天官賜福(小説・アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『天官賜福(てんかんしふく)』は墨香銅臭によって書かれた中国のWeb小説作品。2017年から2018年まで晋江文学城にて連載されていた。2020年に中国ではbilibiliにてアニメが配信され、日本では2021年7月から9月まで放送された。仙楽国の太子だった謝憐は、修行を積み17歳で飛昇して武神になる。しかし2度も天界を追放され、3度目の飛昇を果たすも彼に祈りを捧げる者はいなかった。そんな謝憐の前に謎の少年が現れる。天界、人間界、鬼界の領域を擁する古代中国世界を舞台に、壮大な物語が描かれる。

『天官賜福』の概要

『天官賜福』は墨香銅臭によって書かれた中国のWeb小説作品。2017年6月16日から2018年6月20日まで晋江文学城にて連載されていた。2020年に中国ではbilibiliにてアニメが配信され、日本では2021年7月から9月まで放送された。仙楽国(せんらくこく)の太子だった謝憐(シエ・リェン)は、修行を積み17歳で飛昇して武神になる。しかし2度も天界を追放され、3度目の飛昇を果たすも彼に祈りを捧げる者はいなかった。そんな謝憐の前に謎の家出少年・三郎が現れる。下界に降りた謝憐が最初に任されたのは、北の地で起こる「花嫁失踪事件」。二つ目の任務は、西域の半月関での「隊商全滅事件」。三郎と自ら志願してお供に加わった2人の神官と共に、謝憐は事件の解明に乗り出す。事件の謎は謝憐の過去をも明らかにしていく。天界、人間界、鬼界の領域を擁する古代中国世界を舞台に、壮大な物語が描かれる。

『天官賜福』のあらすじ・ストーリー

太子の飛昇

ある時、天界に一際大きな飛昇の揺れが起こり1人の神官が生まれた。通常よりも大きな揺れに驚く天界の人々は、誰が天界にやってきたのかを知るとうんざりした。申し訳なさそうに佇むのは、白い衣に白い布を首に巻いた謝憐(シエ・リェン)だった。太子(たいし)とも呼ばれるこの男は、飛昇のときに天界の建物を多く破壊してしまった旨を聞き、修繕や償いのために888万の功徳(くどく)を集めなければならないことを知る。功徳は下界の人々の神への祈りから生まれる。しかし太子は2度天界を追放されており、下界でも笑われ者の神であったため、功徳をすぐに集めることは不可能だった。神々の会議に呼ばれた太子は、そこで北の地の任務を聞かされる。それは、北の信者が祟りを鎮めるために神官を使わして欲しいと、願掛けを頻繁に行っているというものだった。めんどくさがる他の神々に飛昇時の弁償を約束した太子は、一気にたくさんの功徳を集めるために下界に降りて祟りを鎮める事になる。

花嫁失踪事件

下界に降りた太子のもとに、2人の若い神官が天界から遣わされた。不本意らしく、膨れっ面の彼らは南風(ナンフォン)と扶揺(フーヤオ)と名乗る。彼らに太子は事件の詳細を説明した。事件の起きる場所は与君山(よくんざん)という山で、鬼花婿が住むという言い伝えがあった。この100年程で17人の花嫁が鬼花婿に攫われ、姿を消していた。最後の17人目の花嫁の父親が鬼花婿に賞金をかけたため、騒ぎが大きくなり天界にまで伝わったのだという。その日は日暮れも近かったため宿を探そうとしていた3人の前に、嫁入りの行列が現れた。すると1人の少女が駆け寄り、「あなたは鬼花婿のえさだ」と叫ぶ。すると、花嫁の乗っていた輿から花嫁の人形の首が落ちてきた。その行列は、賞金稼ぎをしたいゴロツキたちが鬼花婿を捕らえるために仕込んだものだったのだ。ゴロツキに絡まれる少女を助けた後、北の地に広く信仰されるミンガン将軍の廟を訪れようと茶屋の主人に聞くが、「そんなものは無い」と太子は言われてしまう。仕方なく代わりのナンヤン廟で、鬼花婿を誘きだす方法を考え、太子が女装して花嫁になることになった。

