女子高生に殺されたい(じょしころ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『女子高生に殺されたい』とは、古屋兎丸によって描かれたサスペンス漫画。新潮社の発行していた隔月刊漫画雑誌『ゴーゴーバンチ』で2013年から2016年まで連載されていた。女子高生に殺されたいという願望を持つ高校教師東山の、緻密で異常な犯罪計画遂行までの物語を描いている。ある秘密を持つ16歳の美少女真帆や、東山の元恋人の五月など各登場人物の視点で物語が進んでいく。物語の後半では、東山の計画とは想定外な展開によって少しずつ真実が浮き彫りとなっていく。2022年には、主演田中圭にて実写映画が公開された。

『女子高生に殺されたい』の概要

『女子高生に殺されたい』とは、古屋兎丸によって描かれたサスペンス漫画である。古屋の画業20周年記念作品として、新潮社の発行していた隔月刊漫画雑誌『ゴーゴーバンチ』で2013年から2016年まで連載されていた。全2巻で完結する。
女子高生に殺されたいという願望を持つ東山は、臨床心理士を目指していたがある計画を思い付き高校教師になることを決める。そして二鷹高校の歴史・公民の教師となり、長年かけた緻密な計画を実行しようとする。登場人物たちはオートアサシノフィリアや解離性同一性障害、アスペルガー症候群などの精神的な問題を抱えている。それらが原因となって、東山の計画は思わぬ終結を迎えることとなる。リアルな心理描写と緻密に練られたプロットで描かれた衝撃のサスペンス漫画である。
2022年には主演田中圭にて実写映画化され、4月1日に公開された。その実写化を記念し、3月には描き下ろし漫画8Pを収録した新装版が発行された。

『女子高生に殺されたい』のあらすじ・ストーリー

それぞれの思惑

東山春人(ひがしやまはると)は二鷹(にたか)高校で教師をしている。幼少期は、両親から放任で育てられた。そのせいで親に頼らず生きていく癖がつき、小中では問題も起こさずに勉強も運動もそれなりに出来た。しかし、高2の始めころから奇妙な感覚に襲われる。電車内で可愛い女の子を見るたびに、その子に殺されたいと思うのだ。それは、「オートアサシノフィリア」という名の精神病であった。東山は自分の心理に興味を持ち、臨床心理士を目指し始める。大学生になった頃には、自身のターゲットが女子高生であることが明確となる。理想は扼殺であった。到底叶うはずのないこの願望を隠したまま、東山は数人の女性と交際する。最後の交際相手は、深川五月(ふかがわさつき)という同じく臨床心理士を目指す同級生であった。しかし東山が高校教師へと進路変更をした後に、五月とも別れる。
そして東山は3年前に二鷹高校に赴任し、1年3組の佐々木真帆(ささきまほ)に殺されたいと願う。

佐々木真帆は誰からも美少女だと言われるような16歳の女子高生である。真帆は小4の頃に、二鷹市に引っ越してきた。その時に、親友の後藤あおい(ごとうあおい)と出会う。あおいはアスペルガー症候群で、人の心を読み取ることが困難であり集団行動が苦手なために保健室通学をしている。真帆はそんなあおいの為に、手を繋いで相手の感情を伝えてあげている。あおいは普段おバカキャラを演じて「~ぽよ。」と語尾につけるが、本当はとても頭が良くて何でも記憶している。また、耳鳴りで地震を察知する能力を持つが、親の言いつけで隠している。2人は「二鷹の遺跡研究クラブ」に所属しており、顧問は東山だ。真帆は東山のことをとても良い先生だと思っているが、何故かあおいは怖がっている。

川原雪生(かわはらゆきお)は1年3組の生徒で、真帆やあおいと同じ中学校出身である。中学の頃から真帆が好きだが、振られるのが怖くて告白できないでいた。その代わりにおちゃらけキャラとして何度も真帆に話しかけ、中学3年間で「雪生」と呼ばれるまでとなった。成績の良い真帆と同じ志望校を受けるため、大好きなスケボーを断って必死に勉強をした。そして同じ二鷹高校に入学し、真帆を追って「二鷹の遺跡研究クラブ」に入部する。クラブ活動中に時々真帆から香ってくるシャンプーの匂いを求めて、シャンプーを買い集めている。

