夢中さ、きみに。(漫画・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『夢中さ、きみに。』とは2019年にKADOKAWAから発売された和山やまによる漫画及び実写ドラマ作品。本書はWeb上で話題となり、1カ月で3刷を重ねた。作者にとっては商業デビュー1作目となり、すぐに完売となった同人誌に30ページ以上の描き下ろしを収録している。不思議な魅力を持つ少年・林を取り巻く人間関係を描いた表題作『夢中さ、きみに。』シリーズと、pixivで発表された、不気味な風貌と妙な噂の立つ二階堂のことが気になってしまう目高との友情を描いた『うしろの二階堂』シリーズを収録。

『夢中さ、きみに。』の概要

『夢中さ、きみに。』とは2019年にKADOKAWAから発売された和山やまによる漫画及び実写ドラマ作品。2020年4月「第24回 手塚治虫文化賞 短編賞」を受賞した。また、2020年3月には「第23回文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 新人賞」のダブル受賞となった。不思議な魅力を持つ少年・林を取り巻く人間関係を描いた表題作『夢中さ、きみに。』シリーズと、pixivで発表された、不気味な風貌と妙な噂の立つ二階堂のことが気になってしまう『うしろの二階堂』シリーズを収録。2021年1月には大西流星主演でテレビドラマ化され、同年3月に梶裕貴と小野賢章により朗読劇化された。運動会での借り物競走をきっかけに自分がかわいいか聞いてくるようになってしまった『かわいい人』、コミュニケーションを取ることが苦手な男女が、SNSでの交流から友情を深めることになる『友達になってくれませんか』など、何故か気になる男子高校生・林を中心とした『夢中さ、君に。』シリーズ。そして不気味な風貌に妙な噂で有名な二階堂がうしろの席になったことから深まる奇妙な友情を描いた『うしろの二階堂』シリーズを収録している。

『夢中さ、きみに。』のあらすじ・ストーリー

かわいい人

江間 譲二(えま じょうじ)は運動会の借り物競争で「かわいい人」というお題を引いてしまう。中高一貫の男子校に通っているため、適当に対応しようとしたところ、視界に入った網に絡まった林 美良(はやし みよし)が気になる。本人に尋ねると、障害物競走から取れないので、そのままになっていると言う。なんだか面倒になり、江間は林を「かわいい人」としてゴールに連れてきた。ゴール後のインタビューで林のどんな所がかわいいのか問われ、江間は「なんかパリコレっぽいところが…」と回答した。それから1ヶ月経っても、林は江間に「僕かわいい?」と事あるごとに絡むようになってしまったのである。江間は林に対してかわいいと言うより、変な奴という印象を持っている。例えば、授業中に『クマと遭遇したら』という本を読んでいたり、学校全ての階段を1人で数えて回っていたりするからである。ある日の休日、家で妹の面倒を見ていた江間は、玄関のチャイムが鳴ったことで母親から対応を求められる。玄関に出ると、そこにはパンダの着ぐるみを着た林の姿があった。林曰く実家の中華料理屋が30周年を迎えるにあたり、商店街でクーポン配りをさせられている。着ぐるみを着た林を子供達が攻撃するため避難してきたと言う。江間は林の実家が中華料理屋であることに驚いていると、林は黙って店の半額クーポンを差し出すのだった。「気をつけて 職質されんなよ」と見送る江間に林は「もう2回された」と答え、江間は思わず笑ってしまう。つられて林も笑い声を上げるが、パンダの着ぐるみのせいで顔が見えない。江間はどんな顔で笑うのか気になってしまう。手を振る林にかわいいな、と感じてしまう江間は慌てて、パンダがかわいいのだと自分の気持ちを否定するのだった。

