海街diary(漫画・映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『海街diary』(うみまちダイアリー)とは、『月刊フラワーズ』にて2006年から連載されている吉田秋生による漫画、及びそれを原作とする映画である。外に女を作り出て行った父と、それにショックを受け新たな男を作り家族を捨てた母親。そんな両親を持つ三姉妹が父の訃報をきっかけに腹違いの妹・すずと出会い、絆を深めながら生き生きとそれぞれの人生を生きていく様が鎌倉を舞台として叙情的に描かれている。

『海街diary』の概要

『海街diary』(うみまちダイアリー)とは、『月刊フラワーズ』にて2006年から不定期に連載されている吉田秋生による漫画、及びそれを原作とする映画である。
外に女を作り出て行った父と、それにショックを受け新たな男を作り家族を捨てた母親。物語はそんな両親を持つ三姉妹が父の訃報をきっかけに腹違いの妹・すずと出会い、四人で暮し始めるところから始まる。看護師として働くしっかりものの長女・幸、地元信用金庫でOLをする酒と男を愛する次女・佳乃、スポーツショップ店員で少し変わり者の三女・千佳、そして明るく朗らかなサッカー少女の四女・すず。彼女たちが徐々に絆を深めながら生き生きとそれぞれの人生を生きていく様が鎌倉を舞台として叙情的に描かれている。
本作品は1995年~1996年に『別冊少女コミック』にて連載された同じく鎌倉を舞台とする同作者による『ラヴァーズ・キス』とのクロスオーバー作品であり、作者によれば今後描く作品と合わせて鎌倉三部作を予定しているとのことである。
第11回(2007年)文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、マンガ大賞2013、第61回(2015年)小学館漫画賞一般向け部門受賞作品。
2015年に実写映画化された。第39回(2016年)日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ受賞暦多数。第68回(2015年)カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。

『海街diary』のあらすじ・ストーリー

四姉妹

看護師として働くしっかりものの長女・香田幸、地元の信用金庫でOLをする酒と男を愛する次女・佳乃、スポーツショップ店員で少し変わり者の三女・千佳。神奈川県の鎌倉市で暮らす彼女たちの元に、かつて外に女を作り出て行った父の訃報が届く。父が自分たちを捨てて家を出ていった当時のことを鮮明に覚えており、未だにその父が許せない幸と異なり、幼かったため父に関する記憶自体があまりない佳乃と千佳は特に身内が死んだという実感のわかないまま葬式が行われる山形を訪れる。二人を出迎えたのは腹違いの妹・浅野すずだった。夜勤明けで遅れて到着した幸と合わせて血のつながった四人はそこで初めて顔を合わせることになる。
父は家を出た後、再婚相手である季和子との間にすずをもうけるが、程なくして彼女とは死別。その後、すずを連れ再々婚した陽子とその連れ子とともに山形で暮していたという。心労もあり、どことなく頼りない亡父の妻・陽子を埋め合わせるように中学生らしからぬしっかりとした立ち居振る舞いをするすず。悲嘆にくれる陽子とそんな彼女をいまだに甘やかしているような親族に囲まれる中で培われた年齢や見た目と裏腹な大人っぽさは、三姉妹たちにはどこか痛ましくうつるのだった。そんなすずのアンバランスさを気に留めることもない周囲の大人たちに不信感を抱いていた幸は、葬式からの帰り、すずに改めて亡父の世話をしてくれたことに感謝の言葉をかける。誰に甘えることも出来ず、気丈に振舞うことしか出来なかったすずは、それまで堪えていた感情を爆発させるように号泣する。幸はそんなすずに「鎌倉に来て一緒に暮らそう」と誘う。「行く」と即答したすずは四十九日を済ませた翌週、蝉時雨のやむ頃三姉妹が住む鎌倉の一軒家に引っ越し四女として新たな共同生活をスタートさせるのだった。

