アマデウス(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
映画「アマデウス」は、ピーター・シェーファーの同名の戯曲を映画化した作品。1984年にアメリカでミロス・フォアマン監督によって制作された。若くして世を去った天才音楽家モーツァルトの生涯を、宮廷作曲家サリエリとの対決を通して描いた話題作。アカデミー賞8部門を受賞した。
自殺を図り精神病院に運ばれた老人は、やがて彼の人生のすべてを変えてしまった一人の天才の生涯を語り始めるのだった。
『アマデウス』の概要
映画「アマデウス」は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの生涯をアントニオ・サリエリとの対決を通して描いた、1984年制作のアメリカ映画。
ピーター・シェーファーが自身の同名の戯曲を脚本化、「カッコーの巣の上で」のコンビ、制作ソウル・ゼインツ、監督ミロス・フォアマンで映画化された。
アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞、美術賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ賞、音響賞の計8部門を受賞。モーツァルト役のトム・ハルスはアカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、サリエリ役のF・マーリー・エイブラハムはアカデミー賞主演男優賞を受賞している。
オペラ『後宮からの誘拐』『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『魔笛』のハイライト・シーンが挿入されるなど、ブロードウェイの舞台版にはない映画ならではの見どころも多い。劇中、本来ドイツ語によるオペラ『後宮からの誘拐』と『魔笛』は、脚本のピーター・シェーファー自身が訳した英語の訳詞によって歌われた。
オペラの上演シーンの撮影には、実際にモーツァルト自身の指揮で『ドン・ジョヴァンニ』の初演が行われたチェコの首都プラハの”スタヴォフスケー劇場”が使用されている。また、屋外ロケのほとんどが中世以来の古い町並みが現存するプラハで行われており、屋内撮影もプラハの歴史的建造物が多く使われている。
日本での公開は1985年2月だが、2002年には20分のカット場面を復元し、デジタル音声の付いた「ディレクターズ・カット」版も公開されている。
『アマデウス』のあらすじ・ストーリー
「モーツァルト!君を殺した私を許してくれ!」
ある冬の夜、一人の老人がカミソリでのどを切って自殺を図り精神病院に運ばれて来た。
老人の名はかつての宮廷音楽家アントニオ・サリエリ。後日、病状が安定したサリエリは、話を聞きに訪れた神父に、天才音楽家モーツァルトとの過去について語り始める。
サリエリは、父親の反対を受け音楽の道に進めない自分の境遇を妬み、幼い頃から皇帝や法王の前でピアノを演奏していたモーツァルトを羨んでいた。そんなサリエリに転機が訪れた。父が亡くなり、音楽の都ウィーンに行けることになったのだ。そして彼は数年で音楽を愛するオーストリアの皇帝ヨーゼフ2世に認められ、宮廷作曲家に任命されることになる。
ある日サリエリは、ザルツブルグ大司教の屋敷でモーツァルトが開いた演奏会に出席。当時はまだモーツァルトの顔も知らなかったのだが、そこで、奇妙な笑い声で女を追い回している若者を見かける。それがモーツァルトだとわかり、あまりの下品さにサリエリは失望する。しかし、そのあとの彼の演奏や楽譜を見てその音楽の素晴らしさに触れると、あまりのギャップの激しさに不信感を抱くのであった。