友達になってくれませんか

松屋 めぐみ(まつや めぐみ)は『鉄と鉄』という本を読了し、SNSで感想を上げた。珍しくすぐに返信の通知が来たことからSNSを確認すると、「仮釈放」を名乗る人物から自分も『鉄と鉄』がお気に入りの1冊であることが記載されていた。「仮釈放」とはどんな人物か気になり、松屋は「仮釈放」のアカウントを見に行くと、1文字1文字画像を集めて単語を作っては投稿している人物であった。松屋はそれがしりとりになっているだけでなく、自分の住んでいるN区に存在する文字だと気づく。知り合ったばかりで図々しいか気になりつつも、「仮釈放」にN区民であるか尋ねる。すると「仮釈放」からそうだと返信がくる。どこかですれ違うかもしれないと言う「仮釈放」に、松屋は顔も知らないのに、すれ違ってもわからないと笑うのだった。しかし翌日、バスを待つ松屋は看板を連写する男子高校生を目撃する。彼が「仮釈放」だと確信した松屋は思い切って声をかけたのだった。場所を移して、公園のベンチに2人は座っていた。お互いが近くの別の高校に通っていたこと、「仮釈放」の本名が林であることを会話の中で知った松屋は、思い切って「友達になってくれませんか?」と林に告げる。林は暫し沈黙した後、「…それは承諾しかねます」と回答した。ショックを受けた松屋は突然の申し出を詫び、その場を後にする。その夜、落ち込む松屋は気分を変えるために、昨日読み終えたばかりの『鉄と鉄』を読み返していた。そこで彼女は林の「それは承諾しかねます」と言った台詞が作中のものであることに気づく。図らずも「友達になってくれませんか?」と『鉄と鉄』の台詞を言った松屋に対して、林も作中の台詞で返事したのかもしれない。そう考えた松屋は作中で続く、「じゃあ…また会いにきてもいいですか?」ともし言ったら、林も作中の通り「喜んで」と答えたのかと夢想するのだった。翌朝、バスに揺られながら昨夜のことが頭から離れない松屋は、何気なく林のアカウントを見に行く。すると林はいつも通り、1文字1文字画像を集めて、単語を作る新作を投稿していた。松屋はそれが「松屋さん また会いにきてもいいですか」と書かれていることに気づき、車内で思わず「喜んで!」と叫んでしまう。その画像投稿にそのまま「喜んで」と返信することも可能だったが、松屋はバスを降り、あえて文字の画像を探し始める。「ろ」の文字を探すのに苦戦しているところ、林が通りかかる。「ろなら向こうの掲示板にあります」と言う林に松屋は思わず笑ってしまうのだった。

描く派

小松 豊(こまつ ゆたか)は学生を対象にした区の絵画コンクールに向け、肖像画を描くためにモデルを探していた。学校のベランダからなんとなしに見えた干し芋を作る林をスケッチしていたところ、彼が自分のキャンバスを土台にして干し芋を作っていることに気づく。小松はこれ幸いと、林の元へ押しかけキャンバスを進呈する代わりに、絵のモデルになってほしいと頼み込む。林は実家の中華料理屋のメニュー表のイラストを担当しており、自分はどちらかといえば描く派だと主張するが、モデルを引き受ける。3週間かけて小松は林の肖像画を描き上げる。以前大きなキャンバスに描いてみたいと言っていた林のため、小松は敢えて絵に余白を作っていた。林がその余白に絵を描くことで完成すると、小松は林に絵を託す。林はそこに小松の絵を描く後ろ姿を描いた。それは美術室の窓に写った小松の姿で、モデルとなっていた林が自分が描かれている間ずっと見ていた風景だった。絵は惜しくも落選する。林は「小松くんが良い絵を描けたと思ったら あれはいい絵じゃないの?」と言葉をかける。それを聞いて、小松は「俺部門最優秀賞です!」と笑うのだった。

走れ山田!

