∀ガンダム(モビルスーツ)の徹底解説・考察まとめ

∀ガンダムとは、テレビアニメ『∀ガンダム』に登場する主役メカ(モビルスーツ)であり、同時に全ての「ガンダム」が辿り着く終着点のようなキャラクター性を付与された、最強にして究極のガンダムである。
『∀ガンダム』の作中時間軸では、すでに忘れ去られた「黒歴史」の時代に建造されたモビルスーツであり、あらゆるもの砂と化す「月光蝶システム」を使用して黒歴史時代の地球文明を滅ぼしてしまったとされている。
『Gのレコンギスタ』発表までは、ガンダム正史上で最後に存在するガンダムとしても有名であった。

まとわりついていた岩から出現する∀ガンダム。

『∀ガンダム』の世界は「正歴」と呼ばれる暦が用いられており、『機動戦士ガンダム』の宇宙世紀から、約1万年後の時代だとされている。
ただし、宇宙世紀の年表が現実並に細かく設定されている事に対し、正歴はあくまで「そういう暦がある世界」という雰囲気作り程度にしか用いられておらず、簡素である。

正歴2343年
ムーンレィスの女王ディアナ・ソレルが、地球帰還計画を発動。まずは地球環境および、現地文明の調査のため先発降下員が選定される。
選ばれたのはロラン・セアック、フラン・ドール、キース・レジェの3名。
この時、∀ガンダムは1万年近い停止状態にあったため、岩に包まれた状態になっており、地球の人々から神体「ホワイトドール」として崇め奉られていた。
地球の生活に溶け込んだロランが、現地の成人の儀式に呼ばれた際にこの岩に包まれている状態の本機を目撃している。

正歴2345年以降
ムーンレィスの先発降下員任務開始から2年経過。
本格的なムーンレィスの帰還がはじまる。当初はムーンレィス、地球の人々側の双方が友好的な形を取ろうとしたものの、一部の過激な人間達の行動によって戦闘状態に入ってしまう。

この時の地球の文明は、現実の西暦でいえば1900年頃のレベル。自動車はT型フォード的、戦闘機は複葉機という世界である。
それから比べれば超未来の文明を持っているムーンレィスと戦っても勝ち目のあるはずはなく、勝敗は明らかであると思われた。しかしその時、∀ガンダムがムーンレィスの攻撃を感知して起動。
自ら体表にまとわりつく岩を割って姿を現し、ムーンレィスのモビルスーツ、ウォドムに対してビームライフルによる砲撃を加える。

その後、本機は地球の軍隊ミリシャに接収されホワイトドールの呼び名で戦力に編入される。
戦力編入後の本機は、ミリシャとムーンレィスのパワーバランスを取る存在として機能し続ける事になった。
また、これ以降、地球では黒歴史の時代の遺産であるモビルスーツが次々と出土する様になり、ミリシャは本機を筆頭にモビルスーツ部隊(機械人形部隊)を編成し、戦力を一気に拡充させていく。

さらにその後、キングスレーの谷にて土に埋もれていた宇宙戦艦「ウィルゲム」が出土。
ミリシャはこれを使用可能になるまで修復した後に、自分達の旗艦として採用。本機もウィルゲム搭載機として配備される。

核爆弾処理~ターンX撃破

ターンX(左)と共に月光蝶の繭に包まれる∀ガンダム(右)

ムーンレィスと地球の人々の戦いが続く中、危険なものが発掘された。その名は核爆弾。
黒歴史の時代からの知識を少しでも持つ者なら、それがどれほどに破滅的な代物なのかは、もはや説明する必要がない。
しかし、正歴の時代の地球文明では、まだ製造できない未知のものであるために、それをただの爆弾と捉える人々がいた。
ミリシャである。
彼らは、この核爆弾を、単なる強力な兵器だと考え拾い上げて使用しようとしたのである。
だが、あろうことにその恐ろしさを知りつつも、戦いに勝利する兵器としてムーンレィスもまた核爆弾を手中せんと動きはじめる。

