マリア様がみてる(マリみて)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『マリア様がみてる』とは、今野緒雪による少女小説(ライトノベル)。アニメ第一期の放送時期は2004年1月7日〜3月31日。
舞台は私立リリアン女学院。リリアンでは生徒を導く生徒会を「山百合会」という。
ある日、福沢祐巳は山百合会の会員である小笠原祥子に「姉妹(スール)」になってほしいと申し込まれる。わけがわからぬ内に、祐巳の学院生活は大きく動き出すことになった。

世界観

リリアン女学院の高等部には「姉妹(スール)」というシステムがある。姉が妹を導くが如く、先輩が後輩に指導することにより、特別厳しい校則が無くとも清く正しい学院生活が受け継がれてきた。スールの後輩は先輩を「お姉様」と呼んで慕い、先輩も後輩のことを自身の妹として可愛がっている。
リリアン女学院の生徒会は「山百合会」と呼ばれる。この山百合会の役員3人は毎年選挙によって選ばれ、それぞれ「紅薔薇(ロサ・キネンシス)」、「白薔薇(ロサ・ギガンティア)」、「黄薔薇(ロサ・フェティダ)」と呼ばれるようになる。3人は生徒たちに「薔薇様」と呼ばれ慕われる。さらにこの3人の妹(プティ・スール)は「薔薇の蕾(アン・ブゥトン)」と呼ばれ、山百合会の会員としてお姉様のサポートにつく。基本的にブゥトンは次の薔薇様を務めることになるが、時折、役員選挙活動にブゥトン以外の生徒が名乗り出ることもある。

『マリア様がみてる』のあらすじ・ストーリー

学園祭

いつものように学院に登校する主人公・福沢祐巳。しかし、今日はいつもと違う出来事が起こる。リリアン女学院の生徒会「山百合会」の役員「紅薔薇の蕾(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)」であり、祐巳の憧れのお姉様である小川原祥子に呼び止められる。祥子は祐巳のセーラーのタイを正し、その場を優雅に去って行く。

祐巳が廊下を歩ていると、写真部のエースである武嶋蔦子に呼び止めるられる。蔦子は今朝の祥子と祐巳のツーショットを隠し撮りしていたのだ。蔦子は写真部の展示に載せるために、祐巳に祥子からも写真を載せる許可を取るために一緒に生徒会室である「薔薇の館」へ行って欲しいと頼み込む。祐巳はその写真を自分にも譲ってもらうことを条件に蔦子と共に薔薇の館にやってくる。

部屋に入ろうと扉の前に立った祐巳は思わぬ事態に遭う。部屋から飛び出した祥子が祐巳にぶつかってきたのである。祥子は起き上がると祐巳に、いきなり、自分の妹にならないかと進言する。訳のわからないうちに山百合会の会議に巻き込まれ、祐巳と蔦子は事情を聞くことになる。

毎年恒例の学園祭で、山百合会が演じる劇が今年はシンデレラに決まる。そのシンデレラの役に祥子は抜擢されるところまでは良かったのだが、王子役が他校の男子生徒であることが問題となる。祥子は家庭の事情などによって極度の「男嫌い」だったのだ。さらに祥子には王子役が男子生徒であることが明かされていなかった。シンデレラ役を請け負ったのちにその事実を明かされる。当然祥子は怒り、薔薇様たちに抗議するが「妹も作れない祥子には山百合会で発言権はない」と自身の姉である紅薔薇・水野蓉子に話を打ち切られてしまう。それではと、妹を作ろうと意気込んだ矢先に部屋の外にいた祐巳とぶつかってしまったのだという。

話を聞いた白薔薇・佐藤聖は「わらしべ長者」のようだと笑い出す。とっさに掴まれた藁であるところの祐巳は「ファンだからこそファンなりのプライドがある」と祥子の申し出を断ってしまうのだった。しかし、ここで聖があることを提案する。「もしも学園祭までに祐巳を妹にできたらシンデレラ役を祥子から祐巳に変更する」と言い出したのだ。またしても巻き込まれた祐巳を置いて話は切って落とされる。これを機に祐巳は学院内で一躍して有名人となった。