臨床心理士になった深川五月は、二鷹高校のスクールカウンセラーとして赴任する。東山と再会した五月は思わず「春人!」と呼んでしまい、瞬く間に2人の関係が生徒たちに広まる。それを耳にした真帆は、五月の元へ相談へと訪れる。他愛もない会話をして距離を縮めた2人は、あおいも含めて親交を深めた。その様子を見ていた雪生もまた、五月に恋愛相談をするなどして交流するようになる。そして数か月後、真帆は五月に過去の秘密を打ち明ける。
真帆は小6の頃、あおいとの下校中に大きな犬に足を噛まれた。真帆はその後の記憶が一切なく、気が付いたらその犬を殺してしまっていた。それ以来、自分が自分でないような恐怖を抱えてきたのだ。
カウンセリングを終えた真帆が部屋を出ると、あおいが耳を押さえてうずくまっていた。その直後に地震が起こり、戸棚の薬瓶が真帆の近くに落ちてきた。心配した五月が真帆の顔を見ると、別人のような顔付きに変貌した真帆がいた。あおいは「それ、真帆じゃないぽよ。カオリぽよ。」と言う。真帆のもう1人の人格カオリは「こんにちは、五月先生」と少しだけ会話をし、元の真帆へと戻った。

1カ月後、真帆はまた五月のカウンセリングを受けていた。それは東山を好きになったという恋愛相談であったが、相談を終えた五月は複雑な気持ちであった。クラブの課外活動の帰り、雪生は真帆に告白をする。しかし「私は駄目なの。」と振られてしまう。その夜、雪生は五月に電話で報告をした。話を聞いた五月は、変わらず真帆を見守っていてあげて欲しい旨を伝える。雪生はわけも分からず了解し、真帆を諦めない気持ちを五月に伝えた。

計画始動

初夏を迎えた頃、親の介護を理由に東山は辞表を提出する。驚いた五月は、親と疎遠なはずの東山に本当の理由を問い詰める。東山は「旅に出るんだ。」と答えるが、五月は東山の異様な雰囲気に気付いていた。
夏休み前になり、生徒にも東山の辞職が伝えられる。そして改めて、「二鷹の遺跡研究クラブ」でも東山から挨拶がされた。東山に恋心を抱き始めていた真帆は、ショックを受けて引きこもりカオリと変わってしまう。その様子に気付いた雪生は、あおいとカオリを問い詰めてカオリという人格が生まれることになった過去の事実を聞いた。
真帆が4歳の頃、両親の仲は最悪でいつも父親が暴力を振るっていた。やがて母親も真帆に当たるようになり、精神的苦痛から辛い時にだけ現れるカオリという人格が出来たのだ。
話を終えて間もなく、真帆が戻って来る。明らかな変貌に雪生は驚き、真帆を助けるために五月と協力することを決意する。

教師を辞めた東山は、ある計画に向けて着々と準備を進める。身分証など自身を特定できるすべての物を破棄し、必要最低限の荷物を持ってホテル泊を始めた。東山は35歳になる8月8日に死ぬと決めていた。それは、ある事件がきっかけであった。
9年前、七王子(しちおうじ)殺人事件は起きた。ある公団住宅に住む女性が帰宅すると、8歳の娘が泣きじゃくる横で男が死んでいた。男の首元には少女の手の跡が残っており、必死に抵抗したと思われる男の手の跡が少女の腕に残っていた。状況証拠から、いたずら目的で家に侵入した男を少女が扼殺したものとされた。しかし大柄な男を少女が殺せるのかという不審な結果に、不可解な事件として大きく取り上げられた。
真帆はあおいに隠していた過去の事件を語る。自分が七王子事件の被疑者であることを伝えた真帆だったが、「真帆は天使ぽよ。」と言うあおいの変わらぬ友情に救われるのだった。

