キングダム(アシンの物語)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『キングダム』とは、Netflixで配信されている韓国ゾンビドラマで、『神の国』というウェブ漫画を原作としている。『キングダム アシンの物語』はその前日譚である。李氏王朝が覇権を握る朝鮮で王が死んだという噂が街に広がる中、不気味な病が街で蔓延する。本編シリーズは、王都に渦巻く悪しき陰謀から民を救おうと奔走する世子の姿を、一話のみの『アシンの物語』では謎の女戦士アシンの出自を回顧録の形で描く。原作が韓国内外で高評価を得ていたことから、本編シーズン1配信開始前からシーズン2の製作が決定していた。

ゾンビ

ゾンビとは、生死草に付着している寄生虫の影響で怪物と化した屍の事。生死草を口にした場合や、ゾンビとなった人間に噛まれることでゾンビとなる。気温の上昇や冷温に弱く、日中や水中では活動できない。頭部を切り離すか、遺体を燃やすことで撃退できる。

女真族

女真族とは、満州の川沿いからスタノヴォイ山脈以南のにかけて居住していたツングース語族に属する言語を母語とする諸民族のこと。

『キングダム(アシンの物語)』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ゾンビ出現

『キングダム』本編シーズン1で、東菜の診療所に初めてゾンビが出現するシーン。ヨンシンが鹿汁だと言ってダニの遺体を解体してそぎ取った人肉で患者たちに肉汁を振る舞う。「飢えをしのぐためにはこうする他ない」と言って開き直るヨンシンであったが、これが悪夢の始まりだった。

その夜、肉汁を口にした者たちは次々と死んでしまう。そして、夜になり薬草摘みから戻ってきたソビが診療所の異様な雰囲気に気づいて警戒していると、突然ヨンシンに物置小屋に閉じ込められた。彼によると、死んだはずの患者たちが次々と起き上り、化け物となって肉汁を口にしていなかった医女を嚙み殺してしまったのだという。二人が小屋の中で息をひそめていると、そのうち小屋の外で複数の獣のような唸り声が上がり始め、あたりは死臭に包まれ始めた。そして、二人の臭いを嗅ぎつけた怪物たちは小屋の入り口を突き破ろうと小屋の戸を叩き始め、二人はバリケードを作って恐怖の一夜を過ごすことになるのである。朝になるとチャン世子たちにより48体の人間の遺体が診療所の床の下から見つかり、彼が呼んだ役人たちにより役所に運ばれた。そして、運び込まれた遺体はこの後さらなる惨劇を呼ぶことになっていく。

この事件がきっかけとなって、朝鮮国内でゾンビ化が急拡大していくことになる。飢えと貧困、そして生死草とゾンビ化に関する知識不足が生み出した惨劇の連鎖に、世子やヨンシンたちは手を焼くことになっていくのだ。

世子千里行

『キングダム』本編シーズン1で、船着き場に取り残された住民たちと共に世子が東菜の診療所を目指して逃避行を繰り広げるシーン。山道の悪路を走行するうち、住民の押していた荷車が段差に引っ掻かって身動きが取れなくなってしまう。次第に日は傾いていき、ヨンスたちは足をとられた住民は見捨てていくほかないと提言するが、世子は住民を見捨てることなく荷車を押すのを手伝った。そうしているうちに次々とゾンビが目覚めていき、世子たちは決死の覚悟で逃避行を繰り広げることになる。

世子は逃げている最中でも殿を務めて住民の安全を第一優先し、住民を見捨てて一隻しかない船で脱走した高官や貴族との違いを見せつけようと尽力した。この一件がきっかけとなり、世子たちは正当な王位後継者ではないものの民草や宦官たちからの支持を得ることになっていく。

また、このシーンは日が落ちるとゾンビが動き始めるというソビの仮説の正しさが目に見えて明らかになってくる場面でもある。無数のゾンビが全速力で追いかけてくる描写は圧巻であり、エキストラのゾンビ一体一体に特殊メイクが施されていることと相まって、演出のレベルの高さがうかがえるシーンでもある。

