人間失格 太宰治と3人の女たち

人間失格 太宰治と3人の女たちのレビュー・評価・感想

New Review
人間失格 太宰治と3人の女たち
8

エロティシズムを感じない蜷川実花作品

監督が蜷川実花ということもあり、全体的に赤が多く使われている印象。
かといって、他の作品同様に全般的に色彩豊かに描かれている。
中盤からの吐血シーンは、雪とのコントラストが鮮やかに表現されており、美しくさえ感じられる。
主人公の太宰治は小栗旬が演じるが、実際は身長が180センチメートルもないため違和感を感じてしまう。
愛人役を演じる沢尻エリカはもちろんのこと、二階堂ふみの体を張った演技力には多くの人が圧巻させられるだろう。
愛人との生活が多いことから、分類としてはアダルトに含まれるのかと思いきや、単なるR15指定のドラマとなっているのは驚きだ。
ストーリーは人間失格の映画化ではなく、作家太宰治と妻を含めた太宰治を取り巻く女たちとの関係が描かれるものだ。
序盤は入水自殺未遂から始まり、太宰治がどんなに女性に関して体たらくであったか理解させられてしまう。
自宅には3人の子どもがおり、太宰治のファンであった静子も1人もうけることになる。
静子の後にBarで働く富栄と関係を持つようになり、富栄からも子どもが欲しいとせがまれるが思いとどまる。
女ごとに1作ずつ小説が発表されていき、家族がそれを見守っていた。
終盤は、アルコール中毒と肺結核と格闘しながら執筆活動を続けようとする苦悩が描かれている。
おおよそは良いが、太宰治の身長に難ありのため本評価は8とした。

人間失格 太宰治と3人の女たち
8

太宰治の人生とは

面白かった。普通に面白かった。

太宰治ということで文学のイメージから真面目で重めの作品なのかな、という先入観があったけど、監督が蜷川実花さんということで払拭されました。
とにかく監督らしい映像美でした。とにかく綺麗。
本当にこの監督の色彩感覚はすごいなぁと思う。
いつものように室内の家具の色の掛け合わせも目を引いたけど、今作は特に花や空や水といった自然の色のコントラストが格別に綺麗でした。地味な昭和初期の日本の街並みだから鮮やかな色が映える映える。

ストーリーも私は文学には無知なので、名前だけ知っている歴史的な作家がどんな半生を送ったのか知ることができて単純に興味深かった。勉強になった。
あるがままのストーリーラインなのでそれについては期待外れとかないと思う。
あとは脚本、役者さんの演技、演出が肌に合うかどうかだけなのかな、と。

ひとつだけ引っかかったのが、太宰治を演じた小栗さんの左利き(とのその文字)をそのまま演技に生かしたことくらい。
映画に入り込んで集中して見ていた終盤だからこそ、その違和感にハッと目が覚めてちょっと残念でした。
とはいえ、蜷川実花監督で主題歌にスカパラ×千葉さんの曲を使っているあたりですでに純正統派な描き方をするわけがないので、そのへんはありなんでしょうね。実在の人物を描いているだけに、どういう結末に至ったかは誰もが知っている。
それでも製作陣に、主演の小栗旬に最敬礼したいのは、小説『人間失格』を映画化したのではないから。そして、生に執着した太宰という新たな着眼点を、違和感など吹き飛ばすほどの説得力で演じ切ってみせたから。小栗をはじめ宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみがしていった肉付けが素晴らしかった。映画賞で無冠だったが、しっかり評価されるべき作品である。
二階堂ふみは、最後の女としての狂気を熱演していた。

人間失格 太宰治と3人の女たち
7

太宰治と蜷川実花監督の合同アート作品

太宰治を知る上で小説「人間失格」を読む前に、この映画から入るのもおススメとして評価。
なぜなら、蜷川実花監督の個性剥きだし圧倒的グラフィックに、まるで自分の魂も吸いとられる様な、そんな映像美に魅了される。物語内容に付随して、3人の女たちそれぞれの個性を、グラフィックカラ―で各々配色し、主人公太宰治(小栗旬)がそれぞれの色に染まり染められする、蜷川実花アートを映像で魅れて感動モノ。
また、太宰治役の小栗旬の演技も要必見!華麗な女性遍歴を重ねる太宰、喀血してもなお酒に溺れ、だが周囲には気前良く酒を奢るという破滅的な性格、苦しみときに楽しみ、まるで人生を綱渡りをしているような太宰を、小栗旬はしっかりと落とし込んで演技をしていた。
また3人の女たちのなかで、見終わった後でもより強く印象付けられたのは、美和子(宮沢りえ)だ。生と死の狭間で極限まで葛藤する太宰と対照に、美和子は妻という立場で、太宰を限界ギリギリまで理解しようとし、支え励まし、子供を守りぬくという親としての判断力。見終わった後、3人の女たちの中で美和子が、一番頭の中で、フラッシュバックしていた。
結論、蜷川実花監督がグラフィックで見やすくカモフラージュしていて、太宰治と小栗旬のカッコ良い男の雰囲気がリンクした作品で最後まで見やすかった!

人間失格 太宰治と3人の女たち
7

太宰治像を新たな切り口で描いた映画

「人間失格」を読んだことがない人、太宰治をよく知らない人にも観てほしい映画です。私にとって太宰治は、「自殺未遂ばっかり起こして精神的にも病んだ暗い人」のイメージでした。ただこの映画では、太宰治が作家として成功する中で、妻子がいるにも関わらず浮気を繰り返すし、その場しのぎで女性が言って欲しい言葉を言ってしまうという、ダメ男ぶりがコミカル要素もありながら描かれており、「あ~こういう男いるよな」と太宰治を身近に感じることができるのではないかと思います。
周りを固める女優陣は宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみ、と3人ともハイレベルで、それぞれの女性が抱える苦悩や太宰への愛情が、観ている方が苦しくなるような圧巻の演技です。特に、二階堂ふみは体を張っています。ラブシーンも濃厚、太宰に執着していく女の狂気じみたメンヘラ化がすさまじいです。ドラマ・漫画で話題になった「凪のお暇」のゴンさんが「メンヘラ製造機」と表現されていますが、まさに太宰治もこの種の男性なのではないかと。
蜷川実花監督作品らしく、花が舞ったりカラフルな演出はありますが、派手すぎる印象はなく、作品の「陰と陽」をうまく表現されているなと感じました。