海辺のエトランゼ・春風のエトランゼ(エトランゼシリーズ)のネタバレ解説・考察まとめ

『海辺のエトランゼ・春風のエトランゼ』とは日本のボーイズラブ漫画で、作者は元アニメーターの紀伊カンナ。本作の主人公となる橋本駿と知花実央の離島での出会いと旅立ちを描いているのが『海辺のエトランゼ』、そして続編として離島からの旅路と北海道での新たな生活を描いているのが『春風のエトランゼ』である。作品のキャッチコピーは「心が洗われるようなボーイズラブ」となっており、その言葉通り純情ラブストーリーとなっている。また主人公らの家族との関係や他愛のない日常生活も多く描かれており、家族愛も楽しめる作品。

『海辺のエトランゼ・春風のエトランゼ』の概要

『海辺のエトランゼ・春風のエトランゼ』とは日本のボーイズラブ漫画で、作者は元アニメーターの紀伊カンナ。祥伝社から発刊されている『onBLUE comics』にて連載中。もともとは1話読み切り作品として掲載されていたが、評判が高く定期連載されることになった。ジャンルはボーイズラブとなっているが、女性キャラクターも多く登場しており、女性の同性愛者も描かれている。作品のキャッチコピーが「心が洗われるようなボーイズラブ」という事もあり、爽やかな純情ラブストーリー。また主人公の一人である橋本駿が同性愛者として両親に受け入れられていく様子や突如義理の弟となった文との何気ない日常生活なども多く描かれており、恋愛だけではない愛情で心温まる作品となっている。作者の紀伊カンナが元アニメーターということもあり、繊細な人物描写や背景などの作画も魅力の一つとなっている。『海辺のエトランゼ』は1巻完結となっており、離島に住んでいる橋本駿と知花実央の出会いから二人が北海道へ旅経つ場面までが描かれる。『春風のエトランゼ』は4巻発刊されており、離島から北海道へ旅経つところから二人が駿の実家で生活をスタートさせて以降の暮らしが描かれる。2015年に「全国書店員が選んだおすすめBLコミック2015」で5位を獲得。また2020年には劇場版アニメ『海辺のエトランゼ』が公開されるほどの人気作。また紀伊カンナの初画集としてエトランゼシリーズの作画がまとめられた『queue -Kanna Kii artbook-』も発売された。

『海辺のエトランゼ・春風のエトランゼ』のあらすじ・ストーリー

海辺のエトランゼ

出会いと別れ編

離島を離れる前の最後の夜、実央(右)は駿(左)の頬に静かにキスをする。

物語は、沖縄の離島から始まる。沖縄の離島に住む小説家の卵でゲイの橋本駿(はしもとしゅん)は、親戚のおばちゃんの稼業を手伝いをしながら暮らしていた。
彼の出身地は元々沖縄ではなく北海道で、離島に来てから3年が経つ。彼は自身がゲイであることを家族には隠していたが、両親を安心させる為幼馴染の桜子(さくらこ)と婚約をしていた。しかし、結婚式当日に自身の気持ちを抑えきれなくなり、家族にゲイであることをカミングアウトして、結婚式から逃げ出してしまう。この出来事をきっかけに、桜子はもちろん家族とも疎遠になり、現在に至る。

そんな駿は、海辺のベンチで黄昏る知花実央(ちばなみお)と出会う。
実央は駿と同じ離島に住む男子高校生だと知る。彼はなぜか、ある日を境に夕方から夜になるまで海辺のベンチで1人黄昏るようになる。そんな実央を見るたびに惹かれる駿は、意を決して実央に声をかけるが、なかなか距離が縮まることはなかった。ある日、駿は夜遅くまでベンチに座る実央を心配しパンを渡す。実央は翌朝にパンのお礼に、株分けをした花を駿に届けてくれた。

実央が花を届けに来た際、駿はまだ寝ており、駿と共に暮らすおばちゃんが花を受け取っていた。駿が花を見つけた際、おばちゃんは実央の事を駿に伝える。実央の家庭は父親を早くに亡くし、実央が小さい頃から母子家庭で母親と二人で長い間暮らしていた。実央が小さい頃は、母親と共におばちゃんの店までパンを良く買いにきていたという。しかし、実央は高校生で母親を亡くし、よその家に引き取られていた。

実央の境遇を知り、後日駿は海辺のベンチで実央を待ち伏せていた。相変わらずぼんやり海を見ている実央に「いつもひとりで寂しくならない?」と駿が尋ねると、実央に「気持ち悪いんだけど」と睨まれてしまう。

