月がきれい(アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『月がきれい』は、2017年4月から7月にかけて、全12話(6話と7話の間には6.5話として、前半を振り返る総集編が放送された)で放送されたオリジナルアニメ作品。製作はfeel.である。埼玉県の川越市を舞台に、主人公の中学3年生、安曇小太郎と同じクラスの水野茜が繰り広げる恋愛模様を中心とした、リアルな人間ドラマが描かれている。

クラス内でも、図書室でもふたりきりで話すことができない小太郎と茜。
しかし小太郎は、大輔が店番をつとめている古本屋で、茜と会うことができるようになる。
小太郎から、小説の題材として男女が付き合うことの内容や、なかなかその男女がうまくいっていないことなどを相談されていた大輔は、しかしそれが小説の題材ではなく、小太郎自身の悩みであることを察していたのだった。そこで大輔は自分が席を外すことで、古本屋で小太郎と茜が会い、会話できるようにしたのだった。

小太郎は早速、LINEで茜を古本屋に誘う。
ようやくふたりきりになれた小太郎と茜は、ぎこちなくも会話を交わす。しかしそこに千夏からのLINEが茜のスマホに入る。その内容は、千夏が小太郎のことを好きになってしまった、と言うことを報告するものだった。

早朝の図書館で、小太郎は、東京の出版社から電話があったことを茜に告げる。しかし奇しくも、出版社から来訪をお願いされた日は、茜が陸上大会に出場する日でもあった。応援に行けないことを詫びる小太郎に、茜は一緒に頑張ろう、と明るく声をかける。しかし茜は、千夏からのLINEの内容、千夏が小太郎のことを好きになってしまったというそれを、小太郎には告げられないままだった。

大会の日、茜は勇気を出して、自分と小太郎が付き合っていることを千夏に告げる。しかし千夏は、そのことには気が付いていたと答える。
つまり千夏は、茜と小太郎が付き合っていることを知った上で、それでも小太郎のことを好きになり、わざわざそれを茜にLINEで報告してきたのだ。
そのことに衝撃を受けると共に、言い知れぬ不安を感じた茜は、実力を発揮することができず、大会は残念な結果に終わってしまう。

一方、出版社を訪れた小太郎も、ショックを受けていた。出版社の人間から、純文学ではなくライトノベルに転向した方が良い、と言われたからだ。更に帰宅後、東京の出版社から連絡を受けていたことが明るみになってしまい、普段から小説執筆に熱心なあまり、成績が振るわない小太郎のことを気にかけている母親からも叱られてしまう。

翌日、小太郎と茜は昨日の出来事(小太郎はライトノベル転向を薦められたこと、茜は成績が振るわなかったこと)を話し合う。その後、茜は千夏に小太郎との付き合いを黙っていたことを謝る。千夏も友達の茜と付き合っている小太郎を好きになってごめんと謝る。しかしその後、千夏はちゃんと諦めたいから小太郎に告白してもいいかと茜に問う。

千夏の誘いで、小太郎と茜は、陸上部員や小太郎の友人、茜の友人たちと遊園地に出かけることに。
だが小太郎の横は千夏が陣取ってしまい、茜は拓海と共に皆とはぐれてしまう。
小太郎は茜と拓海を探し、その姿を発見する。茜と拓海を発見した小太郎は、拓海に対して、茜と付き合っていることを宣言する。
偶然その光景を目撃していた千夏は、小太郎に思いを告げることなく自らの恋が叶わないことを突きつけられ涙し、小太郎と茜が付き合っていることを知らなかった友人たちは大騒ぎする。
ようやくふたりきりになれた小太郎と茜は、遊園地を満喫する。
帰りの電車の中、茜は千夏からのLINEで、告白できなかった、と言う報告を受ける。

8月10日、夏休み中の登校日。小太郎と茜が交際していることは、クラス中の生徒たちに知れ渡っていた。
茜は小太郎のお囃子の練習を見学する。そしていつもとは違う小太郎の様子に、目を奪われる。
小太郎のお囃子の練習が終了した後、ふたりは近くで開催されている風鈴祭りに出かけることにする。
小太郎の誕生日が8月7日であることを知った茜は、おみやげ屋で自分が持っているイモのゆるきゃらマスコットと同じものを購入し、小太郎にプレゼントする。神社でふたりは、『茜ちゃん』『小太郎くん』と、ようやく名前で呼び合い、キスを交わす。
そして縁結びの風鈴に飾られる短冊には、ずっと一緒にいられますように、と同じ願いを記した小太郎と茜の短冊があった。