8月1日、最後の「二鷹の遺跡研究クラブ」の課外活動が行われる。活動の最後、東山は皆に別れを告げて去っていった。その夜、東山に想いを告げられなかった真帆は部屋で泣いていた。すると、公衆電話から着信が入る。東山からの電話であった。8月8日に、クラブ活動で行った遺跡付近の調査を手伝ってほしいという内容だ。真帆は告白する最後のチャンスだと思い、了承する。
来る8月8日、真帆が家を出るとしゃがんで震えているあおいがいた。あおいがどうしてもついて行くと言うので、仕方なく2人で待ち合わせ場所へと行く。東山はあおいの同行に戸惑うが、仕方なく目的地へと向かった。
無数の蝉の鳴き声がする森の中、1本の木の前で東山は立ち止った。そして「まずは僕を殺してもらうよ。佐々木真帆、いやキャサリン!」と振り返る。困惑する真帆にあおいはしがみ付き、「2008年4月16日月曜日16時22分、場所は珠川(たまがわ)上水」と震えて喋りだす。それは真帆が大きな犬に襲われた日の事で、あおいは次々と日時と場所を挙げていく。すべて真帆の知らない、東山が真帆に接触してきた日時であった。

紡ぎ出された真実

9年前、東山は臨床心理士の実地研究先である精神科病棟にいた。そこで初めて、事件後に措置入院していた真帆と出会う。東山はまだ8歳の美しい少女に目を見張り、その少女が殺人を犯したという事実に衝撃を受ける。催眠療法により、真帆にはカオリという16歳の別人格が存在することが分かる。カオリは、キャサリンという人格が現れて男を殺したと証言する。そして「あの時、誰かがキャサリンって呼んだんだ。何度も何度も。」と話した。その発言にヒントを得た東山は、事件当時の番組表を調べる。死亡推定時刻に流れていた『エミリーの恋人』を借りて観ると、「キャサリン」と連呼するシーンがあった。その日から、東山は佐々木真帆に殺されるために計画を立てる。
東山は教員へと進路変更し、真帆を追って二鷹市へと引っ越した。独学で大型犬を調教し、下校中の真帆のハンカチを奪って匂いを覚えさせる。後日、東山は下校中の真帆を犬に襲わせて「キャサリン」と連呼することで、真帆の中にキャサリンがいると確証を得た。

8月の暑い森の中、東山は真帆の首を絞めて「キャサリン」と連呼していた。真帆はショックでカオリに変わり、あおいは恐怖に震えて悲鳴を上げる。
雪生と五月は、真帆を追って森の中を探していた。何日も前、五月はあおいと雪生を呼び出していた。理由は伏せ「真帆に危険が迫っているかもしれない」と伝えて、真帆のスマホに位置情報が分かるアプリをこっそり入れてもらったのだ。2人は悲鳴を聞きつけ、声のする方へと走る。雪生達は真帆の首を絞めて「キャサリン」と連呼する東山と、耳を塞ぎ座り込むあおいを見つける。雪生は咄嗟に東山に突進する。驚き怒る東山に、五月はある話を始めた。

9年前、東山の突然の進路変更と引っ越しで浮気を疑った五月は、東山の携帯をこっそり覗いていた。おかしなものは無かったが、ストラップにUSBメモリが隠されていた。罪悪感を持ちながらも、メモリ内を調べると「8.8」というファイルが隠されていた。内容は小説の体を成した、恐ろしい犯罪計画であることを知る。酷い嫌悪感から東山と別れた五月だったが、臨床心理士になった後も愛する人を助けなかった後悔が残っていた。そして数年後、独自に東山と真帆の現状を調べて、二鷹高校のスクールカウンセラーとなる。