その言葉に駿は、過去ゲイだと家族にカミングアウトして責められたトラウマを思い出し、その場で気を失ってしまう。
駿が気が付くと自室で横になっており、おばちゃんの家で同じく住み込みの手伝いをしている絵里(えり)と、彼女の恋人である鈴(すず)に看病されていた。絵里もまた同性愛者で、駿のよき理解者でもある。そんな彼女に駿は、「俺もお前もたまたま同性が恋愛の対象って、ただそれだけなのになんでそれが、世間ではおかしなことなんだろな」と呟いた。

それ以来駿は実央に会いに行くことはなかったが、ある日実央が駿を訪ねてきた。海辺で駿に酷いことを言った、と謝罪に来たのだった。
それをきっかけに2人は、心の内に合った想いを打ち明ける。駿は下心があって実央に話しかけたこと、実央は母親を亡くし周囲に慰められることに嫌気がさしていたことを話した。

そんな二人を見ていた絵里は実央を夕食に誘い、にぎやかな夕食となった。
夕食後、実央は駿をある場所へ誘った。その場所は夜光虫がキラキラと輝く浜辺で、実央にとって母親との思い出の場所だった。その場所を実央は思い出と共に、駿にあげるという。そして実央は明日離島を離れ、本島の施設に引き取られることを打ち明けた。

駿は慌てて連絡先を聞くが、実央は携帯も持っておらず、施設に着いたら連絡すると約束する。別れ際実央は早く大人になりたいとつぶやき、駿の頬にそっとキスをして、その日は別れた。
翌日実央は何事もなかったように、離島を離れ3年の月日が流れた。

3年ぶりの再会

駿の元には実央が離島を離れてから、約束の連絡はなかった。唯一連絡があったのは、駿が書いていた小説がとある賞に入選した時の、祝いのはがきが一通だけ。ほかに実央からのコンタクトは一切なかったのであった。

そんなある日、同居人であった絵里が恋人である鈴と同棲する事になり、おばちゃんの家から出ていく為引っ越しの準備をしていた。
駿もその手伝いをしていると、絵里は同時に新しい同居人が、入れ違いで入ることを駿に伝える。元々家主であるおばちゃんが男手を欲していて、絵里が紹介したのだという。そんなことはどうでもいいと、無関心な駿が縁側で休んでいると、自分の名前を呼ぶ声が門の方から聞こえた。

門の前には3年前と少し雰囲気が変わり、身長も伸びた実央の姿があった。その姿をみて唖然とする駿に、実央は笑顔で近づき「俺、駿のこと好きだよ」と伝え、それから二人の共同生活が始まった。

絵里が紹介した新たな同居人は、実央のことだった。実央はそれからおばちゃんの家での手伝いを始めるが、駿とは距離を感じていた。実央なりに3年間思い悩み、結果として駿の傍に居たいと決め、離島に帰ってきた実央の一方。駿は自身がゲイであることに後ろめたさを感じており、ゲイではない実央から、普通の幸せを奪ってしまう罪悪感を抱いていた。駿はそのせいか実央に対して、彼女を作るように勧める言動が増えてしまっていた。

駿は数日多忙を極めており、数日寝ずに書き上げた原稿を航空便で出す為、沖縄本島に行くことになった。
実央は店の手伝いがあるからと断ったが、絵里と鈴のおかげで、駿と実央は二人で本島に行くことになる。その道中の船の中で駿は「モテそうだし彼女でも作ればいいのに、もったいないよな」と実央につぶやいた。

その言葉に実央は怒りを露わにし、本島につくや否や、早足で駿の傍を離れてしまう。駿は怒らせてしまったと自覚しながらも、後を追うわけでもなく、駿は予定通り空港に行き原稿を出しにいった。用事を済ませ駿は帰路に着こうとしたその時、携帯電話に知らない番号から電話がかかってきた。

電話の相手は携帯を持っていないはずの、実央からの電話だった。
実央は駿と別れた後、携帯ショップに行き、携帯の契約をしに行っていたのだった。実央は携帯越しに、自活できるまで離島には帰らないことを決めていたから、離島に帰るまで3年も掛かってしまったのだと告げる。

駿は電話越しに実央の言葉を聞きながら、携帯ショップの前にいた実央の手を取った。その手を握り返しながら、「駿が好いてくれてると思ったから、だから好きになったんだよ。俺が欲しいのは彼女なんかじゃないよ」と実央は訴えた。