翌日には他のクラスから祥子の申し出を断った一年生を一目拝もうとクラスに学院生が押し寄せる。身動きを取れない祐巳を救ったのは同じクラスの藤堂志摩子だった。実は志摩子も祥子の申し出を断ったことがあるのだ。さら志摩子は祥子の申し出を断った後に、聖の申し出を受け「白薔薇の蕾(ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトン)」になっている。一年生にして次期白薔薇候補になった志摩子は一人になる時間を過ごすため、秘密の場所を見つけていた。祐巳はその場所に導かれ、生徒の群れから逃げる。似た境遇にある祐巳と志摩子はすぐに打ち解けることになる。

放課後になると祐巳は祥子に連れられて、劇の練習を見学することになる。本物のお嬢様である祥子は祐巳に優雅なダンスを披露し、その気品と才覚を示す。圧倒された祐巳であったが、そこへ聖がやってくる。聖は祐巳が劇の役員たちと打ち解けるように彼女の紹介をし、彼女とダンスの練習をしてあげるように指示する。しかし、憧れのブゥトンである祥子に気に入られている祐巳という存在を計り兼ねていることから、周囲は彼女を腫れもののように扱い、彼女の相手を申し出る者はいなかった。。そんな彼女に声をかけたのは「黄薔薇の蕾(ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン)」である支倉令だった。しかし、あまりに場に不釣合いな自分に嫌気がさし、祐巳はその場から逃げるように去って行く。

志摩子と二人で例の秘密の場所でお昼ご飯を食べていると、蔦子が祥子を連れてその場所にやってくる。祥子はシンデレラの台本を祐巳に渡し、シンデレラ役をやらない時は他の役をやってほしいという。さらに祥子は妹になってくれたら「私があなたを他の生徒から守ってあげる」と言って去る。

放課後、これまでの成り行きで聖と仲良くなっていた祐巳は二人でお茶をしながら話をしていた。その中で祐巳は「自分は祥子に釣り合っていない、だから周りが言い寄ってくるのだ。自分は所詮拾われた藁でしかない。」と悩みを打ち明ける。しかし聖はそれを聞いて笑いだす。祐巳が何が面白いのか怒ると「今でも祥子がその藁を必死に掴んで離さないところ」と聖に返されてしまう。最初に拾った藁を大事に大事に持ち続ける「わらしべ長者」に祐巳は心を動かされる。

嫌々ながらも稽古に出ていた祥子だったが、ダンスの練習が終わると途端に講堂から飛び出してしまう。校門の前で一悶着起こしている王子役の男子生徒と祥子を見つけた祐巳たちは祥子から衝撃の事実を聞かされる。王子役である柏木優は彼女の従兄弟であり、両者の親が認める婚約者であるという。優は祥子に迫ろうとするが祥子は咄嗟に優の頬を叩きその場から逃げ出す。居た堪れなくなった祐巳は祥子を追いかけ、「自分を妹にしてシンデレラ役を代わってほしい」と進言する。しかし、祐巳に仕事を押し付けることを嫌った祥子はそれを拒否し、シンデレラとして劇を成功させると祐巳に宣言した。

無事に学園祭が終わり、最後のキャンプファイヤーを眺める祐巳の元に見事なシンデレラ役をこなした後の祥子が訪れる。祥子は祐巳を校門近くのマリア像まで連れて行き、その前で改めて自分の妹になってほしいと祐巳に申し込むのだった。祐巳はそれを受け入れ、紆余曲折の末に二人は姉妹になった。

