珈琲いかがでしょう

珈琲いかがでしょう

『珈琲いかがでしょう』は、『凪のお暇』などで知られるコナリミサトによる日本の漫画作品。マッグガーデン刊行の『WEBコミックEDEN』にて2014年から2015年にかけて連載され、2018年にはアニメ化された。
タコのマークの移動珈琲屋「タコ珈琲」の店主・青山一は一杯ごとに豆を挽き、お客様に合った珈琲を丁寧に心を込めて淹れる。珈琲とともにさりげない言葉で、傷ついた人々の心をほんのりほぐし、癒していく。しかし、いつも笑顔の青山には誰も想像出来ないような過去と心の傷があった。青山は一体何者なのか。日々がしんどくて癒されたい、人間関係を見直したい、そんな人々を優しく包み込む幸せを運ぶ移動珈琲屋。
珈琲のように癒しとほろ苦さもあり、ほっとする優しい物語かと思えば、誰も想像もつかない展開も見せる。
テレビ東京系にて2021年4月5日から5月24日までテレビドラマ化された。主演は中村倫也。2021年12月3日にはBlu-ray BOX、DVD BOXも発売された。

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珈琲いかがでしょうのレビュー・評価・感想

珈琲いかがでしょう
10

珈琲は嵌まるには深すぎる沼である。

こちらの記事はドラマ・漫画の『珈琲いかがでしょう』に関する物になりますので、登場人物や物語のネタバレが含まれる。あらかじめご容赦いただきたい。
日々の暮らしの合間に一息入れようか…、ちょっと休憩しよう…などとなった際に、皆さんはどのような行動をとられるだろうか。
立ち上がり、背筋を伸ばして身体的なリフレッシュを試みるかもしれないし、季節によっては窓などを開けて外の風を吸い込んだりされるかもしれない。
そして一息つくために何か飲み物を飲むという行為をする方も多いことだろう。
体質的に珈琲が飲めない人というのを私も見たことがあるが、そうでない場合の方がリフレッシュのお供に選ぶのは珈琲か紅茶で、珈琲派の方が多く見受けられてしまうのは、
珈琲には覚醒作用があるという前知識に由来されているものではないだろうか。
珈琲の覚醒というのは言うまでもなく珈琲に含まれるカフェインによる効果のことであるが、このカフェインというものが健康に良い・悪いなどという議論は本題とは関係ないところなので割愛させていただくものである。
一般的にカフェインというと眠気防止・疲れを抑える覚醒作用、そして利尿作用が有名なところだろうか。
珈琲ほどの含有量ではないにせよ紅茶にもカフェインは含まれているのだが、珈琲イコール覚醒作用というイメージは定着しており、
それゆえにリフレッシュのお供に選ばれるのは珈琲が多いのではないかと思うのだ。

珈琲に関する前置きが長くなってしまったので本題に戻ろう。
『珈琲いかがでしょう』という作品はコナリミサトさんという、可愛らしい絵柄でコミカルに紡がれるストーリーの中に鋭い着眼点を用いられる漫画家さんが執筆された作品で既に完結済みの漫画作品である。
コナリミサトさんという漫画家さんが紡ぐ世界はどこか独特でありながら誰もが経験する日常も多く含まれている。
ただ絵柄が残念なことに万人受けする絵柄とは言い難く、そこが非常に勿体無く感じてしまう私は、敢えて10段階評価をするなら10をつけたい。
ドラマの主演である異動珈琲販売店を営む青山一役を中村倫也さんが演じ、青山を追跡する謎の男平(ペイ)役を磯村優斗さんが演じている。
今回書きたいのはドラマや漫画のあらすじではなく珈琲沼の話なので物語の方をあっさりとネタバレしてしまうのだが、実は平はもともと青山の舎弟だったのである。
それで青山というのもいわゆる全グレの世界にいた時に戸籍を売ったらしいので名前というものを持っていない人物なのだ。
移動珈琲の販売をするにあたって、ブルーマウンテンという珈琲豆からつけた名前なのではないかと推測される。
全グレの〝トップ〟からの命令で平は青山を追っているわけなのだが、移動販売の珈琲店ですからなかなか青山の行方は掴めない。
かつて師弟として共に生活し、同じ暴力の世界で生きていた平と青山を分けたものは一杯の珈琲だった。
ホームレスの、〝たこさん〟に淹れて貰った珈琲の美味しさに〝沼〟にハマってしまった青山と、同じコーヒーを飲みながら「苦い」としか感じられなかった平。
青山はたこさんに「俺の知ってる珈琲はもっと泥みたいな味だ」と抗議しますが、たこさんは「それも珈琲、これも珈琲。奥が深いんだ」と笑います。
青山は見事にその沼にハマってしまい、たこさんを師匠に珈琲を習うのだが、足を洗ったのには別の理由もあって、
詳しいことを聞かされてなかった平にしてみたら〝捨てられた感〟も多少はあっただろう。
それでも平は青山のことを追うのには組からの命令があるだけでなく、未だ個人的に慕っているのだなあと、ドラマを見ても漫画を見ても思うのだ。
そしてこの青山が見事に嵌ってしまった珈琲沼というのが、これがハマったらキリがないというくらいの沼なのである。
最初の道具のみで散財することはまず間違いがないのは断言しておく。
無論、100円ショップが増えてからは100円そこそこで購入できるアイテムも多いので、そこをいかに妥協していくかなのだが、妥協するわけのいかない物として珈琲豆がある。
しかも珈琲豆の種類からして豊富なのだ。
しかも同じ豆でも焙煎の仕方で味がガラリと変わってしまう。
この焙煎についてごく簡単に説明しておくと、浅煎り、中煎り、深煎り、極深煎りとあって焙煎時間が長くなるほどコクと苦味が深くなり、しかし難易度が高いのは浅煎りの方で酸味が強く出る。
さらにこれのどちらが美味しいと感じるかは個々の好みの問題であり、酸味の強いものが美味しいとかコク深いものが美味しいとかが決まっている訳ではない。
抽出方法も様々あり、サーバー、ハンドドリップ、サイフォン、水出し、その他諸々…それによっても味が変わるのだ。
水も珈琲に適した水は軟水だと言われているが、実際ミネラルの混入量が120未満の中軟水が合う豆もあったりする。
であるにも関わらず、その豆の特徴を鑑みて、更にブレンド(たとえばキリマンジャロの酸味が好きだけれど、それだけでは深みに欠けるのでモカのフルーティさ、ハワイコナの甘い香味とコクを足そう等)をするわけだから、
同じ味の珈琲などないと言っても過言ではないかもしれないのだ。
そしてちょっと覚えていていただきたいのが、珈琲は抽出した時の、正確には蒸らした時の最初の一滴が一番美味しいと言われているところなのだ。