帰りの船が無くなった2人はホテルを予約し、空港から場所を移す。駿はホテルに着くと実央に、自身の後ろめたさと罪悪感を口にした。これを機に、ようやく駿は実央に対して恋人として向き合えるようになるのであった。

元婚約者の登場

駿の元に一通の手紙と、幼馴染の桜子が訪ねてきた。桜子は駿に復縁を迫るわけではなく、駿に実家に一度でいいから帰ってくれと懇願した。その理由は、届いていた手紙に記されていた。

手紙の内容は、駿の父親が病に伏して危ない状況だ、というものだった。しかし、駿は桜子の説得も聞かず、縁を切ったから自分には関係ないと、実家に帰ることを頑なに拒否し続けた。その様子を見ていた実央は、自身が両親を失ったからこそ、駿に「人は死んじゃったらもう会えないんだよ」「俺はいいよ、いいから帰ってあげなよ」と訴えかける。実央は自分がいるから、駿が帰るという選択ができないんじゃないかと負い目を感じていた。

何を訴えても聞く耳を持たない駿から離れた桜子は、暗い海の浅瀬に立っていた。そんな桜子のもとに来たのは、駿ではなく実央だった。実央は桜子に優しく、危ないから帰ろうと促す。そんな優しい実央に桜子は苛立ち、実央に対して駿のことを引き留めたり、もっと自分の我儘を言えばいいのにと叫び感情を爆発させる。

桜子は小さい頃から駿と一緒に過ごしてきて、駿がゲイであることも知っていた。自分を好きになってくれないとわかっていても、好きじゃなくてもいいから傍にいて欲しかったのだと叫ぶ。
実央は桜子の言葉で、桜子がまだ駿に未練があるんだと察する。それでも実央は、貴方と同じぐらい自分も駿が大切なんだと真っすぐ桜子に伝えた。文句のつけようのない、真っすぐで純粋な実央に苛立ちもなくなり、桜子は静かに涙を流した。

その後二人は浜辺に上がり、実央は自身の生い立ちについて桜子に話した。両親を失った悲しみは未だ消えず、さらに恋人までもが離島を離れてしまうと思うと悲しい。それでも、駿には変な意地を張っていないで、家に帰ってほしいと思っていることを桜子に話した。

翌日、桜子が北海道に戻る為、駿と実央は船乗り場まで見送りに行く。
駿と桜子はぎこちない雰囲気だったが、桜子が最後に駿の父親の具合のことを話そうとすると、駿は「わかってる」と言って言葉を遮る。手紙は読んでいる事を伝えると、桜子も「そう、それならいいわ」とだけ返事をした。
少しの間の後に、桜子が突然駿に最後にキスしてほしいとお願いをする。駿も実央も驚いた顔をするが、駿がそのまま応じてしまいそうな空気を悟った実央は、二人の間に割って入り駿の代わりに桜子とキスをしてしまう。

船の出航時刻となり桜子は無事乗船することができたが、船上からは「あなたじゃないわよ!」と叫ぶ桜子の声だけが聞こえた。その声に実央は、「駿は良くても俺が無理、また来てね桜子さん」と桜子を笑顔で見送った。
その後、先ほどの笑顔が嘘のように消えた実央が、即座にキスを断らなかった駿に対し涙を浮かべながら怒りを露わにした。

家に帰ってもなお、泣きながら駿の布団の中で丸くなる実央に駿はそっと寄り添った。
まだ怒りが収まらない実央に対して駿は、「実央がいるのにあんなお願いを聞くはずがない」と言い切り、涙を流す実央に優しくキスをする。そして、仲直りした二人は身体の関係をはじめて持つことになる。

その後、シャワーを浴びてきた実央は縁側で寝転んでいた駿に対して「俺ね女の子が好きだよ。それでも駿のこと好きになったよ。大丈夫だよ、男が好きでもおかしくないよ」と声を掛ける。その言葉を聞いた駿は、実家に帰ることを決心する。

後日、駿は実家に帰る為荷造りをしていた。
北海道に住み続けるか、離島に戻ってくるかについては、帰省したときの状況で決めようと考えていた。荷造りを終えると、実央が居ないことに気づいた駿は、家の門の外を見た。