黄薔薇革命

山百合会の早朝会議で「黄薔薇(ロサ・フェティダ)」である鳥居江利子がある議題を持ち出す。江利子の妹である令に新聞部からの依頼が来ているのだという。実は令とその妹である島津由乃が新聞部のアンケートでベスト姉妹賞を取ったのだという。そのため、二人に取材の依頼が来たのだという。しかし、由乃は体が昔から弱く、昨日から熱を出して寝込んでいるのだという。令は取材を断り、二人に関するアンケートに答えることだけを引き受けた。

新聞部に届いたアンケートを見て新聞部員・築山三奈子がアンケートである事に気がつく。剣道部に所属し活発なイメージの令の趣味が「編み物」、好きな言葉が「真心」となっていて、病弱で儚いイメージの由乃の趣味が「スポーツ観戦」、好きな言葉が「先手必勝」となっていた。二人のアンケートが逆になっていると思ったのだ。

一週間後、祐巳が教室に戻ると由乃が学校に登校していた。そこで祐巳は由乃から彼女たち姉妹の話を聞かされる。実は由乃と令は家が隣同士で家族ぐるみの付き合いだということ、令が実は気が弱い女の子であるということ、いろいろな話を聞き、祐巳は驚きを隠せないでいた。話をしていると教室には令がやってくる。由乃はこれから検査をしに病院に向かうのだという。由乃は「話を聞いてもらって吹っ切れたわ」と祐巳に言い残して教室を出て行くが、このときの言葉の真意を祐巳は理解できていなかった。

後日、祐巳の元に衝撃のニュースが飛び込んでくる。ベスト姉妹賞をとった由乃と令の関係が破局したのだという。祐巳と別れた直後に由乃と令は言い合いになり、最終的に由乃が令から受け取ったロザリオを突き返したのだという。リリアンでは「離婚」のような意味合いであるこの行為に学院内では大きな反響が巻き起こる。由乃の真似をして姉にロザリオを返す事案が続出するようになったのだ。生徒たちは後に、悲劇のヒロインを装い、その事態に浸ることに酔いしれる生徒が多く現れたこの一連の事件を「黄薔薇革命」と呼んだ。

体調を崩して入院していた由乃の見舞いに病院を訪れた祐巳は、彼女から令の状態を尋ねられる。令はこれから剣道の試合が控えているのだという。由乃は今回のことが彼女の試合に悪い影響を与えてしまうことを心配していたのだ。このことから祐巳は、彼女が本気で令との破局を望んでいるわけではないことを感じ取る。由乃は自分が令の側に居続けることが彼女にとって悪いことなのではないかと思い至ったのだという。令は「由乃のために強くなる」と常々言っていたが、それなら自分が令の元から去った時、彼女はどうなってしまうのかと由乃は心配した。このままではいけないと思った由乃はこれまでの関係を一旦白紙にして、関係を作り直す必要があると考えたのだった。さらに由乃は「令の試合の日に、心臓の手術をする」ということを祐巳に打ち明ける。この瞬間に祐巳は由乃という少女が儚げであっても、とても強い存在であることを思い知る。

後日、祐巳は令に由乃から聞いた話をそのまま伝えた。由乃が入院しているという事実すら知らされていなかった令は試合を放棄して由乃の元に駆けつけようとするが、祐巳に「由乃の気持ちを汲み取って欲しい」と言われ、思い留まった。

令の試合当日、由乃からの願いもあって祐巳たち山百合会のメンバーは令の試合を見守りに行くことになった。試合は大将戦まで縺れ込み、令の相手は彼女よりも一つ階級が上の選手であった。勝利は厳しいものであると思われたが令は見事に試合に勝利したのだった。

手術は無事に終わり、二週間ぶりに由乃と令は病室で再開することになる。由乃は自分は令を嫌ったりしないことを伝え、さらに「令ちゃんのことを世界で一番愛しているよ」と伝える。

由乃が退院した頃には季節は冬になっていた。この頃には「黄薔薇革命」という言葉は廃れてしまっていたが、そんな中で由乃はまた反響を巻き起こす。マリア像の前で令に妹にしてほしいと申し込んだのだった。

