蜂の巣(峰倉かずや)のネタバレ解説・考察まとめ
『蜂の巣』とは『最遊記』の作者である峰倉かずやによるヒューマンドラマ漫画である。2003年発売の『月刊コミックZERO-SUM増刊WORD Vol.2』~2005年発売の同紙『Vol.7』まで掲載された。舞台は大震災を切っ掛けに治安悪化した日本。死体から臓器を抜き売買する「臓器荒らし」が横行する中、それを防ぐために保健所から葬迎員、通称「葬儀屋」と呼ばれる職員が遺体を回収していた。主人公の山崎祐介と相棒の陣内馨の葬儀屋として日常を描いている。独特な死生観で展開されるドラマに胸打たれる作品である。
葬迎員(そうげいいん)
治安悪化に伴い横行する臓器売買から、遺体を安全に回収して回る仕事。民間人からは葬儀屋、死神屋という別称で呼ばれて忌み嫌われている。作中では主に葬儀屋と呼ばれている。業務内容に見合わず給料は事務員と同じであるため、人気のない仕事である。葬迎車と呼ばれる棺桶を乗せる車を使用して回収に向かう。回収の最中に臓器荒らしに襲われることも珍しくないため、車は防弾仕様となっている。葬迎員は臓器荒らしへの対抗手段として銃の所持、発砲が許されている。
臓器荒らし
遺体の臓器を売りさばく人間、組織を指す言葉。臓器屋(オルガンや)と呼ばれることもある。治安悪化にともない死にたての遺体から健康な臓器を盗み取り売買することを生業とする人間が増えて、社会問題となっている。個人が臓器荒らしに臓器を売ることは違法である。個人の家から盗むこともあれば、葬迎車を襲って臓器を奪い取ろうとする場合もある。
13地区
山崎と陣内が現在住み、仕事をしている地域。21世紀初頭に関東地方でおきた大震災で日本は深刻なダメージを負ってしまい、首都を東京から名古屋へ遷し、新たな日本国基盤を立て直すべく都道府県という境を廃止した。代わりに蜂の巣状に区域配分がなされ、番号によって管理されている。13地区は旧東京地域であり、地震の影響を色濃く残しているため治安が非常に悪い。
『蜂の巣』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
山崎祐介「どんな物とだって替える事なんざできやしねぇ。いつまでも……たったひとりのあんただけの母ちゃんだ」
母親を亡くしたあゆみがパチンコ玉と引き換えに母親返してほしいと頼んできたときに、小さいながらもあゆみは母親の死を理解していることを汲んで「どんな物とだって替える事なんざできやしねぇ。いつまでも……たったひとりのあんただけの母ちゃんだ」と山崎が言った。
大好きだった母親の死を受け入れられず、生前の母親に言われたパチンコ玉は好きなものと交換できるという言葉を信じて、パチンコ店でパチンコ玉を集めるあゆみうの姿に、山崎はあゆみの年頃では死を理解できないのだろうと考えていた。しかし、陣内の「それはどうだろうな」という発言を聞き、さらにパチンコ玉と母親を交換してほしいというあゆみの発言から、彼女の心情を察する。そして、台詞と共に火葬された母親の遺骨を返した。遺された者が抱く死者への想いと、どんなものとも交換することのできない大事な人への気持ちを考えさせられる言葉となっている。
陣内馨「…借金よりも返しきれねぇモン背負っちまったなァ、兄ちゃん」
父親の臓器を臓器荒らしに売って借金返済をしようとしていた栗原だが父親の臓器をハシタ金で買われてしまい、自身の父親がこんなに安いわけがないと悔しさで泣いてしまう。そんな栗原の姿に「…借金よりも返しきれねぇモン背負っちまったなァ、兄ちゃん」と陣内が言った。
栗原の母親から父親の遺体を取り返してくれと頼まれた山崎と陣内が取引の場に向かうと栗原が父親の遺体を引き渡しているところであった。取引を止めに入った2人に栗原は「ロクに役に立たなない父親だったんだから、最後くらい息子の役に立つべきだ」と主張を始めた。その最中、実は栗原の父親は生前に自身の臓器を売る約束を臓器荒らしとの間にしていたことが発覚した。これにより、違法ではあるがただの葬迎員の出る幕ではないと、山崎と陣内は一旦下がる。栗原は父親の事実に驚きながらも大金が手に入ると思い、金を受け取ろうとする。しかし、臓器荒らしから渡されたのはハシタ金と呼ぶにふさわしい金額であった。この事実に栗原は衝撃を受け、さらに自身の父親を安く買いたたかれたことに悔しさを見せた。
