、同僚とのクリスマス会で青山の考案したマンモスの新商品「48手ちゃん」が大ヒットしていることを聞く。元はちはるが考案した企画であったが、青山に情報を漏らしたためにマンモスに企画を奪われてしまう。企画を流した罪悪感や失恋のショックからちはるは自ら情報流出を社長へ報告し、退社予定であることが判明。田西は社長へ退社の撤回を直談判するが、本人の希望であることから聞き入れてもらえなかった。
その後、江の島で会社の新年会が行われた際に、田西はちはるから青山に振られたこと、妊娠していることを告白される。中絶手術には男性側の同意が必要だが、青山とは連絡がとれず田西が代役としてサインをする。
ちはるを弄ばれた怒りを抑えきれない田西の元に、青山の代理で中絶手術を手伝うために青山の同僚の長谷川茜が訪れる。
あまりに誠意のない態度に田西は青山へ宣戦布告。1度も挫折したことのないエリート青山と、挫折から逃げ続けてきたダメ人間 田西の闘いが始まる。
青山との決闘を決意した田西は会社からマンモスへ電話し、青山へ宣戦布告する。大人の対応で小馬鹿にする青山に対し、社長は「首にしないから安心しろ」とエールを送る。
社長からお墨付きをもらった田西であったが、ケンカの経験もなく負け戦になることは誰の目にも明らかであった。そんな時、会社でいつも酔っ払って居眠りしている鈴木さんから声をかけられる。鈴木さんは元ボクサーで、社長の計らいで田西は戦い方を教わることになった。
不良高校生とのケンカやボクシング観戦を通して田西はケンカの仕方を鈴木さんから学び、青山を倒す必殺技「サラリーマンアッパー」を授けられる。
2週間のトレーニングを重ねるうちに、ちはるの退社の日がやってきた。送別会の最後に、田西は青山を倒した後に見送りにいくとちはるに宣言する。喧嘩をやめるよう忠告するちはると田西は意見が折り合わず、最後は喧嘩別れとなってしまう。
田西 VS 青山編
決意のモヒカン刈りをした田西は単身、マンモスへ乗り込む。長谷川茜の協力もあり社内へ入ったが、緊張のあまり腹痛を起こしてトイレに駆け込む。
トイレの中で偶然、青木の後輩である内木に遭遇し、内木もちはると関係をもっていたことを知る。怒りに燃える田西はサラリーマンアッパーで初めて人を殴り、内木を倒した。
マンモスのフロア内で田西は青山へ宣戦布告する。最初は相手にもされなかったが、ちはるの企画を盗んだことを責める田西はマンモスの部長とマンモス社員たちを怒らせてしまう。部長から業務命令として田西の喧嘩を買うよう指示された青山とマンモス社員たちと共に、田西は決戦の場所である公園へ向かう。
田西は練習を重ねたサラリーマンアッパーを繰り出そうとするも、すでにサラリーマンアッパーの情報はちはるから青山へ伝えられていた。ショックを受ける田西へ、青山は得意のカポエラを繰り出し痛めつけ続ける。
ちはるを侮辱する言葉を投げ続ける青山に逆上する田西であったが、手も足も出ない上に、「うすっぺらい」と今までの人生そのものを否定される。
失禁によってマウントポジションを返し、必死のアッパーを繰り出すも見事にかわされ、田西は完膚なきまでにKOされる。
決戦後、傷だらけの身体をおして田西はちはるの見送りへ向かう。ちはるは傷だらけの田西を気遣うが、最後には青山の安否を心配する言葉を投げかける。笑顔で見送る覚悟で来た田西であったが、くやしさのあまりちはるに「バキュームフェラできるんだって?」とひどい言葉を投げかけたままに別れを告げる。
最後までちはると噛み合わなかった田西は失意を胸に、ホームに1人取り残される。
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の登場人物・キャラクター
主要人物
田西 敏行(たにし としゆき)
公私ともにうだつのあがらないサラリーマン、家族構成は同居している両親と結婚して独立した兄がいる。年齢=彼女いない歴の素人童貞で、27歳の誕生日をテレクラで迎える。体系は中肉中背、運動を避け続けてきたため体力がなく、腹もたるんできている。好物は手羽先の唐揚げ。
弱小ガシャポンメーカーの斎田産業の営業部に所属。ガシャポンの激戦区、秋葉原を担当しているが優秀な先輩から引き継いだシェアの維持すらできていない。かといって焦りもなく、努力もせずに怠惰な日々を過ごしている。
大巌 花(おおいわ はな)
櫻田ボクシングジムのトレーナー。本職は美術系のヌードモデルをしている。金髪に染めた長髪と赤いジャージ姿がトレードマークの美女。花が目当てで櫻田ジムに入門する輩が多く、田西もその1人だった。
13歳の時に40度近い熱が2〜3日続き、突然聴覚を失う。中途失聴者であるため、言葉を話すことや音痴ながら歌も歌える。ジャージ姿が多いためわかりにくいが、実は巨乳。
既婚者で夫である大巌 源(おおいわ げん)とは別居状態。離婚届も記入済みだが源が行方不明のため離婚できないでいた。
ジムではトレーナーに専念しているが実戦での実力は高く、田西とちはるに絡むチンピラを退治している。ヤンキーの理不尽な言いがかりなどが嫌いで、毅然とした態度で抗議するためよく喧嘩の種となる。
植村 ちはる(うえむら ちはる)
田西が務める斎田産業の企画部に所属する女性社員、23歳。長野県出身。
斎田産業唯一の女性社員で、明るく人懐っこい性格のため斎田産業の看板娘として幅広い年代の社員たちに慕われている。ショートカットと八重歯がチャームポイントで優しい性格をしているが、ライバル会社であるマンモスに対抗心を燃やす仕事熱心で熱い一面も持つ。好物はビールで社内でも酒豪として知られている。
田西の熱心なアプローチに心惹かれるが、ちはるの看病にきた田西が隣室の風俗嬢の部屋で射精済みコンドームをつけている姿を発見したことをきっかけに田西と疎遠になる。その後、青山と交際を始めるが弄ばれ捨てられる。
純粋なようで小悪魔的な言動が徐々に増え、物語の後半では意図的に田西を誘惑し花との関係を破滅させる。
恋のライバル
青山 貴博(あおやま たかひろ)
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目次 - Contents
- 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の概要
- 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のあらすじ・ストーリー
- ちはる編
- ケンカ修行編
- 田西 VS 青山編
- 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 田西 敏行(たにし としゆき)
- 大巌 花(おおいわ はな)
- 植村 ちはる(うえむら ちはる)
- 恋のライバル
- 青山 貴博(あおやま たかひろ)
- マンモスの社員
- 長谷川茜(はせがわ あかね)
- 内木(ないき)
- 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の用語
- 斎田産業
- 株式会社マンモス
- 櫻田ボクシングジム
- 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 田西 敏行「よく聞けっ!!メス豚ども!俺だって一度も挫折した事ねーぞっ!俺がっ、挫折する前に逃げ続けてきた俺が、挫折っ、させてやるっ!!!」
- 田西 敏行「ここで逃げたら、俺、一生逃げ出しそうで」「俺はなんで、走るんだ」
- 青山 貴博「何もしてこなかったやつが、勝てるわけないんだよ。うすっぺらなんだよ、あんた」
- 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 作中のストーリーは実話が元ネタ
- マンモスのモデルは「バンダイ」
- 櫻田ボクシングジムのモデルは実在する「斉田ボクシングジム」