長年の計画を無駄にされた東山は、真帆にしがみつくようにして「キャサリン!」と連呼する。しかし、いくら叫んでもキャサリンは現れない。すでに五月のカウンセリングによって、真帆とカオリは統合しかかっていた。東山は落胆する。落ち着きを取り戻したカオリは、真帆を呼んだ。真帆とカオリが交互に顔を出し、会話を始める。カオリは「私は消えるよ。キャサリンと一緒に。」と真帆に伝えた。止めようとする東山に「まだ分かんないの?キャサリンは私なんだよ。」と突き放す。危機的状況に陥ったカオリが一時的に驚異的な力を出せるようになった状態が、キャサリンであったのだ。カオリは真帆に別れを告げて消える。そして、気を失った真帆の頬を一筋の涙が落ちていく。
東山は絶望して泣き叫んでいた。五月は雪生に頼んで、真帆たちと先に帰るように伝える。その時、雪生におんぶされた真帆のポケットから手紙が落ちた。手紙を拾った五月は、東山に渡す。それは、真帆が東山へ宛てた告白の手紙であった。五月は、東山が両親からの愛情を感じられなかったことが命を奪われたいと願う要因だとし、「付き合ってた時、私がもっと愛してることを表現すれば…。」と涙した。愛に飢えているにも関わらず、真帆からも五月からも愛されていることに気付けなかった東山は「まるで生ける屍だ。僕は殺される資格すらない…。」と力なく呟いた。

その冬、真帆は雪生とのクリスマスデートに出かけていた。隣にはあおいもいる。東山は五月と復縁し、五月の支えで再び臨床心理士を目指しているが密かに催眠術の勉強もしている。東山と五月はご飯を食べに街へと出かけた。
東山は街中で真帆の姿を見掛ける。そして目を細め、顔を背けた。その後ろ姿を、あおいは振り返って見つめていた。

『女子高生に殺されたい』の登場人物・キャラクター

主要人物

東山 春人(ひがしやま はると/演:田中 圭)

二鷹高校で歴史と公民を教える教師。1979年8月8日生まれの34歳で独身。群馬県出身。幼いころから放任で育てられ、親とは15年も会っていない。いつからか女子高生に殺されたいという願望を持つようになり、自身の心理に興味を持ち臨床心理士を目指していた。しかし、佐々木真帆と出会ってから、自身の願望を叶えるべく高校教師になることを決意。長年に渡って緻密な計画を立て、密かに実行しようと企んでいる。

佐々木 真帆(ささき まほ/演:南 沙良)

二鷹高校に通う1年3組の女子生徒。美しい容姿の16歳。小学校4年生の頃に二鷹市に引っ越してきて以来、親友である後藤あおいといつも行動を共にしている。中学時代には多数の男子生徒から告白されるが振っており、いつも後藤と手を繋いでいることからレズであると噂されている。東山の担当する「二鷹の遺跡研究クラブ」に所属し、密かに東山が気になっている。誰にも伝えられていない過去があり、東山になら相談ができるかもしれないと考えている。

その他の人物

後藤 あおい(ごとう あおい/演:河合 優実)

二鷹高校に通う女子生徒で真帆の親友。アスペルガー症候群であることから、保健室通学をしている。他人の感情を読み取ることが苦手で、真帆と手をつないで相手の感情をサインにして伝えてもらっている。頭が良く、一度見たことや読んだことなどは全て記憶している。また、地震の予兆として耳鳴りに襲われる能力を持つが、親からは隠すように言われて「~ぽよ。」と語尾につけてお馬鹿キャラを演じている。映画版では「小杉あおい」に改名された。

川原 雪生(かわはら ゆきお/演:細田 佳央太)

真帆(右)を見つめる雪生(左)

二鷹高校に通う1年3組の男子生徒。真帆やあおいと中学校の頃の同級生。中学の頃から真帆のことを好いているが、振られるのが怖くて好意を伝えられずにいる。「おちゃらけ男子」とキャラを決め、真帆にノートを借りるなどして話す機会を増やし「雪生」と呼ばれるまでになった。真帆と同じ二鷹高校に合格するため、好きなスケボーを断って猛勉強し晴れて合格する。真帆と同じ「二鷹の遺跡研究クラブ」に入る。

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