あんのこと

あんのこと

『あんのこと』とは、2024年の日本の映画。監督・脚本は入江悠。出演は、河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎など。ホステスの母親と足の悪い祖母と3人で暮らす香川杏。幼い頃から、酔った母親に殴られて育ち、小学4年生から不登校となり、12歳の時に母親の紹介で初めて体を売った。その生活から抜け出せず、売春や麻薬の常習犯となってしまう。そんな彼女が更生する手助けをしようと2人の男性が手を差し伸べるが、コロナ禍によって3人はすれ違い、孤独と不安に直面していく。ある少女の人生をつづった2020年6月の新聞記事に着想を得て、入江悠が撮りあげた人間ドラマである。

あんのことのレビュー・評価・感想

あんのこと
7

どうしたらいいのか、どうすればよかったのか、という思いが付きまとって離れなくなる映画

杏(河合優実)はホステスの母親と足の不自由な祖母との3人暮らしの21歳。実家はゴミ屋敷のようなアパートで明らかに健全な家族生活とは程遠く、杏はまともに学校へも通わずに育ち、母親の暴力や金銭の要求に耐えながら売春から抜け出せず、薬物におぼれていました。

杏はある日薬物使用の疑いで警察での取り調べを受け、そこで出会った刑事の多々羅(佐藤二朗)によって更生の道を歩んでいきます。杏にとっては過酷な環境から救い出す恩人のような多々羅でしたが、薬物更生施設で支援した女性に性加害をしていたことが明るみになり逮捕・起訴されてしまいます。

多々羅の悪行を雑誌で告発したのは、ジャーナリストの桐谷(稲垣吾郎)。取材のために多々羅に近づき、杏の支援にも手を貸すなどしていました。

多々羅の支援が途絶え、さらに新型コロナウイルスの蔓延で学校や職場が休みとなり、孤独な日々を送っていた杏。それでもひょんなことから小さな子供を預かることになり、そのお世話を献身的に行うことで心の安穏を保っていました。

しかし、その安穏も次第に脅かされ、追い詰められた杏は最悪な決断に向かってしまいます。

多々羅が逮捕されずにいたら、杏を救えたかもしれない。でも、性加害は許されることではありません。コロナの蔓延が無ければ、多々羅がいなくても杏はあのまま更生の道を進むことができていたかもしれない。でも、未知のウイルスのパンデミックという状況下では、まずは物理的な人との関係を断つことしか最善策はありませんでした。

どうすればよかったのか。何か正しいことなのか。杏の周りの人たちはそれぞれの正義を貫き最善策を取ったけれど、杏にとっては違っていて、どれも救われないものでした。

杏の決断を知った者たちのそれぞれの姿を見ると、抱えたやるせなさの波が容赦なく観る者を襲います。
多々羅を告発したことで杏の更生を無にしてしまった桐谷の愕然とした表情。それを獄中で知らされた多々羅が本当に杏の更生を願って流した涙。
杏に子供の世話を押し付けておきながら、杏のことを恩人と言う沙良(早見あかり)の穏やかな表情。

きっと誰が見ても、胸に宿るやるせなさの結論は出ません。
それ故に確かな印象を残す作品でした。

あんのこと
9

現代社会の闇を淡々と描くからこそ、胸に迫る

映画「あんのこと」は、機能不全の家庭のもとで売春や麻薬売買をしていた女性の人生を描きます。家庭内暴力など、精神的にしんどくなる場面もあるので、人によっては気を付けた方がよいと思います。

主人公・杏の生い立ちは壮絶。母親は娘を家の稼ぎ頭とみなし、虐待は日常茶飯事です。唯一の理解者である祖母は脚が悪く、外に出られない。3人が暮らす家は、ごみ屋敷のよう。あまりの悲惨さに「日本に本当にこんな家庭があるのか」と思いたくなるような有様です。

そんな社会のネットワークから完全に外れてしまった杏ですが、刑事の尽力もあり、麻薬から脱却し、老人ホームに就職します。外の世界で人々と触れ合う中で、無表情だった杏が徐々に心を開き、笑顔を見せていく過程を、河合優実さんが丁寧に表現。彼女の笑顔には、周囲からのまっすぐな愛に対する愛おしさを感じさせました。

彼女の更生に手を貸す刑事を佐藤二朗さん、記者を稲垣吾郎さんが演じています。言葉が少ないシーンでも佇まい・表情だけで魅せてくれ、自然と引き込まれました。

しかし2人が裏の顔の顔を見せたこと、そしてコロナをきっかけに、杏の穏やかな生活は脆く崩れ去ります。人間の表の青と裏の顔に翻弄され、社会保障の網からも零れ落ちてしまった彼女の最期には、胸が痛くなりました。淡々と描くからこそ、私たちが見ないフリをしている、現代社会の闇を眼前に突き付けられたように感じました。

あんのこと
3

演技派最高に素晴らしいけど...

主人公を演じられた河合優実さんの演技力にはもう…言葉を失うほど心をえぐられました。
12歳から実の母親に売春をさせられ、売春相手に薬をすすめられ、体と心を蝕まれ最初のシーンでは心を失ってしまった17歳の女の子を見事に演じられていました。1人の刑事と出会い、記者と出会い、少しずつ自分を取り戻していく様。小学校からまともに学校に通えず漢字もままならないところでまた夜間学校に通い始め、介護の仕事につき、やっとまともな人生を送れるようになったのか。よかった。こんな苦しい子ども時代からやっと抜けだせるんだねと思っていたら…の後の展開。ちょっと言葉を失います。どうしてですかと言いたくなる。あの新型コロナの流行のせいで。あの虐待をしてくる母親のせいで。もしかしたら、自分には優しいと思っていたけど、結局最後までは守ってくれない祖母のせいで。
あんな最後にします?あんな悲しいお話にする必要ありましたか?と言いたくなるくらい、心がものすごく重く辛くなりました。実話を元にしていると言うお話なので、現実はもっと辛く悲しいものなのかな。でも辛すぎる。映画のなかだけでもあんちゃんには笑っていてほしかった。演技力はものすごくて本当にすばらしかったです。あんちゃんとしか思えなかった。でもストーリーが辛すぎてしばらく引きずりそうです…そういう意味で星3です。演技力は星10でした。