大家さんと僕(漫画・アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『大家さんと僕』とは、お笑い芸人である矢部太郎が描く8コマストーリーで構成されたエッセイ漫画。「第22回手塚治虫文化賞短編賞」を受賞。2020年にNHK総合テレビでショートアニメ化もされた。「僕」はマンションを追い出され、ひょんなことから87歳の「大家さん」が住む木造一軒家の2階を間借りすることになる。世話焼きで上品な大家さんと「僕」の「不思議な2人暮らし」をハートフルに描く。

『大家さんと僕』の概要

『大家さんと僕』とはお笑い芸人である「矢部太郎」が、自身の体験をもとに描いたエッセイ漫画およびそれを原作としたアニメ作品。『小説新潮』にて、2016年4月号から2017年6月号にかけて掲載された、矢部太郎の漫画家デビュー作品である。第22回「手塚治虫文化賞」の「短編賞」や「ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR」2018を受賞。また、「オリコン年間BOOKランキング」のタレント本&コミックエッセイの部門で1位を獲得している。2020年にファンワークスによりアニメ化もされ、NHK総合テレビにて全15話放送された。続編に『大家さんと僕 これから』、『「大家さんと僕」と僕』という続編漫画も出版されている。また、本作がベストセラーになった後の顛末を書き下ろした漫画や著名人からのメッセージやイラストを収録した番外編もある。

ある日、39歳の「僕」は住んでいたマンションを追い出されしまう。ひょんなことから「僕」は、87歳の「大家さん」が1人暮らししている木造住宅の2階を間借りすることになる。世話焼きで上品な物腰の大家さんに、戸惑う「僕」だったが、大家さんのひととなりを知るにつれ、親しくなっていく。こうして「不思議な2人暮らし」がはじまった。 東京の片隅で息づくユーモラスでハートフルなショートストーリの数々に多くの読者も共感した、 優しい気持ちにさせてくれる作品である。

『大家さんと僕』のあらすじ・ストーリー

「僕」と大家さんの出会い

兄の大好物だったうな重を「僕」(右)に差し出す大家さん(左)。

「矢部太郎(やべたろう)」こと「僕」はいまいちパッとしないお笑い芸人だった。あまり売れていないので仕事も選べず、時には仕事で自宅をめちゃくちゃに荒らされることもあった。「僕」はそれが原因で住んでいたマンションを追い出されることになってしまう。引っ越しを余儀なくされた「僕」は、東京新宿区のとある一軒家を不動産屋から紹介される。そこは木造二階建て住居で、1階には高齢の大家さんが1人で暮らしていた。大家さんは「ごきげんよう」と挨拶をしたり物腰が柔らかったりと、とても上品なご婦人で、さらに世話焼きな人だった。「僕」の洗濯物を勝手に取り込んでくれていたり、帰宅のお帰りコールをしてくれたりと、とにかく「僕」に世話を焼き、気遣ってくれる。そんな大家さんに当初は戸惑っていた「僕」だったが、そんな生活にも慣れていった。住み始めて1か月たったある日のこと、「僕」は大家さんに食事に誘われる。「僕」といろいろ話がしたいというのだ。「僕」が「忙しい」と言って断ると大家さんはうな重の箱を「僕」に手渡してきた。それからまたひと月後、大家さんはまた「僕」にうな重を手渡した。うな重は大家さんの兄の好物だったもので、月命日に毎回うな重をお供えしているようだった。
「僕」が住んでいた部屋にはかつて大家さんの兄が住んでいたそうで、「『僕』には何か不思議なご縁を感じるのだ」と大家さんは語る。

個性的な大家さん

ある日「僕」は大家さんにお茶に誘われる。大家さんの部屋はピカピカで掃除が行き届いており、「僕」は違う時代に来たような感じがした。大家さんは87歳と高齢ながら1人でなんでもこなして生活しているらしい。やせている「僕」を見た大家さんは「ちゃんとたべてるの?」と心配したあと「矢部さんをみているとなぜ日本が負けたかわかる気がするわ」と独特のジョークを披露する。「僕」が独り身であると知ると、近所に住む知り合いの女性を紹介されそうになった。その女性は大家さんより、ふたまわり年下という。推定60歳の女性を紹介され「僕」は困惑したが、その女性が留守だったので事なきをえた。また「僕」は合コンに行ったときの話を大家さんに話した。合コンの際、赤いボーダー柄の服を着ていた「僕」を見たある女の子に、「ホラー漫画家の『楳図かずお』みたい」と言われたエピソードを語る。しかし、大家さんには「楳図かずお」が誰なのかわからない。大家さんにもわかるようなジョークを言おうと、「僕」は「帰ってまいりました」と敬礼して残留日本兵の「横井庄一」のモノマネをしてみせる。「横井庄一」の事は知っていたがそのモノマネをみても大家さんの反応は薄く、ジョークとして見てもらえない。大家さんと僕はいろいろズレていた。