これを食い止めようとするのは、両軍の中の、一部の心ある者達だけだった。
ロランもまた、その一人である。
彼は∀ガンダムの内部に核爆弾を隠し、核爆弾の争奪戦を始めたムーンレィスおよびミリシャの追っ手をかいくぐり、核爆弾の処理に成功した。

その後のムーンレィスとミリシャの戦いの場は宇宙空間に移り、ムーンレィスのギム・ギンガナムがターンXを起動。
本機と対になるこの機体は、圧倒的な力を発揮する。
このターンXに抵抗できるものは、事実上∀ガンダムしか存在しない。

∀ガンダムとターンX。二つの「ターンタイプ」は散発的な衝突を繰り返しつつ、再び戦場を地球へ移す。
そして、∀ガンダムの機能回復と共に月光蝶システムが発動。
呼応するようにターンXの月光蝶も発動する。

このまま月光蝶が地球全土に広がれば、また黒歴史が繰り返されるかと思われたが、ロランに操縦される∀ガンダムは相打ちの格好でターンXの動きを封じると、月光蝶の繭を作りお互いを機能停止に追い込んでいく。
その姿は、まるでかつて自身が月光蝶によって地球文明を滅ぼした事への贖罪のようであったが、∀ガンダムに意志があるのかどうかは、その後も定かとなっていない。

∀ガンダムの名シーン・名場面

洗濯機兼物干し台となった∀ガンダム

ムーンレィスの女王、ディアナ・ソレルは地球上で自身と瓜二つな少女、キエル・ハイムと出会った際に、ひとつの余興を思いついた。
それは瓜二つである事を利用して周囲に黙って入れ替わり、異なる立場を楽しんでみるというものだった。
しかし、運命のいたずらで、お互いが入れ替わったままの状態で二人は離ればなれに。
おまけにムーンレィスと地球の人々の関係が悪化した事で「実は入れ替わっていた」と言い出せない状況に陥ってしまう。
一民間人に過ぎないキエルはまだしも、ディアナの正体が地球側の人間に知られれば、人質になってしまう事は明らかだったからだ。

そんな中、ロランだけはキエルとディアナが入れ替わった事に気づく。
しかしロラン一人で事態を解決できる方法はなく、黙って見ているしかなかった。

そんな折、野戦病院の大量の洗濯業務がキエル扮するディアナに分担される。
それはリアカー満載の血に染まったシーツであり、それを明日中までに洗い上げねばならないのである。
しかも地球側の文明では、まだ洗濯機が発明されておらず、せいぜい絞り器がある程度で人力で洗濯せねばならない。
しかしディアナは、これに屈する事なく洗濯をしに川へ入ったのである。

ロランはそんな状況を偶然目撃。
本来は女王である人間が、下々の仕事をさせられている光景に我慢ができずに、∀ガンダムを起動。
ディアナから洗濯物を強引に受け取ると、川へ本機の手を差し込んで撹拌しはじめた。そう、兵器を洗濯機として使用したのである。
洗濯後の乾燥も腕に渡したロープと、本機の頭部から噴出される熱風によって完璧だった。

これには「道具はそれがどんなものであろうと、使い方次第である」というメッセージが込められている。
模型やゲームを売るための販促として戦闘をこなすだけのメカとは違うものとして、本機および『∀ガンダム』という作品そのものを代表するシーンであり、∀ガンダムといえばとファンが問われて、真っ先に言及する所がネット上でもよく見られる。

ビームサーベル二刀流

月光蝶を発動しつつ二刀流を見せる∀ガンダム。

地上による敵モビルスーツとの戦闘時、ファイティングポーズと共に二刀流を使う∀ガンダム。

本機は、物語の所々で二刀流のビームサーベルを披露している。
この宮本武蔵的な剣劇は、初代ガンダムことRX-78-2 ガンダムも行う事のある技だったが、それでもどちらかといえば射撃メインの描写であった。
それに対して、本機は射撃するよりも白兵戦を行う事が多く、従ってビームサーベル二刀流も多く披露し、その戦闘シーンはファンからの人気も高い。