そのモーツァルトがヨーゼフ2世からウイーンの宮廷に呼ばれた。国立劇場で上演するオペラをドイツ語で作曲するように言われ大喜びのモーツァルト。だが彼は、サリエリが彼を歓迎するために書いたマーチを、皇帝の前で勝手なアレンジを加えて見事な即興演奏をしてしまう。プライドを傷つけられながらも、その場は大人の貫禄を見せるサリエリだったが、神を尊敬する彼は、神は自分には才能を与えず、下品きわまりないモーツァルトに無二の才能を与えたことに嫉妬し、神への復讐を決意する。
モーツァルトのオペラは大成功。皇帝は、そこでモーツァルトに婚約者コンスタンツェを紹介され、早く結婚してウィーンに住むように言う。それから間もなくモーツァルトとコンスタンツェは、ザルツブルグに呼び戻したいと願うモーツァルトの父・レオポルトの許しも乞わずに結婚式を挙げウィーンに住むことになる。
結婚後もモーツァルトは相変わらず金使いが荒く、コンスタンツェは生活費に困り始める。宮廷の仕事には作品を提出して審査を受けるのが原則なのだが、モーツァルトは自分よりも才能の無いイタリア人の審査に掛かることを嫌っていた。コンスタンツェは、夫に無断でサリエリの元へと楽譜を持っていき、審査してほしいと頼み込む。すべてオリジナルだというその楽譜を見て、サリエリは、書き直しが一切無く、書く前に頭の中で音楽が完成しているという凄さに驚愕すると同時に、ますます神を憎み、そしてモーツァルトを滅ぼす決意を固めるのだった。
ある日のこと、レオポルトが、ウイーンのモーツァルトの家に突然やって来る。息子に借金があると聞いて駆け付けてきたのだが、家の中に物が散乱している現状に驚き、初対面のコンスタンツェが妊娠している事を知ると、伐の悪くなったモーツァルトは、レオポルトを強引に酒場に誘うのだった。
そんな折、モーツァルトの家に若い女が訪ねてくる。その女はある人から雇われてこの家でメイドをするという。実はサリエリがスパイとして送り込んだロールという街娘だったが、見ず知らずの者を家に入れることを拒むレオポルトと、給料が要らないことで助かると喜ぶコンスタンツェが対立、結局レオポルトは実家に帰ってしまい、メイドを家に入れることになる。
そして、二人が留守の日をロールから聞き出したサリエリは、彼女の手引きでモーツァルトの家に入り込むと、仕事部屋で書き掛けの楽譜を見つける。それは皇帝が禁止令を出しているフランスの戯曲『フィガロの結婚』のオペラだった。
サリエリから『フィガロの結婚』の件が皇帝に知れると、皇帝はモーツァルトを宮廷に呼び出し、「禁止しているものを何故書くのか」と説明を求めるが、熱っぽく語るモーツァルトの勢いに押されて結局は上演を許すことになる。
そして、リハーサルを始めるモーツァルト。だが、サリエリは劇場監督に指示し「皇帝の意向でバレエのあるオペラは上演禁止だ」と楽譜の中から該当する部分を抜き取り書き直しを命じるのだった。サリエリの指示とは知らないモーツァルトはサリエリに助けを求める。サリエリはこの件を皇帝に相談すると彼に伝えるが、実際その気はなかった。だが暫くして皇帝が、来たこともないリハーサルに突然現れた。そして音の無い踊りを見るや「元に戻せ!」と激怒。大喜びのモーツァルトはサリエリの口利きと思い込み、彼に尊敬の念を抱くのだった。
『フィガロの結婚』は、結局9回の上演で打ち切りになる。納得のいかないモーツァルトはサリエリに理由を問うと「4時間にも及ぶオペラは皇帝陛下には耐えきれない」「ラストを盛り上げないと観客は喜ばない」という答えが返る。だが、サリエリは彼のオペラの素晴らしさを感じていた。そして今度は自分の新作オペラを見て欲しいとモーツァルトに告げる。
サリエリの新作オペラは、皇帝から「これまでのオペラの最高傑作」と称賛され、観客も大絶賛。観に来ていたモーツァルトも彼に賛辞を贈るのだった。