大家さんの過去

ある日「僕」は、大家さんに「おやき」をおすそ分けされる。戦時中に長野に疎開していた時、知り合いから頂いたものらしい。「僕」は自室でおやきをたべながら勝手な想像をする。きっと大家さんは戦時中はおやきくらいしか食べるものがなかったのだろう、おやきは思い出の味に違いない。「僕」は大家さんの戦時中の話に興味がわき、大家さんを訪ねることにした。しかし、大家さんは戦時中はおやきを食べていないという。疎開中は食べ物がなくて、両親から食べ物を送られてきても、疎開先の親戚が食べてしまったそうだ。疎開先は言葉も違うので、大家さんは周りに合わせて方言を覚えようとした。しかし、友達は「そのままでいいよ」と言ってくれたのだという。その時の友達とは今でも交友が続いている。おやきもその友人が送ってくれた。その話を聞いて「僕」はやはり思い出の味でよかったのだと納得した。

「僕」と大家さんのケンカ

「僕」は芸人の仕事が珍しく忙しい時期があり、大家さんの食事の誘いを断り続けていた。そんなある日、自室の郵便受けに1通の手紙が残されていた。それは大家さんからの手紙で、「いつ頃、一緒に食事に行けるのか。一緒にデパートの日本料理屋に行ける日を楽しみに待っています」というような内容だった。大家さんは行く店も決めていて、「僕」との食事を生きがいのように感じているようだった。しかし、忙しい毎日を送る「僕」には、大家さんとの食事の付き合いも難しい。その理由の1つが大家さんの食事スタイルだ。大家さんは食事をするときも上品でゆったりとしている。料理を注文するときも、ゆっくりとお品書きを眺め品定めし、運ばれてきた料理の器をじっくりと眺め、ゆっくりよく噛んで食べる。一口で食べきれない物は持参したハサミで細かく切り分けたりもする。食事の後は喫茶店に立ち寄り紅茶を楽しみ、帰宅後はほうじ茶を楽しむ。大家さんとの食事は平均4時間で、それだけの時間をつくるのも「僕」には難しかった。久しぶりに大家さんと食事することになった日、「僕」は少し疲れていた。食事の席で大家さんが「お米ってたくさんで炊くとおいしいわよね」という話になった。「僕」は「お米はたくさん炊いても、少なく炊いてもおいしさは変わらない」と答える。大家さんは「家でお米を1合だけ炊くよりおいしい」と言う。だが「僕」は「それは気のせいだ。迷信だ」と少し冷たくあしらった。たくさん炊こうが米は米。物理的に同じでおいしさは変わらない、と譲らない。それでも「たくさん炊いたほうがおいしい」と大家さんも譲らなかった。帰路につくタクシーの車内は、お互い終始無言だった。帰宅後、「僕」は改めて大家さんの「お米をたくさん炊いた方がおいしい」という言葉について考えてみる。それは「大勢で食べたほうがおいしい」ということなのではないだろうか。大家さんは1人暮らしでいつも食事は一人だ。だから「僕」との食事も楽しみで、ごはんがおいしく感じたのだろう。「だとしたら言い過ぎたかもしれない」と「僕」は後悔した。よくよくスマホで「たくさんお米を炊くとおいしくなるのか」と検索して調べてみると、実際おいしくなるという事が判明した。「たくさん炊いてもおいしさは変わらない」と頑として譲らなかった自分の意見が間違っていたことに赤面し、恥ずかしさに身もだえしてしまう。すぐに「僕」は、たくさんお米を炊くとおいしくなるのは本当だったことを大家さんに伝えた。罰が悪そうに「僕」がもじもじしていると、大家さんはいつものようにお茶を出し、家に招き入れるのだった。

