光とともに…〜自閉症児を抱えて〜(漫画・ドラマ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『光とともに…~自閉症児を抱えて~』とは2000年より『フォアミセス』にて連載していた戸部けいこによる日本の漫画、及び2004年に日本テレビ系列でドラマ化放送された作品である。同年、第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞している。
主人公・東光(あずま・ひかる)は知的障害を伴う比較的重度の自閉症児。ごく普通のサラリーマン家庭で生まれたものの、自閉症がまだ浸透していなかった時代ゆえの困難や主人公とともに家族が成長する姿を作者の綿密な取材に基づき描写している。

『光とともに…〜自閉症児を抱えて〜』の概要

『光とともに…〜自閉症児を抱えて〜』とは2000年11月号『フォアミセス』で連載していた戸部けいこによる日本の漫画、及び2004年日本テレビ系列でドラマ化放送された作品である。同年、第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞しているが、2009年3月号同誌での掲載を最後に作者の病気療養のため休載となり、その後2010年1月28日に作者は逝去している。2010年4月号・5月号には病床にて作成した未発表の遺稿(ネーム段階)が掲載され、まだ単行本化していなかった原稿とともにそれらをまとめて最終巻(第15巻)が刊行された。

その後2016年、作者デビュー30周年記念として2016年3月号『フォアミセス』にて特集が組まれる。遺稿となっていたネームに作者と交流のあった漫画家・河崎芽衣がペン入れをし完結編として掲載された。
執筆のきっかけは作者の次男の卒園式にて。「大きくなったら何になりたい?」について子供たちが発表していく中、次男の同級生の自閉症児に代わり母親が「明るく元気に働く大人になりたい」と発表したことだった。その言葉に感銘を受けた作者は当人に漫画執筆の許可を得るため声をかけたところ「自閉症は鬱病や引きこもり、親の育て方のせいだと誤解されている。漫画にすることでそれを解いてほしい」と快諾された。
制作にあたり取材を続けていた作者・戸部けいこも「ひとこと『自閉症』と言えば、何の説明もいらない社会を願って!」と語っている。本来、光の幼少期から大人になった姿までを描く予定だったものの、作者の逝去によりストーリーとしては未完となっている。
作者逝去後2010年2月時点での累計発行部数は約240万部を突破し、台湾・香港・韓国・アメリカ・カナダでも現地語訳にて出版されたり、スマートフォンの漫画アプリにて広く閲覧されている。

『光とともに…〜自閉症児を抱えて〜』のあらすじ・ストーリー

光の誕生と夫との別居

「あなたが生まれた日…朝日がとてもきれいだった」との1人の女性のモノローグから物語は始まる。その女性とは、母親になったばかりの東幸子(あずまさちこ)。産婦人科病院の窓から見える朝日を眺めて、幸子は日の出とともに生まれた自身の子供に「光」と名づけた。

職場恋愛でみんなの憧れだった雅人(まさと)との結婚を経て、その大好きな夫との間に誕生した我が子を育てる喜びを感じ、いわゆる「普通の幸せ」を手に入れた幸子。毎日育児は大変だけど、初めてのことで自分なりに精一杯工夫を凝らしていた。
しかし、同時期に子供が生まれたママ友を自宅に招いた際「母親に抱っこされて嫌がらない赤ちゃん」を目の当たりにした幸子は違和感を覚えるようになる。よく泣くという赤ちゃんの特徴だが、母親に抱えられると泣き止んだりもする一面がある。抱えようとすると仰け反るように避けるわが子との対比に違和感を残しつつ、幸子は「やや神経質な父親に似たのでは」というママ友からのフォローを受け入れた。

