蜂の巣(峰倉かずや)のネタバレ解説・考察まとめ

『蜂の巣』とは『最遊記』の作者である峰倉かずやによるヒューマンドラマ漫画である。2003年発売の『月刊コミックZERO-SUM増刊WORD Vol.2』~2005年発売の同紙『Vol.7』まで掲載された。舞台は大震災を切っ掛けに治安悪化した日本。死体から臓器を抜き売買する「臓器荒らし」が横行する中、それを防ぐために保健所から葬迎員、通称「葬儀屋」と呼ばれる職員が遺体を回収していた。主人公の山崎祐介と相棒の陣内馨の葬儀屋として日常を描いている。独特な死生観で展開されるドラマに胸打たれる作品である。

『蜂の巣』の概要

『蜂の巣』とは『最遊記』の作者である峰倉かずやによるヒューマンドラマ漫画である。初掲載は2001年にエニックス(現スクエア・エニックス)が発行した『Gファンタジー増刊Gファンタジー++』に掲載された読み切りである。後に2003年発売の『月刊コミックZERO-SUM増刊WORD Vol.2』から2005年発売の同紙『Vol.7』まで掲載された。しかし、長くコミックに収録されることはなく、コミックが発売されたのは2011年であった。また、コミックには『蜂の巣』だけでなく、一迅社から発売されている『ゼロサムオリジナルアンソロジーシリーズArcana』に収録されていた短編漫画も同時に収録されている。そのためコミックは『峰倉かずや短編集 蜂の巣』というタイトルになっている。収録された短編は「蜘蛛の巣」、「星ノ王子サマ」、「FLIES」、「夜来の雨、あがりて」、「七匹の子ヤギ」の5本である。コミックは通常版と限定版が発売されており、限定版には描きおろしストーリーのドラマCDが付属した。

舞台は、大震災によって壊滅的なダメージを受けたことで都道府県という境を廃止して、蜂の巣状に区分配分をした日本。災害によって治安が悪化したため、死体から臓器を抜き取り売買する「臓器荒らし」が横行。その犯行を防ぐために保健所から葬迎員(そうげいいん)、通称「葬儀屋」と呼ばれる職員が遺体回収をおこなっていた。そして、葬儀屋の主人公・山崎祐介(やまざきゆうすけ)と相棒の陣内馨(じんないかおる)は遺体回収をしながら、様々な人間模様に遭遇していく。

独特な死生観から展開される人間模様が深い作品となっている。作者曰く本作では「死をブラックユーモア的に扱っている」とのこと。また、「表現とは表裏一体であり『正義』を描くためには『悪』を、『強さ』を描くためには『弱さ』を描くもので、そういった意味で『死』を描いている」とも発言している。

『蜂の巣』のあらすじ・ストーリー

葬儀屋の仕事

21世紀初頭に東地方で起きた大震災で壊滅的なダメージを受けた日本は首都を東京から名古屋へ遷し、さらに都道府県という境を無くして蜂の巣状に区域配分をおこなった。大震災の影響は遷都や地域区分だけにとどまらず、治安悪化を加速させた。その中でも旧東京にあたる13地区の治安悪化は酷い物で、遺体の臓器を盗み取る臓器荒らしが横行。それらの犯罪行為を防ぐために保健所から葬迎員、通称葬儀屋が遺体の回収をすることとなった。

葬儀屋を務めており、遺体を乗せる葬迎車の運転手・山崎祐介(やまざきゆうすけ)と臓器荒らしを追い払うなどの荒事担当で相棒の陣内馨(じんないかおる)は妻を亡くした西荻(にしおぎ)の家を訪れる。遺体の回収のために西荻家へ入ると、そこには妻の遺体を前に悲しみから自殺を図ろうとしている西荻の姿があった。しかし、山崎も陣内にも驚くことなく、遺体回収のために印鑑と証明書のやり取りを開始する。2人のあんまりな態度に西荻は妻の側で死にたいからそっとしておいてほしいと憤慨するが、山崎に遺体回収の手間が増えるから「火葬場で死んでくれ」と頼まれて、遺体回収用の車である葬迎車の後部に棺桶と共に乗車を促される。西荻が戸惑っていると、どこで嗅ぎつけたのか若い女性の遺体だということで臓器荒らしが襲ってきた。山崎と陣内は臓器荒らしから遺体を守るために逃げるが、臓器荒らしが銃で葬迎車を狙っている姿を見た西荻は、咄嗟に妻の遺体を守るために棺桶に覆いかぶさる。陣内も銃を構えて臓器荒らしの乗る車のフロントガラスを割ることで、相手を無力化することに成功。遺体を乗せた葬迎車は無事に火葬場にたどり着いた。遺体を守りきれたことに安堵する西荻に陣内は「どんな姿になろうとも守ってくれる人がいるのは幸せなこと」だと言い、さらに火葬して体は灰になっても思い出などの灰にできないものまでも全部守って背負えるのは夫である西荻にしかできないことであると励ました。西荻は妻の遺体が入った棺桶を前に涙を流した。