山田 章太郎(やまだ しょうたろう)は先輩の妹尾 正広(せのお まさひろ)に毎日売店に自費で弁当を買いに行かされている。今日も授業が終わる少し前に、妹尾が窓から「走れ山田!」と叫ぶため、授業をこっそり抜け出し山田は売店に走っている。パシリをさせられていることに反抗も出来ない自分を情けなく思っていた。ある日、山田はトイレで財布を拾う。それは憎き先輩の妹尾のものであった。毎日自分に弁当を奢らせているくせに、財布にはお金が十分入っていることに山田は怒りを覚える。抜き取ってやろうかとも考えたが、結局何もせずにそのまま事務局に届ける。事務局の女性から「きっといいことがかえってくるよ」と言われるが、山田は複雑な心境であった。別の日、またもやパシらされた山田は妹尾から弁当の酢豚にパイナップルが入ってないことにキレられ、腹に蹴りを入れられてしまう。そしてそんな山田と妹尾を階段の上から何もせずに眺めている男子生徒がいることに、山田は理不尽さを感じてしまう。翌日、蹴りの痛みが消えていない中、妹尾に昼食を持参した山田はカフェオレをうっかり買い忘れてしまう。また蹴られるかと思った山田だったが、怒り狂う妹尾に突如液体が降り注ぐ。最後に妹尾の頭に当たったのはカフェオレの空のペットボトルだった。山田だけはそれがいつも傍観していた男子生徒の仕業ではないかと考えていた。別の日、山田は財布を失くしてしまう。校内の思い当たる場所を探すも財布は見つからない。弁当も買えずフラフラと妹尾の元に向かう山田に、妹尾の「走れ山田!」と言う怒号が飛ぶ。その怒鳴り声を聞きながら、山田は事務局の女性に「いいことがかえってくるよ」と言われたことを思い出していた。「いいことなんて ただ待っていてもダメだよな」そう感じた山田は、勢いそのまま妹尾に掴みかかり今までの不満をぶちまける。言うだけ言って山田はその場を後にし、妹尾へ弁当を買いに行くのは今日限りだと決意するのだった。教室へと戻るすがら、山田は自分たちを階段の上から眺めていた男子生徒を発見する。それは2年2組の林であった。山田が昨日のことを話すと、林は山田の意に反して昨日の行いは「あまり気持ちのいいものではないね」と語る。釈然としないまま廊下に出る山田の耳に、落とした財布を取りに来るよう校内放送がかかる。山田は少し明るい顔になり、廊下を走るのだった。

うしろの二階堂

戸塚高校2年に進級した目高は憂鬱だった。後ろの席が二階堂だったからだ。二階堂は不気味なオーラを放っている男子生徒で、「目が合うと酷い目に遭う」と、まことしやかに噂されているのである。目高は、なるべく二階堂と関わらずに日々を過ごそうと決意していたが、校内清掃で二階堂と同じトイレ清掃の担当となってしまう。逃げられないならば、と清掃中に思い切って話しかけるも二階堂に無碍にされてしまう。翌日の授業中、目高から二階堂へプリントを受け渡す際、二階堂の受取が早かったことから、目高は指を紙で切ってしまう。指から血が流れるのを見た二階堂は顔面蒼白になり、注意しようとした目高は何でもないと血を隠す。「昨日の清掃中に二階堂に話しかけた呪いだ」と思いながら帰路につく目高に、小学校の頃の同級生の女子・佐藤が声をかけてきた。バスを待つ間、話をしていると佐藤の口から二階堂の話題が出る。佐藤と二階堂は中学が同じだったのだ。話しているうちに2人の二階堂に対する人物像が全く異なることに目高は気づく。目高は二階堂のことをホラー漫画の登場人物のようだと感じている一方、佐藤は少女漫画の王子様のようだと言うのだ。2人の認識の違いに佐藤は中学のあるエピソードを思いつく。それはバレンタインデーの日、二階堂のロッカーにチョコに混じって使用済みのナプキンが紛れていたというのだ。二階堂はショックのあまり1週間ほど学校を休んでしまったという。その後、目高は佐藤とLINEを交換して別れる。佐藤はその夜、約束通り中学の卒業アルバムに載っている二階堂の写真を送ってきた。その写真を見て、目高は中学時代のような二階堂を見てみたいと考えるようになる。翌日、目高は自分の上履きに絆創膏を発見する。それが二階堂の仕業だと確信した目高は、人目もはばからず二階堂に話しかける。絆創膏の礼がしたいと言う目高に対して、絆創膏では詫びが足りないと二階堂は主張する。「ではもう一つ詫びを頂くための交渉をしよう」と目高は、二階堂をひと目の少ない外階段へと呼び出した。金銭を要求されるのかと考えた二階堂に対し、目高は突如変顔をしてみせる。突然のことに、二階堂は素の表情で笑ってしまう。それは中学時代の二階堂そのものだった。目高はわざと変人ぶらずに笑顔でいるよう助言するが、二階堂はバレンタインデー事件のこともあり人間関係に疲れていたためそれを拒否する。しかし二階堂に対する呪いの噂など信じず話しかけてくれたことからと、目高には少しだけ心を許したような仕草を見せるのだった。