また、剣劇を行う際も、機体のデザインがシンプルな人型であるのが効いている。これは2000年代前後の「ガンダム」で特にありがちであった「身体中にごちゃごちゃと武器がくっついている」ものとの決定的な違いである。
∀ガンダムのデザインは、アニメーション関連の人物ではなく工業デザイナー、シド・ミードに発注された。このため、現実的な可動部を持ったスタイルであり、剣劇を演じても嘘っぽくならず、それがよく映えるのである。

月光蝶システム発動

月光蝶システムを発動させながら飛翔する∀ガンダム。

ターンXを操るギム・ギンガナムの目的は戦いそのもの。
そんな彼にターンXの圧倒的な力は、この上ない至宝であったといえる。しかし、そんなギンガナムの闘争心がどこから生ずるのかと動機を辿ってみれば、それは結局、人間臭いものであった。

彼は地球に降りるまで、永い時間、月で女王ディアナの護衛にあたっていた。
そんな自分に誇りを持ち、ディアナの事を崇拝していた。しかし、そんなディアナは、自身にねぎらいの言葉もなく地球へ帰還してしまったのである。この事から、ギンガナムはディアナ本人へ、さながら子どもが母に抱いた期待と信頼を、裏切られたかのような失望感に囚われたのである。

その果ての闘争心の激化であった。
ギンガナムの哀しい闘争心に呼応するかのようにターンXの月光蝶が発動する。
ロランは、これを食い止めるために∀ガンダムの月光蝶を発動。大空を飛翔し、ターンXに組み付き動きを封じる。やがて、∀ガンダムとターンXはそのまま地上に降り、動作しなくなった。

しかし、ギンガナムは機体を捨てても戦いを継続しようとする。殺される訳にはいかないロランはこれに応戦するが、その時、∀ガンダムとターンXから発生した月光蝶の繭を作る糸が金属、あるいは兵器に反応。
ロランはとっさに手に持っていた刀を手放す事で逃げおおせたが、最後まで刀を放さなかったギンガナムは、月光蝶の繭に取り込まれていくのだった。
そして、∀ガンダム自身もターンXもろとも、繭に包まれ機能を停止した。

上記は『∀ガンダム』最後の戦闘シーンとして、ファンおよびアニメ業界関係者の評価が高い。

∀ガンダムの裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

ヒゲではなかった頭部デザイン

∀ガンダムの最大の外観的特長である「ヒゲ」。
これは本機デザイン担当のシド・ミードによれば、歴代ガンダムのシンボルである額から生えるV字アンテナ(ツノ)を、口の部分へ移動しつつ、これを日本の鎧武者が被った兜の「頬当」としてイメージしたという。

だが、V字アンテナの移動は理解できるにせよ、少なくとも日本人の目には、どう見ても口から左右に長く延びる物体は、頬当てではなくヒゲに見えてしまい、劇中でも実際に、本機は幾度となく「ヒゲ」呼ばわりされている。

しかし、この事はシド・ミードには意外だったらしく「ヒゲに見られてしまいましたか」と、後のインタビューで語っている。
外国人の目から見た日本の鎧兜と、日本人の目からみたそれが違うという事なのかどうかは定かでない。

ヒゲが折れると力が出ない

本機の頭部デザインを特徴付けているのは、そのヒゲであると同時に、ボールのように丸い頭部そのものでもある。
この姿のため、日本の視聴者からはもっとも知られている「顔の丸いヒーロー」こと、アンパンマンの準えられる事もある。しかも、それを補強するかのごとく、本機は圧倒的な性能を持つにも関わらず、劇中、頭部に攻撃を受けてヒゲを破損した際には100%の確立で、目に見えて弱体化してしまうのだ。

『∀ガンダム』制作スタッフが意図したか否かは定かでないものの、これはまさに「顔が濡れて力が出ない」状態のアンパンマンの姿そのものである。
また、アンパンマンよろしく取れた頭を自分でくっつけて修復するというシーンもある。
これらは、凶悪な性能を持ちながら生活道具として使われる事もり、愛嬌のある本機を、よりユニークでフレンドリーなキャラクターとする事に成功している。

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