思い出のスーツケース

若い頃のフランス旅行の思い出を語ってくれた大家さんは、「僕」の海外旅行の話を聞きたいといってきた。大家さんの豪華な海外旅行の思い出に比べ、「僕」の海外旅行は上品なものではなかった。パンツ一丁の姿でパリのエッフェル塔の前で胴上げされたり、モンゴルでヤギの去勢をしたりと、おかしな思い出ばかりだ。上品な大家さんに話せるような海外旅行の話ではない。大家さんは「若いし、これからね」と言って「僕」のために赤いスーツケースを出してきた。それは赤くて大きな古びたスーツケースだった。そのスーツケースの中には新聞紙に包まれたサザエの絵が入っていた。それはかつて大家さんの夫であった人が描いたもので、このサザエは大家さんなのだという。60年ほど前の古い絵で、絵の裏には大家さんに対するメッセージが書いてあると夫から聞いていた。しかし、実際には何も書かれておらず、大家さんは一言「結婚て難しいわね」と言った。絵を描いてくれた夫とはすぐに離婚している。赤スーツケースはその後、「僕」と共にいくつかの国をまわり、今はキャスターが壊れて「僕」の自宅の箪笥替わりに使われている。

大家さんの「終活」

大家さんは「僕」に対してよくおすそ分けをする。ある日もスイカをおすそ分けするために、切り分けたお皿ごともらってほしいといわれる。大家さんは自分が死ぬまでにできるだけ物を減らしたいのだという。「僕」のもとには大家さんから頂いたお皿が何枚もたまっていった。ある日も大家さんは遺品の整理をしていた。過去に撮ったポラロイド写真に、もらってほしい人の名前を書きそえている。写真は書き添えた人に渡すつもりだ。大家さんは「僕」にもいくつか遺品をもらってほしいと頼んだりする。お葬式もすでに頼んであるようで、遺影の写真をえらんだりもしていた。
ある日「僕」は、とある芸人との飲みの席で大家さんの話になった際、その芸人に「その物件は当たりだ」と言われる。「1KB(キッチン、ばばあつき)」とひどい言いようだが、遺産も入るだろうからとうらやましがられる始末。「僕」はその品のなさに嫌気がさしてしまった。
次の日の夜、自宅に帰ると真っ暗で、郵便受けには夕刊が残っていた。「大家さんがいない」と何かを察した「僕」は不動産屋さんに連絡する。しかし、大家さんから長期の旅行などの連絡は受けていないということが分かった。元気そうだったので病気で入院している等も考えにくい。とはいえ高齢なのでいつ「その時」がおとずれるともわからない。大家さんに連絡をとってみたが、大家さんの住む1階から着信音が鳴った。「僕」は、「大家さんが孤独死してしまったのかもしれない」と悪い妄想をしてしまう。「遺産を半分おすそわけします」と書かれた遺言状が頭にちらついてしまう。次の日、不動産屋さんが立ち合いの元、大家さんの部屋に入ることになった。その時、大家さんが帰宅する。女学校時代の友達が久しぶりに上京したので会ってきたらしい。話が盛り上がり、そのままホテルに泊まってしまったとのこと。それは「僕」が知る限り最高齢の朝帰りだった。

『大家さんと僕』の登場人物・キャラクター

僕/矢部太郎(やべたろう)

CV:上川周作
本作の主人公。名前は「矢部太郎」で「カラテカ」というお笑いコンビをしている。身体は痩せていて小柄。売れないお笑い芸人であり、暇だったり仕事を選べない。仕事柄番組の企画で自宅を襲撃されめちゃくちゃにされることもあって、以前住んでいたマンションから追い出されることになる。物静かで真面目な人柄。大家さんからは「矢部さん」といわれている。

大家さん

CV: 渡辺菜生子
「僕」が不動産屋から紹介された住居の1階に住む1人暮らしの老婆。高齢ながらもたった1人で自分の身の回りのことをすべてこなす。上品な性格で、挨拶は「ごきげんよう」。わざわざタクシーでデパートに行き、明太子を買ってくるなど、裕福な育ちを感じさせる。小柄な「僕」よりもさらに小さい。なにかと「僕」を気遣い、世話を焼いてくれる。

大家さんの兄

gita-31505
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@gita-31505

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