それからしばらくの間、姉にロザリオを返した妹たちが縁りを戻す行為が流行する。こうして「黄薔薇革命」は本当の終焉を迎えるのであった。

ロサ・カニーナ

受験勉強が忙しくなり、現薔薇様たちは山百合会の会合にあまり参加しなくなった。そして、それは山百合会の役員選挙活動が近くなっていることも意味していた。このまま順当にブゥトンたちが山百合会幹部になると思っていたが、そこに「桃色の薔薇(ロサ・カニーナ)」なる者が現れる。一年生である志摩子は2年生であるロサ・カニーナのような者が現れるのは当然のことであると語る。さらにロサ・カニーナは志摩子が現れるまでは聖の妹候補であったという。

祐巳は早速ロサ・カニーナという花を調べようと図書館行く。そして祐巳は図書館で偶然噂のロサ・カニーナこと蟹名静と出会う。通り名はクラスメイトが「蟹名」という苗字から取って勝手につけたものであるという。

後日、廊下で静と祐巳が出くわして話をしてると、そこに聖がやってくる。「妹に選んでもらえなかった静」と「選ばなかった聖」の二人が出会ったことで、まずいことになるかもしれないと思った祐巳であったが、聖は静を見ても全く反応を示さなかった。聖は自分の妹候補であった静のことを全く知らなかったのである。聖にとっては静はその他大勢の生徒と変わらぬ存在であったのだ。静もそのことに驚いた様子を見せず、聖にお辞儀をするとその場を去って行った。

放課後、志摩子と祐巳が二人で薔薇の館で話をしていると、そこに静がやってくる。静は志摩子に「私が白薔薇になったらあなたを妹にして再来年度の白薔薇の地位を約束してあげる」という提案をするが志摩子は「私のお姉さまは佐藤聖様だけです」と言って静の提案を撥ね除ける。そして、その日のうちに志摩子は選挙に立候補するのだった。

選挙当日、志摩子はブゥトンとして立派に務めを果たした結果、白薔薇の地位を確立させた。祥子、令も順当に当選し、ダークホースとして注目された静は落選することになった。しかし、場を乱した静本人は選挙結果を見ることもなく、マリア像の前に立っていた。待ち人は聖。彼女は元から白薔薇という地位に執着はなく、一瞬でも憧れの聖の目に留まりたいという理由から選挙活動に参加していたのだった。さらに、静は進級と同時に学院を離れ、イタリアに留学して音楽の勉強をするのだという。彼女は留学の餞別として聖とわずかな時間を過ごしてもらい、今回の選挙騒動は幕を閉じる。

バレンタインデー

バレンタインデー間近、新聞部は山百合会にある依頼を持ち込む。バレンタインデーに薔薇様になることが決まったブゥトンたちにチョコレートを用意してもらい、それを隠すことで宝探しのイベントを開催したいのだという。しかし、この提案に対し祥子は難色を示す。新聞部は妥協案として、ブゥトンたちの手書きのバレンタインカードを用意してもらうことを提案する。さらにカードの送り主は発見した生徒に半日デートをプレゼントしてほしいと言い出す。しかし、由乃は「個人のプライベートな時間を商品化することは良くない」と大反対する。ブゥトンたちも由乃の言葉に賛成し、新聞部のイベント企画は却下されてしまった。

後日、薔薇の館に薔薇様たちがやってくる。彼女たちはブゥトンに「新聞部のイベントに協力するように」と言い出す。当然、お姉さまの言葉に逆らえないブゥトンたちは新聞部のイベントに参加することになり、ブゥトンの妹である祐巳と由乃は不貞腐れることになるのだった。

祐巳の悩みはイベントのことだけではなかった。妹として姉である祥子にチョコレートを渡そうと考えていたが、肝心の祥子はチョコレートを受け取らないことで有名なのだという。祐巳は祥子はチョコレートが嫌いなのではないか、自分が作ったチョコレートを喜んでもらえないのではないか、と思い悩み、宝探しのイベントのことも相まって何となく山百合会に居づらくなってしまった。そして、このことが祥子と祐巳の間に亀裂を生んでしまうことになる。