湘南オクトパス

引越しの作業もひと段落し落ち着いたころ、スポーツショップで働く千佳の勧めもありすずは地元の少年サッカーチーム「湘南オクトパス」の入団テストを受けることにする。母と死別し、山形に移り住むようになってからはしばし離れていたが、もともとそれまで住んでいた仙台ではジュニアサッカーの強豪チームでレギュラーを張っていたすずは、入団テストに合格し再びサッカーを始めることになる。すずはすぐにチームになじみ、新しく通い始めた中学でもクラスメイトの多田裕也や緒方将志、そしてチームのエースでもある多田裕也たちと仲良くなる。
そんな矢先迎えたある日の練習中、風太のタックルを受けた裕也はグラウンドに倒れこみ、そのまま病院に行くことになる。当初は大事を取っただけと思われたが、後日学校を休んだ裕也はそのまま長期入院することになる。練習中の怪我は直接的には関係なかったが、その検査のときに発見された骨に出来た腫瘍のため、裕也は右足を切断することになってしまう。手術後、風太やすずたちと面会した裕也は思いのほかポジティブで、中学二年の新学期ごろをめどに義足でのチーム復帰を目指してリハビリに励んでいた。
迎えた新学期、すずや将志や風太と同じクラスになった裕也は義足ながらボールを使った練習にも復帰する。けれどかつてチームで一番うまかったボールさばきは戻ってはこなかった。おどけたり、少しの苛立ちを見せたりしながら新しい身体と付き合っていこうとする裕也を見て、同情とは違うけれど、どこかやるせない思いを抱く風太やすず。そうしているうちに夏が来て、すずは父親の一周忌を迎えることになる。すずが鎌倉に来てから一年が過ぎようとしていた。

恋模様

父親の一周忌ですずが山形に戻るとそこには陽子の姿はなかった。すでに新しい男とともに山形を出て行っていたのだった。すずは一年すら我慢することが出来なかったかつての継母に憤慨するが、別に法律違反をしているわけじゃない、と大人の冷静さで陽子を擁護する幸と衝突してしまう。
そうこうして鎌倉に戻ってきた折、幸の不倫が発覚する。相手は幸が勤める病院の小児病棟の医師で、精神を病んだ妻と別れを切り出せずにいた椎名という男だった。男と女の問題は他人が口出しできることでもない、と分かりながらもつい幸をとがめ口げんかしてしまう佳乃。好きな男と過ごす時間は楽しいけれど罪悪感は常に付きまとう。そんな時、幸は椎名から小児ガンの先端医療を学ぶため妻と正式に離婚してアメリカにわたるつもりであること、そして幸に一緒に来てほしいと思っていることを伝えられる。幸は悩んだ末に椎名に断りを入れる。椎名と付き合った三年間で積み上げた椎名の別れた妻に対する後ろめたさにピリオドを打つことにしたのだった。
一方すずは、裕也のことが異性として徐々に気になり始める。以前のようにプレーでチームの中心になることは出来なかったけれど、雑用を率先してこなしたり、一人黙々とリハビリメニューを消化したりする裕也のことを気付くと目で追ってしまっているのだった。けれど、ある日オクトパスの友達と花火大会に向かう途中、彼女と思しき浴衣姿の女子と裕也が仲よさそうに歩いているのを見かける。ハンサムで誰に対しても優しく、性格もリーダー気質の裕也がモテないはずはなく、すずは人知れず失恋する。はっきりと裕也のことが好きだったわけでも告白したわけでもないけれど、他の女子と花火を見ている裕也を想像すると自然と涙がこぼれてくるのだった。
その頃、ついに裕也は試合形式の練習に復帰する。義足ながら懸命にプレーする裕也だったが、やはり以前の彼とは似つかないプレーにすずをはじめオクトパスの皆はショックを受ける。そんな中、裕也に代わってキャプテンを引き継いだ風太の言葉にすずははっとする。最初の五分は以前と同じようにプレーしようとしてうまくいかなかった裕也は、すぐに義足の右足に見切りをつけ利き足ではない左足を中心としたプレーにシフトチェンジしていた。その切り替え、潔さに風太は「あいつやっぱすげー」と言ったのであった。その言葉を受けたすずは裕也のメンタルの強さに改めて感心するとともに、そんなことに気付いている風太の視野の広さにも感銘を受ける。この頃からすずは風太に尊敬とも恋愛感情とも取れる感情を抱き始め、徐々に二人は距離を縮めるようになっていく。