ある日のこと、モーツァルトに父・レオポルトが亡くなったという知らせが届く。そして彼はその悲しみと父への懺悔をオペラに込めて『ドン・ジョヴァンニ』という新作を上演する。だが、観客には全く受けず、上演は5回で打ち切られた。しかし、サリエリだけはこのオペラにも彼の計り知れない才能を感じていたが、同時にさらなる復讐心をも燃やすのだった。
それからのモーツァルトは、仕事が無く酒に溺れる生活をしていた。ある夜、モーツァルト宅にドアをノックする音が響き謎の人物が訪ねて来た。その男は、かつてレオポルトが身に着けたお面とマント姿だった。その男はモーツァルトに高額な報酬でレクイエムの作曲を依頼するのだが、モーツァルトはその姿に死んだ父の怒りが「死神」になって現れたのだと思った。その男は実はサリエリで、そのレクイエムはモーツァルト自身の葬儀で流そうと考えていた。
同じころ、モーツァルトは友人を通して大衆オペラの仕事を頼まれるが、コンスタンツェは収入の少ない大衆オペラに不快感を感じ、乗り気ではなかった。子供も大きくなり、まとまった金がほしい彼女はレクイエムを作曲するようモーツァルトに勧めるが、彼は大衆オペラの作曲を優先する。コンスタンツェはそんなモーツァルトに愛想をつかし、子供を連れて湯治に行ってしまうのだった。
酒ですっかり体を悪くしたモーツァルトだったが、大衆オペラ「魔笛」を完成させた。しかし上演の最中に倒れてしまう。観に来ていたサリエリはモーツァルトを彼の部屋まで運び介抱する。そこへドアをノックする音が響く。モーツァルトは死神が来たと思いサリエリにギャラを追加させて追い返せと頼む。それは「魔笛」上演の売上金を持って見舞いに来た友人たちだったのだが、サリエリはその売上金を死神の追加報酬だとして「今、黒い服を着た使者が来た。翌朝までにレクイエムを完成させれば、さらに大金を支払うそうだ」とモーツァルトに伝えるのだった。
もうすでに起きあがることのできないモーツァルトは、サリエリにレクイエムの口述筆記を依頼する。モーツァルトの口ずさむレクイエムを必死に写譜するサリエリ。あまりのスピードと突飛な楽想に、常識的な才能の彼はついて行けない。それでもやがて、モーツァルトのインスピレーションがサリエリに伝わり、サリエリも憑かれたようにレクイエムを筆写していく。
夜明けになり、モーツァルトが「少し休もう」とサリエリに伝える。「まだ大丈夫だ。手伝えるよ」というサリエリに、モーツァルトは「自分はバカだった。あんたに嫌われてると思っていた。許してくれ」と途切れがちに謝るのだった。やがて湯治に行っていたコンスタンツェが帰宅。ベッドに横たわり死相の出ている主人の顔を見るや、レクイエムの作曲をやめさせ、サリエリを部屋から追い出そうとする。しかし、サリエリは、モーツァルトの意思を尊重しようとする。コンスタンツェは涙ながらにモーツァルトに悪い妻だったことを詫びるが、すでにモーツァルトは事切れていた。
悲しみの雨が降る中、コンスタンツェ、サリエリ、ロールなど、わずかの人に見送られ葬儀が行われる。モーツァルトの遺体を積んだ馬車は郊外の共同墓地に着くと、その遺体はまるでごみのように墓穴に投げ捨てられるのであった。
長い告白を語り終えたあと、サリエリは神父に告げる。「あんたもわたしと同じだ。凡庸なる者」。
そして精神病院の廊下を運ばれていきながら、サリエリの独白が続く。「わたしは凡庸なる者の王だ。世界中の凡庸なる者たちよ、わたしはおまえたちを許そう」
そんなサリエリの姿に、奇妙で甲高いあのモーツァルトの笑い声が響くのだった。
主な登場人物・キャラクター
アントニオ・サリエリ(演: F・マーリー・エイブラハム)
田舎町で育ち、幼い頃から皇帝や法王の前でピアノを演奏していたモーツァルトに憧れていた。
そして音楽家になる夢を持ちながら音楽を理解してくれなかった父親の反対により音楽の道に進めない自分の境遇を妬んでいた。
父が亡くなり、音楽の都ウィーンでオーストリアの皇帝ヨーゼフ2世に認められ、宮廷作曲家に任命される。