祥子は祐巳に避けられているのではないかと思い込むようになっていた。さらに考えすぎて周りが見えていない祐巳は、祥子とすれ違うがそのことに気がつかずに挨拶もせず素通りしてしまったのだ。そのことが決定打となり、ついに祥子は祐巳に溜まった苛立ちをぶつけてしまう。祐巳の中では様々な感情が渦巻き、想いが溢れ涙を流すが、言葉だけは出てこなかった。祐巳の姿を見た祥子は少し冷静さを取り戻し、話は後日に仕切り直すことになった。

祥子との一件のあと、祐巳はとっさに温室に飛び込んでいた。そんな祐巳の前にやってきたのは聖だった。彼女は祐巳に「今の祐巳ちゃんを見てると昔の祥子と蓉子の姿を思い出すよ」と昔の蓉子と祥子のことを語り始める。祥子は蓉子の妹になった時、今の祐巳と同じように言葉で自分の気持ちを伝えることができずに、一人で思い悩んでいた時期があったのだという。蓉子から「自分の気持ちを言葉に出して伝えてくれないと何もわからない」と言われてから、祥子は大事な気持ちを言葉にしないで隠すことは無くなったのだという。この話を聞いた祐巳は考えるだけで言葉にしないことをやめ、祥子に素直な気持ちを伝えようと思い至る。次の日、祐巳は祥子にバレンタインのイベントの後に先日の話の続きをしよう伝える。

当日、大勢のイベント参加者で賑わう校舎で祐巳は祥子のバレンタインカードを探し回っていた。歩き回る中で、祐巳はふとカードの場所に思い至る。温室にあるロサ・キネンシスの根元にあると半ば確信を持って行くが、そこには先客がいた。彼女は自分も同じ場所を探したがそこにはカードがなかったと話す。祐巳は結局最後までカードを見つけることはできなかった。そして、結果発表でさらに祐巳は驚くことになる。祥子のカードを見つけられたものはいなかったのだという。

答え合わせに祥子がカードの隠し場所に向かうとそこは先刻、祐巳が訪れた温室であった。祐巳は自分がロサ・キネンシスの根元を探したことを伝えると、祥子は確認のために祐巳と同じ場所を掘りだした。そして、そこには無いはずカードが埋められていたのだった。さらにおかしなことにカードは祥子が埋めた場所より深い場所に隠されていたのだという。祥子は聖ウァレンティーヌス(ヴァレンタインに贈り物をする習慣の元を作った実在する人物)の悪戯だろうと言い、その場を治めるのだった。

イベントの後、祐巳は約束通り祥子と二人で話をすることになる。その場所で祐巳は祥子にチョコレートを渡すが、ここでハプニングが起こる。祐巳はいつも悪戯をしてくる聖に渡す予定だった失敗作のチョコレートを渡してしまうのだ。とっさに手を引くが祥子は祐巳からの贈り物に喜び、それを離そうとしなかった。引っ張り合いになった結果、祐巳は本来渡す予定だったチョコレートと失敗作のチョコーレトをばら撒いてしまう。祥子は気にした様子もなく落ちたチョコレートを食べ、「美味しい」と祐巳に伝える。祐巳は咄嗟に失敗作のハズレではなく、当たりを引いた景品として祥子に「妹との半日デート券」をプレゼントする。二人の仲は無事に修復され、むしろ以前よりも仲が深まっていくのであった。