徐々にこの「普通の幸せ」の問題点が浮き彫りになっていく。憧れの雅人は結婚してみれば仕事に明け暮れるマザコン気味の夫であった。育児は二の次でむしろ家事も全て母親がやるものという認識を持つ。これは義母の教育のせいなのだが、この状況が幸子を更に追い込むことに繋がっていく。
また義母は義母で夫が独断で渡した合鍵を使い、自由に押し入っては幸子に自身の教育方法を説く毎日。
そんな最中、検診で発覚した「自閉症」という耳なじみのない診断名。
この診断名は医者ですら知っている人が少ない時代。育児に関与しない夫と幸子の教育を否定する義母の協力がないまま、幸子は1人で「自閉症」に立ち向かうことになる。当初手に入れたはずの「普通の幸せ」と母親としての幸子の決意が、脆くも崩れ落ちていった。

困り果てた幸子は、悩んだ末に過去に行ったことのある福祉センターへ向かう。そこで再会した専門スタッフ達に「自閉症」が母親の教育のせいではない」こと、「専門家など頼れる場所がある」ことを学ぶ。また、同じく障害を持つ家庭との関わりや実家での協力も経て、夫と暮らす家を一度離れて光と向き合う時間を作れるようになった。
「ママ」と呼ぶことも目を合わせることもない光だったが、落ち込む幸子の足元にたくさんの花を摘んでは置いてを繰り返す姿に、自分たち親子が意思疎通をする方法は別のやり方があるのではないかを見出すことができた瞬間だった。

しばらく別居していた夫だったが、彼にも変化が訪れる。
職場では第一線で活動してきた雅人は過労により倒れてしまい、2週間の入院、それにより閑職に回されたからだ。療養期間中に自身のプロジェクトが後任担当に全て持っていかれる悔しさと葛藤があったが、病床で考え方を改める。そして、雅人は「世の中を変えるくらいの仕事をすること」が夢だったこと、そして「今までの価値観と決別して『親として生きる』」こと、「光の父親として生きてみたい」ことを幸子に打ち明け、もう一度やり直したいと話す。ここから、雅人はようやく父親としてのスタートラインに立つことができたのだった。

保育園での偏見と客観

光は歩行が可能となり、家を抜け出すことも増え警察にお世話になる回数が増えてきた。周りの目も虐待や偏見に変わっていく中、東家は堂々と他人に「自分の子は自閉症」と宣言することができるようになっていた。
順当にいけば保育園等と集団・社会との関わりが一層濃くなるが、障害を抱えた子供を受け入れる機関があるのか、また受け入れたとしても適切な対応をしてもらえる理解ある場所は存在するのか見極めなくてはならない。幸子は数多の機関を巡り、七月町保育園への入園が決まったことで次のステージへ進むことができた。
幸い光は良い担任に恵まれることとなるが、光の好奇心と行動力は他の保育園児・萌を巻き込んでしまう。近隣の会社の壁を2人だけで登ってしまい、はしご車でしか届かないような場所に行ってしまったからだ。何とか無事だったものの一歩間違えれば生死に関わる出来事だっため、萌の母親に「なぜ自分で光の面倒を見ずに保育園へ預けるのか」を問われることになる。また、光が七月町保育園に居続けるなら萌の転園を考えるとも宣言されてしまった。

一方で萌の母親はシングルマザー兼自身の母親の介護をしていた。介護の甲斐あって以前より症状が改善したことから「このままリハビリ体操をすればかつてやっていたゲートボールに行けるのではないか」と提案する。それに対して、「来るなって…言われた。迷惑…なんだって、みんなに会いたいけどダメだって…!」と行けない理由を吐露する実母の姿に、自身が幸子に対して放った言葉と実母の言われた言葉が同じだったことに気が付く。
その後、萌の母親は徐々にではあるが葛藤を乗り越えて、幸子に対して挨拶を交わしたりと関わりを増やしていく努力を始めた。

様々なトラブルを経て光のことを理解していってくれた七月町保育園保護者らと幸子は親交を深め、やがては同じ七月小学校へ行けるように「署名でも集めようか」とサポートしてもらえる存在へと発展していく。