秋、小太郎も茜も進路を決めかねていたが、茜は転勤族の父親に転勤の話が持ち上がっていることを知る。そのため家族からは、転勤先である千葉の高校を受験するように提案される。
最後の陸上大会に臨む茜。小太郎は茜から応援に行くのを断られていたが(走っているのを見られるのが恥ずかしいと言う理由のため)、こっそり大会会場に向かう。茜は100mで自己ベストを更新する記録を出す。
大会後、拓海は来月に開催される川越まつりを陸上部のみんなで見に行こうと誘う。
その夜、小太郎はこっそり大会を見に行っていたことを茜でLINEで明かす。
茜は千葉の方に引っ越すかもしれないことを小太郎に告げる。

茜は千葉の高校を推薦入試で受験することが決まる。そのために小太郎が通っている塾に茜も通うことになる。
そして川越まつりの夜、陸上部員たちと祭りに訪れていた茜は、山車の上で舞う小太郎の勇壮な姿に見惚れる。
一方、拓海は茜にようやく告白する。その場面を偶然、目撃してしまった小太郎は、その後茜と落ち合うも、茜に冷たくあたってしまう。
ふたりはそのまま別れてしまい、茜は涙を流す。そして帰宅した小太郎も、自分の取ってしまった行動を深く後悔する。
翌日、塾から帰る小太郎を、茜が追いかける。そこで茜は、小太郎が両親を説得してでも、茜と同じ千葉の高校を受験するのを決心していることを知る。
茜は嬉しさから涙を浮かべながら小太郎にキスをする。

受験のために猛勉強を開始する小太郎だったが、これまで勉学を疎かにしてきたこともあり、模試の結果は散々だった。
更に三者面談で千葉の高校を受験すると小太郎が口にしたところ、それを知らなかった母親からは猛反対される。加えて、小太郎がその高校を受験する理由が茜が受験するからと言う理由であることも明らかになってしまい、母親はなおのこと、小太郎を厳しく叱責する。

クリスマス、小太郎と茜は久しぶりにデートをする。茜は手編みのマフラーを小太郎に、そして小太郎はハンカチを茜にプレゼントし、ふたりはキスを交わす。
そして推薦入試を受けた茜は、無事合格をする。
一方の小太郎は、父親から千葉の高校は受験しても良いと言われる。ただし併願として、市立高校も受験することも進言される。そしてそこで小太郎は意外なことを父親から聞かされる。
それは、母親が担任の涼子から呼び出しを受けていたと言う内容だった。そこで母親は小太郎の成績のことを考えると、千葉の高校を受験するのは止めた方が良いと涼子から言われたと言う。しかしそれに対し、小太郎の受験に反対していたはずの母親は、小太郎は真剣に勉学に励んでいるのだから受験させてやりたい、と言い通してくれたと言うのだ。
そのことを知った小太郎は気持ちも新たに勉強に励み、そして受験当日の朝を迎える。

家族や茜の応援空しく、小太郎は受験に失敗してしまう。
ショックで落ち込む小太郎に対し、大輔、この経験を小説に書いてみたらどうか、と提案する。
そして小太郎は併願で受けていた市立高校に見事、合格を果たす。同じく市立高校を受けていた千夏も合格する。
合格発表からの帰り道、千夏はこれまで胸に秘めてきた小太郎への思いをようやく口にする。しかし小太郎がその思いを受け止めることはなかった。
だが千夏は言えてよかったと言い、ようやく小太郎への思いに区切りが付けられたのだった。

補修を受けていた茜は、千夏から、小太郎に告白したこと、小太郎からは断られたことをLINEで報告される。
その直後、茜はLINEで小太郎からデートに誘われる。デートの約束を交わした茜だったが、その表情はさえないものだった。
小太郎と遠距離恋愛になってしまうこと。小太郎が千夏と同じ高校に通うこと。そして千夏から告白されたことを小太郎が言わないこと。
そのどれもが、茜にとっては不安でたまらなかったのだ。

一方、小太郎は小説執筆を再開していた。タイトルは『13.70』で、中学最後のその大会で茜が叩き出した自己ベストの記録を小太郎は小説のタイトルに選んでいた。
小太郎が再び小説を書き始めたことを知ったろまんから、小説投稿サイトに作品をアップしてみてはどうかと提案された小太郎は、意を決してその小説をサイトにアップする。

そして小太郎と茜のデートの日。
明日で茜の家族は千葉に引っ越してしまう。
遠距離になっても、電車賃がどれだけかかっても、時間がかかっても、会いに行くと告げる小太郎。だが茜は、どうして千夏から告白されたことを話してくれなかったのか、と小太郎に問う。それを問われることの意味を掴み損ねている小太郎に、茜は心配になると告げ、大粒の涙を流し始める。