3年前に何度も見た、ベンチに一人座る実央の姿が駿の目に写る。駿が実央に声をかけると、海を見ていた実央が駿に別れの言葉を口にし始める。駿は慌てて、しどろもどろになりながら、実央に一緒に北海道に行こうと誘った。その言葉を待っていたかのように実央は喜び、快くその誘いを受けた。

そして離島を離れる当日、実央は両親の墓へ挨拶に出向いていた。その後駿も合流し、海辺のエトランゼの物語は終幕となる。

春風のエトランゼ

帰省

父(左)に自分がゲイであることを改めて打ち明ける駿(右)。

『海辺のエトランゼ』の続編で、駿と実央が駿の実家のある北海道に向かうところから物語は始まる。
駿は母親とメールで連絡を取りつつ、日程を調節しながら実央を連れ、実家に向かった。明日実家到着予定だったが、駿は翌日腹痛で動けなくなってしまう。前日夜に二人はセックスをして、実央がコンドームを付けないまま射精してしまったのが原因だった。焦る実央に駿は、朝食を取りに行くついでに水などコンビニで買ってきてほしいと頼む。

実央は駿の為にホテルの外に出ると、近くに海があることに気づく。
実央は浜辺に降り、1人歩いていると、一匹のボーダー・コリーがじゃれついてきた。実央はじゃれつく犬の飼い主が傍にいないことに気づいた。犬を連れて周囲に飼い主がいないか探していると、犬が走ってきた方向に、小さな男の子と倒れる中年の男性が実央の目に飛び込んでくる。

男の子は、中年の男性に必死に声を掛けるが反応がない。実央はその光景を見て、母が倒れパニックになった小さい頃の自分を思い出し、慌てて男性に駆け寄り救急車を呼んだ。その後実央は病院まで男性に付き添い、男性の傍にいた男の子の家で待機することになった。その際、携帯電話を持っていなかった実央は、男の子の母親の携帯を借りて駿に連絡をする。

その頃、携帯を置いてなかなか帰ってこない実央にやきもきしていた駿は、一人で実家に向かい始める。
すると、駿の携帯に母親からの電話が入る。母親とはメールでのやりとりしかしていなかった為、躊躇したが駿は渋々電話に出る。しかし、電話越しに聞こえた声は自身の母親の声ではなく、行方が分からなくなっていた実央の声だった。

わけのわからないまま駿は実家に到着すると、玄関から出てきたのは見知らぬ男の子と、電話でやり取りしていた実央だった。その状況に駿が困惑していると、後ろで門の開く音が聞こえた。駿が振り向くと、そこには実央が助けた中年の男性と、それを傍で支える駿の母親が門の前に立っていた。実央が助けた中年の男性は、駿の実の父親だった。

両親ともに駿が帰ってきたことに驚き、今さら何しに帰ってきたのかと父親に問われ駿は固まってしまう。そんな駿に実央は、駿の頬を叩き鼓舞する。はっとした駿は、助けを拒む父を制止させながら、母と共に父を自室へ連れて行った。

改めて父親と対面した駿は、もっと早くに自分がゲイである事を伝えられなかったことを謝罪し、自分も苦しんでいたことを話した。
駿の父親は、息子を責めるわけでもなく「何年も音沙汰無しで、こっちはもういなくて当然になっているんだ。お前も今まで通り好きにすればいい。俺はもう知らん勝手にしろ」とだけ告げる。寡黙な父なりの、精一杯の優しさのこもった言葉だと駿も感じていた。

その頃実央は、駿の父親を助けてくれたことへの感謝の言葉と、駿との関係を問われていた。実央は戸惑いながらも、駿の恋人であることを伝える。それを聞いた駿の母親は軽蔑するわけでもなく、すんなりと受け入れてくれた。その様子に実央は、駿と家族の縁は親から絶たれたものではなく、駿側の問題だったのだと悟る。

そんな話をしていると、父親との話を終えた駿がリビングにやってきた。
すると、駿に最初に駆け寄ったのは、駿の父親のそばにいた男の子だった。この子は誰なのかと駿が母親に聞くと、駿の弟で名前は橋本文(ふみ)だという。駿は自分が実家を出ていくときに、母親が妊娠していたのかと唖然としたが、文は施設から父が引き取ってきた子供だと母親は駿に伝えた。

後日、駿と実央は駿の実家の空き家で暮らすことになり、文と過ごす時間も長くなっていく。今回駿を実家に帰るように手引きをしたのは、兄に会いたいと願っていた文と文の手助けをしてあげたいと考えた、桜子であった。そして、駿が母親だと思ってメールでやり取りしていたのは文だったことも後々判明する。