ゴロツキから助けたシャオインという名の少女の手助けもあり、美しい花嫁姿になった太子を乗せて輿は与君山に入る。すると、暗闇から狼が現れ行列を襲い始めた。その時、太子にだけ「面の下で笑うなかれ」と歌が聞こえていった。太子は輿に乗ってからずっと微笑んでおり、そのこともあってか人の形をしたもののけが一行に襲いかかってくる。もののけの数は増えるばかりだが、その時太子の目の前に光り輝く蝶が現れ、同時に輿の中に男の手が伸びてきた。不思議に思いながらも手を取った太子は、その男の顔を確かめることもできず、ただ手を取られて森の中へ歩いて行く。見えたのは赤い衣と傘だった。

ミンガン廟の花嫁たち

謎の男に連れられて歩いていた太子だが、突然付けていた面紗を取られそうになったため、首に巻いていた布を操り攻撃しようとした。しかし、攻撃が当たると男の体は無数の輝く蝶に変わって消えていく。その蝶の中の1匹が、暗い森にたつミンガン廟を照らして太子に示した。あたりには誰もおらず、太子1人だった。ミンガン廟に入った太子は、中に17人の花嫁の遺体を発見する。彼女たちは2列に向かい合い、面紗をつけて立っていた。太子が1人の面紗の中を覗こうとすると玄関から何かが入ってくる気配を感じ、襲われそうになる。それは黒いモヤで、風のようにまたどこかへ行ってしまった。表へ出た太子は、夕刻に追い払ったゴロツキ共に遭遇する。そこへ南風と扶揺も駆けつけ、太子は彼らに事情を話す。姿を消した黒いモヤを鬼花婿と考えた太子は、「ゴロツキ共の中に紛れ込んでいる」と言う。しかし、それに腹を立てたゴロツキの大将はそばにあったミンガン廟に入り、賞金を手に入れるために花嫁を物色し始めた。たまたま太子たちが心配で後を付けていたシャオインがそれを止めるも、耳を貸そうとはしなかった。そんなゴロツキの大将に、誰かが外から投石を食らわす。大将が目をやった先には包帯を巻いた少年がおり、それを追って森にゴロツキ共は入っていった。しかし森には大量に死体が吊るされており、血だらけの現場を目の当たりにしてゴロツキ共は引き返してきた。同時に包帯の少年も捕まり、太子はその少年に事情を聞く。

「少年は孤児で、与君山に住んでおり町によく食べ物を盗みにきていた」とシャオインは話す。気の毒に思ったシャオインは、少年に食べ物を恵んでいた。続けて太子は「他にミンガン廟はあるか」と聞くが、「建てるたびに燃えるから他にはない」とシャオインは答えた。それを聞いて、再びミンガン廟に戻ろうとする太子は「18人の花嫁を鎮める」と南風に伝える。

女将軍の怨念

鬼花婿の正体が、花嫁たちに嫉妬する女であることに気づいた太子は花嫁のいた場所に向かう。しかし、ゴロツキたちによって花嫁たちは運び出された後だった。焦る太子だが、花嫁たちはゾンビのようにすでにゴロツキたちに襲いかかっていた。逃げ惑うゴロツキとシャオイン、包帯の少年を助けるために太子は法力(ほうりき)を使って戦う。その最中、天界と通信してミンガン廟に祀られているミンガン将軍に関わる女を調べてもらった。するとミンガン将軍は飛昇前ペイ将軍と呼ばれていた頃、敵の女将軍であるシュエンジーと深い仲になっていたという。しかし、一生添い遂げたいシュエンジーとペイ将軍の想いは違い、シュエンジーは捨てられてしまう。ペイ将軍への恨みと他の女たちの幸せに嫉妬するシュエンジーは、悪霊となって悪さをしていたのだった。いよいよ太子とシュエンジーが正面からぶつかろうとしたその時、天界からペイ将軍が現れた。このペイ将軍はミンガン廟の第二の神で、シュエンジーの愛したペイ将軍の子孫でペイシュウという。「後は我々にお任せを」と言ってシュエンジーを山で鎮めようとするペイシュウの顔は冷ややかで、蔑むようにシュエンジーを見ていた。

戦いの中で、太子を助けようとしたシャオインはシュエンジーに飛ばされ、頭をうって死んでしまった。その死を悲しむ包帯の少年に、「傷をみよう」と優しく声を掛ける太子。彼の顔の包帯の下には、太子が飛昇する前に治めていた仙楽国が滅びた際に流行っていた人面疫の傷があった。太子は数百年前の病に驚きを隠せなかった。