海猫食堂

それまで勤めていた小児病棟から緩和ケア病棟に主任として異動した幸は、新たな責任と仕事を担うことになっていた。そんな折、入院予約リストに四姉妹をはじめ将志や風太たちも通う地元で馴染みの「海猫食堂」の店主・二ノ宮幸子の名前を発見する。程なくして入院してきた二ノ宮は一月も経たぬうちに亡くなり、幸は緩和ケアに異動して早々に親しい者の死に直面する。幸が死に向き合う仕事のあり方について自問する中、思いがけず自身の胸にしこりがあることに気付く。検査の結果発見された腫瘍は良性のものだったため事なきを得たが、改めて寄り添う者と当事者の間には比較の出来ない差があることに気付く。そんな時オクトパスの監督で幸の勤務する病院の理学療法士でもある井上泰之が元気のなかった幸に声をかけてくれる。自分のことを気にかけてくれた泰之に緩和ケアという仕事の難しさに戸惑う気持ちを話すうち、飾り気のない朗らかな彼に心惹かれるようになっていく。
一方それまでは内勤だった佳乃は上司の坂下美海について主に中小企業への融資や個人の資産管理に関わる外回りの仕事に携わることになり、徐々に仕事の幅を広げていく。そこで佳乃もまた二ノ宮幸子に関わっていた。かつて十代の頃、家族に暴力を振るい半ば絶縁状態で家を出て行った二ノ宮の弟が母の死をきっかけに遺産目当てで戻ってきた。しかし、食堂を経営する傍ら、介護もこなし母の死を看取った二ノ宮はそんな弟の横暴を許すことは出来ず、住宅ローンを組んだ際に関わった坂下に相談を持ちかけたのだった。なるべく二ノ宮の意に沿うように佳乃たちは奔走する最中、彼女は末期がんであることが明らかになり緊急入院の後さほど間も空けず亡くなってしまう。救われない結末にやるせない気持ちを共有する佳乃と坂下。そんな中でもできることを精一杯尽くし仕事をこなしていく坂下の姿は佳乃の心に感じさせるものがあり、基本的にイケメン好きな佳乃には珍しく彼の誠実に心を奪われていく。
近しい者の死はすずにとってもショックだったが、二ノ宮の人柄にひかれ集まってきた人たちは多く、特に近所で喫茶店「山猫亭」を営むマスターの福田仙一は生前に二ノ宮から教えてもらったレシピで海猫食堂の味を再現したカレーをメニューに追加することにする。馴染みの海猫食堂といつもそこにいた二ノ宮はいなくなってしまったが、彼女のことを忘れない人たちがいる。すずも将志の母づてに教えてもらった海猫食堂の「豆アジの南蛮漬け」を姉妹たちに振る舞いながら、少し心温めるのだった。