文の授業参観

ある日、駿の母から風邪をひいてしまったので、駿と実央に文の授業参観に替わりに参加してほしいとお願いされる。駿は地元の知り合いに合うかもしれないからと嫌がるが、渋々メガネをかけて変装し、実央と共に文の授業参観へ向かった。授業の前に駿はトイレに向かったが、駿がなかなかでて来ないので実央は先に文の教室へと向かった。

その頃駿は、昔好きだった同級生の和田(わだ)にトイレで再会していた。学生時代、駿が同性愛者で自分に気があると察した和田は、駿を一方的に振った過去がある。和田自身さっぱりした性格で、当時のことを気にするそぶりすら見せなかった。和田はチャイムの音で焦り、娘の授業参観に向かうため先にトイレを後にした。駿は授業終了まで、トイレから出ることが出来なかった。

一方教室では、文の授業も無事終わり、文は実央が来てくれたことを喜びじゃれついていた。
その様子を傍で見ていた文と同じクラスの女の子が、文に声をかけてきた。女の子の名前は和田ちほ(わだちほ)。ちほは実央に対して、なぜ家族でもない人が授業参観に来るのかわざとらしく問いかけた。

実央は文の兄も来ている、自分はその付き添いだと伝えた。しかし、ちほは文が施設育ちであることを知っており、母親も兄も全てが嘘で変な家だと文を煽るように言葉を投げかけた。
その言葉に文は上手く言葉が返せず、悔し涙を浮かべながらちほに近づき、文はちほの頬を叩いてしまう。文は我慢していた涙があふれ出て泣き出してしまい、ちほは唖然としてしまっていた。
実央は文に対し、女の子を殴ってはいけないと叱ると、文は涙ながらにちほに謝罪した。

ちょうどほとぼりが冷めたころに、苦痛の表情を浮かべた駿が実央と文の前に現れる。すると、同時にちほの父親である和田も現れる。実央は大変な時になぜ居ないんだと、駿を責めてしまう。その様子を見ていた和田が、文と駿の関係を知り同じクラスだったのかと笑って見ていた。

ちほは保健室で手当してもらい、仲直りは早い方がいいと和田の提案で、実央・駿・文・和田・ちほの5人で昼食を取ることになった。昼食をとっている中でも仲のいい橋本家を見た和田は、自身の娘に対しうちも仲よくしようと話しかける。

その言葉を聞いたちほは涙を流し、ほんとうはお母さんが来るはずだったのにと泣き始めてしまう。
ちほの母親は仕事が忙しく、さらに和田は再婚相手で血のつながりがない為、両親との関係にちほは不安を抱えていた。そのせいで、血のつながりもない家族と仲の良い文に対し、煽るような言葉を掛けてしまったのだった。
文は涙を流すちほにハンカチを渡し、2人は食事の名目通り仲直りすることができた。

作家としての成功

駿は実家に戻っても小説を書き続けていた。新しく出した本が当たり、一気に注目の若手の作家となっていた。しかし、駿がゲイであり恋人も存在して実家で暮らしている、という噂が出回ってしまう。その噂を確実なものにする為なのか、記者が家の前で貼りこむようになってしまっていた。駿はその状況で家から出ることがほとんどなくなり、情緒不安定な状況が続いていた。実央はそんな駿を心配しながら、彼を懸命に支えていた。

閉鎖的な日々を過ごす二人に、沖縄から絵里と鈴が会いに来てくれた。そして、実央が本島で世話になっていた、スナックのママと従業員たちも北海道まで来ており大勢での宴が始まった。閉鎖的な生活をしていた実央と駿は、仲間たちのおかげで久しぶりに楽しいひと時を過ごす。後日、駿は裏庭でヒット作となった原稿を燃やしていた。

駿がそんなことをした理由は、あの宴の様子がゴシップ記事として掲載されてしまったのが原因だった。「ゲイ疑惑作家の乱交パーティー」というタイトルで世を駆け巡っていた。その記事を目にした実央は、涙を浮かべながら怒りをあらわにした。一方で駿は最高じゃんと笑って見せた。駿は記事が載ることを元々知っていたが、今さら世間には期待していない駿は、記事をあえて相手にしなかった。

