ダルちゃん(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ダルちゃん』とは、漫画家・はるな檸檬により資生堂のwebメディア『花椿』で2017年10月~2018年10月にかけて連載され、2018年に小学館から単行本が発刊されたコミック作品である。コミック作品としてはじめて「新井賞」を受賞したことで話題となった。「ダルダル星人」という本当の姿を隠し、ごく普通の派遣OL・丸山成美に〈擬態〉して生きる主人公・ダルちゃんが、詩作を通じて本当の自分や幸福を見つけていく過程が描かれる物語である。女性が抱える生きづらさを扱い、多くの人の共感を集めた。

飲み会でスギタさんの侮辱的な発言を笑いながら聞き続けていたダルちゃんに対して、サトウさんがかけた言葉。サトウさんは、スギタさんが「女だから、事務職だからという理由だけでダルちゃんを見下して気持ちよくなっていた」と指摘し、そんなスギタさんの言葉を笑って聞いていたダルちゃんに「あんなふうに自分を扱って欲しくない」と説教をした。
「あなたの尊厳を踏みにじる奴らにあんな風に笑いかけたらダメだよ。簡単につけこまれて人生を支配されちゃうよ」というサトウさんの厳しい言葉に最初は反発を覚えるダルちゃんだったが、のちにこの言葉はサトウさんの過去の辛い経験から来たもので、かつての自分のように振る舞うダルちゃん放っておけなかったからだと分かる。

コウダさん「普通の人なんてこの世に一人もいないんだよ。存在しないまぼろしを幸福の鍵だなんて思ってはいけないよ」

「自分は普通じゃないから幸せになれない」と涙を流すダルちゃんに対して、コウダさんがかけた言葉。
今までごく普通の人間に〈擬態〉しようと並々ならない努力をしながらも上手くいかずに傷ついてきたダルちゃんは、ダルダル星人の姿を隠そうとしないコウダさんに「そんなの普通じゃない」と怒りすら滲ませる。しかしコウダさんはそんなダルちゃんに「普通の人なんてこの世に一人もいないんだよ。存在しないまぼろしを幸福の鍵だなんて思ってはいけないよ」と諭す。
その言葉にダルちゃんは衝撃を受けるが、この時受けた衝撃が中断していた詩作を再開するきっかけとなる。

ダルちゃん「私を幸せにするのは私しかいないの」

ダルちゃんがヒロセさんに別れを告げる際に言った言葉。ヒロセさんと一緒にいるために一度は詩作をやめる決意をしたダルちゃんだったが、詩で自分自身を表現することこそが自分の幸せだと再認識する。
ダルちゃんは、ヒロセさんと幸せになるために何をしたらいいかをずっと考えていたが、そもそも自分以外の誰かを幸せにできるかもしれないと思うことが傲慢だったと気づく。美術館デートの際に、ダルちゃんはヒロセさんに「私にできることは自分を幸せにする、それだけなの。私を幸せにするのは私しかいないの」と伝えて別れを切り出す。ヒロセさんは、そんなダルちゃんの今の表情が「とても素敵だ」と伝え、別れを受け入れるのだった。
これまで周囲の人に合わせることばかり考えてきたダルちゃんが、はじめて自分の幸せを第一優先に考えたからこそ出た言葉であり、ダルちゃんの成長が感じられる。

『ダルちゃん』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

書店員が独断で選ぶ文学賞「新井賞」を受賞

「新井賞」は、三省堂書店有楽町店に勤務する書店員・新井見枝香氏が、店頭での販促を兼ねて「個人的に推したい」と思った本を直木賞、芥川賞と同日に選定するという文学賞である。一介の書店員が独断で選ぶ文学賞だが、受賞作は直木賞、芥川賞を上回る売り上げを見せるとして注目されている。
2014年から開始され、第1回は千早茜による小説『男ともだち』が受賞している。その後も文学作品ばかりが選定されていたが、第9回受賞作となった『ダルちゃん』は新井賞の中では異例と言えるコミック作品であった。新井見枝香氏は「新井賞が小説じゃなきゃいけないなんて誰が決めたよ」とツイッターに投稿し、大きな話題となった。

「詩を書く女の子」のイメージから物語がスタート

『ダルちゃん』は、資生堂のWebメディア『花椿』にて連載された作品である。連載開始前、作者・はるな檸檬は「当メディアでは詩を公募しており、普通の主婦やOLがとても熱心に応募している」という担当者の話を聞いて、「詩を書くことは社会には見せていない自分を表現したい気持ちの表れなのだろう」と感じ、感銘を受けた。そこから「詩を書く女の子の話にしよう」という着想を得て、物語のアウトラインだけ考えて連載がスタートした。
細部を決めずにスタートしたことで登場人物たちが命を得たように動き出し、「ダルちゃんがサトウさんを嫌いになる」というエピソードは作者にとっても予想外だったという。

ダルちゃんの詩は作者・はるな檸檬の自作

作中に登場するダルちゃんの詩は、作者のはるな檸檬が自ら書いたものである。
美大生時代には自身の絵に詩を書いて添えていたこともあったというはるな檸檬は、「詩の完成度よりもダルちゃんの場面場面での心情が伝わりやすいように書いた」と語っている。

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