アン・ヒョン大監の作戦

ゾンビとなったアン・ヒョン大監が、執念を燃やしてハクチュに襲い掛かるシーン。ハクチュの陣営に乗り込んだ世子一同は、彼らの奇襲を先読みしていた軍の罠にかかって捕えられ、監禁された世子を助けようとハクチュに逆らって軍門を開けた大監は兵卒らに打ち殺されてしまった。しかし、大監は息を引き取る直前に、自分が死んだ後は遺体に生死草のエキスを注射してゾンビとして復活させるよう世子に遺言を残していたのだ。世子はソビに命じて大監の遺言通りに彼をゾンビとして復活させる。そして、ハクチュに向かって一直線に突進して彼の頬を食いちぎり、功労者として称えられながら世子に首を刎ねられるのであった。

このシーンでは、陰謀により権力をほしいままにするハクチュを相手に、自分の遺体をも利用して最後まで国と大義のために尽くそうとするアン・ヒョン大監の心意気が窺える。このシーンの後、ハクチュは倒れてチョ一族の独裁体制には陰りが見え始め、世子が再び覇権を取り戻していくことになった。一方、大監に噛まれても直ちにゾンビ化しないハクチュの治療にあたったソビは、その中でゾンビ化を治療するための新たな手法を発見していくことになる。

このように、本シーンはゾンビ化に関する謎、覇権をめぐる世子とチョ一族の争いの行く末という双方の面で、物語に新たな展開をもたらす重要なきっかけとなるシーンであった。

アシンの誓い

『キングダム アシンの物語』で、村を焼き払われ仲間と家族を殺されたアシンが朝鮮軍営のチロクの下に「何でもするから家族の仇をとってほしい」と涙ながらに懇願しに行くシーン。これがきっかけとなってアシンは朝鮮軍営の下で力をつけ、立派な女戦士になると同時に復讐の化身となるきっかけをえることとなる。

女真族15人の殺害事件の濡れ衣を藩胡村民に着せて、婆猪衛に村を全滅させるようにけしかけたのはチロクであったが、彼は幼いアシンを受け入れることを承諾した。アシンは軍営の下で極限状態の生活を送りながら、婆猪衛に復讐を果たすべく婆猪衛の陣営の偵察や弓矢の練習に打ち込む事になっていく。このシーンを境にアシン役の女優が切り替わり、成人したアシンの姿が描かれることになっていくのだが、その中で彼女はチロクが藩胡村全滅の黒幕であることを知り、朝鮮軍営をもターゲットに据えて復讐の刃を研いでいくことになる。

『キングダム』本編では、生死草の影響でゾンビ化した人間が打ち滅べすべき悪の一旦として描かれていたが、『キングダム アシンの物語』では陰謀にまみれた朝鮮軍営を滅ぼすための画期的な兵器として生死草が機能し、ゾンビはアシンの使い魔として動いていくことになる。本シーンは、チロクが彼女に生死草の力を利用する破壊の化身となるきっかけを与えることとなる重要な場面である。

『キングダム(アシンの物語)』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

コロナ禍で混乱する世界への啓示

『キングダム』本編でゾンビ化が爆発的に広まったきっかけは、ダニの遺体で作った肉汁をヨンシンが持律軒で患者たちに振る舞ったことにある。しかし、彼をこうした行動に至らしめた原因を探っていくと問題がもっと根深いものであることが分かる。まず、人の遺体を調理して食べなければならないような状況に陥ったのは、高官や貴族が財貨を独占する一方で住民たちからの取立を厳しくしたために住民が貧困に陥り、加えて度重なる飢饉で栄養源となる食物を自給自足することも困難となっていたためである。また、朝鮮政府は財貨をほしいままにする一方で、医療機関である持律軒に十分な研究資金を当てなかったため、ソビら医女は生死草の危険性やゾンビ化について十分に研究できておらず、結果として遺体の入った肉汁を患者たちが食べる危険を察知して止めることができなかった。さらに、ダニが殺されることになったのは、そもそもチョ一族が王が怪物となったことを知りながら自分たちの利権を確保するためにそのまま放置してしまっていたためである。以上のような政府の初動対応の遅れが、その後起こることになる惨劇のきっかけを作り出してしまった。