赤いカードの持ち主

バレンタインデー当日、鵜沢美冬は祥子がバレンタインカードを隠す瞬間を目撃する。

彼女と祥子の出会いの場所はリリアンの幼稚舎であった。祥子は幼稚舎時代から何をやあらせても並以上のことができていた。ダンス、食事の作法、家柄、何をとっても他を上回る彼女は幼稚舎で浮いてしまっていた。祥子は周囲の目に苛立たしそうな目をしながらも屈することなく、周囲との溝を無くすように努めるようになった。幼いながらも強く在る祥子の姿に美冬はいつの間にか夢中になっていた。美冬は祥子の姿を見ているだけで幸せな時間を過ごすことができた。しかし、その時間は間もなく終わりを告げる。美冬の父の赴任が原因で彼女はリリアンを去ることになった。

美冬がリリアンを去ること数年。高校生となった美冬は再びリリアンにやってきた。どれだけ離れいていても彼女は憧れの祥子を忘れることはなかった。しかし、祥子は美冬のことをすでに忘れてしまっていたのだ。再開を喜んで挨拶をした美冬に祥子は「どこかで会ったことがあったからしら」と返す。落胆を隠しきれなった美冬であったが彼女はそれでも構わなかった。ただ祥子の姿を見ている生活に戻れるだけでも、十分幸せだと思っていたのだ。

しかし、そんな中でバレンタインデーの特別イベントが企画される。この時、見ているだけだった美冬に少しの欲が生まれたのだった。さらにイベント当日の朝、美冬は校門前で偶然にも祥子を見かける。彼女は好奇心を抑えきれず祥子の後をそっとつけて行く。そして美冬はカードを隠す瞬間を目撃してしまうのであった。

カードの隠し場所を知った美冬はとっさにそれを回収してしまう。しかし、美冬は後になって自分がしてしまったことに恐ろしさを覚える。しかし、カードは温室の花の根元に隠されていたのだ。「そんな場所にカードが埋められていても誰も見つけることはできない。それならいっそ自分が....」そんな気持ちもあって美冬はカードを元通りに埋めることもできず温室の中で固まってしまう。

どうすることもできずに居ると温室に祐巳がやってきた。祐巳は何の躊躇もなくカードが元あった場所を掘り返す。その姿を見た美冬は祥子は妹にだけカードの隠し場所を裏で明かしていたのだと考えた。その瞬間自分の罪が軽くなったような感覚を得るが、祐巳の必死に土を掘る姿を見て、自分でそれまでの考えを否定する。「祐巳が自力でその隠し場所にたどり着いたのかもしれない」と思った美冬は思わず彼女になぜその場所にカードがあると思ったのかを聞いてしまう。そして祐巳は近くの花を指し、「この花、ロサ・キネンシスっていう名前だから」と答える。美冬はその瞬間、祐巳という妹を得た祥子を素直に祝福することができた。結局、持っているカードを祐巳が見つけられるはずもなく、イベントは終わりを告げる。そして、美冬もカードを祥子に渡すことはなく、祐巳が温室を去った後にカードを元あった場所に埋め直す。これが聖ウァレンティーヌスの悪戯の正体であった。

イベントの後日、美冬はバッサリと髪を切る。そしてそれは彼女の心に小さな変化が訪れた証でもあったのだ。

いばらの森

時はクリスマス以前まで遡る。この頃、学内である噂が流れていた。自伝小説「いばらの森」の作者・須賀聖の正体はリリアンの黄薔薇様・佐藤聖なのではないかと言う話が流れていたのだ。問題なのはリリアンがバイトやそれに準ずる行為を禁止されていることであった。噂が広まったのち、聖は生徒指導室に呼び出される。心配した祐巳たちは指導室の前までやってくるが、部屋から出てきた聖はおかしな様子が全く見られなかった。そして、聖は「いばらの森」の作者・須賀聖と自分は全くの別人であると祐巳たちに伝える。聖がきっぱりと否定したことによって「いばらの森」の騒動は終わりを告げる。

この騒動には続きがある。作者であることを否定した聖であったが、「いばらの森」の内容と聖の過去は確かに合致する場面が多く、ドキリとすることがあるのだという。そして、聖は自らの過去を語り始める。

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