七月小学校・あさがお教室(支援学級)では理解ある校長先生に出会うことで無事に光の入学が決定し、あとは卒園式を待つのみ。最後に「将来の夢」を発表しなくてはならないのだが、光は自分自身では発言できないので母親である幸子が代わりに発言することになった。幸子はこれまで光の将来の姿を見出せなかったが、以前より自信を持てた幸子は「ぼくは大きくなったら明るく元気に働く大人になります」と光の手を繋いで堂々と発して、卒園式の花道を後にする。幸子の発言は皆の心を打ち、光は無事卒園することができたのだった。

小学校入学と妹の誕生

無事小学校に入学が決定した光。
保育園時代から仲良くしてくれた子供たちと同じ学校ということ、障害に関して知識のある校長や担任教師に任せられることに安心したのも束の間、入学式では光の癇癪が起きてしまう。緊張していたのと同時に苦手だった赤ちゃんの泣き声を聞いてパニックになってしまったからだ。
初めてその様子を見た保護者達からは非難もあり、「光がここにいていいのか?」と幸子は再び不安になってしまう。しかし光や幸子の理解者となった萌の母親がフォローを入れたり、保護者会にて担任らの説明により初日をなんとか無事に終えたのだった。

同時期、2人目の子を妊娠していた幸子。夫が海外出張で不在の最中、仕事をこなしながら光の面倒を見ていた幸子の住む街が台風により冠水してしまう。そのショックから破水し陣痛が起きてしまうのだが、街が海のようになった状況を見た光は、幸子が目を離した隙に泳いでどんどん遠くへ行ってしまった。近所の外国人や、支援センター・おひさまハウス、消防の人らに救出してもらい、幸子は病院へ、光はおひさまハウスへと向かう。初めて幸子と光は離れ離れで何日も過ごすこととなるが、なんとか状況を切り抜けて幸子は無事出産。そして遂に光はお兄ちゃんになったのだった。

お兄ちゃんになった光は元々嫌いだった赤ちゃん(妹)の泣き声に悲鳴をあげつつ、赤ちゃん返りを繰り返すようになる。時には妹・花音(かのん)と喧嘩をして叩いてしまう場面もあった。
しかし光が3年生になるころ、関係に変化が生まれる。いつもなら叩いてしまっていたところを、光が花音の頭を優しくなでたのだ。
花音の言語等の急速な成長に、兄となった光も影響を受け、それと同時に自分達夫婦の成長も感じる幸子であった。

障害への理解と光の成長

学校に慣れていくうち、幸子は自身で作成した『ひかる通信』を小学校で配布し始める。
『ひかる通信』とは自閉症児である光のことを理解してもらいたく発行したもので、主に特性や日常の出来事をまとめたものだ。理解ある教師が担任であることから先生側には評判だが、ここで引っかかるのは『ひかる通信』を読んで理解したつもりになる悪意のない見下しをする保護者だった。

光の行動を初めて見る人は「何?この子」、障害を知っている人には「ただただ気の毒」「妹は障害児の将来の面倒を見るため」といった反応がこれまで見られたため、もっと理解してもらえたらと願う幸子。

そんな中、幸子達夫婦にも気付かなかった新たな発見が生まれる。
光が絵を見ずにパズルの形だけを捉えてパズルを完成させたからだ。耳での理解が苦手な分「見てわかる」を頼りに暮らしていることから、「カメラアイ」と言って「まるで写真でも撮っているように映像が記憶に残る」状態に光はいた。

幸子は、花音の学年のママ友の家で光がおもらしをしてしまい酷い言葉を投げかけられて落ち込む事もあったのだが、ある日担任に「光くんが書いてくれたお言葉。あまりにありがたくて貼らせて頂きましたァ」と見せてもらうことになる。黒板上に「きょうもげんきで」と書かれた文字は、幸子が毎朝言っていた言葉だった。