次に、ゾンビ化の悲劇が診療所にとどまらず東菜全体に広まってしまった原因としては、役人たちが自分たちの利権や保身を優先したために対応が後手に回ってしまったことにある。持律軒から運び出された患者の遺体は役所に集められ、そこにヨンシンが遺体を焼き払うよう促して実行に移すが、どの役人も鬼気迫る彼の訴えに耳を貸そうとはしなかった。また、医女であるソビがその後訪れて経緯を説明しても、なお役人たちは自分たちの威厳が傷つくことを恐れて話に耳を貸さなかったのである。そのため、夜間に動き始めたゾンビたちによって、東菜は崩壊するに至り、翌朝生き残った役人たちを世子が集めて、ゾンビが寝ている間に遺体を焼き払ってしまうという形で対応せざるを得なくなった。しかし、ボムパルを筆頭とした役人たちはその責務すら放棄し、自分たちの安全だけを考えて住民を置き去りにして船で逃げ出してしまったため、処理しきれなかったゾンビによって新たな犠牲が生まれてしまったのである。その結果、チョ一族が牛耳る朝鮮政府は、感染拡大を防ぐため、関所を封鎖して東菜以降の地域を完全に放棄するという最悪の形で対応せざるを得なくなってしまう。

こうした惨劇は、2019年1月25日に配信開始された『キングダム』本編シーズン1で描かれているが、皮肉にも1年後に新型コロナウイルスの爆発的感染拡大に見舞われることになる世界へ重要な啓示を示していた。中国の研究施設から徐々に感染が広まっていったコロナウイルスであるが、やはり『キングダム』でも描かれたように各国の初動対応の遅れが目立った。ウイルスが漏えいしたことを察知した時点で直ちに感染者の隔離を行い、中国国内だけで感染を食い止めることは出来なかったのか、新種の風邪といった具合にウイルス感染を軽視することなく、各国が早期から海外渡航制限やワクチン開発に乗り出していれば死者は減っていたはずではないかなど、対応が後手に回ってしまっていた感も否めないところである。本作から得られる教訓は、有事の際には重要な意味を持つことになることが実例においても示されている。

性差別への風刺

本編では、チョ王妃は父であるハクチュの傀儡として、言い換えれば正当な王位後継者を産み出すための道具としての扱いを受けている。そんな彼女は、自分が子供を産み出すことができない体であることから、王位後継者となる男児を授かることができずに焦っていた。王都内で身寄りのない妊婦を特定の施設に監禁し、産んだ赤子が女児の場合には母子共々暗殺し、男児と判明した場合には強奪して妊婦を暗殺するという残酷無慈悲な悪行をはたらいてしまった。

本編では、妊娠を偽造したことでハクチュからでさえ反感を買ってしまうチョ王妃の狡猾さが際立っていた。しかし、その背景にあるのは、朝鮮王朝時代から現在もなお続いている家父長的な生産性思考である。即ち、女たるもの子を産むべきであり、男児こそが価値があるという差別的な生産性思考こそが、チョ王妃を凶行に走らせたのである。シーズン2でも、チョ王妃に毒を盛られて死にゆくハクチュに向かって王妃が「女だといって常に侮り、馬鹿にしていましたね」と冷ややかな目で言い捨てる場面があり、男社会の中で女だと言うだけで蔑視の目にさらされてきた彼女なりの復讐心のようなものが伺える。

また、本ドラマにおいては、男社会の中で自分の座位を勝ち取るために道を踏み外してしまったチョ王妃の生きざまが、医者としての責務を放棄せず倫理を全うしながら専門家として生きていくソビの生き様と対比的に描かれている。そして、悪辣な生き方を選んだ王妃はゾンビ化して死亡するという顛末を辿り、ソビは医師として名を馳せていくようになった。朝鮮王朝時代の男社会の中で生きる二人の女性の生き方とそれに応じた顛末を対比的に描く本ドラマは、未だに性差別問題が声高に叫ばれる現代社会の中で多様化していく女性の生き方を意識させるものである。

『キングダム アシンの物語』の後のチン・ミロク

Kazu1096
Kazu1096
@Kazu1096

目次 - Contents