そこから茜は、遠距離恋愛への不安、更にそこにのしかかる負担に駆られ、泣き続けてしまう。
そんな茜を前に、何も言うことも、何もすることもできない小太郎。そして茜は、小太郎の唇に自らの唇を押し当て、その場から走り去ってしまうのだった。

翌日、引越し準備が完了した茜のもとに、千夏と葵が訪れてくる。
別れの日だと言うのに、小太郎が来ていないことに気が付いた千夏は、自らのスマホを茜に見せる。
そこには、千夏が偶然見つけた小説投稿サイトに投稿されている小太郎の小説があった。
その小説には、小太郎が茜と出会ってから付き合い始め、様々な思い出を作り、色々なことを乗り越えてきた物語が綴られていた。

小太郎は、その物語の終章をサイトにアップする。
そしてお囃子の練習に出かける。そこで大輔から小太郎の小説にたくさんの感想が寄せられていることを教えられる。
その中のひとつに「茜」と言う人物からの書き込みがあるのを見つけた小太郎は、ようやく茜を見送りに行く決心をする。

千夏からのLINEで、茜が既に千葉へと向かう電車に乗っていることを知った小太郎は駅へと急ぐ。
一方、電車の中でサイトにアップされたばかりの終章に目を通す茜。

終章に綴られていたのは、小太郎から茜に向けた、一途な思いだった。
小太郎からのその思いに、茜は涙する。

電車は出発してしまい、小太郎が茜を見送ることはできなかった。
それでも小太郎は、目の前を通過していく、おそらくは茜が乗っているであろう電車に向かって、大好きだ、と声の限り叫ぶのだった。

エンディング。
ここでは、中学卒業後、高校、大学、社会人になっても交流を続けていく小太郎と茜のふたりの様子が、静止画とふたりがやり取りしているLINEと共に紹介される。
そしてラストは、川越祭りの日。山車や祭り衣装に身を包んだ男たちを背景に、それぞれの家族に囲まれた、成長した小太郎と茜の姿が映し出される。
茜の腕の中には、ふたりの赤ん坊が抱かれていた。

本作の見どころ

ピュアすぎる小太郎と茜の恋物語

嗚呼、甘酸っぺー、視ていて砂糖を吐きそうになる。
何で俺はこんな青春をおくれなかったんだろう(魂の叫び)。

出典: anicobin.ldblog.jp

貧しい青春を送った人間には眩しすぎて直視できないアニメ
ああああこんな青春送りたかったチクショゥアアアアアアア!!!

出典: dic.nicovideo.jp

蜂蜜漬けのレモンより甘酸っぱい

出典: dic.nicovideo.jp

上記は『月がきれい』放送時に寄せられていた、視聴者の感想の一部である。
これらを見ればわかる通り、視聴者の多くは本作品の甘酸っぱさに身悶え、こんな青春を送りたかった!と強烈なまでの願いを抱いていたのだ。
そして視聴者をこんな思いにさせたいちばんの理由は、やはり本作の主題である小太郎と茜のピュアすぎる恋愛模様にある。

小太郎と茜にとっては、誰かと付き合うと言うのが初めての経験である。
そのためふたりは、手をつなぐことはおろか、ちゃんと会話をすることすら、恥ずかしくてままならない。
そして特別な関係になったにもかかわらず、いつまで経っても『安曇くん』『水野さん』と言う苗字呼び。

更に相手に自分の思いを伝えたいのに、それができずに、時には相手や自分自身をも傷つけてしまう。
千夏の存在を巡っては、茜はとにかく不安でたまらないと言う思いから、大粒の涙を流し小太郎を混乱させることもあった。
一方の小太郎は、たとえば修学旅行中、平気で千夏から携帯電話を借りたり、あるいは千夏から告白をされても、それを茜に告げなかった。
そしてそのことを茜に問われても、茜の質問の意味が理解できず、不安に涙する茜を前に、なすすべなく立ち尽くしてしまう。
しかし逆に、川越まつりの時に茜と拓海がふたりきりでいるのを目撃してしまった時には、言葉にし難い苛立ちを覚え、それを茜にぶつけてしまい、そのことを強く後悔している。

けれど言葉で上手に思いを表現できなくても、不安や戸惑いのために相手や自分を傷つけてしまっても、ふたりが互いに寄せる『好き』と言う気持ちに変わりはない。そしてまた、相手が自分のことを好きでいてくれる喜び、ふたりで一緒に思い出を作り上げていく嬉しさもふたりの胸に存在している。
だからこそ、そうした感情をうまく言葉にできない、不器用で、けれど純粋すぎるふたりの恋物語は、切なさと甘酸っぱさに満ちており視聴者の胸を強く揺さぶる。