事件が落ち着き天界に戻ると、太子は神々の会議で銀に輝く蝶について質問した。下界が長く鬼界について疎い太子に神官たちが教えてくれた。鬼の四天王を四大害(よんだいがい)といい、品位がなく最も弱い青鬼チーロン、水を司る黒鬼、仙楽国を滅したバイウーシャン、そして太子が出会ったとされるのが天界が最も避けている花城(ホワチョン)である。銀の蝶は彼が出したもので、ホワチョンはかつて神官33人に挑戦状を出して勝利している。武神も文神もホワチョンには歯が立たなかったが、神官たちはホワチョンの提示した「負けたら下界に降りて人間になる」という決まりに従わなかった。そのためホワチョンは負けた神官の廟を焼き、彼らの信者を自らにつかせたのだった。太子が与君山でホワチョンに出会ったことで、天界はその調査で忙しくなる。今回の鬼花婿の一件で、太子にお礼参りが多くされたことにより888万の功徳が全て返済された。そこで、自分の堂や信者も少ない太子は、下界に降りて自分で堂を建てて信者を集めようと考える。

三郎との出会い

ある村で空き家を見つけた太子は、掃除に加えてガラクタを集めて修繕代を集めようとする。町に出た帰りに荷車に乗せてもらって帰っていたところ、同じ荷車に人が乗っていることに気づく。ガラクタの中にあった書物に「仙楽太子」の名を見つけるも、散々な書かれように「どんな神も平等だ」と前向きな太子。しかし「そうかな」とその人物は言った。太子が顔を見ると、赤い衣の若い青年が微笑んで神について教えてくれた。彼の名前は三郎(サンラン)という。その様子を見て、ホアチョンが頭をよぎった太子は「血雨探花(けつうたんか)について知っているか」とホアチョンの別名を問うた。名前の由来や、右目を自ら抉って失っていることの他に、鬼は骨灰(こつばい)が弱点であることを三郎は教えてくれた。太子が「自ら骨灰を渡してくる鬼はいないだろう」と言うと、「鬼は自分が認めた相手には骨灰を渡す」と三郎は答えた。そして、「自ら渡した骨灰をどうされようと本望だ」と太子を見つめながら三郎は続ける。2人の乗った荷車は、あたりが薄暗くなっても進む。しかし、前方に鬼の明かりを見つけて荷車を引いていた牛が止まった。太子が咄嗟に気づかれないよう幕を張ると、1度は難を逃れたが後ろから追いかけてきた。荷車は再び止められたが、鬼が襲い掛かろうとすると三郎が睨みをきかせたため去っていった。

太子は堂に着くと、野宿しようとしていた三郎を招き入れた。何もない堂を見て「神の像がない」と言う三郎に太子が絵を飾ることを伝えると、「自分が描く」と三郎は言った。仙楽太子が描けるのか本気にしない太子は次の日、壁にかかる見事な仙楽太子像に驚く。それ以外にも吹き通しだった堂の扉を作ったり、掃除を手伝ったりと三郎はなんでもこなした。少しずつ信者も集まってきたが、太子は三郎がホワチョンではないかという思いが強まっていく。

半月関の失踪事件

三郎が太子の堂に来た翌日、村人が息絶え絶えの苦しそうな男を運んできた。意識がはっきりしてきた男は、「半月関(はんげつかん)から逃げてきた」と言う。太子はかつてその土地に行ったことがあったため、「砂漠の中の緑地だ」と男に話すと「今はそこに行った者の半数が姿を消す」と男は震えた。鬼が出るため商人に雇われた護衛の1人だったと語るその男は、自分以外の59人が姿を消したことを太子と三郎に話した。1人だけ生き残った男に不信感をもった三郎は、太子に目配せをする。それを見た太子が水を勧めると、男はひどくそれを拒んだ。ますます怪しい男はその様子を見つめる太子に斬りかかるも、軽く剣先を弾かれてしまう。そして、少し離れたところにいた三郎の投げた箸に射抜かれて、瞬く間に干からびてしまった。それを見て半月関に行こうとする太子に、「半月妖道(はんげつようどう)を知っているか」と三郎は聞いてきた。かつて国だった半月関は半月国といい、猛々しい戦士を多く有していたために隣国との争いも絶えなかった。半月妖道が半月国の国司だと太子に話した後、三郎は「僕も行く」と言った。同じ時に堂の戸が叩かれ、その前に南風と扶揺が立っていた。呆れた顔の2人は、また太子の共をする役目を担ったようだった。太子や自分たちに馴れ馴れしく接する三郎にイライラする2人だが、それは三郎をどこかで見た気がしたからだった。