「見てないようで見ている、聞いていないようでちゃんと聞いているのが光くん」と評され、飄々とした中に優しい希望をくれる光は幸子をちゃんと励ましてくれるのだった。

中学入学と祖母の転機

幸子と一緒に中学校へ向かうバス停に並ぶぶかぶかの学ランを着た光。
通りすがりの女子学生らには「外見がウエンツみたい」と喜ばれるくらい美少年に成長していた。
以前より光が癇癪を起こす頻度が減り、息子の更なる成長を感じる幸子。しかし、光が思春期を迎えることは、向き合うべき問題が新たに増えるということだった。
見た目が成長した分、今まで許されていた女性の髪を触る等の行為は、相手から見たら障害なんて関係なく恐怖の対象や犯罪に繋がってしまうからだ。
困り果てた幸子だったが、おひさまハウスにて問題点は何かを質問される。「女性に興味を持ったこと」か「髪の毛のにおいをかいで触ること」か。これは前者は「女性への興味」、後者は「自閉症の人によく見られる感覚的なもの」に値するため、幸子は後者であると認識してその時の状況を見直すことにした。工夫を凝らして対処方法を示し、徐々にではあるが解決に導くことに成功する。
一方で、義母は妹・花音びいきが加速してしまう。
元々教育熱心だった義母だが、幸子とは光のことで和解したにも関わらず、お利巧で可愛い花音を目の当たりにした義母は自分の元で花音を育てたい気持ちが強く出てしまった。
和解したといっても義母は相変わらず光をないがしろにしたりと、未だに孫の障害を受け入れられていないでいた。「いつ光は妹に追いつくのか?」「ああいう子はどうなっていくのか」「いつ治るのか」と病気と障害の違いを理解しようともしていなかった。
そんな義母にも、ついに転機が訪れる。ダンス仲間に誘われて有名な作家の自宅へ訪ねた際に、その作家にも障害があることを知ったのだ。ここでようやく義母の中に光と向き合う気持ちが芽生え、孫の障害を理解しようと努めることになる。光はすでに中学生になっており、かなり遅くではあるがようやく義母にも障害への理解のきっかけが訪れたのだった。

『光とともに…〜自閉症児を抱えて〜』の登場人物・キャラクター

東家

東 光(あずま ひかる/演: 齋藤 隆成(小学校入学前まで:仲條 友彪))

この物語の主人公。東家の長男。
1歳半健診で聴覚障害を疑われたのち、知的障害と首から上の感覚過敏を伴う自閉症と診断される。
騒音や犬、赤ちゃんの泣き声が苦手。きらきら光る万華鏡等の綺麗なものが好きで強いこだわりを持つ。好物はカニカマ、キャベツの卵炒め。
2歳半から福祉センターの母子通園を経て、七月町保育園では1年保育卒園。七月小学校卒業。穂田中学に2年生1学期まで在学後、祖母との同居に伴い亀宮中学に転校した。

東 幸子(あずま さちこ/演:篠原 涼子)

この物語のもう1人の主人公で、光の母親。旧姓は西山。1人っ子で何不自由なく、また反抗期もいじめられることもなく育ってきた。
地元の公立高校を卒業。お嬢様が多く在籍する短大を卒業後、ジャパネットに経理事務として就職した。
雅人とは職場恋愛の末、結婚し退職。光の保育園入園と同時期に、経理事務の経験を活かして会計事務所のパソコン入力業務を主とした在宅ワークを始める。
趣味は人間観察。カラオケで歌うことが苦手。

東 雅人(あずま まさと/演:山口 達也)

光の父親。ジャパネット勤務のサラリーマン。
東家の長男で、会社では20代ながら昇進を見込まれていた。
職場の女性人気があった中、幸子に告白されて交際をスタートし、その後結婚。
光が生まれて暫くは仕事一筋で常に世間体を気にしていたが、自らが過労で倒れたのち閑職へ回されてからは家族第一の夫になる。

東 花音(あずま かのん)

k
k
@k666

目次 - Contents