葬儀屋、死神屋という蔑称を付けられるほど忌み嫌われている職業であるが、臓器を抜かれてヒトとしての尊厳を奪われることなく、最期までヒトとして送迎するという信念の元に2人は仕事をこなしていく。

なんとなく生きてみればいい

葬迎車で遺体の元へ向かう途中、車の前に1人の女子高生が飛び出してきたが、山崎の機転で事故にはならずに済んだ。女子高生は葬迎員が死神屋と呼ばれていることを知り、殺してもらうために飛び出してきたと語る。うまいこと死ねなかった女子高生は「別の方法を考える」と言いその場を後にしようとするが、陣内に引き留められる。そして、棺桶を乗せる後部の部分に女子高生を乗せる。「遺体しか乗せてはいけないのではないの」かと女子高生が問うと、山崎が「もうすぐ死ぬんでしょ?」と返す。自殺願望のある女子高生は、死ぬ予定のある自分は死んでいるも動議なのかと納得する。陣内に「なんで死にたい?」と問われた女子高生は「なんとなく」と答えた。山崎も陣内もその返しを聞いても自殺を止める事なく、なんとなく生きている人間が多くいるのだから、なんとなく死にたい人間もいるだろうと返す。そのまま2人は女子高生を連れたまま、いつも通り遺体回収を行っていく。そこで、女子高生は悲惨な遺体、親しい人の死に悲しむ遺族の姿を目の当たりにしていく。「このようなことが毎日続いて嫌にならないの」と女子高生が山崎に聞くと、山崎は人生の大半はイヤなことばっかりだと答えたうえで「マゾなんだ」と返して、仕事をやめることはないという意思を示した。

最後に訪れたのは幼い子供を亡くした家だった。動かなくなった手に乗せられている車のおもちゃ、泣き崩れる母親の姿を見て女子高生は、火葬場で登る煙を見ながら「代わってあげられればいいのに」とつぶやく。まだまだ生きていて欲しい、必要だと思われている子供が死んで、誰にも必要とされていない自分が生きていることに複雑な思いを女子高生は抱えていた。陣内は仕事柄遺された方の人の顔ばかりを見てしまうが、一番無念なのは死んだ本人だと語る。誰だって生きたいという思いを抱えており、そこには理屈なんてものは存在しないのだ。「生きるのって重すぎだよ」と涙を流す女子高生に「なんとなく死ねるんだからな、なんとなく生きてみりゃあいいんだ」と陣内は声をかけた。

遺された者たち

とある休日、山崎は趣味であるパチンコを楽しんでいた。負けが込んできていたため、耳に騒音対策で入れていたパチンコ玉を取り出すが、誤って床に落としてしまう。山崎が披露と手を伸ばすと、母親に連れられてやって来ていた少女・あゆみが先に拾ってしまう。山崎が仕方なくパチンコ玉を諦めると、あゆみは母親の元へとパチンコ玉を持って走って行った。仕事の日に山崎は陣内と共に心臓疾患で亡くなった女性の元へ向かった。その女性はあゆみの母親であった。そして、父親曰くあゆみは朝に母親が亡くなってから、ずっとパチンコ店でパチンコ玉を集めているという。幼いが故に母親の死を理解できていないのだろうと父親は語った。山崎はパチンコ玉を集めているあゆみに山崎は「母親に別れの挨拶くらいしろ」と言うが、あゆみは山崎の足を蹴って逃げてしまう。「幼すぎて死が理解できていないのか」と言う山崎に陣内は「それは、どうだろうな」と答える。母親の遺体を火葬場で燃やして骨壺におさめたあとで、あゆみは山崎の前にやって来た。そして、あゆみは両手いっぱいに集めたパチンコ玉を差し出して母親と交換してほしいと申し出る。あゆみは母親からパチンコ玉は欲しい物と交換できるものと聞いていたのだ。山崎はあゆみに「どんなものとだって替えることのできない、たった1人の母親だ」と言い、骨壺を渡した。あゆみは涙を流しながらその骨壺を受け取った。幼いながらにも母親の死を理解していたが、わずかな希望に縋りたかったあゆみは、現実を受け入れた。

ある日、山崎と陣内が遺体を回収しに栗原(くりはら)家を訪れると、そこには亡くなった父親の遺体を売って、借金返済をするために息子が持っていってしまったと泣く母親がいた。遺体を取り返すサービスはやっていないからと2人は返ろうとするが、息子を犯罪者にしたくない母親からの必死の説得に渋々、遺体を取り返しに行くことになった。
栗原が派手なペイントの車に乗っていたため、山崎と陣内がすぐに取り引き現場を押さえることに成功したが、取引相手の臓器荒らしは生前の父親と売買契約を結んでいるから、「止められる謂れはない」と言う。売買契約そのものは違法であるが、本人が契約をしてしまっているならば、ただの地方公務員が手を出す問題ではないため、2人は引くことにした。栗原は生きているときには役に立たない父親だと思っていたはずが、自分のために臓器を売ったことに驚きつつ、金を受け取ろうとする。しかし、臓器荒らしが払った金は借金返済には到底届かないハシタ金であり、栗原は「自分の父親がこんなに安いはずはないだろ」と悔し涙を流した。その姿を見た陣内は、「借金よりも遥かに重たいものを背負ってしまったな」と声をかけた。