南風が堂の扉に陣を描いて、そこから砂漠の街である半月関へ行くことになった。事件の起きた場所へ向かう中、三郎が半月妖道について詳しく話し出す。半月妖道は身寄りのない子供だったが、法力(ほうりき)という超人的な力があったため成長すると人々に崇められ国司になった。その頃、戦いが硬直状態だった半月国は半月妖道の力で士気が上がっていった。ところが、戦いの最中半月妖道は城門を開けて、敵を招き入れる。それにより半月国は滅亡し、半月妖道は生贄を祀って戦いをおさめようとしたため鬼となる。半月関で人が失踪するのは、半月妖道が生者を兵士の亡霊に与えているからだという。4人は砂漠の中に小屋を見つけたため、そこで一休みしようとする。小屋に入ると、三郎をホアチョンだと疑う扶揺が正体を暴く水を勧める。太子が毒入りでないことを伝えると、三郎はなんの疑いもなく全て飲み干してしまう。次に、南風が正体を写す剣を護身用だといって渡すと、三郎は剣を抜こうとするが「折れて使えない」とすぐに笑顔で返してきた。南風が見ると折れていないはずの剣が粉々になっていた。

蠍尾蛇の毒

小屋の外の風が強くなり、「砂嵐が来そうだ」と窓に近づいた太子は砂漠の中を走る2人の女を見つける。半月妖道は女であると三郎は言っていたため、太子は外に出て追いかけようとする。しかし、突如竜巻に襲われて宙に飛ばされてしまう。首に巻いていた布を操り、太子が「頼れるものを掴め」と言うと布は三郎を掴んだ。太子は不思議に思いながらも、南風と扶揺も合流して近くの岩山にあった洞穴へと4人は逃げる。洞穴はかつての半月人たちが掘ったもので、奥まで続いていた。すると突然男の叫び声が聞こえ、南風が辺りを照らすと数人の人間がそこにはいた。彼らは商人で、砂嵐を避けてこの洞穴に入ったという。そして地元の案内人であるアーチャオという男に案内してもらって、安全に道を進んでいたのだと付け加えた。しばらく岩に腰掛けて各々休んでいると、三郎が太子の座る石に文字を見つける。それは半月文字で書かれた、半月国の敵である中原(ちゅうげん)の国の将軍塚だった。その将軍は実際には元将軍で、戦場で民を殺さないように敵味方を説得したため位が一番下まで落ちたと石碑にはあった。石碑を読み終えると、近くに蛇が現れる。それは半月国にのみ生息していた蠍尾蛇(かつびじゃ)という蛇で、毒のある蠍の尾を持っていた。「半月妖道は蠍尾蛇を自由に操れた」と三郎が言うのを聞いた太子は、半月妖道が近くにいるのならもっと蛇がいるだろうと考える。その通りに、周りは蠍尾蛇に囲まれていた。

蠍尾蛇からなんとか逃げて、商人たちと太子らは洞穴の外に出てきた。しかし、商人の中の1人が蠍尾蛇に刺されてしまう。その毒はあっという間に死にいたる猛毒で、善月草(ぜんげつそう)という半月国の中にしか育たない香草が唯一の解毒剤だった。危険を冒してまで、人々が半月国に向かうのはその解毒剤を得るためだったのだ。その話を太子が聞いていると、背後から三郎に飛びかかる蠍尾蛇を見つける。咄嗟に捕まえるも、太子は手を刺されてしまった。それを見て「帰ろう」と言う南風と扶揺だが、太子は商人たちの救済のために半月国へ善月草を取りに行くことにする。アーチャオに案内を頼み、扶揺を商人の護衛に残して4人は出発した。無事に半月国に着いた4人は、砂漠で見た2人の女に遭遇する。姿を隠していたがバレたため、南風が囮となってその場から離れることで太子らは難を逃れた。その間に善月草を見つけようと太子は意気込むも、アーチャオはその場所までは知らなかった。その時、三郎が「背の高い建物の近くを好む」と言って太子の背後にある宮殿を見つめる。3人は急いで宮殿に向かい、その敷地内で善月草を探し始めた。太子が草をかき分けて探している時、不意に人の足を掴む。掴まれた本人は驚いて走り出すが、それは洞穴で出会った若い商人の1人だった。「いつ戻るか分からないから、追いかけてきた」と話す彼は、他の商人も一緒であることを太子に伝える。そこへ三郎が善月草を見つけて戻ってきた。早速太子の手に擦り付けると、瞬く間にその腫れは消えていった。