駿の冷静な言動に対し、自身が感情的になりすぎていると感じた実央は、自身に落胆する。
そんな実央に駿は、お前より長生きするよと言葉を投げかける。実央はその意味が分からず何故かと駿に尋ねた。駿は、「俺は徳が低いから、お前相手に物以外にやれることなんて先に死なないくらいしかないのよ」と答えた。その言葉を聞いた実央は、今までの不安が溢れ出すようにその場で吐いてしまう。そんな実央を駿は優しく抱きしめ、実央は駿の腕の中で何気ない日々を、大事にしていきたいと心に誓う。

5年後

父兄参加のリレーから抜け出して桜子(左)にプロポーズをする文(右)。

物語は一気に5年後まで進み、橋本家にも変化が訪れている。文は中学生になり、絶賛反抗期中。駿の父親は、鬱病を克服し仕事へ復帰。駿の母は、更年期で体調を傷すことが増えながらも、仕事と家の家事をこなす毎日を送る。駿は執筆を続けていたが、筆が折れ休職しニート状態となる。実央はそんな駿を支えながら、橋本家の手伝いをするなど忙しい日々を送っていた。

駿と実央は時間が合わず、すれ違うことも増えており、お互いに不安な日々を過ごしていた。実央は駿に飽きられる夢を見て、駿は忙しく働いている実央に構ってもらえないことに寂しさを感じていた。やっと時間ができた二人は、月見をしながらお互いの気持ちを改めて確認する。そんな仲の良い二人を見て苛立ちを見せるのは、中学生になった文だった。

文は小さい頃駿を兄のように慕っていた。
しかし、桜子と駿の関係を理解できる年になり、婚約破棄をした駿が未だに桜子の特別な存在であることに苛立っていた。文は、兄を連れ戻してくれた桜子を小学生の時から好いており、中学生になった今でも恋心を抱いていた。

そんなある日、髪を伸ばしていた実央が駿に髪を切ってもらっていた。実央は、駿がロングの髪が好きだと聞いていたから伸ばしていたのだという。駿はそんな健気な実央に驚きつつ、ショートヘアでも実央が好きだということを伝えた。
一連の会話を聞いていた文は、急に駿に怒りをぶつける。最近桜子も長かった髪をバッサリと切っており、それを文は駿の為に切ったのだと勘違いしてしまったのだった。

駿は、何故文が怒っているのか分からず適当にあしらうが、文は更に怒りを露わにする。怒りのままに、自身が桜子に好意を抱いていることを暴露してしまう。そこに、たまたま橋本家を訪ねてきた桜子が文の後ろに立っており、文は桜子に告白する形となってしまった。その後、改めて桜子に告白しなおした文だったが、桜子はお礼を言いつつ文の告白を断ることとなる。

失恋して落胆する文は、体育祭を迎える。元々両親だけが来る予定だったが、駿の母親が用事で来ることができなくなり、代わりに駿と実央が来ることになった。
それを聞いた文は、駿と実央に絶対に来るなと言っていた。しかし、応援席には駿・実央・駿の父・桜子の4人が座って文を応援していた。文はその状況に苛立ちを隠せずにいたが、自分を応援してくれる桜子の姿を見て有頂天になっていた。

昼食も5人で取るが、駿と文は険悪な雰囲気のままだった。
その後、父兄リレーに駿の父が参加する予定だったが、駿が代わりに出ることになった。それを知った文は、駿に敵対心をむき出しにしていた。駿は、いつまでこのやり取りを続けるのかと呆れながら文に問いかける。駿は文をなだめるように、「確かオレとあいつは幼馴染で一応婚約なんてしてたけど、お前だって俺の知らんあいつのこと知ってるだろ」と言葉をかけた。その言葉に返事をせず、そのままリレーに参加する。

リレーが始まると、文は駿の言葉に悔しさと怒りを感じながら、リレーで文はトップを走る。会場が湧きあがり、文が駿にバトンを渡すはずがそのまま通り過ぎ、文は桜子のいるところまで走り抜けた。
その勢いのまま文は桜子に、自分が成長したら結婚してほしいと懇願する。桜子も周囲に居た人たちも、驚いた様子で桜子と文を見つめる。文はそんな事お構いなしに、「キライになったら言って」と涙を流しながら言葉を続ける。

そんな文を見て桜子は笑いながら「キライじゃない」と返す。桜子との関係が一歩進展した文は目を見開き、周囲では歓声があがった。

『海辺のエトランゼ・春風のエトランゼ』の登場人物・キャラクター

主要人物

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