一般的に有名なのはハンドドリップによる珈琲の抽出方法だろう。
用意するものはドリッパー・フィルター(紙性も布性もある)そして抽出した珈琲を淹れるサーバーと、細口のドリップポットだけでいいし、
淹れるのが一杯分であるならサーバーは省いて珈琲カップに直接淹れることも可能だ。
ドリッパーの上にセットしたフィルターの中に適量に珈琲豆を入れて慣らす。
慣らすのはこの後1巡させるためのお湯を均等に注ぐ為なのだが、この1巡目の湯の注ぎが珈琲の味を決めてしまうと言っても過言ではない。
焙煎仕立て、挽きたての珈琲豆は活きが良い。最初の1巡目の湯は細いポットから円を描くようにゆっくりと回す。
すると驚くくらい珈琲豆が盛り上がって来るので、これはちょっと必見な光景である。
1巡目の湯の巡りで珈琲豆たちはゆっくりと開く。後は一定量・一定の速度を守って湯を注げば珈琲の完成である。
しかし、これは大変キリのない世界ではないか?
と、気が付いた時にはもう既に一式揃えた後だった。
当時水出し珈琲のドリッパーのみ本格的なものしか残っておらず、お値段10数万したのでそれは買わずに済んだものの、他の道具はしっかり買い揃えてしまっていたのだ。
悔し紛れに言い訳をするわけではないが、珈琲とはそこまでこだわればこだわっただけの〝味〟で感動を与えてくれる。
しかしながら、一度贅沢に慣れた舌が再びインスタントのコーヒーで満足できるようになるには、かなりの月日を要してしまったのである。
よって私個人としては『珈琲いかがでしょう』沼や、『コナリミサト』沼に嵌まることはお勧めしても珈琲沼に嵌まることだけはお勧めしたくない次第である。

珈琲いかがでしょう
8

人生模様いかがでしょう

『珈琲いかがでしょう』は、WEBコミックとして連載されていた作品。ドラマ主演俳優がコミックのビジュアルと似ていることで話題になった。作者は『凪のお暇』で注目されたコナリミサト。
コミックは全2巻(全3巻だったものを完全版として2巻にして発売)と、気軽に読める長さである。
※以下ネタバレ注意※
移動販売車で珈琲を提供しながら旅を続ける主人公(中村倫也そっくり)。何か理由があるのか、放浪の旅は続く。
主人公の昔を知る人物が登場すると、微妙な空気が漂う。
ひとつひとつの物語は短い。個性的なキャラクターが不器用に生きている。善と悪のボーダーラインが揺らぐこともある。「丁寧に、誠実に」というキーワードが繰り返される。「間違っていないのに、認めてもらえない。でも、いい加減に生きることも出来ない」、そんな人たちに主人公は優しく寄り添っていく。お説教や反省会はない世界だ。
後半になると、傷つき迷う登場人物たちも再生へと向かう。主人公の人生を変えた、珈琲の師匠とも言うべきタコさんのエピソードは必読。この作品の根幹とも言える(あえてネタバレはしない)。小さな物語が重なっていく。
いくつかの伏線が張り巡らされているが、ポップな前半からは想像もつかない。私たちの世界は甘くはなく、ほろ苦い。
「読むだけでいい、考えなくていいよ」という作者の優しさも感じられる。
珈琲に関する知識も得られて楽しい。ドラマ出演の中村倫也、磯村勇斗ファンは読めば彼らの演技力に脱帽すること間違いなしだろう。是非読んでみよう。

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