半月国の兵士たち

洞穴で善月草を待つ仲間のために、宮殿の庭を探し回る商人たち。アーチャオが大きい善月草を見つけたため、太子がそこへ向かおうとすると「あっちはダメだよ」と三郎が止める。その時、男の叫び声が聞こえた。しかしそれは商人たちではなく、彼らの足元にあった人間の顔の声であった。土に埋まったその顔は、「5、60年前は商人だったが半月国の兵士によって運ばれ、善月草の肥料として埋められた」と話す。そして、太子らの中に「見たことのある顔がいる」と続けた。嘘だと思った太子は商人たちに「近づくな」と言うが、男の顔の近くに生えていた善月草を取りに商人が足を踏み出してしまった。その瞬間、男の顔から出た長い舌によって頭が射抜かれ、商人はその場に倒れる。太子が男の顔を攻撃しようと前に出ると、今度は上空から大きな金棒が太子の目の前に降ってきた。それは半月国の兵士のもので、宮殿の影から次々と屈強な半月国の兵士が現れた。金棒を持つ男は一際大きく、将軍と呼ばれていた。そして、将軍は太子らを捕らえて、罪人たちを突き落とす深い罪人坑へ連れて行く。道中に三郎は太子に、将軍が半月国滅亡時の将軍で半月妖道の後ろ盾であったことを話した。罪人坑に着くと、将軍は「2人落として、あとは見張っておけ」と他の兵士に伝える。それを聞いて盾になろうとする太子だが、アーチャオが急に飛び出して将軍に掴みかかろうとした。しかし、逆に首を掴まれて罪人坑に落とされてしまう。その後、将軍は太子と商人の子供を突き落とそうとするが、それよりも先に三郎が「大丈夫」と優しく笑って自ら身を投げた。

三郎の真の姿

三郎を追って飛び降りようとする太子だが、将軍がそれを止める。そうしていると、罪人坑の高い柱に縛られていたマントを被った人物が、自ら縄を解いて兵士たちを罪人坑に突き落としてしまった。将軍がそれに気を取られた拍子に、太子は将軍を引っ張って一緒に落ちていった。底に着地しようと首の布を操って衝撃を和らげようとした太子だが、罪人坑の上部には幕が貼られていて思うようにいかない。焦る太子を三郎と思われる男がふわりと抱きとめた。声は穏やかな三郎だが、暗くて顔はよく見えない。先程と同じ赤い衣だが、装飾が増えて髪も結んでいない。太子は三郎の呼吸や鼓動が聞こえないことに驚き、「おろして欲しい」と頼むが「汚れる」と言って三郎は降ろしてくれなかった。罪人坑の底にいた半月国の兵士たちは三郎が皆倒してしまったようで、あたりは血の海だった。仲間が殺されたことに腹を立てた将軍が三郎に向かってきたが、太子を抱いたまま三郎は軽く攻撃を受け流す。「もう無茶はやめてほしい」と言う太子に三郎は「それだけ」と不思議そうに聞いた。「人付き合いに何者かは問題ではない」と答える太子に微笑んだ三郎は、元の10代の少年の姿に戻った。「あの小娘の仲間だな」と2人を睨む将軍は、半月妖道のことを恨んでいた。「半月妖道のことで話がしたい」と言う太子と何をするか分からない三郎に脅されて、将軍は半月妖道について話し始めた。彼女は完全な半月人ではなく、敵国との混血児だった。母を早くに亡くした後、妖術を身につけて半月国の国王に仕えることになる。混血であることが周囲の反感を買ったが、将軍が彼女を庇った。半月妖道は考えが読めなかったが、仲間思いで蠍尾蛇を使った戦いは見事だった。将軍は彼女を国師まで押し上げたが、戦いの途中で半月妖道は裏切り半月国は滅亡する。

