オオカミの家(アニメ映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『オオカミの家』とは、クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャによる、実在したカルト団体を題材としたストップモーションアニメ映画。日本では『ミッドサマー』の監督アリ・アスターが関わったプロモーションが注目を集め、ホラー映画やストップモーションが好きな層を中心にブームを起こした。同時上映の短編映画『骨』はアリ・アスターが製作総指揮を務めている。
2018年の「第68回ベルリン国際映画祭フォーラム部門」でカリガリ映画賞を、「第42回アヌシー国際アニメーション映画祭」で審査員賞を受賞した。
マリアが逃げてきた集落の意思そのものであり、家の外からマリアに呼びかける恐ろしいオオカミ。マリアを集落へ戻そうとする。
ペドロ
マリアが山奥の家で出会った子ブタ。マリアの魔法によって黒い髪を持った人間の男の子になり、マリアが教育と蜜を与えたことで金髪碧眼の男の子になる。
アナ
マリアが山奥の家で出会った子ブタ。ペドロ同様、マリアの魔法によって黒い髪の女の子になり、マリアの教育と蜜によって金髪碧眼の女の子になる。
『オオカミの家』の用語
蜜
『オオカミの家』の作中、マリアがやけどを負ったペドロとアナに与えた金色の蜜。映画の冒頭では集落で養蜂を行っている場面が登場するため、はちみつと思われる。
ペドロとアナを「神と瞳が黒く、話ができない不完全な人間」から「歌を歌える金髪碧眼の理想的な人間」に変身させるアイテム。マリアが内面化している集落の価値観の象徴でもある。
『オオカミの家』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
ペドロに昔話を聞かせるマリア
作中、人間の姿になったもののまだ人として不完全なペドロにマリアが昔話を聞かせる場面が登場する。昔話は「家と犬」について語る内容だ。
昔、ある家に犬が住んでいた。家は犬を深く愛し、守っていたが、犬は家のことなど気にもかけずに好きなことばかりしていた。あるとき犬は家から遠く離れた場所へと出かけていく。犬は家から離れたことで傷つき、疲れ果て、弱っていった。犬は自分が家に守られていたことを自覚し、家に帰りたいと願った。しかし家からあまりにも離れていたため、犬はそのまま死んでしまった。家は犬が離れていったこと、死んでしまったことを知って、深く深く悲しんだ。
強制労働や拷問に耐えかねて集落を逃げ出したマリアが、「共同体から離れないこと」を教える昔話をペドロに聞かせている。マリアがカルト団体の価値観を内面化していることを示すエピソードだ。
美しい歌
マリアの魔法によってペドロとアナは人間の形になり、マリアの献身と蜜(集落で生産されているはちみつ)によって金髪碧眼の美しい姿となる。マリアは2人が美しくなったことを喜び、3人で手を繋いで美しい歌を歌う。
一見すると物語上では特に意味のない、ただの演出に見えるシーンだが、『オオカミの家』のモチーフを踏まえると違った姿が見えてくる。コロニア・ディグニダはピノチェト政権下の権力者にとって、「理想のヨーロッパ的バカンスを楽しめるリゾート地」でもあった。彼らは美味しい料理とヨーロッパ風のホテル、そして金髪の少年少女たちが歌う美しい合唱を楽しんだ。「金髪碧眼の少年少女が歌う歌」にはコロニア・ディグニダにおいて、美しさや善性を象徴する意味がある。
集落の生活に耐えきれず逃げ出したマリアが、コロニア・ディグニダの価値観を内面化していることがわかる恐ろしい場面だ。
『オオカミの家』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
チリに実在したカルト団体「コロニア・ディグニダ」
『オオカミの家』の題材となったのは、クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャが生まれたチリにあったカルト団体、「コロニア・ディグニダ」だ。ヒトラーを信奉していたドイツ人、パウル・シェーファーが設立し、ピノチェト軍事政権の保護を受けながら40年以上にわたり洗脳、強制労働、拷問、殺人、児童虐待、兵器の製造などを行っていた。パウル・シェーファーはピノチェト政権崩壊後に逮捕されたが、団体は名前を「ビジャ・バビエラ」に変えてホテル経営などを続けている。
被害者の体験と精神的に繋がった映画
出典: natalie.mu
コロニア・ディグニダを描いた映画は、エマ・ワトソン主演の『コロニア』をはじめとした多くの作品が知られている。『オオカミの家』はそれらの作品と違ってコロニア・ディグニダの実態を暴くような内容ではなく、おとぎ話の体裁を取っているが、被害者と関わってきた人物から「彼らが話してくれたコロニア・ディグニダでの体験談と、感情的な部分でも環境的な部分でもかなり似ている」という言葉が出るほどその本質に接近している。