『河童』とは、芥川龍之介が1927年に発表した、人間社会を痛烈に風刺した小説である。精神病院の患者「第二十三号」が、あらゆる価値観や制度が人間界と逆転した「河童の国」へ迷い込んだ体験を語る形式で展開する。中絶の合法化や解雇労働者の食肉化など、社会風刺を込めた異世界から戻った主人公は対人恐怖を深めていく。芥川龍之介晩年の代表作であり、芥川の命日「河童忌」の由来となったほか、漫画や2006年の映画、2021年の舞台など多角的なメディア展開が行われている。
マッグ(演:松田洋治)
容姿が非常に醜い哲学者。その容姿ゆえか、河童の国で唯一雌の河童から追いかけられた経験を持たない。
舞台版では、滅多に家から出ない人物として描かれ、哲学的箴言集『阿呆の言葉』を執筆したのちに銃で自殺を果たす展開となっている。
クラバック
音楽家。重度の神経衰弱を患っており、同業者である音楽家・ロックの才能に対して強い恐怖と嫉妬を抱いている。
ペップ
裁判官。のちに職を失い、発狂してしまう。
『河童』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
『不思議の国のアリス』を思わせる『河童』
『不思議の国のアリス』を思わせる風景を展開しながらも、その世界に溶け込んでしまったがゆえの主人公の末路にシニカルさがある。
『河童』は、主人公が異世界へ迷い込み、常識や倫理観が反転した社会を体験したのち現実世界へ帰還するという構造において、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』との類似性が指摘される作品である。しかし、劇中で描かれる異世界の様相は滑稽さの裏に痛烈な批判精神を含んでおり、人命や存在そのものに対する価値観が人間社会とは根本から異なる、高度に合理的かつディストピア的な思想によって統治されている。
作中における生命観の差異を端的に示す象徴的な例として、出産における胎児の自由意志の尊重が挙げられる。河童の社会では、出産の直前に父親が産道へ向かって尋ね、胎児が父親の遺伝や河童社会の過酷さを理由に誕生を拒絶した場合、直ちに合法的的中絶が処置される。また、経済・産業構造においても過激な合理主義が徹底されており、資本主義者のゲエルが語る社会システムでは、新機械の導入に伴って不要となった解雇工員を「職工屠殺法」に基づき安楽死させ、その食肉を処理して食用に供することで、失業問題や食糧問題を同時に解決している。宗教観においても、人間界に見られる禁欲主義や自己否定は退けられ、「旺盛に生きること」や生命力の全うそのものが尊ばれる独自の倫理規範が形成されている。
このように、人間社会の道徳や人道主義を徹底的に解体し、一見すると異様でありながら論理的には帰結した制度が敷かれている点に本作の大きな特徴がある。常識が完全に反転した「河童の国」の描写は、単なる奇談にとどまらず、芥川が当時の近代人間社会や資本主義構造へ向けた鋭利な風刺と批評性を色濃く反映している。
『河童』が無料で読める青空文庫
『河童』は、著作権の保護期間を満了した文学作品をデジタルアーカイブとして公開しているインターネット電子図書館「青空文庫」にて全編無料で読むことができる。
青空文庫では、パソコンやスマートフォン、タブレット端末のブラウザ上でそのまま閲覧できるWeb表示(HTML形式)のほか、各種電子書籍リーダーやテキストエディタで取り込んでオフライン環境で読書を楽しめるテキストファイル形式など、用途に応じた複数のフォーマットで提供されている。さらに、旧漢字・旧仮名遣いの作品を現代の読者が読みやすいように改められた表記で収録されているため、文豪の文章や世界観に気軽に触れることが可能である。
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