将軍の話を聞いて、太子はいくつか疑問に思う。1つ目は、死人である将軍たちが蠍尾蛇の毒を恐れて善月草を育てる点。2つ目は、半月妖道が蠍尾蛇で人を襲わせている点である。まるで兵士のために蠍尾蛇を使っているようで、半月人の兵士と敵対しているのに矛盾していると太子は考えた。将軍と話をしていると、罪人坑の入り口から1人の女が降りてきた。将軍が睨むその女こそ半月妖道で、周辺の死んだ兵士たちを見て「これでやっと解放される」と呟いた。そして太子たちを見て、「行っていい」と告げる。上を太子が見上げると、扶揺が「誰がいるか」と声をかけてきた。扶揺は砂漠の商人たちを結界で保護した後、こちらにやって来たらしい。彼が下に降りてくると、半月妖道に恨みを持つ将軍が彼女に攻撃をしていた。太子が止めに入ると、半月妖道は太子を見て「ホワ将軍」と言った。太子は彼女を「バンユエ」と呼ぶ。2人は太子が200年前に半月国を訪れたときに偶然出会い、ひょんなことから軍隊に入れられていた太子に孤児のバンユエが懐いたのが始まりだった。バンユエには永安国(えいあんこく)の少年以外に友達もいなかった。その後、太子は戦いに巻き込まれて死んだふりをする。砂漠の洞穴にあった将軍塚は太子のものだったのだ。そこから先の、半月国の裏切りの真相を話そうとしないバンユエは、「蛇が言うことを聞かなくなる」と太子に訴えた。バンユエの言う通りに無数の蠍尾蛇が罪人坑を落ちてくるが、彼女の指示を無視して太子らを襲ってきた。罪人坑の中に、まだ姿を現していないもう1人がいると太子は考える。

ペイシュウとバンユエ

上から落ちてくる蛇たちから太子を守るために三郎が傘を開く。太子を近くに引き寄せて、もう1人の存在を確認した三郎は戦い始めた。バンユエが太子らを欺いて嘘をついていると考える扶揺は、太子の近くにいる三郎も怪しいと太子に伝える。しかし、太子はバンユエも三郎も危険ではないと言って、罪人坑にいるもう1人を「ペイシュウ将軍」と呼んだ。シュエンジーの事件のときに名前が上がったペイ将軍は2人おり、そのうちの1人であるペイシュウはまだ若く、飛昇前に国を滅ぼしている。ペイシュウの滅した国こそ半月国であった。それを聞いて姿を現したのはアーチャオの姿のペイシュウで、彼はバンユエの唯一の友人だった。永安国と戦うことになった半月国の勢いを止めることは、バンユエにはできなかった。戦いの理由が終わりのない領土争いであることに幸せを見出さなかったペイシュウは、バンユエを説得して半月国を滅ぼす手引きをさせたのだった。「半月人は死んで当然」と言うペイシュウの言葉を聞いて、上空から「本当にそうか」と声が聞こえた。突然罪人坑の太子らは皆、竜巻に巻き上げられて脱出する。その竜巻と声の主は風を司るフォンシーで、その隣には地の神であるミンイーがいた。2人は女性の姿をしており、太子らが砂漠で見たのはこの2人だった。ペイシュウが蠍尾蛇を操って生者を半月国の亡霊の生贄とし、怨念を鎮めようとしていたやり方をフォンシーが諫める。バンユエには罪がないとして下界に残され、ペイシュウと将軍が天界に連れて行かれた。

事件は収束し、善月草を砂漠の商人たちに届けた太子たちは大変感謝される。神であることが一部の商人に知られた太子に、「祈りを捧げる」と商人は言った。少し気恥ずかしそうな太子は三郎に「帰ったら何が食べたい。ホワチョウ」と聞く。三郎は少し驚いて、「その名前よりも三郎と呼ばれたいな」と太子に笑いかけた。

堂に帰ると、料理を作る太子に「なぜわかったの」と三郎は聞いた。手相や髪の毛、姿を写す諸々も効かなかったため鬼だとしたら階級が上であり、全知全能で赤い衣を着ていたことを太子が理由に挙げるとなんだか嬉しそうな三郎。鬼花婿の事件の時に輿から太子を連れ出したのも三郎だと気づいた太子に、「理由は2つ。狙いはあなただった。それか暇だった」と三郎ははぐらかした。楽しげに語らう2人の後ろで、意識をなくしていたバンユエを術で小さくして入れた壺がカタカタと動く。バンユエが目を覚ましたようで、転がりながら外に飛び出した壺からバンユエが太子に話しかけてきた。何度も太子に謝るバンユエを心配する太子に、バンユエは「私は万人を救いたい」と呟く。それはかつて、太子が大きくなってもなりたいもののないバンユエに言った言葉だった。青臭い自分の言葉に頭を抱える太子だが、バンユエは「この200年の間私は何をしていたのか」と後悔を漏らす。それを聞き、「私の800年はもっと無意味だ」と太子は苦笑いをした。

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