北川家との雪解けとその後

すずは姉たちと亡くなったすずの母親の実家がある金沢に赴くことになる。事の発端は季和子の妹である北川十和子がすずのもとへ訪ねてきたことだった。不倫から始まり、駆け落ちのような形で実家と縁を切り、結婚を押し通した季和子のことを呉服屋を営む名家の家長として彼女の母親(すずにとっての祖母)は体面上許すことが出来なかった。季和子もまた他人の家庭を壊し、北川家の名前に泥を塗ってしまったけじめから、すずが生まれた後も実家に歩み寄ることが出来なかった。けれどそんな表面上の大人の事情とは裏腹に、孫であるすずのことを祖母はずっと気にかけてくれていたという。季和子に続き、北川家の家長であるすずの祖母が亡くなったことをきっかけとして、すずのために祖母が貯金してくれていた通帳を渡すため、そして遺産相続の手続きの連絡をするために十和子が会いに来たのだった。北川家からは嫌われているものと思っていたすずは安堵の涙を流す。そして遺産相続の話し合いのために姉たちと金沢を訪れた際には、伯父から亡母の振袖を贈られ母と実家に関するわだかまりはなくなるのだった。
金沢から戻り再び日常生活を送り始めた頃、変わらずオクトパスで活躍するすずのもとに女子サッカー部を創設する予定の静岡の高校から特待生の話が舞い込む。大好きなサッカーを続けられることは嬉しいけれど、姉や風太たちと離れてうまくやっていけるだろうか。そんな不安から決断に二の足を踏んでいたが、風太に後押しされたすずは特待生の話を受けることにする。
そんな時、すずはゴミ袋に捨ててある妊娠検査薬の箱から偶然千佳の妊娠を知ることになる。相手は千佳の交際相手で彼女が働いているスポーツショップの店長・浜田三蔵で、妊娠10週目に入っているとのことだった。もともと登山家だった浜田は、かつてエベレスト登頂に挑んだ際凍傷で足の指を失って以降、山から離れていたが、ちょうどその頃店長を務めるスポーツショップの社長も協賛するエベレスト登頂隊にサポートメンバーとして参加することになっていた。そんな浜田に山に集中してもらいたいとの思いから誰にも妊娠のことを報告していなかったが、軽い熱中症で病院に運ばれたことをきっかけに結局皆に知られることになる。駆けつけた浜田はエベレスト再挑戦の思いを語るとともに必ず無事に戻ってくることを誓い千佳にプロポーズをし、快諾を得る。
静岡の学校に行くことも決め、学校見学会でも入学予定の生徒たちとの顔合わせを済ませたすずは、いよいよ中学生最後の夏休みを迎えることになる。(単行本第8巻まで)

『海街diary』の主な登場人物・キャラクター

浅野すず(あさの すず)

本作の主人公で、香田家の三姉妹の異母妹。物語開始時は13歳。性格は明るく積極的で、基本的にしっかり者である。金沢の呉服屋の娘である母親の季和子が父親である浅野と不倫関係に陥り、鎌倉から駆け落ちした後に生まれた。母が亡くなった後は父の再々婚相手の陽子達とともに山形に移り住んでいたが、父の死後、葬儀で顔を合わせた香田三姉妹に引き取られる形で鎌倉へ引っ越すことになる。母が亡くなるまで住んでいた仙台では全国大会で優勝経験のあるジュニアサッカーの強豪チーム「青葉JFC」でレギュラーを張るほどの実力を持っており、湘南オクトパスに入団後もその実力を遺憾なく発揮している。後に静岡の男子サッカーの強豪校から女子サッカー部の新設に伴うスカウトを受け、迷った末にスポーツ特待生枠で入学することを決める。当初、裕也に想いを寄せていたが、彼女の存在を知ったことで失恋。その後、徐々に風太の存在が大きくなり、交際するようになる。

香田幸(こうだ さち)

すずの姉で香田家の長女。物語開始時は29歳。生真面目で毅然とした性格で、思ったことをはっきり口にするタイプである。鎌倉市民病院に看護師として勤務しており、物語途中で小児病棟から緩和ケア病棟に異動することになる。父を亡くし悴していた異母妹のすずを気にかけ、鎌倉で一緒に住まないかと持ちかける。幼い頃自分たちを捨ててた両親に長らく悪感情を抱いている。同じ病院の小児科医・椎名と約3年不倫関係にあったが、彼からのアメリカに行きの誘いを断ってその関係に終止符を打つ。その後、同じ病院に勤務する井上泰之と恋仲になる。

香田佳乃(こうだ よしの)

すずの姉で香田家の次女。物語開始時は22歳。酒と男(イケメン)をこよなく愛するが、そうした嗜好のため失敗することも多々あり、昔ホストに100万円貢いだことがあるらしい。短大卒業後地元鎌倉の八幡信用金庫でOLとして働く。当初は窓口業務をメインとしていたが、物語途中からは上司の坂下と共に外回りも担当するようになった。海猫食堂の一件を通じて坂下との距離を縮めてから程なくして彼と恋仲になる。

香田千佳(こうだ ちか)

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