休日に山崎が自宅で葬迎車を洗っていると、山崎の住むアパートの大家の息子が顔を出した。大家の息子は田舎の祖父のところで釣ってきたザリガニが死んでしまったが、その死骸をどうしたらいいのかわからないと山崎に相談してきた。山崎は「土に埋めろ」と言ったが、山崎たちが住んでいる近辺にはコンクリート塗れで、土が露出している場所がないことを大家の息子が指摘した。大家の息子はさらに、友人たちも死んでしまったペットをどうしてあげたらいいかわからないんだと零した。話を聞いた山崎は子供たちを車に乗せて土の見える遠い町へとでかけた。
ようやく死んだペットたちを土に還すことのできた子供たちは、答えがみつかったといわんばかりに満足そうにしていた。その子供たちの姿に山崎は「生きている側の気持ち次第」と声をかけた。葬式も土に還すという行為も死者からすればどうでもいいことであり、これらの行為はあくまでも生きている側が心の整理をつけるための行為なのである。

世知辛い世の中

山崎と陣内が遺体を遺族の元から回収して無事に火葬場に着いて休憩していると、陣内の元に1本の電話が入る。内容は若い男性が死亡したので、遺体を回収してこいというものであった。山崎と陣内が遺体のある家へ着くと、女性が遺体に縋り泣き喚いていた。女性は死んだ男性・ヒロユキの彼女である。ヒロユキの彼女は山崎や陣内が彼氏の遺体を持っていこうとするのを拒否する。しかし、山崎がヒロユキが若く、遺体も綺麗な状態であることから臓器荒らしに襲われる可能性が高いことを聞くと、渋々と火葬場へ行くことを決めた。ただし、ヒロユキの彼女は火葬場へヒロユキを持っていく代わりに、自身も棺桶と共に葬迎車に乗ると条件を付けた。山崎と陣内は仕方なくそれを了承して、ヒロユキの彼女を葬迎車に遺体とともに乗せて火葬場へと向かった。そこに、どこからか嗅ぎつけたのか臓器荒らしが襲撃してきたが、陣内の銃撃と山崎のドライブテクニックで切り抜けることに成功。
あまりに唐突に始まり、何が何だか理解する前に事が終わってしまい、ヒロユキの彼女は呆然とする。しかし、陣内から「死んだあとも大変な世知辛い世の中になった」という言葉と、「遺された者にとっては、死体であっても形があるうちは生きているのと変わらない」というヒロユキの彼女は涙を流して聞いてた。

『蜂の巣』の登場人物・キャラクター

主人公

山崎祐介(やまざきゆうすけ)

CV:小西克幸

主人公の男性。痩身痩躯に眼帯が特徴。29歳。独身。地方公務員である葬迎員で、葬迎車の運転を担当をしている。常に咥え煙草をしており、気だるげにしている。職業柄悲惨な死体にも遭遇することからグロテスクなものに慣れているようで、食事中であろうとグロテスクな話ができる。相棒の陣内とは軽口が叩けるほどの仲で、昼食も共にする。自殺しようとしていた西荻に対して仕事の手間が増えるから「死ぬのなら火葬場でしてくれ」と言ったり、遺体以外乗せてはいけない葬迎車に生きている人を乗せるなどいい加減な性格をしている。死に対しては孤独や悲しみなどを生きている人間に押し付けていくことから「生きている者への嫌がらせ」だと独特な死生観を持っている。
趣味はパチンコで、休みの日はジャージ姿に無精ひげという気の抜けた姿で遊んでいる。しかし、あまり勝つことはない模様。石原裕次郎の歌が好きで、車でよくかけている。公用車である葬迎車を私物化していて休日でも使用している。眼帯をしている理由は詳しく明かされていないが、恩田によって抉られた可能性が示唆されている。
臓器荒らしが横行しているこの世の中では「死ぬなら蜂の巣のようにズタボロになって死にたい」と発言している。

相棒

陣内馨(じんないかおる)

CV:中村浩太郎

山崎の相棒の男性。51歳。離婚歴があり、十数年前に1人娘を亡くしている。地方公務員の葬迎員で、荒事担当。職業上臓器荒らしに襲われることがあるため、対処のために銃の所持が認められており、有事の際には発砲する。使用銃はS&W357で、射撃の腕はプロ並みである。
山崎とは歳が離れているが軽口をたたき合えるほどの仲で、昼食も共に取る。昼食に関しては必ず陣内からラーメンか牛丼の2択を出す。そして、山崎が答えた方とは逆の方を選ぶ。1人娘を亡くしているためか、遺族に対しての言葉はどれも深い物となっている。また育児経験があるためか、母親を亡くしたことを理解していないと言われていたあゆみについても、本当のことを理解しているはずだと察するなど子供に対しての理解も深い。
趣味は競馬競艇、プロレス鑑賞。そのため、山崎がなにか不真面目なことをしているとプロレス技を仕掛ける。音楽はエアロスミスなどハードロックを好む。

臓器荒らし

恩田憂(おんだゆう)

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