父親のことを悪く言いながらも、心のどこかでは慕っていた父親を安く売ってしまったという状況になった栗原に投げかけられた陣内の言葉は、罪の重さを思わせる台詞となっている。
山崎祐介「生きてる側の気持ち次第ってな」
山崎は死んでしまったペットの遺体をどうしたらいいのか悩んでいた大家の息子とその友達のために土に還すことのできる場所まで車を出した。そして、死んでしまったものは土に埋めてあげれば良かったんだと満足そうにする大家の息子に対して「生きてる側の気持ち次第ってな」と山崎は言った。
治安悪化に伴い横行する臓器荒らしのせいか、葬式という概念は失われてしまった時代。遺体は葬迎員によって回収される姿しか知らない子供たちはペットの遺体をどうしたらいいのかわからなかった。さらに、13地区はコンクリート塗れで土に埋めるということすら叶わない。山崎は大家の息子とその友達を連れてペットの遺体を埋葬できる場所まで行った。そして、無事にペットを埋めることのできた大家の息子は埋めてあげるのがよかったんだと満足そうにしていた。しかし、死んだ者からすれば土に還されようがゴミに捨てられようが、なにもわからないのである。死人に口なしというように、死者が喜んでいるかどうかなど知りようもないからである。葬式や土に還すという行為は生きている者のエゴであり、死者と別れるための心の整理のためのものなのだ。葬儀屋として様々な死や遺族を見てきた山崎は生きている者のエゴを理解していることがわかる台詞となってる。
『蜂の巣』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
コミックス収録のために書き直された読み切り
『蜂の巣』の読み切り版は2001年に発売された『Gファンタジー増刊Gファンタジー++』にて発表されたものだが、当時の原稿の保存状態が芳しくなく、そのままコミック収録できない状況であった。そのため、その原稿を元に新たに書き直されて収録された。そのため、一番古いはずの読み切り版の絵が一番新しいという状態になっている。これを作者は「タイムパラドックスが発生しているが、目を瞑ってほしい」と発言している。
東日本大震災の影響は本作にも及んだ
本作のコミック発売が決まり作者と編集部で準備をしているなか、東日本大震災が発生。これに伴い、作中の設定で「21世紀初頭に起きた関東地方の大震災により遷都」という設定を変えるかどうか作者は悩み、一迅社と真摯に検討を重ねたという。結果的に、震災自体を取り扱った作品ではないこと、後ろ暗い内容を描いているわけではないという編集部の言葉により、掲載当時のままの設定、台詞での収録が決まった。
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目次 - Contents
- 『蜂の巣』の概要
- 『蜂の巣』のあらすじ・ストーリー
- 葬儀屋の仕事
- なんとなく生きてみればいい
- 遺された者たち
- 世知辛い世の中
- 『蜂の巣』の登場人物・キャラクター
- 主人公
- 山崎祐介(やまざきゆうすけ)
- 相棒
- 陣内馨(じんないかおる)
- 臓器荒らし
- 恩田憂(おんだゆう)
- 漆原(うるしばら)
- その他
- ヒロユキの彼女
- 西荻(にしおぎ)
- あゆみ
- 栗原(くりはら)
- 女子高生
- 大家の息子
- 『蜂の巣』の用語
- 葬迎員(そうげいいん)
- 臓器荒らし
- 13地区
- 『蜂の巣』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 山崎祐介「どんな物とだって替える事なんざできやしねぇ。いつまでも……たったひとりのあんただけの母ちゃんだ」
- 陣内馨「…借金よりも返しきれねぇモン背負っちまったなァ、兄ちゃん」
- 山崎祐介「生きてる側の気持ち次第ってな」
- 『蜂の巣』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- コミックス収録のために書き直された読み切り
- 東日本大震災の影響は本作にも及んだ