おまけの二階堂

鐘亀高校(かねがめこうこう)に入学した二階堂は中学時に女子から受けたトラウマから、頭を丸めブレザーをズボンに入れる奇抜な格好で入学式に挑んだ。彼は女子ウケしたくなかったのである。式後、トイレを探して迷ってしまった二階堂は、寝坊し遅刻した目高と出くわす。黒縁眼鏡にボサボサ頭の目高を見て、二階堂は近づきたくないタイプだと感じてしまう。坊主頭では女子に好かれる可能性があると考えていた二階堂は、目高をヒントに気味悪く近づき難いキャラクターを形成することを決意する。実際2年に進学した二階堂は、誰もが恐れる人物となったのである。ある日掃除担当表から目の前の席の男子こそが自分の今のモデルである「師匠」であることに気づいたのであった。

うしろの二階堂 恐怖の修学旅行編

目高と二階堂は学校の修学旅行で、沖縄に来ていた。18時からのバーベキューまでの自由時間をクラスメート達が各々海で楽しむ中、二階堂はホテルへと戻った。不気味な存在として認識されている二階堂が海に入ると、クラスメートが海から出てしまうからである。理由を聞いた目高は二階堂の背中を見送ったのだった。ホテルの売店で二階堂は黒糖ソフトを発見し、テンションが上がる。ロビーで素の二階堂としてソフトクリームをほおばっていると、暑さに負けた同じ学校の女子達がやって来る。学校指定のジャージを着ていたため、二階堂は女子達に同じ学校であることがバレてしまう。しかし後ろ姿であったことから二階堂だとはバレていなかった。そこで、彼は眼鏡を外し、二階堂とバレず且つ「ふつう」に過ごそうと努める。ところが、アイドル並のイケメンである二階堂は「ふつう」に過ごしてしまうだけで、女子達の視線を釘付けにしてしまうのだった。女子達に名前と何組か尋ねられ、二階堂はとっさに「1組の鈴木」だと嘘をつく。ソフトクリームを食べ終えた二階堂はその場を後にしようとするが、女子達と一緒に写真を撮ろうと言われてしまう。その後も女子達に半ば強制的に部屋へと連れて行かれ、怪談大会に参加させられてしまった。宿泊しているホテルに幽霊が出ると聞き怖くなった二階堂はこっそり部屋を抜け出す。自室へ戻るも鍵は目高が持っていることに気づき、二階堂は絶望する。そこへ財布を忘れた目高が偶然戻ってきた。バーベキューの時間まで寝るから起こすように頼む目高に対し、二階堂は夕食には参加しないと言う。それならばと、目高は売店で食料を買い込み部屋でテレビを見ながらダラダラしようと提案する。修学旅行だから悪いことをしようと続ける目高に二階堂は賛同した。18時になり、肉の焼ける匂いが目高達の部屋にも漂ってきた。クラスメートのもとに行かないのか尋ねる二階堂に、目高は「二階堂は今楽しくない?俺は楽しいよ」と答えるのだった。後日、学校ではロビーにいた女子達が「1組の鈴木」を探していた。修学旅行中に撮った写真を現像したので、手渡したかったのだ。教室の前で「鈴木」を探す女子達に通りかかった目高が対応する。1組に「鈴木」は存在せず検討がつかない目高は、現像された写真を見せてもらった。そこには、素の二階堂が困ったようにピースする姿が収められていた。目高は女子達に「鈴木」はおらず、ホテルの幽霊ではないかと嘘をつくことにした。自席に戻った目高は、後ろの席に座る二階堂を「鈴木くん かわいく撮れてたよ」とからかうのだった。

『夢中さ、きみに。』の登場人物・キャラクター

林 美良(はやし みよし/演:大西流星)

中高一貫男子校・鐘亀高校に通う高校生2年生。小学生まで野球をやっていたが、ゴロが取れないため辞めた。実家はわかば商店街で30周年を迎える中華料理・福楽を営んでおり、メニュー表の絵を描いている。読書が好きなようで、授業中に『クマに遭遇したら』という本を読んでいたり、『鉄と鉄』という本がお気に入りで何度も読み返していると発言している。SNSのアカウント名は仮釈放で中学生の時のあだ名からきている。

江間 譲二(えま じょうじ/演:楽駆)

林と同じ2組で隣の席である。運動会での借り物競走がきっかけで林に絡まれる羽目になる。学校では前髪を上げているが、休日は下ろしている。弟と妹がおり、休日には遊びに付き合うこともある。

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