違国日記

違国日記

『違国日記』とは2017年よりヤマシタトモコが『FEEL YOUNG』にて連載している、女性小説家である高代槇生が、疎遠である姉とその夫が急遽したことをきっかけに、姪である田汲朝を引き取り共に生活を送る様子を描いたハートフル漫画である。人見知りである槇生と社交的な朝の突如始まった同居生活を中心に描いており、親子とはまた少し違う奇妙な距離感である二人が時には衝突しながらも、お互いの家族の形を見つけていく。各登場人物の繊細な人物描写が見所の作品である。

違国日記のレビュー・評価・感想

違国日記
8

孤独を育てる同居生活

交通事故で両親を亡くした女子中学生の朝は、母の妹である槇生の放った鮮烈な言葉によって、叔母との同居生活を始めることとなる。孤独を愛する少女小説家の槇生は、孤独になってしまった朝との同居生活に、戸惑いながらも、ぎこちなく、けれど丁寧に、慎重に、言葉を交わしていく。
性格の違う2人の生活は、すれ違いも多く、それが少し笑えたり、心が痛くなったりする。キャラクターの目と髪の毛が印象的に描かれており、髪の毛を手繰り上げる動作や、表情によってふわりと浮かぶ動き、睨みつける鋭い視線や、涙を流す描写が繊細で美しく感じらる。またそのギャップとして、デフォルメされて、ちんまりしたキャラが描かれる時は、緊張の息抜きになる。背景は余白が多くキャラクターの表情やセリフが物語の中心になる。セリフや文字がそれなりに多いので、言葉が好きな人におおすめできる。また何気に食べ物の描写が細く、小さく説明もあり、作中に出てくる餃子やホットドックは食欲をそそられる。
『違国日記』は漫画原作の作品である。小説家である槇生から放たれる言葉は、孤独を強いられた人に寄り添い、孤独と向き合った朝と共に、読者の心を、孤独なまま暖めてくれる。

違国日記
9

姪と叔母の同居生活の中で見えてきた新しい愛のかたち

友人から勧められ、何気なく手に取った1冊でした。
主人公は交通事故によって、ある日突然両親との別れを余儀なくされた15歳の少女・朝。両親の葬儀をきっかけに、朝は母方の叔母である高代槙生(こうだいまきお)のもとに引き取られることに。この槙生はかなりの人見知りなのですが、姪を引き取ると決めたときの彼女なりの覚悟には胸が震えました。それぞれの心理描写や独白が細やかに表現されているので、登場人物たちの気持ちが痛いほど伝わってくるのです。さらに槙生の職業が小説家ということもあり、彼女の台詞ひとつひとつが非常にユニーク。ちょっとした台詞にハッとさせられたり、時にはクスッと笑えたり、台詞回しにおいても読者を飽きさせません。叔母と姪ならではの可笑しみあふれる掛け合いは、この作品の魅力のひとつではないでしょうか。
ちなみに、この「違国日記」は、書店やWeb上のブックストアでは「少女漫画」のジャンルに分類されます。しかし読み進めていくと、ジャンルの枠をはるかに超えた人間ドラマであることがわかるはず。少女だけでなく、大人も楽しめる作品だと思います。
天真爛漫な少女と、コミュニケーションが苦手な人見知りの小説家の同居生活。悲しみを抱えた15歳の朝が、むき出しの心で叔母の言葉を受けとめていくシーンの連なりに、胸を打たれる作品です。

違国日記
10

自分はなんのために生きているんだろうと思い続けているみんなに読んでほしいマンガ

母親をなくしてしまった少女、朝を葬式の親戚の嫌な雰囲気から救うかのように引き取った作家、35歳独身の槙生。彼女は朝の母親の妹でした。彼女は人と生きる事が苦手でコミュニケーションを極力取らないような生活をしていました。
しかし、落ち着いているとはいえ、感情をむき出しにぶつかってくる女子高生にとまどい、また温かくはないが相手を非難しない言葉でいなしていきます。この空気感がなんとも言えません。
私はあなたの寂しさを埋めることはできない。これはどんなに親しくても、遠いと感じている人でも、同じ事のように感じました。他人に自分の乾いた心の砂漠を潤すことはできない。オアシスの水につかっても融けあわないことと同じだと朝は気づきます。彼女の母親を失った寂しさを埋めることは出来ないときっぱり言う冷たさと誠実さ。それが槙生なりの彼女(エッセイ?の中では犬と表現している、自分とは違う理解できない人懐っこいものとしての比喩と取っています)への向き合い方なのです。
彼女は自分のテリトリーには朝を入れないながらも、自分なりに朝を養い、言葉を返していきます。それは、槙生が嫌悪してきた朝の母、もとい自分の姉とは違う、私はあなたを正当に扱うし、何も押し付けないというスタンスで。彼女は朝の言葉の節々に姉から言われた嫌な言葉たちをちらつかせながらも、私はそうならない、この子をそう扱わないと懸命に向き合い言葉を紡ぐその一つ一つが今まで息苦しく生きてきた私達が言ってほしかったような、息がしやすくなるような言葉ばかりなのです。
どの話も読んだあと何か水の底のような落ち着いた気持ちになれる作品で、今まで読んできた中で1番おすすめと言っていいほどの良作です。