幼い頃からのクリスチャンで、神を尊敬していたが、モーツァルトと出会ってからは、神は自分には才能を与えず、下品きわまりないモーツァルトに無二の才能を与えたことに嫉妬し、神への復讐を誓うと同時にモーツァルトを精神的に追い詰め、やがて死に追いやる。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(演: トム・ハルス)
オーストリアののザルツブルグに住み、幼い頃から父親レオポルトに連れられ皇帝や法王の前でピアノを演奏し、神童としての才能を評価されていた。
成長するに連れて、音楽の才能はそのままに、遊び好きで我がままで酒好き女好き、奇妙で下品な甲高い笑い声を発するようになる。
だが自分の作った作品には絶対の自信を持ち、目上の者から修正を求められても納得するまでとことん問い詰める。
そんな熱意がオーストリアの皇帝に気に入られその後はウイーンでオペラを連作するようになる。
ウイーンで下宿の女主人の娘、コンスタンツェと所帯を持ち一児の父となるが、結婚後はさらに浪費癖が激しくなり生活は次第に困窮していく。
父が死んだあと、ずっと父の亡霊に取りつかれ、やがて酒と薬で体をこわし、35歳の若さでこの世を去る。
コンスタンツェ・モーツァルト (演:エリザベス・ベリッジ)
ウイーンでモーツァルトが住む下宿の女主人の娘。
モーツァルトと結婚し一児の母となる。
結婚後は夫の浪費癖により生活は次第に困窮していき、宮廷の仕事で審査を受けようとしない夫に無断でサリエリの元へと楽譜を持ち込み、審査を頼みに行く。
子供っぽい外見とは異なり、メイドの件でモーツァルトの父と真っ向から対立するなど気性は激しい。
夫の作品を誇りに思っており、作品の屈辱的な扱いに憤慨するという一面もある。
皇帝ヨーゼフ2世 (演:ジェフリー・ジョーンズ)
オーストリア皇帝であると同時に神聖ローマ皇帝でもある。
のちにフランス王妃になるマリー・アントワネットの兄。
文化の発展にも積極的であり、特に音楽の分野ではドイツ音楽を意識してモーツァルトを宮廷音楽家として雇った。
その後のオーストリアにおける改革運動に「ヨーゼフ主義思想」として影響を与えた人物である。
レオポルト・モーツァルト (演:ロイ・ドートリス)
モーツァルトの実父。
ドイツ生まれであるが、オーストリアのザルツブルク宮廷室内作曲家に就任。音楽理論家でもある。
息子であるモーツァルトの才能を発見し芽生えさせ、当時考えうる世界最高の音楽教育を与え、歴史上比類のない作曲家として開花させた。
オーストリアのザルツブルクにて死去。
ロール (演:シンシア・ニクソン)
目次 - Contents
- 『アマデウス』の概要
- 『アマデウス』のあらすじ・ストーリー
- 主な登場人物・キャラクター
- アントニオ・サリエリ(演: F・マーリー・エイブラハム)
- ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(演: トム・ハルス)
- コンスタンツェ・モーツァルト (演:エリザベス・ベリッジ)
- 皇帝ヨーゼフ2世 (演:ジェフリー・ジョーンズ)
- レオポルト・モーツァルト (演:ロイ・ドートリス)
- ロール (演:シンシア・ニクソン)
- 『アマデウス』の名シーン・名場面&見どころ
- 皇帝を取り巻く重臣たちはモーツァルトの敵
- モーツァルトのアクロバティックなピアノ演奏
- 父への懺悔を込めたオペラ『ドン・ジョヴァンニ』
- 『アマデウス』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- モーツァルトになりきったトム・ハルス
- F・マーリー・エイブラハムは元々サリエリ役ではなかった
- 本作から生まれたヒット曲「ロック・ミー・アマデウス」
- 冒頭で使用された音楽
- モーツァルト:交響曲 第25番 ト短調 K.183 第1楽章