一方で恋愛物語としての、ふたりの成長も描かれている。
『小太郎くん』『茜ちゃん』とようやく名前で呼び合ったかと思うと、その後にキスを交わすと言う流れは、恋愛作品の流れとしては普遍的な流れかもしれない。
しかし、そこに至るまでのふたりのじれったい恋模様を見守ってきた視聴者にとっては、お約束の流れであるからこそ安心できる流れととらえることもできる。
そして何より、小太郎と茜の恋が進展した!と言う喜びを、そこに感じずにはいられないのだ。
そんな切なく、甘酸っぱく、身悶えするようなじれったさに満ちている小太郎茜の恋物語こそ、本作最大の見どころである。

叶わなかった恋心~千夏と拓海の存在

小太郎と茜の恋は、無事、幸せな結末を迎えた。
しかし一方で、報われることがなかった恋心も存在し、それが描かれているのも、本作の見どころのひとつである。
それが小太郎のことを好きになってしまった千夏の恋心と、ずっと茜に思いを寄せてきていた拓海の恋心である。

悪意なく、人の持っているものを欲しがる癖がある千夏は、自分が思いを寄せている小太郎と、自分の友人である茜が付き合っているのを知ってなお、小太郎のことを諦めきれない。そのため、積極的に小太郎に対してアプローチを仕掛けていく。
小太郎が茜との交際を拓海に対して告げる場面を目撃して、自分の恋心が実らない現実を突きつけられ、傷つき、涙しても、それでも、また諦めきれない。

しかも千夏は、そうした自分の感情を逐一、小太郎と付き合っている茜にわざわざLINEで報告する。
それによって茜の心はかき乱されるわけだから、視聴者から見れば千夏の行動は、『嫌な女』と言うふうに映るかもしれない。

小太郎が拓海に対し、茜と付き合っていることを告げたのを目の当たりにした千夏。

しかし、千夏の小太郎に対しての恋心は、それを小太郎に告げることもできないまま、散ってしまったのである。
自分の思いを告げ、きっぱりと断られたのならまだ、諦めはつくかもしれない。
だが、思いを告げることすらできなかった千夏の感情を考えると、決して千夏のことは『嫌な女』の一言で断じることはできない。
千夏もまた、茜のように、小太郎のことが好きで、好きでたまらない、ひとりの女の子に過ぎないのだ。

そんな千夏は、最終話でようやく、小太郎に対して自分の思いをぶつける。
その時の、千夏のまっすぐに小太郎を見つめる表情は、凛々しいまでの美しさに満ちている。
勿論、小太郎がその思いを受け入れることはなく、そこでようやく、千夏は思いを吹っ切ることができる。

言えてよかった、と言った千夏の笑顔はどこかすっきりとしたようで、それでいて強がってもいるようで、見る者の胸に切ない感情を残す。

一方、拓海は、小太郎のことが急に気になりだした千夏とは異なり、1年の時からずっと、ずっと茜に思いを寄せ続けてきていた。
しかしその思いを茜に伝えることはなく、あくまでも茜を見守り、時には助言したりする、良き陸上部の主将としての立場を守り続けてきた。
そして7話で、小太郎から、小太郎と茜が付き合っていることを告げられてからも、拓海の茜に対する態度は、以前のそれと変わらないままだった。

一途に、茜に対して思いを抱き続けてきた拓海。
その思いが叶わないことを突きつけられた拓海だが、思い人に対しての思いが諦めきれないと言うのは、千夏と同じだった。
その証拠に、拓海は10話で茜に対して思いを告白する。

しかし茜には断られ、拓海は分かった、と茜の思いを受け入れる。
その後、拓海はちゃんと言っておきたかった、と言葉を紡ぐ。

小太郎に振られた千夏は、言えてよかったと言った。
茜に振られた拓海は、ちゃんと言っておきたかったと言った。

叶わないことを悟りながらも、それでも、もしかしたら自分の思いが受け入れてもらえるかもしれない、と言う一縷の望みにかけて。
そして何よりも、自分の思いをちゃんと伝えておきたいと言う気持ちに従って、思い人に思いを告白した千夏と拓海。
そのふたりの叶わなかった恋心、小太郎と茜の恋物語を彩っているのは言うまでもなく、だからこそ千夏と拓海の物語も、今作における見どころのひとつとなっている。

出典: tama-yura.jp

拓海は、千葉へと引っ越す茜に、また競技場で、と言う言葉をかける。

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